トースター修理のご用命を時々頂戴します。何かの記念にいただいたとか、
子供さんが気に入っているとか、何某かの思い入れがあってご依頼に至る
ようです。今回は電子タイマー式のポップアップトースターで、同時に2枚の
食パンを焼けるところ、何故か1枚の片面だけが焼けないとのことです。
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動作確認すると、中央の発熱板の
片面が通電していないようです。
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電熱線が破断しているのか、どこかに
接続不良があるのか、分解してみます。
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中央の発熱板を取り出してみると、何と
マイカ製耐熱板の上部が欠損しています。
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細い波板状の電熱線が巻き付けられており、
耐熱板の欠損部分は宙に浮いた状態です。
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欠損部分がトースターの内部に落ちて
いました。破断面を合わせてみます。
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破断面が一致するので、欠損したのは
この2枚の破片で間違いありません。
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せっかく破片が残っているので、
欠損を補修できないか考えます。
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取りあえずセロハンテープで
破片を固定しておきます。
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破断の補修は接着・・でしょうけれど、赤熱状態で
ニクロム線の表面は800℃前後に到達します。
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この高温に耐える接着剤としてセメダイン社の
製品を選びます。耐熱温度1100℃です。
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製品名は「パテ」ですが、乾燥固化した時点で
十分な強度があれば接着剤として使用できます。
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破断面を正確に合わせ、作業中に
位置がずれないようテープで固定します。
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チューブから少量のパテを押し出し、
細いドライバーの先に取ります。
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破断面(線)に沿って
パテを置いていきます。
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マイカ製の耐熱板に対してどのくらいの
喰い付き(接着性)があるのか全く未知です。
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水分を含んだパテの状態では十分喰い付きますが、
乾燥固化し高熱に晒された時点ではどうでしょうか。
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片面の塗り付けを終えました。破断面の
両側にパテが跨るよう調整します。
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パテが柔らかいうちは動かせません。
テープで固定した状態を維持します。
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ひと晩放置してパテを乾燥固化させます。製品仕様によると完全硬化には
24時間かかるそうです。製品用途は「湯沸かし器、ストーブなどの排気管と
壁面の隙間の充填」、「排気管接合部のすきまのシール」、「煙突、排気管
などに空いた穴の補修」となっていますが、果たして用をなすでしょうか。
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翌日、乾燥固化したパテを確認します。ドライバーの
先で突くとかなり固くなっていることが分かります。
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持ち上げても欠損部分は脱落しません。
裏返して反対側にもパテを付けます。
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表側と同じようにパテを置いていきます。両面から
支持すればそれなりの強度が期待できそうです。
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高く盛り付けた方が強度を確保できますが、
電熱線を戻す時に支障が出るかも知れません。
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ひと晩ではなく1昼夜、24時間以上
放置して完全に乾燥固化させます。
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電熱線を戻す前に耐熱(耐火)試験を行い
ます。ブタンガスのバーナーを用意します。
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バーナー炎の温度は1000℃以上に
達するので、耐熱試験として十分です。
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乾燥固化しているパテ盛り部分に炎を当てて
加熱します。マイカ板の一部は赤熱します。
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さすが耐熱温度1100℃です。炎に晒されたパテは、色が白っぽくなるものの、
剥離したり、形が崩れたり、あるいは溶け出すような様子は見られません。
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マイカ板の欠損部分をしっかりと
つなぎ留めているようです。
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何度かバーナー炎に晒した後、
パテの固さを確かめてみます。
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ドライバーの先で突くと、意外と簡単にパテが崩れてきます。自然に乾燥固化
させた直後(バーナー炎に晒す前)よりも脆い感じです。理由として、まだ乾燥
固化が完全ではなく、バーナー炎で加熱したことにより内部に残留していた
僅かな水分が強制的に追い出されたからでしょうか。電熱線により繰り返し
加熱されることを考えると少々心配です。実は、耐火パテにより補修を終えた
トースターを一度はご依頼主にお返ししたところ、配送途中で補修部分が
剥がれ落ちたようで、再度修理のため工房へ送り返していただきました。
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乾燥固化後のパテの脆さを何とかしなければなり
ません。次に選んだのがRUTLAND社接着剤です。
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ストーブのガスケット補修用の
接着材で常温では液体です。
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熱が加わると固化するそうで、パテと併用する
