1996年(平成8年)発売のSONY製CDプレーヤー修理のご用命です。
CDを再生できなくなり久しいそうです。SONYの剛腕が振るわれた高級機
です。時代はデジタルオーディオへの移行を間近に控え、CDから引き出す
ことのできる音楽的価値がほぼ上限に到達した頃の1台です。工房にして
みればいつものピックアップ交換に過ぎず、安請け合いしてしまいました。
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インテグレーテッドアンプに比べ、何とも
簡素な背面です。光学端子も装備しています。
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正確な型番は筆頭にCDP
(CDPlayer?)が付きます。
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仕様については「オーディオの足跡」に詳しい説明が
あります。SONYの剛腕ぶりがよく分かります。
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電源を入れてみます。曲再生や編集やら
やたらと凝った操作機能が満載です。
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CDトレイは正常に動作しています。イジェクトボタンを
押すと、ドーンという音が聞こえてきそうな開き方をします。
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重厚そのもの剛性感すらあるトレイです。100g
ちょいのディスクを回すのにここまでしますかね。
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スピンドルに乗っているのは金属製のウェイトで、セットしたCDの上に
置いて回転を安定させるためのものです。本体外装カバーを取り外し
ました。現在の液晶テレビ並みに内部はゆったりしています(空間が
多い理由は全く異なりますが)。CDデッキ制御回路以外は、昔の
紙エポキシ製基板(ベークライト・・ではない?)が使用されています。
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ピックアップ交換が目的なので
デッキ部分を分解します。
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高級仕様にデザインされたトレイ前面の
カバーを外します。固定ネジがヘキサです。
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カセットテープデッキのデザインを
踏襲しているような印象です。
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カバーを取り外した内側に、もう1枚
別のカバーがネジ固定されています。
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ネジ4本で固定されており、よほど
頑丈な構造に設計されているようです。
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手前側からトレイの断面構造を確認できます。
アルミの押し出し材がシェルを構成しています。
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トレイを手前に引き出した状態ではシェル内部にアクセス出来ません。
本体内側から手を入れる必要があり、そのためにはトレイ上に乗って
いる制御基板を、(金属フレームごと)取り外さなければなりません。
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金属フレームを固定している
4本のネジを緩めます。
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制御基板はデジタル処理系が集中しており
周囲から数本のFFCが接続されています。
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FFC(フレキシブルフラットケーブル)を
全て引き抜いておかなければなりません。
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脱着の際に端子を損傷させ
ないよう慎重に力を加えます。
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ソケット側にロック機構がない場合は
金属箔を剥がさないよう特に注意します。
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元に戻す(差し込む)時に金属箔を剥がしがちです。
潤滑剤を吹き付けておくと脱着しやすくなります。
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普通の小型コネクタによる
接続も数本あります。
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コネクタの固着も多く見受けられます。
ケーブルを断線させないよう留意します。 |
接点復活材もコネクタの固着解除・防止に
有効です。前もって吹き付け放置します。
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いずれにしてもコネクタの嵌合構造を
理解してから力を加えるべきです。
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ようやく制御基板を持ち上げることが出来ます。当時はまだ
高密度の回路基板はコストが大きかったのでしょう。ノイズ
対策もあるとはいえ、スチール製の堅牢なフレームに厳重に
収められています。基板と合わせてかなりの重量です。
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基板の裏側(表側?)が見えます。製品価格が高かった
当時なので、製品ごとにカスタムチップが奢られています。
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アルミ製シェルは本体奥側も
ネジで固定されています。
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スピンドルプーリはぎりぎり
シェルの開口部をくぐります。
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設計思想としての重厚長大さが、CD
プレーヤの果てまで色濃く残っています。
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CDトラバースデッキが全貌を現します。いかにも頑丈そうなシェルとは
対照的に、トラバースのシャシーはまぁ普通の出来です。安価な普及型
製品でもこの程度の造りをしています。このデッキの最重要な特徴は、
ピックアップではなくスピンドルが移動してCDをトレースする点です。
ピックアップ移動時の振動を排除するため・・と、オーディオの足跡に
解説されていますが・・。スピンドルベースがラックギヤを備え、レール用
金属シャフトに沿って前後に移動する機構です。金属シャフトや反対側の
スライド部をみるに、ベースの剛性や耐振動性が特に高いようには思え
ません。ピックアップにも元々移動用ラックギヤが付属していますが、
無用となっても取り除かれることなくそのまま実装されています。
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シーク用駆動部のギヤを回転させると
スピンドルが前後に移動します。
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先ほどCDトレイと表現しましたが、トラバースが
丸ごと出入りするので実際にトレイは存在しません。
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トラバースデッキが下部の樹脂製スライド
ベースにネジ固定されている構造です。
