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パイオニアT-700Sベルト交換(2019.4.19)


手強そうな修理品が工房にやってきました。オーディオの黄金時代を
築いたPIONEER製の高級カセットテープデッキです。高級感、重量感、
重厚感、存在感・・、申し分のない昭和の名機であります。長い年月が
過ぎ、今は動かなくなってしまったかつての逸品が再び蘇ったなら・・。
敢えて修理を望まれるご依頼主のお考えに、何とか添いたいものです。

 

初期の水平型デッキがほぼ姿を消し、垂直型の高級デッキが
主流となりました。前面パネルに機能が整然と並びます。

 

PIONEER製T-700S、T-1000Sの
後継機として1991年に発売されました。

 

背面の入出力RCA端子です。銅製の
固定ネジを使用するこだわりようです。

 

かつてのオーディオ御三家は、2013年にAV事業を子会社化、
15年ONKYOに株式譲渡、19年ついに上場廃止となりました。

 

PIONEER本社はもとより、移管先のONKYO&
PIONEER社からも修理を断られています。

 

ご依頼主からの連絡では、ゴムベルトが劣化し(溶けて)
交換して欲しいとのことです。取りあえず電源は入ります。

 

開いたカセットドアから内部を覗いてみます。精緻な
クローズドループ・デュアルキャプスタン機構です。

 

ともあれミュージックテープを
入れて動作確認を行います。

 

まず、カセットドアが完全に閉まりません。再生(プレイ)ボタンを始め、各操作
ボタンとも何の反応もありません。ベルトが溶けているとすれば当然ですが。

 

内部を調べるため筐体カバーを開けます。
測定器のような厳重な構造をしています。

 

上面だけで6本、左右側面に2本
ずつ、背面にも固定ネジがあります。

 

鋼板製の筐体カバーを外します。カセットテープとは
裏腹に、コンパクトさとは無縁の重厚長大な構造です。

 

手前にテープ駆動ユニット、他は広大な
回路基板が広がります。都市景観のようです。

 

PIONEER全盛期の無敵とも言えるアートワークです。
どう見てもビジュアルを考えて設計しているでしょう。

 

ご依頼は劣化したゴムベルト(駆動用
平ベルト)を交換して欲しいとのことです。

 

駆動ユニットを覗き込むと、キャプスタン駆動用DCサーボモーターとその駆動軸に
取り付けられたプーリーが見えます。プーリーのベルト駆動面にゴムベルトの残骸が
張り付いています。お聞きしていた通り、経年変化でベトベトに溶け出しています。

 

ベルト交換には駆動ユニットを分解する必要があり、
そのためにユニットを取り外さなければなりません。

 

駆動ユニットがどのように固定されているか、
正しく理解すること自体が非常に厄介です。

 

先に前面パネルを外しておかなければなら
ないようです。左右の化粧グリルを外します。

 

前面パネルは化粧パネルとサブパネルの
2重構造です。先に化粧パネルを外します。

 

化粧グリルを外した後に、サブパネルの
固定ネジが隠れています。緩めます。

 

カセットドアの左右に、サブパネルを
駆動ユニットに固定するネジがあります。

 

化粧パネル側のカセットドアを駆動ユニット側の
テープジャケットから、ツメを解除して分離します。

 

これで本体からサブパネルを引き離すことが
できます。前面パネルへの結線はそのままです。

 

駆動ユニットから回路基板に伸びる
ケーブル(再生側)を抜きます。

 

録音側のケーブルも抜きます。再生側回路と
録音・バイアス側回路が分離された設計です。

 

駆動ユニットの背面側にモーター電源や駆動
制御用のフラットケーブルが配線されています。

 

ようやく駆動ユニットを引き出すことができました。
分解手順を記録しておかないと元に戻せません。

 

駆動ユニットのベースを僅かにスラントさせ(傾け)、キャプスタンの回転や
カセットテープ保持を安定させています。スラント角10度は、PIONEERが
繰り返し実験の結果得られた最適の角度だそうです。キャプスタン用、
リール用、メカ駆動用に各々独立した3個のモーターを搭載しています

 

あらためてデュアルキャプスタン、3ヘッド構成のテープ録再
ヘッド部分を確認します。外観上の不具合は見当たりません。

 

駆動ユニットの背面側です。キャプスタン用とリール用の
モーターが見えます。メカ駆動用は下部に隠れています。

 

右後方からキャプスタン用モーターを確認します。
劣化した平ベルトが張り付いて残っています。

 

フライホイール外周に沿ってベルトの残骸が
張り付いています。かなり状況は悪いようです。

 

