地元の方々から多くのご用命をいただいております。地域のお役に立つことは
工房の大きな目標です。冷蔵庫は家電製品の中でも長持ちする方です。毎日
24時間365日動き続けても、10年くらい故障知らずです。しかし、パッキンが
劣化してドアが密閉しない、中の食品棚にヒビが入る、野菜室引き出しが出し
入れしにくいなど、つまらない破損が付きまといがちです。今回は氷ができない、
製氷ユニットの故障です。夜中に冷蔵庫内から「タンタンタン」と異音がします。
|
日立製R-S44PAM、1999年の発売で20年前の製品
です。PAM(Pulse Amplitude Modulation)が懐かしい。
|
失礼して冷蔵庫の中を拝見します。製氷
ユニットは2段目の冷凍庫内にあります。
|
冷凍庫の引き出しを抜き取ります。
左側上に製氷ユニットが見えます。
|
氷ができない原因は、この製氷
ユニットの不具合に違いありません。
|
手前の突起を押し上げると製氷
ユニットの固定が解除されます。
|
固定が解除されユニットが外れてきます。
接続コードの途中にコネクタがあります。
|
コネクタを引き抜き、製氷ユニットを取り出します。以前にメーカーに修理を依頼
したそうですが、補修部品の在庫がないことを理由に断られたとのことです。
完全にメーカー側の都合なのに、それでも出張費+α・・の費用を請求されます。
|
製氷ユニット内側に取り付けられている
モーターユニットです。製氷トレイを回転させます。
|
奥のツメを押し込むと固定が解除されます。トレイと
同時に製氷量を検知するレバーも駆動します。
|
「タンタンタン」音はモーターユニット内部から
発生しているはずです。迷わず分解します。
|
サービスマンは「ギヤが欠けている」と言い残していったそう
です。トレイの回転に支障が出ても不思議ではありません。
|
このモーターユニットは、「絶対分解するな」と印刷されたシールが表に
貼り付けられています。だったら「絶対故障するな」と申し上げたい!。
|
以前に自宅の冷蔵庫で製氷ユニットを分解したことがあり
ます。水が浸入して凍結し動作できなくなっていました。
|
内部の構成部品を一つずつ注意深く点検します。
特にギヤは歯が欠けていないか調べます。
|
製氷量検知用のレバー周りを点検します。
リンクを介してタクトスイッチをON・OFFするようです。
|
コネクターに回路計を接続しモーター
ユニットの通電状態を調べます。
|
リンク下部にあるタクトスイッチは製氷量
検知レバーの作動位置を検出するようです。
|
リンクを取り除き、タクトスイッチを直接ON・OFF
して見ます。ONの状態で若干の抵抗があります。
|
タクトスイッチの劣化による
レバー位置検出不良でしょうか。
|
製氷室の厳しい環境条件の中、
タクトスイッチも劣化が早いのでしょうか。
|
潤滑剤を入れてみます・・
が、改善されません。
|
工房に在庫があるので、
新しいものに交換します。
|
元のタクトスイッチに比べ若干高さが
あるので、ヤスリで頭を少し落とします。
|
0Ω、導通状態が確認できました。これで
「タンタンタン」が解消するか・・なわけありません。
|
構成部品の点検を進めます。サービスマンが指摘していた「ギヤの欠け」を見つけました。
モーターシャフトのウォームギヤにより駆動される1段目の樹脂製2段ギヤです。はすば
歯車に組み合わされたピニオンギヤに歯の欠けがあります。「タンタンタン」の原因が
分かりました。欠けた部分が通過する際、2段目平ギヤと噛み合ったり噛み合いが外れ
たりするせいです。ウォームギヤから伝達される大きなトルクが、家中に響き渡る「タン
タンタン」を生み出していたようです。ここから先へ回転を伝達出来ず、従って製氷トレイを
完全に回転させることが出来ず、氷が出来ないわけです。正確には氷は出来ているの
ですが、その氷をトレイから落とせないでいたことになります。欠けた歯を修復します。
|
欠けた歯1枚を修復することは無理です。
2段ギヤのピニオン部全体を復元します。
|
卓上旋盤にギヤをセットし
ピニオン部を切削します。
|
ピニオン以外の部分は再利用する
ので、破損しないよう慎重に削ります。
|
ピニオンの歯を全て切削し、
中心部分をシャフトとして残します。
|
一方で元のピニオンと同じ歯数・
外径のピニオンを用意します。
|
シャフト穴径が小さいので
卓上旋盤で開け直します。
|
意外と卓上旋盤では正確な加工が出来ません。