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デッキとスライドベースの固定は、ゴム製インシュレータと
スプリングを介した柔らかなフローティング構造です。
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レコードプレーヤを思わせるフローティング構造が、CDプレーヤの世界でどの
程度の振動排除に貢献するのでしょうか。それは置いておき、ようやく姿を
現したピックアップを確認します。KSS-213B・・・全く普通なんですけど。
低価格のエントリーモデルに広く採用されるSONY製定番のピックアップで、
現在も国内外で多く流通しているKSS-213Cと同じ仕様とされています。
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FFCのソケットは、シャシー
裏側に回り込んでいます。
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スピンドルベースと共通のシャフトを通すも、
ピックアップは移動しないよう固定されます。
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シャシーにネジ止めされた薄い金属板製の
ステーにより、軽く押さえられているだけです。
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CDのトラックをシークするため、元々は
スムーズに移動するよう設計されたものです。
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シャフトを引き抜くと簡単に外れてきます。ピック
アップの振動を・・本気で排除したのでしょうか。
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引き抜こうとするとソケット部が、
FFCの中継基板に干渉します。
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基板の固定ネジを途中まで緩めると
隙間ができてソケット部が通ります。
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交換が必要なピックアップを
シャシーから取り出します。
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ピックアップを取り出したところで、スピンドルのベース部分を詳しく
確認してみます。どのようなスピンドルモータが使われているか
興味があります。ですが、モーターらしき部品が見当たりません。
また、スピンドルシャフトの軸受けは意外と簡素な構成ですが、
支持部にベアリングが組み込まれた高精度の造りだと思います。
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最下部の基板上にコイルの巻き線が見えます。真上の円盤は
マグネットのローター、ということはブラシレスモーターです。
このデッキユニット用に設計された、スピンドルと一体になった
ハウジングも無い構造です。オープンエアタイプ・・簡単に言えば
内部剥き出し丸裸状態で、放熱の問題など考えられないでしょう。
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専用に作り込まれたモーターに驚きながらも、
用意した新しいピックアップに交換します。
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多く流通しているKSS-213Cを使用します。
嵌め込んで固定するだけの簡単な作業です。
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ケーブル接続の多い制御基板を
元に戻すのが何とも面倒です。
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取りあえず動作確認したいので、デッキ
ユニットのシェルカバーは後に回します。
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ディスクの安定性を向上させるためのこの
ウェイト、必ずセットしなければなりません。
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セットし忘れると安定性が向上しない
どころか、ディスクがすっ飛びます。
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復活の期待を込めた試験運転は・・失敗です。ディスクは回転しますが
回転数が異常に高く、CDの再生が開始されません。KSS-213Cを
使用した古典的な制御系でここまで高回転するのは明らかに異常です。
ピックアップの製品不良を疑い、再度新品に交換するも結果は同じです。
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確率的にピックアップの不良やミスマッチの可能性は
低く、次に制御回路・電源系の不良を疑います。
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剛腕SONYが設計した制御基板は、旧製品とはいえ
この高密度実装と複雑さです。手の出しようがありません。
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基板の裏表をしばらく眺めるうち、何気なく目が向いた
のがこのコンデンサ。毎度お決まりのSMDです。
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いかにも電源供給系を思わせるケミコンに
隣接した4V100uF、ポツンと一軒家状態です。
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取りあえずオンボード状態で回路計を当ててみると、一方向でほぼ
導通状態です。取り外してチェッカーにかけると損傷部品の診断が
出ます。確かにSMDは非常に故障率が高い部品ですが、ほとんど
当てずっぽうで不良部品が見つかるとは・・、分からないものです。
しかし、このSMDがCD再生不良の原因かどうか、結論はまだです。
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実装に問題がない限り、不良SMDは普通のケミコンに
置き換えます。何故、元からそうしないのか不明ですが。
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電解コンデンサの不良→電源の供給電圧不安定
→制御チップの誤動作の流れは十分あり得ます。
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逆にチップ内・チップ間で非アナログ的(要するにデジタル)に
動作する範囲では、経験的にまず不具合を見かけません。
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さて、CDを問題なく再生し始めました。数十円のSMDが、
当時6万6千円の高級CDプレーヤを台無しにしていました。
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再生時間を表示する液晶セグメントが一部点灯せず、数字が
読み取りにくくなっています。これは専用に設計された部品に
交換する以外、修理の方法がありません。ピックアップを制御
するサーボ回路が優秀なのか、再生トラックの移動が機敏です。
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周辺の構成部品や外装を元通りに組み上げます。長年、喫煙環境に
置かれたため外装全体がヤニで変色しています。強力洗剤で完全に
除去すると、シャンパンゴールド系の高品質感が蘇ります。もちろん
ご依頼者のためではありますが、元通りの動作の復活に成功すると
外観もできるだけ元通り・・新品時の状態に戻してあげたくなります。
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