学校の実習室に設備されているスタンド付きスクローラ(糸鋸盤)を
整備します。およそ40年近くは経過していそうな旧型の製品です。
アームが長く全体的に堅牢な造りで、卓上型とは一線を画します。
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同型が2台ありいずれも動作しません。製造元の
日工機械株式会社は朝霞市に現存するようですが、
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WEBもなく詳細は不明です。
電源を入れて不具合を確認します。
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電源スイッチを入れると、隣のランプは
点灯しませんがモーター音がします。
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単相260Wの誘導電動機が取り付けられており、
プーリは回転していますがベルトが回っていません。
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駆動ベルトが経年劣化し、張力が維持できずスリップしています。
少なくともベルトの交換が必要です。加えて、他の部分にも不具合が
ないか点検し、増し締めや注油などひと通り整備します。ほとんどの
部品が頑丈なダイキャスト製で、横倒しにするにも大変な重量です。
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内部を覗くと太い支柱からスイッチ
操作部に延びる配線が見えます。
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赤色の配線の先が剥き出し状態で
しかもどこにも接続されていません。
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保護材もなく危なっかしいので後で
何とかします・・と、その奥を見ると、
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鋸刃を上下駆動する下側ホルダーの先端が、
樹脂製クランクアームから脱落しています。
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駆動ベルトの交換だけでは済みません。
関連部分を分解していきます。
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電動機の固定ボルトを緩め
駆動ベルトを取り外します。
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スタンド(支柱)とスクローラ本体を
結合する4本のボルトを緩めます。
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スプリングワッシャを介して強固に締め付け
られています。動作中の振動対策でしょう。
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ボルトを抜いただけでは分離しません。
本体の下端をハンマーで叩きます。
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本体とスタンドに分離しましたが
いずれもかなり重量があります。
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あらためてクランクアーム周りを確認します。ホルダとの
連結が外れているので、鋸刃が動くはずがありません。
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電動機の回転を伝達する水平
シャフトの固定具を外します。
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シャフトは前後2か所で固定具内側の
ベアリングを通り支持されます。さて、
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作業にかかる直前に、スクローラの足元に
このような部品が落ちているのを見つけました。
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材質は分かりませんが金属製のスリーブです。すぐに気づきました、
ホルダー先端の突き出しシャフトが内側に嵌まります。そして樹脂製
クランクアームの先端内側にスリーブ自身が程良く嵌まります。
ホルダーとクランクアームの隙間を埋め、オイルを保持して潤滑を
図るスペーサーということです。作業前に見つけることができて
幸運です。もし紛失していたら大変なことになっているでしょう。
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冷や汗を感じながら組み付け作業にかかり
ます。先にホルダー側シャフトに注油します。
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回転させながらスリーブを通し
摺動面の馴染みを取ります。
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クランクアーム先端の穴に通します。これで電動機の
回転運動がホルダーの往復運動に変換されます。
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シャフトの固定具をネジで
本体に取り付けます。
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ここで駆動ベルトを交換します。元のベルト長は620mm
くらいですが、なかなか適当な製品が見つかりません。
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7M規格で615mm長を手配したところ
外側溝付きの小プーリ用が届きました。
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さほどの重負荷でもないので
このまま取り付けます。
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手でシャフトを回してみると、取りあえず
ホルダーが往復するようになったのですが、
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ホルダー先端の取り付け部にかなり遊びがあり、
この方向に移動すると簡単に抜けてしまいます。
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スリーブが脱落しないような処置が必要です。
スリーブに接する直近の位置2か所に穴を開けて、
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小ネジを打ってスリーブを固定します。元はスリーブが
出てこないような何らかの形状に加工されていたのだと
思います。スリーブの内側とホルダー先端のシャフト間で
摺動回転させるので、ここは固定しても問題ないでしょう。
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本体と支柱を合体させボルトで固定します。
重量があるのでしんどい作業です。
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電動機のプーリにベルトをかけ、テンションを
加えた状態で固定ボルトを締め込みます。
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ゆっくりと本体を起こし自立させます。電動機が
少し傾いているので取り付け位置を修正します。
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自立した状態で本体と支柱の
固定ボルトを増し締めします。
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危なっかしい電気配線を修復します。
入手が面倒な100V用豆球は省きます。
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配線をシンプルな引き回しに変更し、
結線部は熱収縮チューブで保護します。
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電源スイッチのみの配線にします。
ここで電動機の通電を確認します。
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下側ホルダーの上下往復摺動部は特に
油切れしやすく、リザーバが付いています。
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各部に十分注油し電源を入れます。華奢な卓上型とは
異なる振動の少ない安定した往復運動が戻っています。
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実際に鋸刃を取り付けて木材をカットしてみます。若干
左右方向の水平が狂っているので、テーブル両サイド
下のハンドルを回して修正します。もう1台はベルト切れ
以外に特に深刻な不具合がなく、各部の点検と調整を
経て作業を終えます。産業用に製造された工作機械は
注油など基本的な整備を怠らなければ実に長持ちします。
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