遠く北海道小樽市からのご依頼です。昭和40年代に購入されたSONYラジオ
TR-813、北海道東部地震の際に使い物にならなかったそうです。50年以上
愛用され、捨てるにはとても惜しいそうです。何とかして差し上げたいものです。
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あえて「トランジスタ・ラジオ」と銘打っていた
時代です。豪華な本革製ケースに入っています。
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革製のケースが奢られるほど、トランジスタラジオが貴重
だったということです。ケースのスティッチも本格的です。
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本革の耐久性は素晴らしいものです。今も
形が保たれ、ラジオ本体を保護しています。
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ラジオ本体を取り出します。パンチングメタルのシルバーと
樹脂ケースのグレーによるツートンが往時を偲ばせます。
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中波・短波の2バンドをスライドスイッチにより切り替え
ます。精緻な周波数表示器が性能を物語っています。
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1960年(昭和35年)の発売のTR-813、裏面に
トランジスタの使用個数(8個)が表示されています。
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当時登場したばかりのトランジスタは、近未来的な
デバイスであり、8個→8石と呼ばれていました。
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止めネジを緩め裏カバーを開けます。
60年近く前の技術との対面です。
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本体内部、底部分に乾電池(UM2×3本で4.5V)、上方に20cmほどある
バーアンテナ、中央部分にRF回路と低周波増幅回路、低周波回路に覆われて
スピーカーが取り付けられています。バリコンと独立して6連のトリマーがあります。
念のため乾電池をセットしてみますが、お聞きしていた通り全く作動しません。
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職人的で嗜好の強い構造設計に手こずります。
回路基板の中央を固定しているポストネジを緩めます。
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右側の低周波基板に、スピーカーを
避けるための高さを与えています。
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同調ツマミを抜き取ります。金属メッキされた
樹脂製で、製品に高級感を与える常套手段です。
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同調ツマミの手前にミニプラグ用のジャックが
あります。外部アンテナの接続用でしょう。
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スピーカー出力が分岐してイヤホン
ジャックを経由します。2系統あります。
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ジャックの固定方法がレトリックです。差し込み
口の周囲に溝付きのリングナットが入っています。
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ピンセットの先で回転させ緩めます。工員さん
たちの手で1個1個組み立てられたのでしょう。
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2個のジャックは穴の開いた
金属板で連結されています。
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反対側の側面に付いているスライドスイッチは
音量アッテネータのようです。使途が分かりません。
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周囲との接続が解除され、徐々に基板が浮いてきます。
ケース前面の押しボタンスイッチを受ける小さな基板です。
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周波数表示器のバックライトを点灯させるスイッチ
基板です。コツコツと手作りされた跡を感じます。
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低周波回路基板のある部分から
バックライト用電源が取られています。
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引きずる配線がようやく片付き、回路基板を
支えている金属フレームごと引き出します。
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金属フレームには、2枚の回路基板を支えると同時に
周波数表示器(精緻な機械式)が作り込まれています。
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取り出された高・低周波回路基板の全貌です。今ならばDSP1個で片付く回路
ですが、ディスクリート部品が所狭しとひしめき合っています。ソリッドステート
電子回路発展期の、先駆的技術者たちがものづくりに注いだ魂を感じます。
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黒パッケージの2SB51・52あたりが
見えます。もちろんSONY自社製です。
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故障原因を探るには、余分な接続を極力排除
します。乾電池ホルダーへの配線も邪魔です。
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同調ツマミの内部機構です。電子回路なのに
これだけ精緻な機構が組み込まれています。
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シャフト奥のプーリーが周波数表示の針を移動させる
リードを巻き取ります。バリコンの手前はダブルギヤです。
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2枚のギヤがスプリングによりバックラッシュ無しで
回転します。マイナス側のホルダーも取り外します。
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電源(乾電池)のマイナス側は、音量調整可変抵抗器に
付属するON・OFFスイッチ端子に接続されています。
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プラス側電源の配線をたどると、低周波
回路基板のここに接続されています。
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動作確認の際は別途電源を接続
するので、いったん外しておきます。
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機能が判明している配線を取り除き、できるだけ
シンプルな状態にして回路構成の理解に努めます。
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金属フレームから2枚の基板を分離できそうです。
不具合個所を発見するため別個に眺めたいものです。
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2枚の回路基板をつなぐ配線です。おそらく電源、
音声信号、AGCあたりでしょう。合印を付けます。
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半田を溶かして配線を外します。
これで基板を分離できるはずです。
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写真左下が低周波増幅回路基板、右側がRF回路基板です。RF部はバリコンや
バーアンテナ、別基板のトリマーと一体になっています。ここでようやく中波・短波の
