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鞴(ふいご)の修理は入試問題(2023.1.28)


図中xとyの角度を求めよ、某有名私立高校の入試問題です。
ネットの記事に掲載される度、頭の体操代わりについトライして
しまいます。ちなみに2枚の絵から違いを探し出すクイズも、
認知症予防になるそうで、見つけると好んで解いています。

https://hokkaimath.jp/blog-entry-286.htmlより引用
 

鳩時計はhttp://techbase.biz/Repair4/CuckooClock2.htm
など、これまでも何台か修理してきました。2018年12月に
修理したhttp://techbase.biz/Repair3/CuckooClock.htm
では、鳩(カッコウ)の鳴き声を出すホイッスルに空気を送り
込む鞴(ふいご)の蛇腹が破れ、貼り合わせて修繕しました。

 

今回もまた鳴き声が出ない鳩時計です。鞴と一体に
なった高低2個のホイッスル部を取り出します。

 

鞴の蓋部分が開閉して
蛇腹を伸縮させる構造です。

 

その蛇腹が完全に破れています。
蓋部分は分離・脱落した状態です。
 

特殊な紙(多分ハトロン紙)で
精巧に折り紙されて作られています。
 

しかし、ここまで完全に破れていると、もはや修繕のしようが
ありません。今回は折り紙の構造を解明して、同じ蛇腹を
新しく製作することにします。そのため、蛇腹各部の寸法を
正確に測ることにします。長辺の長さ、54mmほどです。
 

手前短辺の長さは
37mmあります。
 

蓋の片側が持ち上がり、鞴が開いた
時の開口部の高さを割り出します。

 

破れて分離してしまった双方の長さを
測り、足し合わせることで高さを求めます。
 

蛇腹の構造をスケッチすると、鞴が
開いた状態でこんな感じになります。
 

測定した寸法をスケッチに反映させ、
CAD上で正確な展開図を作ります。
 

作業しやすいように拡大して印刷し
丁寧に切り抜いて型紙にします。
 

1段だけの蛇腹なのでどうってことありません。
折り線に沿って千枚通しで軽くなぞっておきます。
 

元の蛇腹を参考にしながら、山折り~
谷折りと楽しく折り紙していきます。
 

ん?、何故か両側面が後方に折れてくれません・・。
説明の余地もなく、この展開図が完全に間違っている
ことに気付きます。正面の縦線は垂直ではだめです。
 

ならば、垂直ではなく内側に倒れ込んで
いれば良いのでは。慌てて修正します。
 

CAD上でデータを修正し、プリンタが
型紙を印刷してくれるので作業は楽です。
 

折り線に傷を入れておくと、簡単かつ
正確に折り曲げることができます。
 

山折り・谷折りを繰り返し、今度は
側面が後方を向いてくれそうです。
 

1段の蛇腹が綺麗に出来ています。
折り紙もなかなか楽しいものです。
 

が、蛇腹が閉じて平面になると、なんだ
これ・・? 頭にでも付ける飾りかよ。
 

縦線を倒れ込ませ過ぎたようです。気持ち
程度、垂直方向に戻して印刷し直します。
 

折り紙が楽しいのでいいんですけど、この
あたりで成功させてしまいたいものです。
 

左端から右端まで水平に伸びる折り線は
途中で谷折りから山折りに変化します。
 

交差する縦方向と斜め方向の折り線も、山折りと
谷折りに分かれることで蛇腹の形を構成します。
 

今度はそれっぽく出来たようです。紙製
なので大体で良いように思いますが。
 

折り畳んで平面にした状態で、正面部と側面部が
作る角度を確認します。本来は90度になるはず
ですが、スコヤに当ててみると少し開いています。
 

ここまで目検討で調整してきている
ので、微妙に合わなくて当然です。
 

何か法則があるはずです。側面部の斜辺と正面の
縦線が垂直なのでは・・、早速データを修正します。
 

楽しかったはずの折り紙に、疲れて
きました。谷折り~山折りを経て、
 

今度は内側に来てしまいます。斜辺と
垂直にすれば良いわけでもありません。
 

いい加減目検討や当てずっぽうを止めて、
真面目に幾何学的に求めることにします。
 

CAD上に描いた展開図です。
まず、上下に2分割します。
 

上半分か下半分のどちらかで考えれば
良いので、片方を消しておきます。
 

型紙を折って畳んだ状態を描きます。
正面部と側面部が垂直関係になります。
 

正面の対角線が成す角度を求めます。と言いましても、
CAD上で寸法のメニューから角度を表示させるだけ
です。39.04度(≒39度)であることが分かります。
 

折り畳んでいた側面部を
いったん元に戻します。
 

先ほどの対角線と側面部斜辺が成す角度を求めると
125.57度となり、縦線により角aと角bに分割されます。
 

再び折り畳んだ状態にします。合わせて125.57度となる
角aと角bについて、角aは角bの中に含まれた状態です。
ここで知りたいのは角a(または角b)の正確な角度です。
 