ことでパテの脆さを補うことができるかも知れません。
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ドライバーの先に少量ずつ取り、
パテの上から塗り付けてみます。
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乾燥固化したパテは表面が多孔質なので
パテの内部まで浸み込んでいるようです。
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乾燥時間が数時間と短いのですが
念のためひと晩置いて乾燥させます。
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翌日、接着剤を塗布した面は樹脂が固まったような
状態です。再びバーナーで耐熱試験に臨みます。
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結果はまるでダメです。熱が加わると瞬く間に接着剤が
変質し、泡のような結晶質のような物質が生成されます。
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しばらくバーナー炎を当てた後はこの有様です。接着剤の容器をよく
確認すると、「Withstands 800°F」の表示があります。耐熱温度
摂氏427°に過ぎません。バーナー炎はもとより電熱線の温度にも
耐えられるわけがありません。接着剤の選択を完全に誤ったようです。
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泡のような生成物をドライバーの先で触れてみます。耐熱
温度を超えた高温で、接着剤が溶け出し沸騰したようです。
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泡が冷えて再び固まるとほぼ粉末状態です。
崩れ落ちて食パンに付着しようものなら大変です。
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結局、一番まともな修復方法に戻り
ます。耐熱板を新たに作り直します。
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しかし、材料となるマイカ板など手に入らないかと
思っていましたが・・ありました。それもAmazonに。
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塗り付けたパテや接着剤を綺麗に落とします。
綺麗に落ちてしまうところが改めて残念です。
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新しいマイカ板に重ねます。強度的には
0.2mmくらいの厚みが必要です。
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元の耐熱板の形状をサインペンで
なぞります。同形状の板を作ります。
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中央の発熱板なので表裏両面に電熱線を巻き付け
なければならず、電熱線をかける溝の形が複雑です。
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型取りした通りに切断します。鉱物であるマイカに
しては、意外やカッターナイフで簡単に切れます。
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力を入れて1回で切り離すのは禁物で、
スケールに沿って数回刃を入れます。
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無理に力を入れると、切断線を外れ
あらぬ方向に割れてしまいます。
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電熱線がかかる溝を丁寧に
切り込んで行きます。
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切断を終え外しておいた電熱線を元通りに巻き
付けます。電熱線を切る(折る)と即アウトです。
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耐熱板の両面を下部→上部→下部と往復する巻き方で、
しかも電熱線が交差しないよう良く考えられています。
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耐熱板上部の中央にある切込みから
電熱線が裏側に回り込みます・・なぁるほど。
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電熱線の両端です。電力を供給する
金属製の端子が取り付けられています。
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この金具は元々耐熱板に固定されて
いました。固定用の穴を開けます。
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穴に金具の突起を差し込み
裏側で折り曲げて固定します。
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2個の金具は表側と裏側で取り付け位置をずらすことで、互いに
接触しないように工夫されています。新しい発熱板の完成です。
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トースター本体に組み込みます。前後して押し
下げレバーを調整し内部をクリーニングします。
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作り込まれた内部を観察します。食パンを保持し
発熱板から一定の距離を保つ構造が良く分かります。
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食パンを均一にこんがりトーストするため
奥の深い設計がなされているものです。
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元々底板はハトメにより固定されていました。
分解時に壊してしまったのでネジを用います。
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ネジ(ハトメ)穴がやや大きい
のでワッシャを入れておきます。
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発熱板を取り外す際に、電力の供給線を
いったん切断せざるを得ませんでした。
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単なる半田付けが危険であることは明白です。
スポット溶接ができれば良いのですが・・。
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電力供給用の導線を互いに引き寄せて重ね合わせ、
ステンレスワイヤーで固定した上でロウ付けします。
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紆余曲折を経たトースター修理でした。結果は発熱板の作り直しによりほぼ
製品本来の状態に修復できたと思います。振り返ってみると、パテによる
破断面修理でも、丁寧に作業し十分に乾燥固化させれば特に遜色のない
修復ができたかも知れません。そうすればご依頼主に再修理の手間をかけずに
済みました。今回の修理により、耐熱~耐火領域の対処方法について色々と
学ぶことができました。こんがり焼き上がったトーストは美味しいものです。
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