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DUSSUNプリアンプは18kg(2022.12.22)


やたらと重たいオーディオ機材が修理に入ってきました。
作業机に載せるにも向きを変えるにも腕力が要ります。
日本製品離れした優美なデザインを与えられた、この
製品は実はプリアンプです。片チャンネルが機能しない
トラブルですが、いつものようにダメモトで挑みます。
 

優美さの大元は操作ツマミ類の造作の大きさに
起因します。日本製品の精緻さとは異なります。

 

よっこらしょと向きを変え
背面を確認します。

 

片チャンネルあたり3系統のRCA入力、2系統の
XLR入力、出力はRCA・XLRとも1系統です。

 

DUSSUN社製、R10。国内では一部のオーディオ
専門店
で扱いがあり、何と90万円以上もします。

 

DUSSUN社は2005年中国上海に設立され、日本国内
ではオーディオリファレンスインクが代理店となっています。
 

WEBには現在も同型機の
仕様が掲載されています。
 

左チャンネル側2系統のXLRソケット(キャノンコネクタ)
です。全回路がバランス接続されているそうです。
 

日本国内向けの電力接続に関するシールが
貼られています。プリアンプが50W消費します。

 

余りの重さに体重計に載せてみると、18kgもあります。
消費電力の50Wも重量もプリアンプの仕様とは思えません。
 

呆れている場合ではありません、不具合を確認
します。電源コードを差し込みSWを入れます。
 

本体上面手前に並ぶ操作ボタンです。
やはり造作が大きくシンプルなデザインです。
 

左端の「Stanby」で電源が入ります。お聞きして
いた通り片チャンネル(右側)の信号が出ません。
 

裏返して底板パネルを外します。インシュレータ固定
用も含め数本のネジでがっつり固定されています。
 

ネジを全て緩めましたがパネルが外れてきません。
僅かな隙間にドライバーの先を入れてこじ開けます。
 

ネジに加え何か粘着剤のようなものが併用
されています。力を加えて引き剥がします。
 

密着面を確認すると粘着性のシールが貼り付け
られています。気密性を保とうということでしょうか。
 

分厚い底板パネルが外れ内部の構造が
露出します。見たことのない景色です。
 

元はアルミ材の分厚いブロックだったのでしょうか、金属の塊を
刳り抜いて作られた各部屋に、回路基板が整然と収められて
います。オーディオ機器ないし電気製品であることを忘れてしまう
ほどの、工芸品のような美しさを感じさせるデザインと造りです。
 

外周壁部分の厚みを測ると
何と11mmもあります。
 

中央部分で左右チャンネルを厳然と分離している
仕切り壁は19mm近くあります・・、重いはずです。
 

電源トランスが収まる部屋も、厚い壁で囲まれています。
配線コードを経由させる部分は切り欠かれています。
 

回路基板を点検できる状態で
再度電源を入れてみます。
 

電源が入るとどこかでカチッという音がして、左右のメイン基板上に
ある変化が生じます。左右端近くで縦方向に並ぶLEDが点灯します。
 

左側メイン基板(右チャンネル)、基板の左端に
放熱器付きパワーTRが縦方向に4個並びます。
 

シンメトリカルに配置された右側メイン基板(左チャンネル)
です。各TRに隣接して動作を示すLEDが4個並びます。
 

右チャンネルのLEDを確認すると、4個中2個が
点灯していません。LEDかTRの破損でしょう。
 

LEDでTRの動作を表示させるなど何とも憎い設計
ですが、完全密閉された筐体内では意味ないのでは。
 

パワーTRは経年による破損の可能性が
十分にあります。取り外して点検します。
 

背面の入出力端子はメイン基板に
直接取り付けられています。
 

従って背面の固定を全て外さないと
メイン基板も取り外せません。
 

RCAターミナルと固定ナットは完全に金メッキされ、
高精度に成形された樹脂製スペーサが入ります。
 

メイン基板を取り出します。金メッキされた
ターミナルを始め高品質の部品ばかりです。

 

メイン基板上のサブ基板は、98個のラダー抵抗により
65000ステップ以上のアッテネーターを構成します。

  

4個のパワーTRのうち写真左から2番目と
右端の1個、計2個が故障しているようです。
 

先に左から2番目のパワーTRを
回路基板から外して調べます。

 

放熱器への固定ネジを緩め
基板裏側の半田を溶かします。
 

スルーホール基板の割には
すんなりと半田が除去できます。

 

パワーTRを引き抜きます。基板の
パターンはほとんど傷めていません。
 

2SC2911、C-E間の耐圧が160Vもある
高耐圧のドライバTRです。入手可能です。

 