 ここで、  a+b=125.57 ・・・①
 また、   39.04+(b-a)=90 ・・・②
 ①式から、 b=125.57-a ・・・③
 ③式を②式に代入すると、
       39.04+(125.57-aーa)=90

       39.04+125.57-90=2a
       a=37.305≒37
       b=125.75-37.305=≒88.445≒88

真面目に考えるとこのようになります。正面縦線の
角度は37度、斜辺からは88度でなければならない
ことが分かります。まるで冒頭の私立高校入試問題
のようですが、少なくとも私にとっては役に立つ話です。
当てずっぽうで90度だなどと嘘を言ってはいけません。
 

本当に75度で合っているのか、
型紙を作って確かめてみます。
 

何度も繰り返してきた折り紙、
最後にしたいものです。
 

折り畳んで平面にしてみると、
何となく正確に出来ているような・・
 

スコヤを当ててみると、
見事に直角です。
 

試作検証を終えて蛇腹製作の本番に入ります。
ハトロン紙の代わりになるものを探します。
 

これはアクリル板の表面保護に使用されていた薄い
シート紙です。片面が樹脂コーティングされています。
 

薄く気密性に富む点でハトロン紙に近いと思います。
紙の固さや強度はやや劣るかも知れません。
 

実寸のサイズで型を印刷します。
高低の鳴き声用に2枚必要です。
 

スケールを正確に当てて
慎重にカットします。
 

鞴本体に貼り付けて固定するため、
5mm幅の糊代を付けています。
 

切り抜きを終え、折り線に
沿って軽くけがきます。
 

山折り~谷折りを進めます。
なかなかシャンとした紙です。
 

蛇腹部分の構成は、無理せず
だましだまし折り曲げます。
 

紙が薄いので蛇腹のみでは
簡単に形が崩れてしまいます。
 

折り線にスケールを当て
糊代部を折り返します。
 

折り紙の完成です。実寸サイズでの
加工なので細かな作業になります。
 

蛇腹2組の完成です、ここまで長い道のりでした。鞴として
ホイッスルに十分な風を送り込むことが出来るでしょうか。
 

鞴に残っている破れた蛇腹を
取り除かなければなりません。
 

綺麗に剥がし取るために
40℃くらいで湯煎します。
 

念のためひと晩
浸け置きにします。
 

ハトロン紙はなかなか丈夫で
自然に剥がれてなど来ません。
 

それどころか鞴に接着されていた
糊代部に接着剤が残ったままです。
 

止むを得ず固着した接着剤を
リュータで削り落とします。
 

完成している蛇腹を仮組みして
みます。寸法はぴったりのようです。
 

樹脂部品に紙を貼り付ける
適当な接着剤が分かりません。
 

安直ですが、ゴム系のボンドを使用します。
伸び、乾燥時間など適切とは言えませんが。
 

ドライバーの先を使って、薄く
伸ばしながら塗り付けます。
 

手前側の短辺と両側面の
長辺に接着剤を塗ります。
 

紙相手に接着力が強過ぎるので
慎重かつ一発勝負で位置を決めます。
 

手前短辺→両サイド長辺の順で
糊代面を押さえ付け固定します。
 

何とか形になってきました。
左右の高低とも貼り付けます。
 

上に載る蓋部分を当ててみます。
やはり寸法はぴったりです。
 

後方の短辺は鞴の回転軸に
なるので、ヒンジを当てます。
 

マスキングテープを
適当にカットします。
 

後方の短辺、鞴の上下を連結
するようにテープを貼り付けます。
 

耐久性に不安はありますが、2重・3重貼りに
して蛇腹の動作を重くするわけにも行きません。
 

上下の位置を合わせた状態で
蛇腹の糊代を周囲に接着します。
 

もう片方も同じように
貼り付け接着します。
 

左右とも蛇腹の貼り付け、鞴の組み立てを
終えます。全体の納まりを確認します。
 

試しに鞴を軽く開け閉めしてみます。「ポッポー(カッコー?)」の
発声が蘇ります。心持ち、キレというか甲高さが足りないような
気がしますが、古くから親しまれてきた鳩時計の鳴き声です。
 

ホイッスル部をムーブメント本体に
戻し、周辺部品を取り付けます。
 

ムーブメントから出る鞴を駆動用の
アームを取り付けなければなりません。
 

鞴の脇にアームが連結
する突起が出ています。
 

アームの先を突起の穴に通し、
根元側をムーブメントの軸に掛けます。
 

高低2つの鞴それぞれに
アームを取り付けます。
 

修理作業完了です。鳩(カッコウ)が
元気よく飛び出して軽快に鳴きます。
 

実は、ムーブメント側の鞴駆動軸が固着していたり、鳩の駆動
リンクが変形していたりして、各部に渡り修理を施しています。
時針も折れ曲がり汚れて変色していたので、同色でペイントし
直しています。先にも書きましたが、中学高校入試に出題される
図形問題を解く知識は、私にとってはこのように大いに仕事の
役に立つ有用なものです。しかし、これから入試に挑む小学生や
中学生にしてみると、いったい何を期待し、如何に納得しながら
このような学力を身につけるべく努力をすれば良いのでしょう。

 
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