ポータブルカセットプレーヤーの金字塔的存在、SONYウォークマンの修理依頼です。
樹脂ではなくアルミニウム合金製の精悍な外装をまとい、本体サイズがカセットテープ
ケースのサイズを下回り出した頃の製品です。デザインの秀逸さは現在でも通用します。
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1987年発売のWM-501です。外装に傷ひとつ
ない美品で、30年もの経過を感じさせません。
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ヘアラインを加えたブラック塗装が、世界品質を物語り
ます。完全に故障しているなど、とても想像できません。
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ニホンザルがイヤホンを付けて聞き入っていたCMを
思い出します。操作ボタンがスタイリッシュに並びます。
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短辺側側面に再生切り替えスイッチが並びます。
トランジスタラジオの造形が踏襲されています。
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実装しやすい直方体ガム型充電池を使用します。ご依頼主が
お忘れのようで、何か電力の供給方法を考えねばなりません。
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カセットテープホルダーを開けてみます。これでいいのか
と思うほど華奢で、しかし見事なまでに精巧な造りです。
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厚み以外、本体の縦横サイズはカセットテープとほぼ同一です。ヘッド周りも、構造・機構
ともに精緻・巧妙に作り込まれています。オートリバース再生機構が組み込まれ、ダブル
キャプスタンとピンチローラー、高音質アモルファス(非晶質)往復再生ヘッドが光ります。
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この精巧・緻密な本体の分解にかかります。まず、
底面を固定している2本の小ネジを緩めます。
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バッテリーホルダー側の側面に小ネジが見えます。
分解しながら組み付けを理解するしかありません。
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精密ドライバーを当て、ネジ溝を壊さない
よう注意しながら少しずつ緩めます。
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30年以上も経過するとネジが固着していることが
あります。次に背面側側面左右にあるネジを緩めます。
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本体外装の固定ネジは計5本でした。ヘッドホン
端子に樹脂製リングが嵌め込まれています。
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極薄アルミニウム合金製の本体外装を恐る恐る分離
していきます。無理をすると即変形させてしまいます。
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「外装は外装」、下手に部品が分散配置されていない
ので、配線が跨ることもなく素直に分離してきます。
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切り替えスイッチ群を上手くすり
抜ければ外装が完全に分離します。
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故障の原因は一目瞭然です。モーター軸プーリー以外に、3個の大径プーリー、
1個のアイドラープーリを連結する長く細いゴムベルトが完全に脱落しています。
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長い年月のうちにここまで伸び切っています。
モーターはまだ元気に回転するようです。
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ゴムベルトを取り出しました。ゴムが変質して
弾性が失われ、伸び切って変形しています。
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各プーリーの動きを確認していくと、
このアイドラーが回転しません。
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シャフトの周りに腐食が生じ
完全に固着しています。
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2枚の樹脂ワッシャを外します。切り込みの
ある1枚目はアイドラーの脱落防止用です。
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回転軸周りは酸化物により
半田付けされたかのようです。
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ピンセットやカッターナイフの先を
使い、酸化物をこそぎ落とします。
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浸透潤滑剤を入れて徐々に
固着を解消していきます。
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シャフトおよび基部を変形させないよう、精密
ドライバーの先を差し入れて持ち上げます。
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ようやくアイドラーが抜けました。アイドラーの
固着とベルトの劣化、どちらが先かは分かりません。
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アイドラーの軸穴に同径のドリルを
通し、穴の内側を清掃します。
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アイドラーを元の位置に戻します。
今度はスムーズに回転します。
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樹脂ワッシャを嵌め込み、潤滑剤をもう少し追加して
おきます。駆動系で動きの悪い部分をさらに探します。
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A面送り出し側(写真の右側)のリールが、やはり
回転が重くなっています。駆動系はプレートの中です。
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プレートは2種類(僅かに長さが異なる)
6本の小ネジにより固定されています。
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手前の平歯車を回してみると、既に
この段から回転が重くなっています。
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リールスプロケット自体は軽く回転
します。いったん抜き取ります。
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2段手前の平歯車です。
これも軽く回転します。
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スプロケット手前の平歯車です。回転が重いのは
これです。やはり回転軸が固着しています。
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グリスが固化したような状態です。細いドライバーの先で
こそぎ落とし、アルコールを付けて綺麗に洗浄します。
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さて、問題のゴムベルトを交換しなければなりません。
工房に在庫している交換用ベルトから該当品を探します。
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結果は全て適合しませんでした。径75mm、0.8mm角が
純正部品の規格です。1mm角以上はプーリーに入りません。
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AmazonにもAliexpressにも相当品がなく、eBayに
スロバキアから個人が出品しているのを見つけました。
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送料が製品価格を上回り、半月ほど
待ってようやく配達されてきました。
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中央ヨーロッパから何が届くのか半信半疑でし
たが、それらしいもの(?)が送られてきました。
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そして、確かに径75mm、0.8mm角です。
ぴたりと収まりました。溜息が出ます・・。
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ガム型バッテリーが無いので、クリップで電源を配線し動作確認を行います。
再生ボタンに連動する電源スイッチ接点が接触不良を起こしており、研磨に
より復活させました。ベルトサイズが合致したことで、回転は快調そのものです。
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もう1点、オートリバースが機能していません。原因は
リバースを開始させるレバーが破損しているためです。
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レバーは回路基板の下、最も奥深い位置にありいます。
下手に手を入れると、周囲を二次破損する危険があります。
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ご依頼主に了解をいただくことにして、修理は
見送ります。各部を元通りに組み上げます。
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本体外装の底面側固定ネジを
締め込んで修理を終えます。
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実際にミュージックテープを再生して音声を確認します。ワウフラッター(音揺れ)が気に
なると言えば気になりますが、デジタル音源を聞き慣れている影響もあるでしょう。D・B・B
(ダイナミックベースブースト)回路により低音が強調され、ヘッドホンからパワフルで厚みの
ある再生音が流れ出ます。SONYウォークマンが最も注目を集め輝いていた頃の1台です。
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