駆動ユニットの内部に、ちぎれた平ベルトの切れ端が
落ちています。溶けてペースト状なので注意深く拾います。

 

ホイールのベルト面全体に手が届か
ないので、外側のプレートを外します。

 

プレート表面に3本と、側面
から1本固定ネジがあります。

 

キャプスタン用モーターとともに
外側プレートを取り外します。

 

プレートを取り去ると、デュアルキャプスタンを
構成する2個の巨大なフライホイールが現れます。

 

フライホイールのほぼ全周にわたりゴムベルトが
ペースト状に張り付いています。こそぎ落とします。

 

粘着性のあるペースト状で、しかもカーボンを含むため
周囲をみるみる汚していきます。アルコールで拭き取ります。

 

フライホイールが装着されたままでは、拭き取り
作業も思うように進みません。さらに分解します

 

メカ駆動用モーターを基板ごと取り外します。
これでフライホイールを遮るものがなくなります。

 

超高精度で仕上げ加工されたキャプスタン軸です。
力を加えて変形させないよう慎重に抜き取ります。

 

対になるもう1個のフライホイールも抜き取ります。
装着したままでは完全な拭き取りは困難です。

 

取り出した2個の大型フライホイールです。慣性
質量が大きく、ワウフラッターの低減に貢献します。

 

取り出した状態で徹底的に清掃したフライホイールを、元の位置に戻し
ました。大量のウェスとティッシュペーパー、アルコールを使いました。

 

キャプスタン用モーターの
プーリーも丁寧に拭き取ります。

 

モーターとフライホイール、2個のフライホイールを
連結する新しい平ベルトをかけなければなりません。

 

ビニル線を利用してそれぞれに
必要なベルト長を確認します。

 

ビニル線を1周分の
長さに切り取ります。

 

スケールに当てて長さを測ります。
10%ほど短いベルトを使用します。

 

ベルトの幅も確認します。フライホイールの
表面に残るベルト痕から測定します。

 

周長・幅ともに適当なものを工房ストックの中から探し出します。
周長は冗長性があるので、よほどの場合を除き間に合います。

 

まず2個のフライホイールを
連結する平ベルトを選びます。

 

左側フライホイールを少し持ち上げて
ベルトをくぐらせ、右側に掛けます。

 

平ベルトが掛かった状態でフライホイールを
回転させてみます。全くスムーズに回ります。

 

次にキャプスタン用モーターと左側
フライホイールを連結するベルトを掛けます。

 

フライホイール外周に正確に
位置していることを確認します。

 

外側プレートを元の位置に戻し
固定ネジを締め込みます。

 

キャプスタン軸がプレートの軸受に正しく入って
います。2本の平ベルトの位置を再度確認します。

 

キャプスタン用モーターのプーリーにも
平ベルトが正確に掛かっています。

 

劣化した平ベルトの交換を終え、
駆動ユニットを元の位置に戻します。

 

背面側のフラットケーブルを差し込み
ます。芯線が曲がらないよう注意します。

 

録音ヘッド、再生ヘッドからの
シールド配線を元に戻します。

 

前面サブパネルを取り付け、駆動ユニットの
テープジャケットとカセットドアを合体させます。

 

電源を入れると2個のフライホイールが回転します。静粛
そのものです。しかし、テープを出し入れしようとすると・・

 

EJECTボタンを操作しても、開いていたカセットドアは
完全に閉まらず、閉まっていたドアは完全に開きません。

 

テープジャケットの開閉、すなわちメカ駆動系の
動作に問題が残っています。再度分解します。

 

サブパネルを外した状態でも
開閉動作は完全ではありません。

 

高級機にありがちな機能、開閉を遅らせるダンパー
です。取り外してみるも結果は変わりません。

 

テープジャケットを開閉しヘッドブロックを移動させるには
大トルクが必要で、駆動プーリーでベルトが滑っています。

 

外観的には問題ないようですが、経年
変化により伸びて弾性が失われています。

 

工房在庫の中から新品で周長と
太さの合うベルトを選びます。

 

被駆動側のプーリーにベルトを掛けるには
再度プレートを分解する必要があります。

 

少し短めのベルトを選んだので、かなりきつく掛かって
います。モーターのトルクからして問題ないでしょう。

 

カセットドアが開いた状態で
電源を入れてみます。

 

ディスプレイに「WAIT」と表示されドアが
静かに閉じます。開閉ともに完璧です。

 

