修理を終えてお返ししたBOSE製PLS-1310が再度送られてきました。
CDトレイが出てこないそうです。修理完了時点では問題なく動作していました。
返送前には繰り返し動作確認を行い、必要があれば記録を残すようにしています。
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配送中に何か事故があったのか、不可思議に
思いながらもあらためて動作を確認してみます。
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本体背面のメインスイッチを入れると
前面パネルの赤LEDが点灯します。
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電源スイッチを押すとLEDが消え電源が入るはずですが、
・・入りません。これはCDトレイの開閉以前の問題です。
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電源回路周りの故障でしょうか。
あらためて内部を点検します。
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本体手前側に配置された大型の基板が電源回路です。写真左上に2回路分の
整流用ダイオードブリッジ、右半分は定電圧回路です。レギュレーターIC用の
放熱器が取り付けられています。パワーアンプ用電源は別の基板にあります。
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写真上部のコネクタにより電源
トランスのAC出力が接続されます。
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整流ダイオードに入る前に
ヒューズ抵抗を通ります。
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定電圧回路内にも2本の
ヒューズ抵抗があります。
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発熱に晒されたようで変色しています。
新しいものに交換します(写真は交換後)。
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取り外したヒューズ抵抗です。
過電流により焼けた跡があります。
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新しいヒューズ抵抗に交換します。
意外と入手の難しいパーツです。
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電源基板上には主に3個の信号用コネクタがあり
ます。全ての信号線に名称(略号)が記されています。
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「J806」の各信号線名称です。
非常に有用な手掛かりになります。
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特に電圧が表記されている信号線は、電圧を
測定するだけで不具合の有無が分かります。
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基板右上にある「J706」のコネクタです。
「J806」と共通の信号線があります。
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こちらも電圧測定を中心に
出力信号を確認します。
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手前の「J707」コネクタです。
CDドライブに電源を供給します。
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端子 |
故障機 |
動作機 |
OFF |
ON |
OFF |
ON |
L_MUTE |
0.8V |
0.8V |
2.8V |
2.8V |
P_DOWN |
5.4V |
5.4V |
5.4V |
5.4V |
PROTECT |
1.1V |
1.1V |
24.0V |
22.0V→1.0V |
S_MUTE |
0.0V |
0.0V |
5.0V |
5.0V→0.0V |
AC_RLY |
0.0V |
0.0V |
0.0V |
5.0V |
MV_UP |
0.6V |
0.6V |
0.6V |
0.6V |
MV_DOWN |
0.6V |
0.6V |
0.6V |
0.6V |
FL2 |
-16.0V |
-16.0V |
-16.0V |
-16.0V |
FL1 |
-16.0V |
-16.0V |
-16.0V |
-16.0V |
+5.6V |
5.6V |
5.6V |
5.6V |
5.6V |
+15V |
15.0V |
15.0V |
15.0V |
15.0V |
-24V |
-25.0V |
-25.0V |
-25.0V |
-25.0V |
D.GND |
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幸いなことに工房に正常に動作するPLS-1310が1台あります。参照機があれば
トラブルシュートをかなり容易に進めることができます。先ほどの「J806」コネクタの
信号線電圧を、電源ON時とOFF時について故障機と動作機で比較してみます。
「L_MUTE」・「PROTECT」・「S_MUTE」・「AC_RLY」の4本で電圧に異常があります。
注目すべきは「PROTECT」と「S_MUTE」の2本で、動作機では電源をONにした後、
少し間をおいて22.0V→1.0V、5.0V→0.0Vのように出力電圧が変化します。
一部を除く電源がディレイを伴ってONになるようで、その大元はおそらく「AC_RLY」
ではないかと考えられます。「AC_RLY」は「J706」コネクタにもある信号線で、そこ
から別基板上にあるリレーに接続され、リレーの駆動により残る電源がスタンバイ
するものと考えられます。「電圧5V」と「ディレイ」を手掛かりに原因を探ると、不具合
個所が絞り込まれてきます。レギュレータICが正常に動作しているか否かです。
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放熱器に取り付けられたレギュレータICが4個
並んでいます。熱に晒され劣化しやすいパーツです。
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「AC_RLY」の配線を辿ると、この
L78MR05に行き着きます。
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L78MR05はレギュレータの中でも少しややこしいICです。
「Voltage Regulators with Reset Function」、つまりリセット機能
付き定電圧ICということです。末尾の05は出力電圧5Vを意味します。
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通常の3端子レギュレータと異なり、2番端子「DELAY
CAPACITOR」と
4番端子「RESET OUT」の2本が加わり5端子構成となっています。
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2番端子「DELAY
CAPACITOR」に接続されたコンデンサがチャージされると、
4番端子「RESET OUT」に出力電圧が現れるように動作します。コンデンサの
容量に応じて出力にディレイ(遅延)が加わります。例えばプロセッサの電源の
ように、周辺デバイスよりも遅れて起動するような目的に使用されるようです。
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L78MR05の4番端子「RESET OUT」の電圧を確認
