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精米機のリベンジ修理(2020.7.19)

 
家庭用の卓上精米機です。精米を開始すると間もなく停止してしまう不具合です。
かなり以前に自宅の精米機も同様の故障をきたし、その時も修理を試みましたが
残念ながら回復には至らず有償にて製造元に依頼しました。リベンジに挑みます。
 

美味しいご飯を楽しむため、高機能な炊飯釜、
精米機が各社から数多く発売されています。


ニッチな調理家電、シニア向け家電などに
力を入れるエムケー精工SM-51です。

 

以前もそうでしたが、開閉検知スイッチの動作不良、配線の
一部断線や接触不良など、単純な故障ではないようです。

 

ネット上にある修理例は、そのような単純な
故障をDIY的に扱ったものばかりです。

 

底カバーを外すと、冷却ファン付きのモーターおよび精米はねを回転させる大径の
プーリーが現れ、ウレタン製リブ付きベルトで互いに連結されています。写真は
クリーニング後のもので、モーター電極のカーボンやゴム屑が広がっていました。

 

駆動ベルトを外します。リブが外側を向いており
プーリーにも溝がありません。目的が違うようです。

 

モーターや精米はねシャフトを固定する金属
プレートを外します。が、何かがつかえます。

 

ぬか容器を外した底の部分に、精米はねに回転を
伝達する継手があり、ネジ固定されているからです。

 

継手を固定している袋ナットを緩めます。
珍しくボックスドライバーを使用します。

 

ワッシャを挟んで継手を固定しています。継手の
奥にぬかが残っているので後で掃除します。

 

モーター、精米はねシャフト、プーリーを含む
駆動部全体がプレートごと外れてきます。

 

本体の奥(実際には上面内側)に制御基板が見えて
います。そこから延びるモーターへの配線を抜きます。

 

100V、350Wのモーター(整流子
電動機)はかなりの重量があります。

 

本体上面の操作パネルのすぐ内側、底側から見ると本体の一番奥まったところに
制御基板が組み込まれています。たかが家庭用精米機・・などと言ってはいけません。
さして大きな基板ではありませんが、細かな電子部品が高密度に実装されています。
 

基板を固定している5本のネジを緩めます。
ドライバーを本体の底まで伸ばします。

 

基板を持ち上げると、その下に別の
基板がもう1枚組み込まれています。

 

制御基板は2枚で構成されています。
もう1枚は別個に固定されています。

 

2枚目の基板は本体上面の操作パネルに機能を提供
します。左下の配線はふたの開閉検知信号用です。

 

2枚の制御基板を完全に引き出します。2枚はフレキシブルケーブルで接続
されています。これで精米機を運転しながら故障原因を探すことが出来ます。
 

運転時にぬか容器のふたが閉まっていることを
検知する、リミットスイッチからの配線です。

 

2枚目基板のこのコネクタに接続されますが、
基板を引き出すには引き抜く必要があります。

 

ぬか容器のふたの一部に
このような突起が出ています。

 

ふたを回転させ閉じた状態にすると、スリットに
入り込み内部のリミットスイッチをONにします。

 

コネクタを抜くとふたが開いた状態になる
ので、基板裏側で端子を短絡させます。

 

電源コードを差し込み
動作確認します。

 

モーターに電力を送り込む配線です。
確実に接続されていることを確認します。
 

電源コードを差し込むと精米機はスタンバイ状態になり、
「米の量1カップ」、「精米のみの白米」が選択されています。

 

右下のタクトスイッチが「スタート/停止」
ボタンになります。押してみます・・

 

リミットスイッチ清掃、カーボンブラシの調整、各配線の
確認など作業済みですが・・、やはり正常に動作しません。

 

スイッチを押した直後にモーターが回転しますが、間もなく回転が止み基板右側に
並ぶ精米量を表示する5個のLEDが全て点灯します。取扱説明書によると、5カップ
より多い玄米を入れた、石や異物が入っている、連続使用した、高温場所で使用した
などが原因であり、「モーター保護装置が働いて自動停止したためです」と説明
されています。もちろんいずれの原因も該当しません。保護装置自体に原因があり
そうですが、ネット上に保護装置に関係する不具合や修理記事は皆無です。

 

まずモーターの回転が制御されている仕組みを理解します。
モーターへの100V配線にこのデバイスが挿入されています。

 

M8GZ47は双方向のサイリスタ、つまり
トライアックです。耐圧400V、8A仕様です。

 

一時的に通電するので破損している可能性は
ありません。ゲートに加わる信号を調べます。

 

スタートスイッチを入れた直後です。連続する小さな
半波が現れ、この間はモーターが回転しています。

 

間もなく半波が息切れのような状態と
なり、モーターの回転が落ちてきます。

 

信号が完全に消えモーターは停止します。ゲートに
加わるパルス信号でモーターを制御しています。

 

