
パーソナルコンピュータが普及し始めた頃、プログラムやデータをどのように記録保存
するか、本体の性能以上に大きな課題でした。大型コンピュータやオフコン用に磁気
ディスク装置やマルチトラックの磁気テープ装置は既に存在していましたが、家庭用・
個人用にいかに低価格で提供するかが問題でした。カセットテープを記録媒体に
使用する方法が登場し、家庭用のカセットレコーダが利用できることから瞬く間に
広がっていきました。後年になり、カセットレコーダの流用ではなく、専用に設計
された製品が登場しましたが、既にFDDやHDDが普及の段階を迎えていました。
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有名なNEC製パーソナルコンピュータ、PC-6001用の
周辺機器として1981年に発売されたPC-6082です。
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転送速度300bpsのFSK方式で、当時19800円も
しました。PC88・98シリーズにも接続できたようです。
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背面側パネルに接続端子が並びます。バイナリデータを
認識しやすくするため、波形変換回路を内蔵しています。
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データレコーダ然とした機能が備わって
います。動作確認のため電源を入れます。
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普通のラジカセよりも無機質なデザインで、いかにも
コンピュータっぽい印象です。「PLAY」ボタンを押します。
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取りあえず各部とも動作しますが、巻き取り
側リールの回転が弱く、時々止まります。
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データレコーダと言っても、大枠はカセットレコーダと
同じものです。テープの巻き取り不良は茶飯事です。
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底面カバーを取り外します。一見して
普通のカセットレコーダと変わりません。
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いや訂正します。カセットレコーダに違いありませんが、フライホイールの
大きさが高級カセットデッキ並みです。ソレノイドが組み込まれており、
ロジックオペレーション方式のようです。随分と贅沢なメカニズムです。
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巻き取りリールの動作不良なので、とにかく
駆動部分まで辿り着かなければなりません。
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左隣の回路基板を浮かせた状態で
デッキの固定ネジを全て緩めます。
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手の込んだラジカセよりも
取り外しは簡単です。
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デッキの隅に取り付けられている
電源トランスも外しておきます。
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デッキ部を取り出し、反転させて表側を確認
します。やはり普通のデッキメカニズムです。
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カセットテープトレイの
底面カバーを外します。
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巻き取り側リールおよびリール
駆動用のローラーが露出します。
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ローラーの周囲にゴム製リングが嵌め込まれています。
ゴム材質が劣化して固化しているのではないでしょうか。
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固化により摩擦が損なわれるとスリップします。
ゴムリングを交換するか表面をリフレッシュします。
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リールとの接触面を研磨しケミカルで
処理しますが、元々大して劣化していません。
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何か別の原因で巻き取り不良が
起こっているようです。さらに分解します。
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フライホイールの下側ステーを
外します。見事な大径ホイールです。
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フライホイールを引き抜きます。外れてきたゴム
ベルトを点検しますが、特に劣化はありません。
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フライホイール真上のプーリを引き抜きます。別のベルトで
駆動されます。このプーリ、実は簡単に抜けない構造です。
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リール駆動機構は樹脂製ケースの中に
組み込まれています。ソレノイドが干渉します。
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外したソレノイドを脇に寄せておきます。もう1個の
プーリはモーターに掛かるベルトのアイドラーです。
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リール駆動部を覆う樹脂製
ケースの固定ネジを緩めます。
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ケースが浮き上がります。果たして
内部に不具合の原因があるでしょうか。
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裏返して内部を点検します。早送りと巻き戻し、再生時の同調巻き取りを
実現する巧妙なメカニズムです・・が、すぐに妙なことに気付きます。中に
ピニオンギヤが1個、不自然な場所に取り付けられて(→落ちて)います。
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ピニオンを通すシャフトもなく、
どこからか脱落したようです。
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拾い上げて点検すると、
側面にクラックが入っています。
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先に引き抜いてしまったプーリです。
もしかするとこのシャフトに・・
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ぴったり合います。しかし、
クラックがあるのでゆるゆるです。
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シャフトに入れるとクラックが開いたままです。
樹脂材料が経年劣化により収縮したためです。
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プーリが入る穴を確認するため、アイドラーと
その取り付けステーをいったん外します。
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ケースの外側からシャフトが差し込まれ、
この穴を抜けて内部に出てきます。
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突き出たシャフトにピニオンが圧入され、巻き取り機構を駆動
します。クラックが原因で空回りしていたに違いありません。
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同規格のギヤが入手できれば良いのですが、簡易的に修復
します(聞いたような・・)。ドリルで穴をひと回り大きくします。
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クラックが開いたままではギヤの噛み合わせ
不良が起こり、リールが円滑に回転しません。
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シャフトの表面を、ピニオンが通る部分に
ついてペーパーをかけ足付けを施します。
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プーリとピニオンをセットします。この状態で
ピニオンは、輪をかけてゆるゆるです。
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ピニオンとシャフトの隙間に
瞬間接着剤を流し込みます。
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クラックが閉じるようにクリップで
挟み、固着するまで維持します。
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ピニオンギヤ側から平ギヤを駆動する分には問題なく円滑に回転します(逆方向では
僅かに引っ掛かりがあります)。写真ではピニオンの鍔側が手前に見えていますが、この
取り付け方ではリール駆動用ローラーのギヤと噛み合いません。後で鍔を削り取ります。
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分解ついでに全てのゴムベルトを点検します。
不思議とほとんど劣化が見られません。
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元通りに組み上げて再度動作を
確認します。快調そのものです。
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巻き取り側リールの回転も正常に戻っています。
巻き戻し時に聞こえていた異音も解消しています。
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データレコーダなのでミュージックテープを
再生するのは馬鹿げていると思いますが、
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内蔵されているモニター用のスピーカーから、なかなか上質のサウンドが流れて
きます。音声信号は波形変換回路(バイナリ化するためのクリッピング回路)を
通るので、音質自体に期待は出来ないものの、テープの走行系が安定している
結果、ワウフラッターの少ない聞き取りやすい再生音です。その昔、テープから
プログラムをロードする際に、始終読み取りエラーに悩まされました。音揺れの
ひどい安物のカセットレコーダーを使用したのが原因だったのかも知れません。
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