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フィリップス製レコードプレーヤ修理(2021.11.25)

 
工房に届いたレザー張りのケース、大きめのお洒落なバッグのように
見えます。ご依頼主からは、レコードプレーヤを修理して欲しいと
予め連絡をいただいておりますが、とてもそのようには思えません。

 

分割された上下のレザーケースが
堅牢なバックルで合体されています。

 

バックルを解除すると上側の
ケースが持ち上がります。

 

確かにレコードプレーヤです。お洒落なレザーケースの中に、
レトリックなレコードプレーヤが収まっています・・そうではなく、
レコードプレーヤに合わせてレザーケースが作られています。

 

上下のケースはこの金具で連結され、
上側ケースを自立させることができます。

 

上側ケースにも何か装置が組み込まれており、
どうもスピーカーユニットが内蔵されているようです。

 

上側ケースの奥まったところに
コードが仕舞い込まれています。

 

1本はケース内に組み込まれた
スピーカーユニットに接続されます。

 

もう1本は電源コードです。ある日突然動かなくなった・・
そうで、取りあえずコンセントに差し込んでみます。

 

赤丸の付いた回転つまみが、電源
スイッチと音量調節を兼ねています。

 

電源が入っているはずですが、アームを動かしてもターンテーブルが
回り出しません。ある日突然動かなくなった・・ままのようです。

 

ターンテーブルを外してみます。堅牢な
ダイキャスト製で意外と重量があります。

 

アイドラーがターンテーブルの外周に
接触し回転させるリムドライブ方式です。

  

製造年など不明ですが相当の年代物に違いありません。
ご依頼主からはフィリップス社製と聞いております。
 

プレーヤユニットのフローティング固定ネジを
外しますが、まだ取り出すことができません。

 

レザー張りされた内側カバーの
固定ネジを全て緩めます。
 

固定ネジはどれもマイナスネジです。プレーヤ
ユニットごと内側カバーが浮き上がってきます。

 

年代物と分かっていたはずですが、内部が露になると驚かされました。
ソリッドステート化される以前の実装です。シャシーに固定された各部品が
ビニルコードによる直接配線で接続されています、いわゆる空中配線です。
 

とりわけ驚かされたのは、増幅回路が
真空管で構成されているところです。
 

真空管2本のうち1本はRWN製EF86、現在も流通する
電圧増幅管です。ヴィンテージ品は1本1万円以上します。

 

もう1本はEL84、こちらもポピュラーなパワー段用
電流増幅管でTELEFUNKEN社(ドイツ)製です。
 

真空管回路用に数百ボルトの高圧を供給する電源トランスです。
中学生の頃、真空管ラジオで強烈に感電した記憶があります。

 

増幅回路部分の配線です。部品の固定や中継にラグ板が使用されています。
完全に手作業による実装で、部品をバランスよく合理的に配置し配線する
芸術的な技能(アートワーク)が求められます。半田付けの跡が秀逸です。
 

ターンテーブル駆動用のモーターです。
単相隈取りモーター・・だと思います。
 

鉄芯の後方張り出し部分に、2系統の
界磁コイルが巻き付けてあります。

 

レトリックな機器の雰囲気に浸っている場合では
ありません。電源が入らない原因を探します。
 

差し込みプラグと本体内部への
電源引き込み間の導通を点検します。

 

コンセントにプラグを差し込むと、音量調整兼
電源スイッチの入力端子に100Vが出ます。
 

電源スイッチをONにした状態では、
出力端子にも100Vが出ています。

 

電源スイッチを出た1本は、電源トランス下に
組み込まれたヒューズホルダに接続されています。
 

電源スイッチを出た他方1本との間で、電圧を
確認します。ヒューズ入り口は100Vです。
 

ヒューズ出口側に電圧が確認されません。
ヒューズが切れているだけ・・のようです。
 

ターンテーブルを外した状態で、内側から
ヒューズを簡単に交換できる構造です。
 

押さえ金具を外し、キャップを取り去ると
手が届くところにヒューズが見えます。

 

何やらドイツ語の注意書きがあります。
ヒューズは0.4A、250Vの指定です。

 

ヒューズを取り出してみると、確かに溶断しています。
突然電源が入らなくなった原因、そのものです。

 

ヒューズの容量を確認すると、0.4A
指定のところに0.5Aが使われています。

  

さすがに0.4Aのミニヒューズは入手できそうに
ありませんので、同じ0.5Aを使用します。

 

電源を入れるとかすかなモーター音が
してアイドラーが回転し出します。

 

ターンテーブルを元に戻すと安定した回転を見せます。モーター音、
摺動音、ゴロゴロ音などもなく、この時代のターンテーブルとしては
秀逸です。回転数を78453316rpmに切り替え可能です。
1本のヒューズ交換だけで修理は終わりか、と思った次の瞬間・・・

 

ターンテーブルとレザー張りケースの隙間からうっすらと
煙が立ち昇り、何やら部品が焦げる臭いがします。

 

慌てて電源を切り、再度レザーケースを
分解し点検します。異臭原はこの抵抗器です。

 

耐圧385V、32uF+32uF高圧電解
コンデンサの両端子間に接続されています。

 

発熱により表面の塗料が溶け出しています。
カラーコード緑・赤・黒が見えますが判然としません。

 

回路計による実測では12kΩくらいです。コンデンサ端子間の電圧が
400V以上あるので、30数mAが流れ10W以上消費している計算です。
0.5Aヒューズが飛んだのはこれが原因でしょう。工房の在庫部品から
一番ワット数の大きそうな22kΩを選びます。2個のコンデンサ間で
印加電圧の段差を緩和するくらいでしょうから、何とかなると思います。

 

リードを補いコンデンサの端子に
がっつり半田付けします。

 

抵抗器を接続した状態で電圧を測ると
350Vくらい、消費電力は5W強です。


ほとんど発熱してこないので良しとします。
結果、ヒューズ交換だけでは済みませんでした。

 

スタイラスチップ(針先)を指で触れると雑音が
聞こえるので、増幅回路も動作しているようですが・・

 

念のため自宅に持ち帰り、保管してある
古いレコードを実際にかけてみます。

 

1985年「翼の折れたエンジェル」の中村あゆみも、
このレトリックなプレーヤの前ではほとんど新人類。

 

PHONO入力を2球増幅でスピーカー駆動へ、上側カバーに内蔵された
スピーカーも当時の非力な製品で、とても音量や音質を評価できる環境
ではありませんが。何とか中村あゆみが分かるそれなりの再生音です。
ターンテーブルがなかなか安定して回転し、真空管回路が本来の設計
通りに機能するようになった時点で、修理作業終了とさせてもらいます。

 
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