PLS-1410を既に何台修理してきたことでしょう。大半がCDトレイ駆動部の
部品劣化による動作不良、そしてピックアップ劣化によるCD再生不良です。
このシリーズは標準的なピックアップを搭載しているので、補修部品の調達が
比較的容易で、作業に慣れてしまえば短時間で修理を終えることができます。
今回もCDトレイ駆動部修復、ピックアップ交換と進めたのですが、全くCDを
再生しません。スピンドルが回転せず、ピックアップの移動(シーク)もしません。
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以前はこの段階で基板不良と判断し
修理不能でお返ししていました。
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しかし、同じ状況で毎回修理不能では進歩が
ありません。気合を入れて原因究明に挑みます。
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CDドライブユニットから接続されるコネクタの一つです。
スピンドル・シークモーター、エンドSWが含まれます。
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スピンドルモーター(SP+、SP-)、シークモーター
(SL+、SL-)いずれも電圧が全く出ていません。
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水平に2枚重ねられている回路基板の上側、半分のサイズの基板を取り外します。
主にCDの制御回路がまとめられています。スピンドルモーターやシークモーターの
駆動電力はこの基板から供給されているので、その経路を調べることにします。
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まず立ち塞がる障壁は、裏側の
厳重な金属製シールド板です。
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一部はんだ付けを含む
差しこみ固定を解除します。
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裏側配線の片面基板ですが、その裏面にも
LSIチップが数個取り付けられています。
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メイン基板の半分のサイズとはいえ
この複雑な配線には気が滅入ります。
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出発点は、CDドライブユニットからの
ケーブルを接続するこのコネクタです。
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裏側配線面を確認します。印のある端子が
左からSL-、SL+、SP-、SP+です。
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SL-、SL+、SP-、SP+の4本を辿ると、写真右側の32ピンLSIチップに
配線されています。基板を組み直してLSIチップの6・7番ピン(SL-、SL+)、
9・10番ピン(SP-、SP+)の電圧を確認すると、やはり出力がありません。
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表側部品実装面からLSIチップの型番を確認します。「BA6898S」は
CDドライブ専用のモータードライバーLSIです。4チャンネルの出力を
内蔵し、いずれもBTL回路なので2倍の駆動電圧を出力できます。
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ローム社(ROHM
Semiconductor)の製品で、
現在も販売中、万一破損していても入手可能です。
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4チャンネルのBTLモータードライブ出力に
加え、5Vのレギュレターも内蔵しています。
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BA6898Sが破損している以前に、どうも動作している
気配がありません。基板全体を動作させる電力を追います。
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CD制御基板はこの特殊なコネクタを介して、
下部のメイン基板と垂直方向に接続されます。
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メイン基板から垂直に立ち上がる14ピンの
コネクタです(ピンアサインは先の写真参照)。
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CD制御基板側コネクタの裏側です。ここに
メイン基板側の14ピンが垂直に刺さります。
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コネクタ横にピンアサインが印字されており、いくつかは
電圧が明示されています。1ピンずつ確認していきます。
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何本かほとんど電圧が確認できないピンが
あります。何となく正常ではない気がします。
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端子名称 |
ドナー機 |
本 機 |
MG |
0.0V |
0.0V |
+9V |
9.0V |
9.0V |
DOUT |
2.4V |
1.0V |
XRST |
5.0V |
4.8V |
RST |
5.0V |
4.8V |
DG |
0.0V |
0.0V |
DVDC |
4.9V |
1.0V |
AVDC |
4.9V |
1.0V |
-12V |
-15V |
-15V |
+12V |
+15V |
+15V |
LO |
0.0V |
0.0V |
AG |
0.0V |
0.0V |
RO |
0.0V |
0.0V |
AG |
0.0V |
0.0V |
工房内に正常に動作する同型機があるので、それをドナー機として
両者で電圧を比較してみます。DOUT、DVDC、AVDCの3端子で
明らかに電圧が異常です。特にDVDCとAVDCの2端子、ドナー
機の4.9Vはおそらく5.0Vの電源供給ではないかと思われます。
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インスペクションの範囲をメイン基板に
広げます。大部分が電源回路です。
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何十台と修理してきているので
取り外しの手順は頭に入っています。
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これまでの経験から電源回路の構成部品が原因で
あることがほとんどです。ポイントは発熱の有無です。
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発熱が大きい部品から劣化が進みます。
垂直コネクタからDVDCとAVDCを辿ります。
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コネクタがハンダ固定されている裏側配線面です。
先ほど同様、ここでも配線の複雑さに気が滅入ります。
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コネクタの出発点をマークします。左側がAVDC、右側が
DVDCですが、配線側で一つにまとめられています。
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供給先が異なるだけで元の電源は同じ
ようです。配線を辿りながらペンでなぞります。
