工房にも何人かのお得意様がおられ、何度もご用命をいただきます。
かなり長い年月使われた家電品を送ってこられる方もいらして、何故
買い替えをなさらないのか不思議に思うことがあります。製品価格が
数千円くらいですと、修理代をお安くしても新品価格と拮抗してしまい
ます。しかし、金額の大小ではなく廃棄にお金を払うこと自体、馬鹿
げていると考えるのは不自然でしょうか。製造元が修理してくれない
ことは、少しの修理で元に戻る可能性と全く無関係です。さて今回は
このレトリックな電気ファンヒータ、修理できなければ・・即廃棄です。
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操作はタイマーを兼ねたスイッチだけ
です。発売時定価は5000円です。
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心臓部である620Wのセラミックヒーターが
切れていれば、修理の意味がありません。
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逆にヒーター意外の部分が故障している
のであれば、修理しない手はありません。
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ヒーター断線の判別は回路計を当てるだけです。
滅多に切れるものではありません、正常です。
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外装カバーを外しタイマーの
ダイヤルを引き抜きます。
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電源の配線や温度ヒューズにも問題が無い
ので、疑わしいのはこのタイマースイッチです。
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ゼンマイによるタイマー自体は動作しています。
連動するスイッチ部分に問題がありそうです。
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タイマーを取り外して点検します。
先に配線を抜いておきます。
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2本のタッピングネジで樹脂製
本体に固定されています。
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同型補修部品は難しいにせよ、同機能の
代替部品であれば入手可能でしょう。
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シャフトを強く回すとゼンマイが巻き上げられ、タイマーが機能します。
必ず、タイマーが電源スイッチをON・OFFする機構があるはずで、
その機構あるいは、ON・OFF用電気切片に不具合がありそうです。
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ダイヤルが空回りしないように
シャフトにピンが打たれています。
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ON・OFF用電気切片は、タイマー上部の
樹脂製ホルダー内に組み込まれています。
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本体固定ネジを緩め、ロック爪を
押し込むことで脱着できます。
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ロック爪の反対側が回転軸になり、上方向に開く構造
です。明らかにメンテナンスが考慮された設計です。
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電気切片部分を点検すると、接触不良を通り越して接触不能状態です。
接触不良が続く間に相当発熱があったようで、周囲が溶けかけています。
切片が劣化した際に簡単に部品交換できる設計のようですが、果たして
そのような消耗部品が本当に供給されているのでしょうか。販売されて
いるのを見たことも、実際に交換したという話を聞いたこともありません。
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完全に焼き切れている状態ですと無理ですが
その手前であれば接点を切削して修復します。
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金工ヤスリである程度思い切りよく
浸食部分を削り落とします。
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固定切片に続いて可動切片側も切削します。
接点金属がまだ十分残っているのが幸いです。
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両接点とも金属の地金が露出しています。火花による
摩耗は避けられないのでこれ以上の研磨は見合わせます。
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メーカー希望小売価格5000円の製品では、電気火花が出ない
半導体スイッチ(サイリスタやトライアック)などコスト的に採用でき
ないでしょう。ですが、接触不能に向かって摩耗しながらも数十年
問題なく機能してきたわけです。しかも、この簡単な修復により
さらに今後も機能することになれば、半導体スイッチとて大して
優位性はないことになります。コストを抑えながら必要な機能を
実現する技術の成果が、このような場面にも見え隠れします。
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修復結果を確認します。先に
開放状態での絶縁を確かめます。
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次に切片を閉じて導通を確認します。
確実に接触しふらつきもありません。
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ですが、樹脂製ホルダーを閉じると導通しなくなります。
シャフトと共に回転するカムがレバーを押し上げるのですが、
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切片金具が変形したせいで、接触位置に
到達していないようです。金具を調整します。
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摩耗により接点の位置が後退した
ことも、原因の一つかも知れません。
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今度は大丈夫です。タイマーをセットすると
ONになり、切れるとOFFになります。
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分解した本体を途中まで組み上げます。
タイマーを取り付けダイヤルを差し込みます。
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タイマーをセットするとファンが
回転し始めます。快調です。
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セラミックヒーターのユニットから熱気が上がってきます。
ファンの気流が引き込まれていないので、動作確認を
早々に切り上げます。ヒーターが過熱して断線でもしよう
ものなら、何のための修理なのか分からなくなります。
タイトルの「そのファンヒーターまだ使えます」は、工房の
キャッチフレーズではございません。お得意様ご自身が
そのように理解されていることが素晴らしいと思うのです。
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