1枚目の基板すなわちパワー段の回路は正常に機能しているようです。
そうすると、トライアックに送り込む制御パルスを作り出す側に何か
不具合がありそうです。2枚目の基板にインスペクションを移します。

 

2枚目基板の中心はこの1チップマイクロコンピュータです。
CPUの搭載は家電製品を劇的に高機能化しています。

 

M34513M4はADコンバータやコンパレータを内蔵する
三菱の4ビットCPUで、ネット上に詳細な仕様書があります。

 

I/Oポートの搭載数により32ピン仕様と42ピン仕様が存在します。
M34513M4は図のように32ピン、ファンクションを調べ上げます。

 

M34513M4の仕様書に各ピンの機能一覧が含まれています。
この解説を手掛かりに、基板に実装されているファンクションを探ります。

 

それにしてもこの実装(配線パターン)です。PCやスマートフォン基板の
比ではありませんが、配線を追いかけるのはかなりしんどい作業です。

 

膨大な時間を要した作業を数枚の写真で説明します。
パワー段(1枚目)の基板から出る信号の端子です。

 

CPU基板から出る信号の端子です。両者を
何度も行き来しながら各信号の意味を推測します。

 

アナログポート以外のピンは、単純な0・1ロジック
なので割と簡単に機能を割り出すことが出来ます。

 

タクトスイッチからのロジック入力、LEDへのロジック出力
などが判明し除外出来ると、本来の制御系統が見えてきます。

 

32ピンのほとんどの機能が把握出来ました。電源やアース、プルアップやプルダウン、システム
クロックなどは略します。トライアックにモーター制御パルスを出力しているのは8番のI/Oポート
(D7/CNTR1)です。スタートSWを押した直後に短時間だけパルス列が出力され、バッファTRを
介してトライアックのゲートに伝わることが確認出来ます。精米量・精米度の設定に従い、パルス列の
間隔(周波数)やデューティー比を変化させるようです。さて、モーター保護装置が働くとすれば、CPUに
その信号が入力されるはずです。32ピンを片端から潰して行った結果、その可能性があるのは19番
(P30/INT0)、20番(P31/INT1)、21番(AIN0/CMP0)の3入力です。19番はパワー段の
AC電圧を検知しているだけ、20番と21番にはパワー段に同居するオペアンプから信号が来ています。

 

特に21番ピンはコンパレータとして動作するので、
ここにモーター保護に関する信号が来ていそうです。

 

再び1枚目パワー段の基板に戻ります。汎用オペアンプ
2904を中心にアナログ増幅回路が組み込まれています。

 

オペアンプの差動入力は、ジャンパー線を介して
モーターへの電力線に接続されています。

 

基板の部品側を確認すると、トライアックの隣に抵抗器が
2本並んでいます。電力線に直列に挿入されています。

 

ここまで来てようやく意味を理解しました。モーター保護装置とは電流センスアンプを利用した
ものです。電力線に挿入されているのはモーターに流れ込む電流を検知するシャント抵抗で、
安物の回路計では測定できない微少抵抗値の精密抵抗器です。2本を並列に接続するのは
誤差を丸め込むためです。抵抗器両端の電位差をオペアンプでおそらく数百倍に増幅し、
CPUのコンパレータ入力に送り込んで電流に異常がないか監視させているのでしょう。


https://www.macnica.co.jp/business/semiconductor/articles/texas_instruments/130397/より転載させていただきました。
 

モーターは負荷が加わると電流が増加するので、異常を
検知するしきい値が設定を下回っていると考えられます。

 

シャント抵抗を短絡し電位差0V(無電流)の状態を
作ると・・、モーターが全く回転しなくなります。

 

コンパレータの基準電圧がおかしいのか・・?
シャント抵抗の抵抗値をもう少しいじってみます。

 

シャント抵抗を抵抗値の異なるものに交換する
ため取りあえず片側の1本を外します。すると・・・

 

突然モーターが快調に回り出しました、途中で停止などしません。並列に接続された
2本のシャント抵抗を1本にしたことで、抵抗値は2倍になっています。電流値は同じ
なのでシャント抵抗両端の電位差も単純に2倍になっているはずで、CPUはモーターに
負荷が加わり2倍の電流が流れている・・つまり異常と判断しそうですが、そうではあり
ません。CPU側はADコンバータを介したデジタルデータを処理するので、もしかすると
電流値がある一定範囲に収まることを判定するのかも知れません。極端に電流値が
増加する状態、例えばモーターを強制的に停止させるなど、実際に試してはいません。
また、解明していない20番ピンなど他の系統が原因となる可能性も0ではありません。

 

結果として、この小さな抵抗器を1本取り外すことで、精米機は停止することなく
正常に動作するようになりました。まだ何か不具合が隠れている可能性が無い
とは言い切れませんが、制御基板上に電流ヒューズが取り付けられているので、
万一本当に異常な電流が流れた際には、このヒューズが溶断してくれることを
願いながらリベンジを終えることにします。本体は分解時に水洗いしました。

 
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