ペンチで固定し見当をつけてボール盤で加工すると、
|
まあまあの穴が簡単に開いてしまいました。
高さが足りないため2個加工します。
|
残しておいたシャフトに通してみます。かなりきつめですが、
接着剤の隙間を考慮するともう少し緩くて良いと思います。
|
接着剤を入れて固定します。アクリル用接着剤で拡散
接着すれば完全だろう・・と、この時点では考えていました。
|
2個目のピニオンを差し込みます。
元のピニオンの高さを確保します。
|
2段ギヤの修復完了です。機能的には
完全に同等のものを用意出来ました。
|
製氷ユニットを組み上げ冷凍室内に戻します。モーター
ユニットにテストボタンがあるので動作を確認します。
|
ボタンを押すとモーターの回転音が聞こえてきます。
先にレバーを降ろして製氷量を確認します。
|
まだ製氷量が十分でないことを検知すると
次に製氷トレイが左回転し始めます。
|
間もなく製氷ユニットの奥側がストッパーに当たり、
手前側だけがもう少し回転します。つまりトレイは捻れます。
|
捻ることでトレイから氷を剥離し落下させます。
伝達ギヤに最も大きなトルクが加わる瞬間です。
|
繰り返しトルクが加わった結果、ギヤ材質に疲労が
蓄積しやがて歯が欠けることになったのでしょう。
|
氷を落下させた後、トレイは右回転し元の位置に向かいます。
元の位置を少し通り過ぎ、再び左回転して元に戻ります。
|
動作が確認できたので作業終了とし、しばらく
ご依頼主に様子を見てもらうことにします。
|
翌日に連絡が入りました。最初の2回、何とか氷が出来たもののその後は再び
故障状態に戻ってしまったそうです。トレイが反転動作を終えた後、注水される
様子が無いとのことです。注水ポンプの不具合、例えば注水経路の凍結などが
疑われるので、上段の冷蔵室に点検範囲を移します。左奥が注水ユニットです。
|
手前に水タンクがセットされます。
予め取り外してあります。
|
タンクからチューブを介して水を一定量
汲み上げ、製氷トレイに送り込む仕組みです。
|
製氷ユニットのテストボタンを押すと
一定時間後に注水ポンプに通電します。
|
念のため注水ポンプも
分解して点検します。
|
モーターユニットが1段減速されて
ポンプ室内のベーンを駆動します。
|
ポンプ室を開けてみると、機構が単純な
ギヤポンプが組み込まれています。
|
故障のしようがありません。給水後はポンプが逆回転する
ことでチューブ内の水を回収し、何と凍結を防止しています。
|
注水ユニットに問題はありませんでした。
再びモーターユニットに舞い戻ります。
|
完全に接着したはずのピニオンギヤですが・・、指先で力を加えるとシャフトからずれます。
空回りして接着が効いていません。迂闊でした、強度・柔軟性・耐摩耗性等が要求される
ギヤはジュラコン・ポリアセタール、あるいはナイロン系・アラミド系の材料で作られています。
アクリル用接着剤(二塩化メチレン)に対して耐浸蝕性があると接着剤として機能しません。
加えて、製氷トレイ内が空の状態と水が氷結している状態では、トレイを捻じるのに必要な
トルクがまるで異なります。氷が数回作られてから再び不具合を起こすのはこの理由です。
|
何としてもピニオンギヤを空回り
させるわけにはいきません。
|
瞬間接着剤に切り替えます。しかも
テフロン接着用のプライマーを併用します。
|
さらに構造的に固定する方法を加えます。
ピニオンに横方向から穴を開けます。
|
径1mmの穴をシャフトまで
貫通させておきます。
|
ほぞ釘を用意します。
ほぼ径1mmです。
|
先端近くを2・3mmの
長さにカットします。
|
瞬間接着剤を付けて穴に押し込み、回転防止用のピンとして機能させます。
ただし、穴がシャフトまで貫通しているため、シャフトおよびピニオンの力学的強度は
多少なりとも低下しています。そこからクラックが成長する可能性があります。
|
反対側からも同様にピンを打ち込みました。ピニオンの固定強度としては
ほぼ限界でしょう。また壊れたら・・、それはその時考えることにします。
|
3回にわたり修理の修理を繰り返し、ピンでピニオンを固定した状態で納品と
させていただきました。それから1週間?10日間?経った頃、猛暑のさなか
ご依頼主から連絡が入りました。その後も製氷が続いているとのことです。
厚かましくも再度お宅に伺い、受け皿に溜まった氷をカメラに納めて来ました。
|
|
|