やたらと重たいオーディオ機材が修理に入ってきました。
作業机に載せるにも向きを変えるにも腕力が要ります。
日本製品離れした優美なデザインを与えられた、この
製品は実はプリアンプです。片チャンネルが機能しない
トラブルですが、いつものようにダメモトで挑みます。
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優美さの大元は操作ツマミ類の造作の大きさに
起因します。日本製品の精緻さとは異なります。
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よっこらしょと向きを変え
背面を確認します。
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片チャンネルあたり3系統のRCA入力、2系統の
XLR入力、出力はRCA・XLRとも1系統です。
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DUSSUN社製、R10。国内では一部のオーディオ
専門店で扱いがあり、何と90万円以上もします。
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DUSSUN社は2005年中国上海に設立され、日本国内
ではオーディオリファレンスインクが代理店となっています。
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WEBには現在も同型機の
仕様が掲載されています。
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左チャンネル側2系統のXLRソケット(キャノンコネクタ)
です。全回路がバランス接続されているそうです。
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日本国内向けの電力接続に関するシールが
貼られています。プリアンプが50W消費します。
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余りの重さに体重計に載せてみると、18kgもあります。
消費電力の50Wも重量もプリアンプの仕様とは思えません。
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呆れている場合ではありません、不具合を確認
します。電源コードを差し込みSWを入れます。
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本体上面手前に並ぶ操作ボタンです。
やはり造作が大きくシンプルなデザインです。
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左端の「Stanby」で電源が入ります。お聞きして
いた通り片チャンネル(右側)の信号が出ません。
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裏返して底板パネルを外します。インシュレータ固定
用も含め数本のネジでがっつり固定されています。
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ネジを全て緩めましたがパネルが外れてきません。
僅かな隙間にドライバーの先を入れてこじ開けます。
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ネジに加え何か粘着剤のようなものが併用
されています。力を加えて引き剥がします。
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密着面を確認すると粘着性のシールが貼り付け
られています。気密性を保とうということでしょうか。
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分厚い底板パネルが外れ内部の構造が
露出します。見たことのない景色です。
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元はアルミ材の分厚いブロックだったのでしょうか、金属の塊を
刳り抜いて作られた各部屋に、回路基板が整然と収められて
います。オーディオ機器ないし電気製品であることを忘れてしまう
ほどの、工芸品のような美しさを感じさせるデザインと造りです。
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外周壁部分の厚みを測ると
何と11mmもあります。
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中央部分で左右チャンネルを厳然と分離している
仕切り壁は19mm近くあります・・、重いはずです。
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電源トランスが収まる部屋も、厚い壁で囲まれています。
配線コードを経由させる部分は切り欠かれています。
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回路基板を点検できる状態で
再度電源を入れてみます。
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電源が入るとどこかでカチッという音がして、左右のメイン基板上に
ある変化が生じます。左右端近くで縦方向に並ぶLEDが点灯します。
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左側メイン基板(右チャンネル)、基板の左端に
放熱器付きパワーTRが縦方向に4個並びます。
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シンメトリカルに配置された右側メイン基板(左チャンネル)
です。各TRに隣接して動作を示すLEDが4個並びます。
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右チャンネルのLEDを確認すると、4個中2個が
点灯していません。LEDかTRの破損でしょう。
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LEDでTRの動作を表示させるなど何とも憎い設計
ですが、完全密閉された筐体内では意味ないのでは。
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パワーTRは経年による破損の可能性が
十分にあります。取り外して点検します。
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背面の入出力端子はメイン基板に
直接取り付けられています。
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従って背面の固定を全て外さないと
メイン基板も取り外せません。
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RCAターミナルと固定ナットは完全に金メッキされ、
高精度に成形された樹脂製スペーサが入ります。
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メイン基板を取り出します。金メッキされた
ターミナルを始め高品質の部品ばかりです。
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メイン基板上のサブ基板は、98個のラダー抵抗により
65000ステップ以上のアッテネーターを構成します。
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4個のパワーTRのうち写真左から2番目と
右端の1個、計2個が故障しているようです。
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先に左から2番目のパワーTRを
回路基板から外して調べます。
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放熱器への固定ネジを緩め
基板裏側の半田を溶かします。
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スルーホール基板の割には
すんなりと半田が除去できます。
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パワーTRを引き抜きます。基板の
パターンはほとんど傷めていません。