します。「AC_RLY」同様に電源ON・OFF時とも0Vです。
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L78MR05の不良が疑われますが、
取り外して確認すると正常に動作します。
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試しに2番端子「DELAY CAPACITOR」を確認
すると、こちらも電源ON・OFF時とも0Vです。
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つまりL78MR05を動作させる以前の
段階で、何か不具合があることになります。
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電源基板を裏返して、L78MR05を
動作させる大元を探ることにします。
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2番端子「DELAY CAPACITOR」と
4番端子「RESET OUT」の半田面です。
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2番端子「DELAY CAPACITOR」は、隣の
NPNトランジスターのコレクタに接続されています。
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コレクタの半田面です。「DELAY CAPACITOR」に
電圧を送り込むためのドライバーということです。
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ベースから下方に配線が延びています。
トランジスタをスイッチングさせる信号線です。
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細い配線を辿ると
ここで行き止まりです。
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部品面側を確認すると
ジャンパー線があります。
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別の配線を3本跨いで
反対側に渡ります。
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やはり細い配線で
下方へ延びて行きます。
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下→右→下と迂回したところで
ある部品に接続しています。
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表側を確認すると
1/8W抵抗器です。
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表側の抵抗器により配線を
1本跨ぎ、さらに延びて行きます。
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このあたりは部品が
連続しています。
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表側を確認するとダイオードブリッジの横に、ディレイを
生むための電解コンデンサが取り付けられています。
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コンデンサに短絡があれば「DELAY CAPACITOR」に
電圧はかかりません・・、ですが外してみると正常です。
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一瞬、解決の兆しが見えたものの空振りでした。
その先は、ダイオードが順方向に2個連なります。
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2個目のダイオードのカソードが半田付けされて
いるランドです。最終目的地が見えてきました。
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ダイオードの先は配線が
上方向に延びています。
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部品面側で確認するとダイオード
ブリッジ横のジャンパー線です。
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大き目の半田付けが4か所
並ぶ一つに辿り着きました。
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整流用ダイオードブリッジの端子の1本で、入力側すなわちAC入力の片側に接続されて
います。電源トランスに電力が供給されると、整流ダイオードの入力端子に加わった電圧が
L78MR05のリセット機能により少し遅れて回路全体に電源を入れます。問題はリセット
させるに必要な電圧が、辿ってきた経路のどこかで阻害されていることです。言い換えれば
ドライバー代わりのトランジスタをスイッチングさせる電圧が損なわれているということです。
勿論、トランジスタの劣化や破損は点検済みです。トランジスタのベース以降が問題です。
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L78MR05までの信号経路を回路図にまとめるとこのようになります。
既に判明していることは、L78MR05は正常、ドライバーとなるTRも
正常、ディレイを生むコンデンサも正常、残る点検個所は限られます。
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2個並んでいるダイオードは、ACを半端整流しながら
単純に1V(0.5+0,5)ほど電圧を降下させています。
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従って、ダイオードを出たところでは
そこそこの電圧が確認できます。
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残るはこの抵抗器だけです。抵抗の
前後で大きく電圧が降下します。
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取り外してみると47kΩもある大きな抵抗器で、TRの
ベースに送り込む電圧に対し、顕著に影響します。
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決定的な不具合、TRがスイッチングしない原因は結局不明です。電源トランスの
性能も含め、微妙なところでTRを動作させる電圧が設計範囲を下回っていると
考えられます。逸脱量は僅かでしょうから、動作電圧を主に決定する47kΩを
調整し1割ほど小さい43kΩに変更します。僅かに電圧が上昇するはずです。
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電源基板を元に戻、し前面パネルの
電源スイッチを入れてみます。
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赤LEDが消灯し、スタンバイ状態から
電源がONになったことを示しています。
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回路全体に電源が入り、パネルに「DISK」の表示が出ます。CD再生、ラジオ受信とも全て
正常です。スピーカーを接続するとPLS-1310のパワフルな再生音が響き渡ります。繰り
返し動作確認の上、再びご依頼主にお返しします。今度こそ無事に戻りますよう、祈ります。
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