高齢者施設から連絡があり、PHSを修理して欲しいとのご用命です。
「いま時ピッチ?」と思われるでしょうけれど、施設などの限られた
範囲内での業務連絡には、弱電力のPHSがまだ活躍しています。
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業務用だけに、一時的にせよ使用
できなくなると大いに支障をきたします。
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現在のスマホでもなく携帯でもなく、ひと昔もふた昔も
前のPHSからは、前時代的な雰囲気が漂います。
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裏蓋を開けてバッテリーを取り出し本体を分解
しようとすると、小さな特殊ネジで固定されています。
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工房にある特殊ビットの中に、
このサイズのものはありません。
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ですが、小さいマイナスドライバーを、ネジの
センターを外して押し当てると・・何とか回ります。
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「充電ができない」の意味が分かりました。
内部基板上のソケットがコケています。
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基板に半田付けされた金属製のソケットカバーです。一見
して本来の取り付け位置からずれていることが分かります。
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両袖ステー部の半田付けが剥がれかけています。
充電器側のコネクタが無理に押し込まれたようです。
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それどころか、ソケットの
中身が無くなっています。
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PHSをお預かりする際に渡されたこの小さな部品、ソケットの中身です。
失くさずに保管しておいて下さって助かります。紛失していると同等品を
探さなければなりません(OEMパーツなので多分見つからないでしょう)。
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先ほどの金属カバーの中に、この樹脂製
ソケット本体が収まる構造です。
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ソケットの背面側に接続端子が
数本取り出されています。
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しかし、ソケットが無理に押し込まれたことで、基板に半田
付けされていた端子も引き剥がされ、ひどく変形しています。
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交換できるに越したことはありませんが、
止むを得ず変形を修正していきます。
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変形の修正だけならばはるかにマシだったようです。充電用端子は
4ピンで構成されているところ、何とそのうち1本(写真右端)が折れて
脱落しています。端子の根元がかろうじて残っている状態です。
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絶望と挽回の境界に立たされる思いです。
が、作業できるところまで進めてみます。
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この細かい作業には、半田ごての先を
ニードルタイプに交換して臨みます。
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取りあえず、ほぼ脱落状態の
金属カバーを基板から外します。
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取り外してみると、両袖のステー
部分が大きく変形しています。
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ラジオペンチで少しずつ変形を修正します。数か所に出ている小さな
ツメは、内側に収まる樹脂製ソケットの位置決めと固定を担います。
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接続端子を修復した樹脂製
ソケットを、内部に納めます。
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金属カバーの変形が修復されているので、
ぴたりと収まりしっかりホールドされています。
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基板側のソケット取り付け部分です。金属カバーの固定用ランド、
接続端子用の4本のランドとも損傷はなく、再利用できそうです。
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先に金属カバー両袖のステー部分を半田付けします。4本の接続端子を
ランド位置に正確に一致させなければなりません。拡大鏡下での作業です。
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金属カバーのステー部を、半田を多めに
盛り付けて左右とも強固に固定します。
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もう一度接続端子の位置を確認します。
右端の1本が脱落したままですが・・
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精密作業用ピンセットの先がぎりぎり入る隙間に、ニードル状のこて先を
侵入させ接続端子を固定します。拡大鏡下で分かることは微妙な手先の
「震え」であり、半田付けは一発勝負です。ところが、温度調整機能付きの
半田ごても、これだけ細いこて先では十分に熱が伝わりません。先端ほど
熱容量が小さいので、接触させた瞬間に温度が低下し思うように半田を
溶かすことができません。温度が回復するのを待って一瞬で作業します。
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さて、大問題は脱落した接続端子1本をどうやって
修復するかです。ビニルコードの芯線を用意します。
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樹脂製ソケットの背面に、脱落した端子の根元が僅かに
残っています。ここに半田を溶かし付けておきます。
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芯線の端をまずランドに半田付けします。
4本目の一発勝負・・、何とか成功です。
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最悪の条件下で芯線の他端を端子の根元に
半田付けします。息を完全に止めて作業します。
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先に溶かし付けておいた半田が、芯線の周囲にまとわり付いてるのが
確認できます。この状態であれば電気的な接続は(多分)大丈夫でしょう。
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横からLEDライトを当てながら撮影したこの写真で、細い芯線により
脱落した端子が補われていることが分かります。回路計を当ててみる
分には、接続端子根元部分と基板ランド間での導通、および接続端子
同士の絶縁(非導通)に問題はありませんが、それ以上は何とも・・。
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修理できたか否か確認しようにも、本体をお預かりする際に充電器を
お借りできませんでした。1台しかない充電を貸し出すと、残りのPHSを
充電できず業務に支障が出るとのことです。止むを得ず動作確認しない
ままに納品に出向きます。施設の受付で充電器をお借りし職員の方が
覗き込む目の前で、失敗した時の言い訳を考えながらの通電テスト・・。
こういうのってやですよね。結果は無事成功、納品書をお渡しします。
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