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2SC2911、C-E間の耐圧が160Vもある
高耐圧のドライバTRです。入手可能です。
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隣は2SC2911とコンプリで
使用される2SA1209です。
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取り外した2SC2911を
テスターにセットします。
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壊れているはずの2SC2911ですが・・、問題ありません。
どうやらパワーTRの破損という見立ては誤っているようです。
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TRをいったん基板に戻し、端子間に
かかる電圧を測定してみます。
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C-E間に電圧がかかっていません。LEDも
ここに接続されているので点灯しないのでしょう。
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反対側左チャンネルで同じTRの
C-E間を測定してみます。
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12Vほどかかっていることが分かり
ます。当然LEDは点灯します。
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隣の部屋にある電源レギュレター
基板との接続ケーブルを抜くと、
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全てのLEDが点灯しなくなります。電源が
送られて来ないので当たり前ですが。
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そうすると、メイン基板ではなく電源を
送り込む側に問題がある可能性があります。
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まず、電源トランスは正常に
機能しているのでしょうか。
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電源トランスとレギュレター基板の
ケーブル接続部を確認します。
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交流出力が2系統送り込まれているうちの
片方です。AC24Vほど出ており正常です。
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もうひと系統の交流
出力を確認します。
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こちらもAC20数Vで正常です。この時点で電源
トランスのAC100V入力も正常だと分かります。
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次に行きましょう、レギュレター基板上の
整流ダイオード出力を確認します。
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2系統のうち片方です、
DC30V少し出ています。
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もうひと系統の整流ダイオード
出力電圧を確認します。
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こちらもほぼ30V
出ており正常です。
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整流ダイオードの下段に3端子レギュレターが4個
並んでいます。IN-OUT間の電圧差を確認します。
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1個目(写真上端)のレギュレターは1.5V
ほどドロップしています。こんなものでしょう。
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続いて写真上から2番目の
レギュレターを確認します。
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電圧差がありません。定電圧を生成するには
普通で数Vのドロップが必要ですが・・。
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テスト棒の当て方が不十分なのかと思い、あらためてIN-OUT
端子に強めに押し当てた時です。OUT側の端子付近で「パチッ」
という音が聞こえ、小さな火花が飛びます。どこかを短絡させて
しまったかと、一瞬冷や汗が出ます。サービスマニュアル無し
でのトラブルシューティングは、こういうことになるから恐ろしい・・
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ところが、ふとメイン基板に目を向けると・・、LEDが4個とも点灯
しています。2個の2SC2911でコレクタ電圧が復旧したようです。
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このレギュレターは-B電源側なので
テスト棒を逆向きにして強く押し当てると、
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OUT→IN方向に電圧の
ドロップが確認できます。
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不具合の原因が判明したと言ってよろしいでしょう。-B電源側の
3端子レギュレターで、OUT端子と基板パターン間に接触不良が
生じています。経年により半田付け部分にクラックが入ったか、
金属材の腐食が進行したものと考えられますが、その大元は
製造組み立て時の僅かな半田付け不良に行き着きます。
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修理作業自体は簡単なものです。フラックスを
併用して接触不良個所を半田付けし直します。
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念のため4個のレギュレター全ての端子に
十分熱を加え、半田で密着・融合させます。
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右チャンネルパワーTR手前のLED4個が全て点灯して
います。出力段が完全に動作している証です。2SC2911、
2SA1209とも間違いなくコレクタ電圧がかかっています。
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中央の赤色プレートでカバーされた部分です。
特に必要ありませんが内部を点検しておきます。
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このプレートも普及型パワーアンプの
放熱板くらいの厚みがあります。
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電源トランスに電力を送り込む前の
ノイズフィルターとディレイ回路のようです。
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電源が入る直前に「カチッ」と聞こえる
のは、このリードリレーの作動音でした。
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元通りに組み戻して動作を確認します。両チャンネルとも正常に機能します。
「普通のハイエンドプリ、アタックはCelloやレビンソンのような硬質なものでは
なく、硬・軟でいえば中庸で低域は柔軟、明るい音に感じられ」・・、スマホに
ヘッドホンではそのような検証は無理ですが、バランスの良い音がするくらいは
分かります。18kgを上げたり降ろしたり逆さにしたり、向きを変えるだけで既に
腕が筋肉痛です。気密性まで保たれそうなこの厳重な筐体内で、たかが半田
付け部分での接触不良ですか・・・? 「やっぱ中華製だな」とか聞こえてきそう
ですが、かつて世界を席巻したはずの日本製品だって同じではないですか。
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