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冷蔵庫製氷ユニットの故障(2019.8.6)


地元の方々から多くのご用命をいただいております。地域のお役に立つことは
工房の大きな目標です。冷蔵庫は家電製品の中でも長持ちする方です。毎日
24時間365日動き続けても、10年くらい故障知らずです。しかし、パッキンが
劣化してドアが密閉しない、中の食品棚にヒビが入る、野菜室引き出しが出し
入れしにくいなど、つまらない破損が付きまといがちです。今回は氷ができない、
製氷ユニットの故障です。夜中に冷蔵庫内から「タンタンタン」と異音がします。
 

日立製R-S44PAM、1999年の発売で20年前の製品
です。PAM(Pulse Amplitude Modulation)が懐かしい。

 

失礼して冷蔵庫の中を拝見します。製氷
ユニットは2段目の冷凍庫内にあります。

 

冷凍庫の引き出しを抜き取ります。
左側上に製氷ユニットが見えます。

 

氷ができない原因は、この製氷
ユニットの不具合に違いありません。

 

手前の突起を押し上げると製氷
ユニットの固定が解除されます。

 

固定が解除されユニットが外れてきます。
接続コードの途中にコネクタがあります。

 

コネクタを引き抜き、製氷ユニットを取り出します。以前にメーカーに修理を依頼
したそうですが、補修部品の在庫がないことを理由に断られたとのことです。
完全にメーカー側の都合なのに、それでも出張費+α・・の費用を請求されます。

 

製氷ユニット内側に取り付けられている
モーターユニットです。製氷トレイを回転させます。

 

奥のツメを押し込むと固定が解除されます。トレイと
同時に製氷量を検知するレバーも駆動します。

 

「タンタンタン」音はモーターユニット内部から
発生しているはずです。迷わず分解します。

 

サービスマンは「ギヤが欠けている」と言い残していったそう
です。トレイの回転に支障が出ても不思議ではありません。

 

このモーターユニットは、「絶対分解するな」と印刷されたシールが表に
貼り付けられています。だったら「絶対故障するな」と申し上げたい!。

 

以前に自宅の冷蔵庫で製氷ユニットを分解したことがあり
ます。水が浸入して凍結し動作できなくなっていました。

 

内部の構成部品を一つずつ注意深く点検します。
特にギヤは歯が欠けていないか調べます。

 

製氷量検知用のレバー周りを点検します。
リンクを介してタクトスイッチをON・OFFするようです。

 

コネクターに回路計を接続しモーター
ユニットの通電状態を調べます。

 

リンク下部にあるタクトスイッチは製氷量
検知レバーの作動位置を検出するようです。

 

リンクを取り除き、タクトスイッチを直接ON・OFF
して見ます。ONの状態で若干の抵抗があります。

 

タクトスイッチの劣化による
レバー位置検出不良でしょうか。

 

製氷室の厳しい環境条件の中、
タクトスイッチも劣化が早いのでしょうか。

 

潤滑剤を入れてみます・・
が、改善されません。
 

工房に在庫があるので、
新しいものに交換します。

 

元のタクトスイッチに比べ若干高さが
あるので、ヤスリで頭を少し落とします。

 

Ω、導通状態が確認できました。これで
「タンタンタン」が解消するか・・なわけありません。

  

構成部品の点検を進めます。サービスマンが指摘していた「ギヤの欠け」を見つけました。
モーターシャフトのウォームギヤにより駆動される1段目の樹脂製2段ギヤです。はすば
歯車に組み合わされたピニオンギヤに歯の欠けがあります。「タンタンタン」の原因が
分かりました。欠けた部分が通過する際、2段目平ギヤと噛み合ったり噛み合いが外れ
たりするせいです。ウォームギヤから伝達される大きなトルクが、家中に響き渡る「タン
タンタン」を生み出していたようです。ここから先へ回転を伝達出来ず、従って製氷トレイを
完全に回転させることが出来ず、氷が出来ないわけです。正確には氷は出来ているの
ですが、その氷をトレイから落とせないでいたことになります。欠けた歯を修復します。

 

欠けた歯1枚を修復することは無理です。
2段ギヤのピニオン部全体を復元します。

 

卓上旋盤にギヤをセットし
ピニオン部を切削します。

 

ピニオン以外の部分は再利用する
ので、破損しないよう慎重に削ります。

 

ピニオンの歯を全て切削し、
中心部分をシャフトとして残します。

 

一方で元のピニオンと同じ歯数・
外径のピニオンを用意します。
 

シャフト穴径が小さいので
卓上旋盤で開け直します。

 

