パイオニア株式会社が音響機器事業をオンキヨー&パイオニア株式会社に
分割譲渡したのが2014年。その後、オンキヨーホームエンターテイメント
株式会社を経て、つい先日の5月13日、1946年創業オンキョーの経営
破綻のニュースが飛び込んできました。パイオニア~オンキョーのコアな
ファンは国内外に数多く、工房でもこれまで何件も修理してきております。
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パイオニア製、1979年発売のカセットデッキT-3050の
修理依頼です。現在のスマホ並みに売れたことでしょう。
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フルロジックコントロールまでは採用されて
いませんが、水平スロットイン方式で薄型です。
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耐摩耗性と高域特性も優れたハイパボリック型センダスト
ヘッド、PLL方式DCサーボモーターが搭載されています。
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そして、このプロ仕様を漂わせる丸型のVU
メーターが、デザインに高機能感を加えています。
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イジェクト(ボタンではなく)レバーを押し下げると
カセットトレイがえらく勢いよく飛び出てきます。
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動作確認のため音楽テープをセット
してみます。手前が録再ヘッド側です。
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トレイを収納するには
直接、手で押し込みます。
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PLAYボタン・・ではなく、機構
連動式のレバーを押し下げます。
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通電はしているのですがテープが走行する
気配がありません。上側カバーを開けます。
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ネジ固定された金属製筐体は
分解が簡単で助かります。
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世に送り出されてから30数年ぶり、しばし昭和の雰囲気に浸ります。
右半分に電子回路基板、左半分をカセットデッキメカが占めています。
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カセットのスロットイン収納部です。
実に精緻・巧妙に造り込まれています。
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手前の照明用電球が取り付けられた
基板を、そのステーごと取り外します。
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ステーの両サイドを固定
しているネジを緩めます。
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動作しないテープ駆動系にアクセスするには
覆い被さる部品を取り除く必要があります。
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電球が点灯している、つまり通電した状態で
作業していますが、これは好ましくありません。
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カセットトレイが引き込まれた状態
では、まだ駆動系に手が入りません。
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ガッチャーンとけたたましい音を立てて
トレイが飛び出ます。まだ手が入りません。
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トレイが出る際には、連結された紐がこのフライ
ホイールに巻き取られることで減速される仕組みです。
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紐はさらに背面に沿って延長され、この
長いスプリングにつながれています。
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しかし、折角のダンパーが機能していないようです。
止むを得ず、スロットイン機構も取り外すことにします。
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複雑に構成された機構なので
分解はあまり気が進まないのですが。
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反対側の固定ネジも緩めたところで・・、
これでも手が入りそうもないことに気づきます。
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底面カバーを外して、下側から
アクセスする方が良さそうです。
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四隅と中央、計5本の
ネジで固定されています。
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ほぼ100%樹脂製に置き換わってしまった現在の筐体
では、複雑なツメによる嵌合のためこうは行きません。
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回路基板、デッキメカともに裏側が完全に
露出します。メンテナンス前提の設計です。
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早く気付くべきでした。下側からアクセスすれば、駆動系全体に
完全に手が届きます。駆動ベルトが切れて垂れ下がっていることが
一目瞭然です。モーターシャフトから、キャプスタン軸駆動用とテープ
巻取り用の2系統にゴムベルトが掛けられています。切れているのは
後者用の細い角ベルトで、フライホイールに掛かるキャプスタン用は
平ベルトが用いられています。こちらは特に問題ないようです。
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切れたベルトを取り除く前に、ベルトが
掛けられていたルートを確認します。
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ベルトの長さと回転の伝達経路から、
このように掛けられていたはずです。
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切れたベルトを取り出してみると
意外と周長があるようです。
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工房在庫の中から程良い
長さのものを選び出します。
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少しきつめですが、モータープーリに掛かる
内角が小さいのでこのくらいにしておきます。
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駆動ベルト1本の交換で済むなら
楽勝です。費用も安く上がります。
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テープを再生します。VUメーターも
正常に応答し問題ないようです。
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テープの巻取り側、送り出し側とも
回転している様子が分かります・・
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が、「早送り」・「巻き戻し」の動作を確認すると、巻き戻し
最後近くで回転が落ち、終了前に停止してしまいます。
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この類の不具合は、ほとんど中継アイドラーの
ゴムタイヤ摩耗によるスリップが原因です。
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アルコールを浸した綿棒でタイヤの表面を
クリーニングします。これだけ汚れています。
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再び動作確認しますが、
まだスリップが止まりません。
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ゴムタイヤの表面が経年劣化で変質していることが
原因なので、サンドペーパーで軽く削り落とします。
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もちろんゴムタイヤを交換するに越したことはなく、
時としてタイヤを特別に製作することもあります。
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しかし、タイヤの摩擦は十分回復しているので
アイドラー以外に何か別の原因がありそうです。
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これはアイドラーを巻取りリールに
押し当てるためのスプリングです。
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経年により、スプリングの張力が
低下している可能性も疑われます。
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スプリングのコイルをふた巻きほど
戻すことで、張力を回復させます。
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元の位置にスプリングをセット
します。これでどうでしょうか・・
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まだダメです。巻き戻しの終わりに近づくと
急に回転が低下し、最後まで巻き取れません。
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手詰まり感が広がる中、もう一度底面側から動作を
確かめます。少々乱暴ですが、本体を横に立てた
この状態で通電し、動力の伝達経路を追いかけます。
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基本に立ち返ることは重要です、原因が分かりました。
何とフライホールに掛かる平ベルトが滑っています。
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接触面積の大きい平ベルトが滑るとは
予想外です。材質劣化が進んでいます。
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顕著な伸び・たるみがなかったので見過ごして
しまいました。直接触ると劣化が分かります。
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在庫の中からほぼ同じ周長のものを選びます。
ゴム材質が新しいので、粘着性がまるで違います。
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平ベルトを交換するには、フライホールの落下防止プレートを
外し、先ほど掛けた細いベルトも外さなければなりません。
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DCモータープーリの根元側に掛けます。ベルト同士が
決して干渉しないよう、絶妙に設計されています。
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フライホールシャフトの接触部に少量の
グリスを入れ、プレートを元に戻します。
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早送り時巻取り側リールは、アイドラーがフライホイールに
接触することでトルクを得ています。その仕組みに気付くのが
遅れたため、一部余計な作業を加えてしまいました。再生・
早送り・巻き戻しの全てが、正常に操作できることを確認して
修理を完了します。カタログスペック上0.05%(WRMS)の
ワウフラッターは、十分に安定した澄んだ音を再生します。
オンキヨーホームエンターテイメント社により、辛うじてその
歴史が保たれていたパイオニアのオーディオ、先日ついに
終焉を迎えたことが残念でなりません。
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