隣は2SC2911とコンプリで
使用される2SA1209です。
 

取り外した2SC2911
テスターにセットします。

 

壊れているはずの2SC2911ですが・・、問題ありません。
どうやらパワーTRの破損という見立ては誤っているようです。
 

TRをいったん基板に戻し、端子間に
かかる電圧を測定してみます。
 

C-E間に電圧がかかっていません。LEDも
ここに接続されているので点灯しないのでしょう。

 

反対側左チャンネルで同じTRの
C-E間を測定してみます。
 

12Vほどかかっていることが分かり
ます。当然LEDは点灯します。

 

隣の部屋にある電源レギュレター
基板との接続ケーブルを抜くと、
 

全てのLEDが点灯しなくなります。電源が
送られて来ないので当たり前ですが。

 

そうすると、メイン基板ではなく電源を
送り込む側に問題がある可能性があります。
 

まず、電源トランスは正常に
機能しているのでしょうか。

 

電源トランスとレギュレター基板の
ケーブル接続部を確認します。
 

交流出力が2系統送り込まれているうちの
片方です。AC24Vほど出ており正常です。

 

もうひと系統の交流
出力を確認します。
 

こちらもAC20数Vで正常です。この時点で電源
トランスのAC100V入力も正常だと分かります。

 

次に行きましょう、レギュレター基板上の
整流ダイオード出力を確認します。
 

2系統のうち片方です、
DC30V少し出ています。

 

もうひと系統の整流ダイオード
出力電圧を確認します。
 

こちらもほぼ30V
出ており正常です。
 

整流ダイオードの下段に3端子レギュレターが4個
並んでいます。IN-OUT間の電圧差を確認します。
 

1個目(写真上端)のレギュレターは1.5V
ほどドロップしています。こんなものでしょう。
 

続いて写真上から2番目の
レギュレターを確認します。
 

電圧差がありません。定電圧を生成するには
普通で数Vのドロップが必要ですが・・。
 

テスト棒の当て方が不十分なのかと思い、あらためてIN-OUT
端子に強めに押し当てた時です。OUT側の端子付近で「パチッ」
という音が聞こえ、小さな火花が飛びます。どこかを短絡させて
しまったかと、一瞬冷や汗が出ます。サービスマニュアル無し
でのトラブルシューティングは、こういうことになるから恐ろしい・・
 

ところが、ふとメイン基板に目を向けると・・、LEDが4個とも点灯
しています。2個の2SC2911でコレクタ電圧が復旧したようです。
 

このレギュレターは-B電源側なので
テスト棒を逆向きにして強く押し当てると、
 

OUT→IN方向に電圧の
ドロップが確認できます。
 

不具合の原因が判明したと言ってよろしいでしょう。-B電源側の
3端子レギュレターで、OUT端子と基板パターン間に接触不良が
生じています。経年により半田付け部分にクラックが入ったか、
金属材の腐食が進行したものと考えられますが、その大元は
製造組み立て時の僅かな半田付け不良に行き着きます。
 

修理作業自体は簡単なものです。フラックスを
併用して接触不良個所を半田付けし直します。
 

念のため4個のレギュレター全ての端子に
十分熱を加え、半田で密着・融合させます。
 

右チャンネルパワーTR手前のLED4個が全て点灯して
います。出力段が完全に動作している証です。2SC2911
2SA1209とも間違いなくコレクタ電圧がかかっています。
 

中央の赤色プレートでカバーされた部分です。
特に必要ありませんが内部を点検しておきます。
 

このプレートも普及型パワーアンプの
放熱板くらいの厚みがあります。
 

電源トランスに電力を送り込む前の
ノイズフィルターとディレイ回路のようです。
 

電源が入る直前に「カチッ」と聞こえる
のは、このリードリレーの作動音でした。
 

元通りに組み戻して動作を確認します。両チャンネルとも正常に機能します。
「普通のハイエンドプリ、アタックはCelloやレビンソンのような硬質なものでは
なく、硬・軟でいえば中庸で低域は柔軟、明るい音に感じられ」・・、スマホに
ヘッドホンではそのような検証は無理ですが、バランスの良い音がするくらいは
分かります。18kgを上げたり降ろしたり逆さにしたり、向きを変えるだけで既に
腕が筋肉痛です。気密性まで保たれそうなこの厳重な筐体内で、たかが半田
付け部分での接触不良ですか・・・? 「やっぱ中華製だな」とか聞こえてきそう
ですが、かつて世界を席巻したはずの日本製品だって同じではないですか。

 
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