再生・早送り・巻き戻し・一時停止・停止、平ベルトの交換により全ての動作が
完全に復活しました。作業中に新たに発見したカセットドア開閉の不具合も、ベルトの
交換により解消しました。これで一応ご依頼主の指示をクリアしたことになります。

 

ところが、テープ駆動系の問題が解決し実際にミュージックテープを再生してみると、
間違いなくテープは駆動されていますが、何も信号が出てきません。背面出力端子
からもヘッドホン端子からも音声は出力されず、表示器のレベルメーターも何も反応
していません。ご依頼主に確認すると、長年倉庫のような場所で保管されていたそうで
厳しい周囲環境ではゴムベルトの劣化はもとより、回路基板に不具合が生じても
不思議ではありません。T-700Sに組み込まれた複雑大規模で高度な回路から
不具合個所を見つけ出すことは大変な困難を伴います。最低限、全回路図かサービス
マニュアルが必要です。PIONEER社とONKYO社に問い合わせてみます。

 
 平素は弊社製品のご愛顧を賜りまして、誠にありがとうございます。この度お問合せ頂いた件につきまして、返信申し上げます。

> 商品型番:T-700S
> ご購入:ご購入後
> ご購入年月:年 月
> ご質問件名:回路図について
> ご質問内容:
> 御社製かつての高級カセットテープデッキT-700Sにつきまして、当工房に修理のご依頼がありました。 お客様は既に御社に問い合わせされたそうで、古い機種のため修理不能との回答だったそうです。
 ベルト交換等により駆動部の修復を完了しましたが、回路基板にも不具合が あるようで信号が再生されません。 もし可能でしたら当該機の回路図をご提供いただけないでしょうか。 修理に関する全ての責任は当工房が負い、回路図は修理の目的以外には一切使用しません。
 お客様のたってのご希望ですので、何卒お力添え下さいますようお願い申し上げます。

  お問い合わせいただき、ありがとうございます。
 大変申し訳ございませんが、お問い合わせいただいております商品につきましては2015年10月1日より別会社でありますONKYO様のグループ会社 のオンキヨー&パイオニア株式会社様の窓口で相談を承っております。
 お手数をおかけいたしますが、下記窓口よりお問い合わせいただきますよう お願い申し上げます。
●オンキヨー&パイオニアイ株式会社お問い合わせ窓口
メール問い合わせフォーム
https://www2.jp.onkyo.com/customer/inquiry.asp?id=11
電話 050-3388-9425
受付時間 月曜~金曜 9:30-18:00(祝日、窓口休日を除く)
 大変お手数をおかけいたしますが、何卒よろしくお願い申し上げます。パイオニア カスタマ-サポ-トセンタ- **
 
PIONEER社に問い合わせた結果です。ONKYO社に
移管されていることをうっかり忘れておりました。
市川 様

 いつもお世話になっております。 この度はお問い合わせいただき誠にありがとうございます。
 誠に申し訳ございませんが、製品の回路図は社外秘情報となりますので 提供はお断りせざるを得ません
 この度はお力になれず大変申し訳ございませんが、 何卒ご理解いただきますよう、よろしくお願いいたします。

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■休業日のお知らせ 誠に勝手ながら、下記期間は会社休業日のためお休みを頂きます。
休業日: 2018年4月27日(土) ~ 2018年5月6日(月)
休業期間中のメールは、2018年5月7日(火)以降順次回答いたします。 お預かりさせていただいた製品は休業明け順次ご返却となります。 お客様にはご不便をお掛けしいたしますが、 何卒ご理解の程、よろしくお願い申し上げます。
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パイオニアホームオーディオコールセンター 担当 **
TEL:050-3388-9425
受付時間: 平日 9:30~18:00 (土・日・祝祭日・弊社指定日を除く)

> 使用、または検討中の機種: PIONEER T-700S
> ご質問の種別:その他
> 具体的な質問内容:パイオニア製かつての高級カセットテープデッキT-700Sにつきまして、当工房に修理のご依頼がありました。お客様は既に製造元に問い合わせされたそうで、古い機種のため修理不能との回答だったそうです。
 ベルト交換等により駆動部の修復を完了しましたが、回路基板にも不具合があるようで信号が再生されません。もし御社で当該機の回路図を保有されておりましたら、その写しをご提供いただけないでしょうか。修理に関する全ての責任は当工房が負い、回路図は修理の目的以外には一切使用しません。
 お客様のたってのご希望ですので、何卒お力添え下さいますようお願い申し上げます。
 
PIONEER社が教えて下さった窓口にあらためて
問い合わせてみました。社外秘だそうです・・、さて。

 
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