切り替え用スライドスイッチがアクセス可能になります。実は当初からこのスライド
スイッチの接点劣化を疑っています。何せ60年近く経過しているものですから。
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スライドスイッチを疑うもう一つの理由は、本体に染み
付いたタバコ臭です。タバコのヤニは接点の大敵です。
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潤滑剤を吹き付けます。開放型のスライドスイッチ
なので外から吹き付けて接点まで浸透するはずです。
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別途用意した電源を接続し動作確認してみます。放送
こそ受信できませんが、スピーカーにノイズが乗ります。
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バンド切り替えのスライドスイッチを何度も動かします。最初は
動かすたびにノイズが出ましたが、次第に大人しくなります。
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低周波回路は問題なく機能しています。ということは不具合はRF部にあります・・高周波
回路のトラブルシュートは苦手なのですが・・とその時、放送が受信できない理由が判明
しました。写真中、ピンセットでつまんでいるバーアンテナからの配線が、基板に半田付け
された根元部分で断線し浮いています。基板に接触させると空電ノイズが入ってきます。
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愉快になるくらいガンガン放送が受信できます。表カバーにある
「SUPER SENSITIVE(高感度)」のロゴは嘘ではありません。
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大元の不具合修理に成功したので、付帯的部分の
補修に移ります。機械的な損傷か所があります。
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バーアンテナを保持するビニル
樹脂製ステーが壊れています。
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金属フレームに固定するネジ穴部分が
破損し半分以上無くなっています。
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瞬間接着剤で固定するしかありません。硬化
促進剤を使いながら、周囲を肉盛り・補強します。
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こちら側はハトメ固定をネジ
固定に変更するだけです。
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50年分の汚れを落とします。
アルコールで拭き上げます。
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精緻に作られた周波数表示器も、表面が
くすみ内部まで汚れが入り込んでいます。
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周波数が刻印されたアクリル板を、
表裏とも丁寧に拭き取ります。
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刻印の背面となる金属板も、
表面を綺麗に拭き取ります。
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アクリル板を戻します。
新品時の輝きが蘇ります。
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音量つまみにも油性の汚れが入り込み
見栄えをひどく損なっています。
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ツマミ周囲の刻みにも汚れが入り込んで
います。歯ブラシを使いかき出します。
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この程度でよろしいでしょう。文字
刻印が消えかけないうちに止めます。
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短波受信時の微調整用バリコンです。
表面が煤けたように反故れています。
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洗剤(界面活性剤)を使用する方が
要領よく汚れを落とすことができます。
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周波数表示器を見せる、本体ケース前面の開口部
アクリル板です。アルコールでくすみを取ります。
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本体ケースの外側を全体的にクリーニングします。
アルミ製パンチングメタルに汚れがこびり付いています。
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クリーニングを終えた本体ケース(前面側)に
フレーム+回路基板を戻し、配線を整えます。
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裏側カバーの内側にスポンジのカスが
残っています。乾電池を押さえるパッドです。
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いったん綺麗に取り除きます。何か代用品を
当てないと、内部で乾電池が暴れます。
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隙間テープがありました。粘着テープ
付きです。ほどよい柔らかさです。
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適当な長さに切り、元の
位置に貼り付けます。
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裏カバーを元に戻します。ラジオの機能が復活し、
加えて50年分の汚れが落ちてスッキリしました。
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20cm近いバーアンテナの感度は抜群
です。AM放送がクリアに受信できます。
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短波の受信が今ひとつです。電波強度が低い
ことと、専用アンテナが必要なのかも知れません。
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しっかり形状を保っているものの、本皮革製専用ケースの外観はかなり
見栄えを損なっています。比較専用のケミカルを使用したいところですが、
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合成皮革用の艶出し剤を流用します。
皮革内部にある程度浸透すればOKです。
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ワックス分を含んでいるので、一定の
効果は期待できると思います。
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艶出し・・まではいきませんが、
全体的にしっとり感が出ます。
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その昔、新品のラジオを購入し開封すると、箱の
中から本革の匂いが立ち込めた記憶があります。
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ラジオ本体を革製ケースに収めました。重厚感があり頼もしい
印象です。災害時などには本体が十分保護されるでしょう。
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北海道小樽市は小学校4~5年生の頃、住んでいたことがあります。道内しか
知らなかった子供の頃、ラジオで全国放送や海外放送を聴いたことを懐かしく
思い出します。遠い記憶の町へ、復活したSONYラジオを送り返します。
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