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DENON限定モデルとて・・(2022.9.18)


隣町つくばみらい市に、ビンテージオーディオ修理専門で名の知れた
会社があります。専らオーディアンプを修理されており、時々その守備
範囲を外れる製作や修理についてご用命をいただきます。DENON製
CDプレーヤの超高級機は、お預かりしてみるととんでもない重量があり、
後で確認すると15kg近くになります。不具合は何かというと、超高級機
らしく再生音に透明感がない・・とかではなく、CDを再生できないそうです。
 

かつてDENONは「デンオン」と呼ばれていましたが、
2001年「デノン」に変更された時の記念モデルだそうです。

 

DCD-S10ⅢLは、1994年のS10、1997年の
S10Ⅱ、1999年のS10Ⅲに続く限定モデルです。

 

防振性の高いプロテイン配合塗料でCDトレイを塗装
するなど、テンコ盛りで2001年に発売されています。

 

前モデルのDCD-S10Ⅲに装飾フォントのが加わり、
その上には「S Limited」のエンブレムが付きます。

 

背面のRCA端子は左右チャンネルの間隔も
十分、さすが25万円もする超高級機です。
 

デジタル入出力はCOAXIAL(同軸)と
OPTICAL(光学)の2系統を備えます。
 

これだけの超高級機でもCDの再生不良ですか・・、価格
からして再生機能を永久保証にしてもよろしいのでは。
 

再生不良≒ピックアップ劣化ですので
新品部品への交換作業を進めます。
 

予めCDトレイの前面ベゼルを取り
去り、本体上カバーを外します。
 

CDドライブユニットを覆う金属製シールド(?)カバー
です。表面に凄い技術(能書き)が謳われています。

 

ドライブユニットの取り外しにかかります。スピンドルの
アッパーキャップを保持するタワー部を外します。
 

使用されているネジはあたかも銅のような色をして
いますが、ドライバーのマグネットに吸い付きます。
 

ドライブ本体を固定しているネジを
緩めます。周囲に4本あります。
 

ドライブユニットが本体から分離します。本体
基板と数本のケーブルで接続されています。
 

タワー部をずらすと、その下にCDトレイ、続いて
ピックアップを含むトラバースフレームが見えます。
 

ドライブユニットの下はアルミダイキャスト製いかにも
重そうなベースが敷かれています。ここまでするか?
 

トラバースへのアクセスの邪魔になるので、
CDトレイをいったん取り外すことにします。
 

トレイをスライドさせるためレールとなる
シャフトが用いられています。凝った構造です。
 

高級機らしくトレイの出し入れにも静粛性を与えるため
でしょう。が、実際に普及機とあまり変わりありません。
 

それよりも、防振性を高めるはずのプロテイン配合
塗料とやらが変質し、トレイの表面がベトベトです。
 

ようやくピックアップに辿り着きます。
以前に見たことのある形状です。
 

やはりSHARP製ピックアップです・・が、
DENONの超高級機にSHARPとは意外です。
 

型番を確認するとH8147AF、これは初めて見るピックアップ
です。SHARP製といえばKSS-で始まる一連の製品が有名
ですが、強いて言えばケーブル接続用ソケットが2個付いている
点でKSS-210Aに似ています。しかし、トリマーの下にIC
付いており、よく見るとソケットのサイズが微妙に異なります。
 

ピックアップの補修部品は市販されています。早々に交換を
終え(作業は略します)、ベトついたトレイを何とかします。
 

最初はアルコールやクリーナを試しましたが、
意外や台所用洗剤で完全に落とせます。
 

プロテインが入っているからでしょうか。
ドライブユニットを元通りに組み上げます。
 

ピックアップ交換で復活すれば楽勝ものです。また
DENONとてその辺のプレーヤと変わりなしです。
 

CLOSEボタンを押してCDが引き込まれると
TOC情報を読み込むはずですが、表示されません。

 

そして、PLAYボタンを押しても
再生が開始されません。

  

実は少し前に同じDENONの先行機DCD-1650AZを
修理した際に、大変参考になったWEBがあります。

 

スナフキン氏がブログに綴るオーディオ機器の修理記事です。
フォトダイオードアンプ回路の不具合を指摘されています。

  

ピックアップ信号のエラーを低減させる回路で、基板上の
オペアンプOP262が定格不足のため破損するそうです。

 

定格を満たすAD8058への交換が提案されていますが、
表面実装されたフラットパッケージの換装は困難を極めます。

  

ドライブユニットの右隣り、メイン基板の上に増設されて
いるのがフォトダイオードアンプ回路の基板です。
 

シリーズの中で、製品によりこの
回路の有無が分かれます。

 

表側から見る分には、電解コンデンサと
ジャンパー線だけの簡単な回路構成ですが、
 

裏側には11個ものフラットパッケージチップが
実装され、厄介な様相を呈しています。

 

写真中、赤丸で囲んであるチップがOP262です。スナフキン氏
これらの換装にはパターンを破損する危険があり、お勧めできないと
説明されています。ところが、その代替策として驚くべきテクニック
紹介されています。少し前にその方法により、DCD-1650AZの
修理に成功しており、このDCD-S10ⅢLにも適用できそうです。
 
*写真はスナフキン氏のWEBから引用させていただきました。
 

代替策を紹介されているのはこちらのページです。
スナフキン氏はDCDのシリーズを幅広く修理されています。

 

何と、信号レベルを揃えることでフォトダイオードアンプ
回路をスキップしてしまおうという大胆なアイデアです。

  

