米国ニュージャージー州より、国際郵便でヘアアイロンが送られてきました。
ご依頼主は現地在住の日本人の方です。海外でも工房WEBをご覧いただいて
いるとは大変光栄です。へアアイロンは日本国内で購入された日本製品です。
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いつも修理している製品に比べ、
コテの面積が非常に大きいです。
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ACアダプターのような形をした
温度コントローラが付属しています。
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製造元はDAIKO CORP、販売元は
Milbon Co.Ltd、初めて聞くブランドです。
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全く機能(発熱)しません。本体・コントロ-ラーのどちら
にも不具合がありそうです。コントローラから点検します。
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裏側カバーを開けると、内部になかなか
凝った回路が組み込まれています。
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温度調整ダイヤルを外したいのですが、
どのように固定されているのか分かりません。
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温度調整用可変抵抗器の
半田付けを外してみます。
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可変抵抗器を接続している
半田を吸い取りました。
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回路基板は外れてきたものの
可変抵抗器がそのままです。
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温度調整ダイヤルの目盛り板は
後から接着されたものです。
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注意しながら目盛り板を少しずつ引き
剥がします。何とか剥がせそうです。
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中に固定ネジがありました。
早く気が付けば良かった・・。
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可変抵抗器の回転軸に届いている
ので、緩めると可変抵抗器が外れます。
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取り出した回路基板を点検します。
配線パターン側は特に問題ないようです。
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部品取り付け側を点検します。一瞬で損傷が分かります。
いくつかの電子部品やその周辺が焼け焦げています。
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まずこの抵抗器です。完全に焼けただれており、おそらく
火を吹いて燃えたのでしょう。周囲に煤が広がっています。
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焼損した部品は即刻交換します。配線側に
戻り、絶縁保護用のワックスを削ります。
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半田吸い取り器で半田を
綺麗に除去します。
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部品が火を吹くほど電流が流れるとはどういう状況で
しょうか。電熱器具として安全性に疑問が湧きます。
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隣接する高耐圧コンデンサはかなり加熱されたはず
です。手前のトランジスタは多分破損しているでしょう。
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出力コネクタ近くにも焦げた抵抗器が2本並んで
います。ここまで焼けると抵抗値が分かりません。
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2本とも抵抗器を取り外しました。基板上の印刷は
部品番号のみで、部品定数は略されています。
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周辺の回路構成から適当に
部品を選ぶしかありません。
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火災現場隣のトランジスタを交換します。
適当なNPN汎用TRで代用します。
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発熱体への電源供給はこのトライアックでON・
OFFしています。A-K間が完全に導通状態です。
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温度コントローラの部品交換をひと通り終えたところで、へアイロン本体の
不具合を調べます。電源コードの本体付け根部分は点検必須箇所です。
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ちゃんと(?)損傷しています。このくびれ痕
からして間違いなく内部断線があるでしょう。
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電源コードを本体付け根の手前で切断し、保護
カバーから引き抜きます。やはり断線しています。
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残っていた断線部分の被覆を取り出し、元の保護カバーを
再利用します。新たに電源コードを通さなければなりません。
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電源コードの先を斜めにカットし、必要に
より洗剤を塗り付けて押し込みます。
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割とすんなり通りました。本体側に残る
コネクター(プラグ)に接続し直します。
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電源コード側、コネクタ側ともに
ビニル線の末端を処理します。
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半田付けした後、熱収縮チューブを
被せて完全に保護・絶縁します。
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緑と黄の2本はコネクタを経由せず、
直接基板に半田付けされています。
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電源コード側のビニル線を短く切り詰め、
基板に半田付けしてすっきりさせます。
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コネクタ(プラグ)を本体側コネクタ(ソケット)に
差し込み、電源コードの配線は終了です。
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保護カバーの嵌め込み溝が緩いので
瞬間接着剤を入れて仮止めします。
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電源コード(信号線を含む)を
本体グリップ内に収めます。
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通電中はこのLEDが点灯するはず
ですが、既に切れていて点灯しません。
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新しいLEDに交換します。ただし、小型
サイズは白色しか在庫がありません。
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電源コードに電圧100Vを加えると発熱し
ます。へアイロン本体側の修理完了です。
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温度コントローラ経由で電源に接続してみます・・ダメです。
全く発熱しません。まだコントローラが直っていません。
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温度コントローラの回路基板にはLSIチップが搭載されており、本体側に内蔵されている
温度センサーからの信号を基に、何らかの方式(PID?)で高度な温度管理を行っている
ようです。LSIチップが損傷している可能性もあるので、これ以上不具合の原因究明を行う
ことは現実的ではありません。温度コントローラを復活させることは諦め、SSR(アクリル
折り曲げ機のサーモコントローラ)を使った簡便な温度制御方式に変更することにします。
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SSR-25VAは国内に在庫がなく中国から
取り寄せます。放熱器が必要なので製作します。
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フィン付きのアルミ板をSSRのサイズに合わせて
切り出し、ネジで放熱器をSSRに密着させます。
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温度センサーからの信号を3・4番端子にフィードバック
入力すれば、自動温度制御にすることが可能です。
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しかし、動作特性を安定させることは簡単ではありません。
3・4番端子に単に可変抵抗器を接続するだけにします。
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SSRを収納する適当なケースが見当たり
ません。アクリル材を加工して製作します。
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コードの取り出し口等を含め、
上下2ピースの部品を用意します。
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温度コントローラ側のコネクタは使用しま
せん。配線を引き抜いて個別に接続します。
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可変抵抗器、SSRを組み込みます。
前後の穴から電源コードを引き込みます。
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本体のLEDを点灯させるため、分圧・電流制限抵抗
および整流ダイオードを介して必要な電圧を作ります。
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可変抵抗器は容量2Wが指定ですが、10オーム
程度の抵抗器を直列に入れ、小型のもので代用します。
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可変抵抗器の回転角度と発熱体
表面温度の関係を確認します。
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可変抵抗器のシャフトを回し切った位置で、出力
電圧100V弱、表面温度160℃を超えます。
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シャフトを絞り、出力電圧を
30V程度に落とすと、
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表面温度は70℃ほどに下がります。
静的な特性としては元の性能が出ています。
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ただし実際にヘアケアに使用した場合、外的要因により
温度が変動しても速やかに追随する機能はありません。
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万一フィードバック制御が暴走した場合、使用者に深刻な
危険を及ぼしかねないので、無難な設計に留めます。
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ケースの上側カバーを内側から黒で塗装します。
カバー固定用のネジを受ける穴を開けておきます。
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ケース内でSSRは特に固定しません。簡単に
カバーとの間にウレタンを挟み動かないようにします。
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上側カバー側面からネジを締め込んで固定します。
可変抵抗器シャフトにはアルミ製ツマミを付けます。
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温度目盛り板は省略します。「右へ回すほど
温度が高くなる」だけで十分かと思います。
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電源コードを接続した時点で発熱体への通電が開始されます。元から
電源スイッチは付属していません。交換した高輝度LEDが点灯します。
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温度センサーからの信号線を温度コントローラ内に引き込んであるので、実際に
使用して著しく不便があるようでしたら、改めて変更が可能です。フィードバック
制御とて、数個の電子部品を追加するだけです。作業が完了する頃、幸いなことに
ご依頼主が米国から日本に帰国されることになりました。帰国先にお送りすることで、
作業結果を確認していただくことができ、送料を大幅に節約することもできます。
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