意外と卓上旋盤では正確な加工が出来ません。
ペンチで固定し見当をつけてボール盤で加工すると、

 

まあまあの穴が簡単に開いてしまいました。
高さが足りないため2個加工します。

 

残しておいたシャフトに通してみます。かなりきつめですが、
接着剤の隙間を考慮するともう少し緩くて良いと思います。

 

接着剤を入れて固定します。アクリル用接着剤で拡散
接着
すれば完全だろう・・と、この時点では考えていました。

 

2個目のピニオンを差し込みます。
元のピニオンの高さを確保します。

 

2段ギヤの修復完了です。機能的には
完全に同等のものを用意出来ました。

 

製氷ユニットを組み上げ冷凍室内に戻します。モーター
ユニットにテストボタンがあるので動作を確認します。

 

ボタンを押すとモーターの回転音が聞こえてきます。
先にレバーを降ろして製氷量を確認します。

 

まだ製氷量が十分でないことを検知すると
次に製氷トレイが左回転し始めます。

 

間もなく製氷ユニットの奥側がストッパーに当たり、
手前側だけがもう少し回転します。つまりトレイは捻れます。

 

捻ることでトレイから氷を剥離し落下させます。
伝達ギヤに最も大きなトルクが加わる瞬間です。

 

繰り返しトルクが加わった結果、ギヤ材質に疲労が
蓄積しやがて歯が欠けることになったのでしょう。

 

氷を落下させた後、トレイは右回転し元の位置に向かいます。
元の位置を少し通り過ぎ、再び左回転して元に戻ります。

 

動作が確認できたので作業終了とし、しばらく
ご依頼主に様子を見てもらうことにします。

 

翌日に連絡が入りました。最初の2回、何とか氷が出来たもののその後は再び
故障状態に戻ってしまったそうです。トレイが反転動作を終えた後、注水される
様子が無いとのことです。注水ポンプの不具合、例えば注水経路の凍結などが
疑われるので、上段の冷蔵室に点検範囲を移します。左奥が注水ユニットです。

 

手前に水タンクがセットされます。
予め取り外してあります。

 

タンクからチューブを介して水を一定量
汲み上げ、製氷トレイに送り込む仕組みです。

 

製氷ユニットのテストボタンを押すと
一定時間後に注水ポンプに通電します。

 

念のため注水ポンプも
分解して点検します。

 

モーターユニットが1段減速されて
ポンプ室内のベーンを駆動します。

 

ポンプ室を開けてみると、機構が単純な
ギヤポンプが組み込まれています。

 

故障のしようがありません。給水後はポンプが逆回転する
ことでチューブ内の水を回収し、何と凍結を防止しています。

 

注水ユニットに問題はありませんでした。
再びモーターユニットに舞い戻ります。

 

完全に接着したはずのピニオンギヤですが・・、指先で力を加えるとシャフトからずれます。
空回りして接着が効いていません。迂闊でした、強度・柔軟性・耐摩耗性等が要求される
ギヤはジュラコン・ポリアセタール、あるいはナイロン系・アラミド系の材料で作られています。
アクリル用接着剤(二塩化メチレン)に対して耐浸蝕性があると接着剤として機能しません。
加えて、製氷トレイ内が空の状態と水が氷結している状態では、トレイを捻じるのに必要な
トルクがまるで異なります。氷が数回作られてから再び不具合を起こすのはこの理由です。

 

何としてもピニオンギヤを空回り
させるわけにはいきません。

 

瞬間接着剤に切り替えます。しかも
テフロン接着用のプライマーを併用します。

 

さらに構造的に固定する方法を加えます。
ピニオンに横方向から穴を開けます。

 

径1mmの穴をシャフトまで
貫通させておきます。

 

ほぞ釘を用意します。
ほぼ径1mmです。

 

先端近くを2・3mmの
長さにカットします。

 

瞬間接着剤を付けて穴に押し込み、回転防止用のピンとして機能させます。
ただし、穴がシャフトまで貫通しているため、シャフトおよびピニオンの力学的強度は
多少なりとも低下しています。そこからクラックが成長する可能性があります。

 

反対側からも同様にピンを打ち込みました。ピニオンの固定強度としては
ほぼ限界でしょう。また壊れたら・・、それはその時考えることにします。

 

3回にわたり修理の修理を繰り返し、ピンでピニオンを固定した状態で納品と
させていただきました。それから1週間?10日間?経った頃、猛暑のさなか
ご依頼主から連絡が入りました。その後も製氷が続いているとのことです。
厚かましくも再度お宅に伺い、受け皿に溜まった氷をカメラに納めて来ました。

 
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