そもそもこのようなCDプレーヤの設計には懐疑的に
ならざるを得ません。防振効果だの鋳物のベースだの、
 

この分厚い金属製底板にしても1kgはあろうかという代物です。
デジタル信号処理にアナログ的な設計が貢献するのでしょうか。
 

レコードプレーヤの時代ならば振動やワウフラッターの低減、電磁的
影響の排除等は宿命的課題でしたが。フォトダイオードアンプ回路の
機能についてスナフキン氏のWEBには「ピックアップからの光信号を
増幅させて、その信号の精度を高めることによって、エラーの少ない
信号に整える」と掲載されています。(DENON社に対して)本当に
そのような回路が有効であり必要であるのか、疑問でなりません。
 

底板を外すとメイン基板の裏側(パターン側)にアクセス
できます。アンプ回路からの信号が入力される辺りです。
 

パナソニック製オーディオ用プリアンプの
AN8805SBに抵抗器を通して入力されます。
 

AN8805SBの右下、入力信号のコネクタ方向に。
R134、R135、R136、R137の4本が並びます。
 

アンプ回路をスキップすると信号レベルが増幅されずに送り
込まれるので、これらの減衰用抵抗器は不要になります。
 

スナフキン氏は抵抗器を取り除き、0オームの
チップ抵抗に置き換える方法を提案されていますが、
 

元の抵抗器はそのままに、ジャンパー線で
抵抗器の両端を短絡させる方法を採ります。
 

抵抗器端子の片方に錫メッキ
線を1本半田付けしておき、
 

適当な(反対側に届く)長さに
カットしておきます。
 

ピンセットで折り曲げて他方の端子に接触させ、半田付けします。
この作業を抵抗器4本で繰り返します。前のDCD-1650AZにも
アンプ回路が搭載されており、その時は上手く作業できたのですが。
 

2本目のR135を作業する時に、半田ごてを当て過ぎて
チップ抵抗もろとも基板のパターンを剥がしてしまいました。
 

止むを得ず、抵抗器の手前側端子から
ソケット端子の近くまで直接配線することに。
 

次に、フォトダイオードアンプ回路がピックアップからの
信号を受けるソケットを、アンプ回路基板から取り外します。
 

そして、メイン基板がフォトダイオードアンプ回路からの
信号を受けていたソケットを、メイン基板から外します。
 

先ほど取り外したピックアップからの信号を受ける
ソケットを、新たにメイン基板に取り付けます。
 

アンプ回路の前後で、信号の種類とピン数は代わり
ません。メイン基板の裏側で各ピンを半田付けします。
 

ピックアップからの信号線(コネクタ)を、メイン
基板に移動したソケットに直接差し込みます。
 

これで信号レベルを減衰させることなく、ピック
アップ信号がメイン基板に直接入力されます。
 

ドライブユニットや配線関係を確認し、CDを再生
してみます・・が、今度はディスクが回転しません。
 

ここまで作業してきてこのトラブルには閉口ですが、
実はDCD-1650AZでも経験しております。
 

CD再生時にピックアップやスピンドルが最も高い位置まで
持ち上がった状態です。タワー側に取り付けられていて
ディスクを上から挟むキャップが、良く見ると下がり切って
います。本来はスピンドル側のキャップに持ち上げられて
もう少し高い位置になければなりません。上側のキャップ
タワーの開口部内で回転する際に、この状態では開口部
内側と接触し擦れ合うため、抵抗が生じて回転を妨げます。
 

ピックアップやスピンドルを含むフレーム全体が、
所定の位置まで持ち上げられていないことが原因で、
 

その元になる原因がこれです。フレームを固定
するワッシャ付きネジが、少し浮いています。
 

正確には、ネジが浮いているのではなく
フレームの方が沈下しているのです。
 

確認するとネジは全てしっかり締め込まれて
います。いったんネジを緩めてみます。
 

フレームの高さを正確な位置に保つため、
決まった長さの段付きネジが使われています。
 

フレームを取り外すと、ネジで固定されている
4か所にはスプリングが組み込まれています。
 

振動を吸収するための手の込んだ設計でしょうが、
情けないことにそのスプリングがヘタリ切っています。
 

驚いたことに4か所にそれぞれ形状・弾性が
異なるスプリングが配置されています。
 

トラバース全体の重量バランスに対応してスプリングの
特性を最適化するという、どこまで贅沢なのでしょう。
 

スプリングを新品に交換・・などしません。
手で引き伸ばして弾性を復活させるだけです。
 

トラバースを元に戻します。かなり高い
位置に戻っていることが分かります。
 

固定ネジを締め込みます。ネジ頭が
直下のウレタンブッシュに密着します。
 

何かこうフレーム全体がビシッとした印象で、
車のサスペンションを新調したような感じです。
 

改めてネジの頭が浮いていないことを確認します。
段付きネジの有効長通りにフレームが固定されています。
 

ディスクがスムーズに回転
します。これならばきっと・・
 

CDトレイが引き込まれ、ディスクが認識された直後にTOCが
読み出され、トラック数(曲数)や再生時間(合計)が表示されます。
 

PLAYボタンを押すと間もなく再生が開始されます。トラックの移動が
実に機敏です。普及機で見られるようなトラック移動時のもたつきが
全くありません。複数曲を一度に移動する際も、ほとんど瞬時に
次のトラックを掴まえます。やはり高級機のドライブはそれだけの
ことがあります。劣化したピックアップの交換はまぁ茶飯事ですが、
フォトダイオードアンプ回路のトラブルは、スナフキン氏が提供して
下さった凄技がなければとても解決できていません。厚く御礼を
申し上げます。それにしても、最後のスプリングのヘタリの1件は
余りに残念です。ここまで贅沢な設計を山ほど盛り込んでおいて、
25万円もの宝石か貴金属のような価格を付けておいて。で20年
ほど経過してみるとたかがバネのヘタリでCDが回転しなくなる
とは・・。何か基本を忘れていませんでしょうか、DENONさん。

 
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