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ジャンパー線を経て基板
下方へ延びていきます。
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さらに下方へ延びて、目指すは電源回路のようです。
ここで再びジャンパー線で基板内側に移動します。
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やはり電源回路、それも定電圧ICに辿り着きました。
コントロール端子を持つ4端子レギュレターのようです。
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左から2番目の端子に接続されています。
レギュレターの出力端子と思われます。
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表側から実装部品を確認します。このレギュレターが
破損し電源が供給されていない可能性が大です。
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出口が見えてきました、レギュレターの交換は簡単
です。今回も発熱部品の故障が原因のようです。
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部品型番は「KIA78R05PI」、コントロール
端子付き4端子5VのレギュレターICです。
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このICもまだ入手可能な部品です。類似品が
いくらでもあるのでどうにでもなるでしょう。
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念のためレギュレターの動作を確認すると・・・、
壊れてなんかいません。正常に5Vを出力します。
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とんだ濡れ衣を着せてしまいました。基板に戻し
通電した状態で出力電圧を確認してみます。
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最初のインスペクション通り、
この状態では1Vしか出ません。
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すぐに次の原因が見つかります。レギュレターの
1番ピン、電源の入力端子電圧を確認すると、
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電源が供給されていません、ほぼ0Vです。それでも出力に
1Vほど出るのは、コントロール端子からのバイパスでしょう。
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原因はさらに上流にありそうです。
配線を辿る作業に戻ります。
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レギュレターの1番ピンから、電源の供給元へ
配線が延びます。すぐ先に部品が1個入っています。
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表側を確認すると、何か色合いが冴えない
固定抵抗器です。この前後の電圧は・・、
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固定抵抗器の入力側の
電圧を測定してみます。
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6.4Vくらいあります。KIA78R05PIが
5Vを出力するのに十分な電圧です。
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固定抵抗器の先はダイオードブリッジによる整流回路に
行き着きます。もちろん出力電圧は問題ありません。
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固定抵抗器の出口側電圧を確認します。
レギュレターに加わるはずの電圧はどこに・・
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かろうじて0.8Vが確認される程度です。
固定抵抗器に大きな電圧降下が生じています。
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僅か9Ωの1/4W固定抵抗器です。実はここで9Ωを90Ωと読み違え、
後の修理作業でえらい遠回りをすることに。この抵抗器が限りなく怪しい。
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抵抗値を測定すると、9Ωでも90Ωでもなく
ほぼ無限大です。完全に破損しています。
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電流制限用なので間違いなく発熱が伴い劣化が
進みます。まず、150Ωを並列にし75Ωを作ります。
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実測すると65Ωくらい、先ほど白状した
ように抵抗値を完全に間違えています。
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そのまま取り付けてしまいます。1/8Wを
並列接続で1/4Wを作ったつもりでいます。
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65Ωの出口側で電圧を確認します。
通電直後からかなり発熱しています。
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3Vの出力しかありません。電圧降下が大きいので
消費電力も大きく(約180mW)、発熱するはずです。
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ようやく抵抗値の読み間違いに気づき
ストックから10Ω、1/4Wを用意します。
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これでDVDC、AVDCは正常電圧に戻るはずです。
DOUTも異常ですが、連動して復活するかも知れません。
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DVDC、AVDCにほぼ5Vが出ています。CD制御基板に電力が正しく供給されれば
スピンドルモーター、シークモーターともに動作するようになるのではないでしょうか。
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元通りに基板を組み上げ動作を確認してみます。
TOC Readingの表示まではこれまでと同じです。
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かすかにキュルキュルという回転音が聞こえ
直後にCDのデータが表示されます、回復しました。
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安定したBOSEサウンドが蘇りました。BOSE社PLSシリーズの製品群は
どれも洗練された精緻な回路設計に驚かされます。各基板への回路分散や
内部への実装にも美しさを感じさせるものがあります。国内にもユーザーが
多く存在し、しかも長く大事に愛用されていることが、途切れることなく修理の
ご用命を頂戴する理由かと思います。CDトレイ修理やピックアップ交換等の
比較的簡単な修理だけでなく、一歩二歩奥に分け入った修理に挑戦して
参ります。しかし、その結末が固定抵抗器ただ1本の劣化だったとは・・・。
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