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信頼される工房でありたい(2024.11.2)


ウォークマンプロフェッショナルWM-D6Cです。
今も根強い人気があり、中古でも完全動作品には
プレミアムが付いて大変高額です。修理ご依頼の
理由が以下の通りメールに詳しく書かれています。

 

 SONYのWM-D6Cのヘッドホン端子の中の固定しているプラスチックが割れてしまった様でぐらつき音が途切れる様になってしまいました。実はヤフオクの業者に録音レベルのダイアルとボリュームスライダーのガリ取りとそのヘッドホン端子の修理を頼んだ所、頼んでもいないのにオーバーホールという事になり、まあそれで完璧になるならと39500円も出して依頼したのですが、1日もかからないスピード修理の上録音にノイズが混じりメインのヘッドホン端子のグラつきはおまけ程度の修理だったらしくすぐにまたパキッとぐらつく様になってしまいました。流石にノイズは再修理を頼んで直してもらいましたがグラつきはこの人ではとそのままになっていました。別な業者さんに連絡した所、D6Cの内部を知らない様で2万から2万5千円くらいかかるかもとの事でただでさえ直前に大金払っているのでそれはキツイなと。守谷さんのD6の修理を見て守谷さんならと連絡致しました。WEBでD6Cの内部を見るとグリーンのプラスチックが端子を支えている様でそのプラスチックはもう手に入らないかもしれないけど割れたプラスチックをレジン等で固めればいけるのではないか?と素人考えしてしまいます。BOSEのBluetooth化等や他の家電の修理等、守谷さんすごいなあと拝見させて頂きました。よろしくお願いします。

ヤフオクの出品者やその他の修理業者を論評
することは避けますが、このように依頼者の利益
にならない人々が存在することは事実です。
 

 お問い合わせいただき有難うございます、守谷工房です。
 WM-D6Cの修理につきまして、これまでの経緯をお聞きし 只々同情申し上げる次第です。当工房でも40000円を超える費用になることもありますが、回路基板や駆動機構を総入替えでもしなければそうはなりません。またオーバーホールと聞くと耳障りはよろしいのですが、本来は製品仕様を全て把握している製造元にしかできない作業です(当工房ではオーバーホールのご依頼は原則お断りしています)。
 ヘッドホン端子の固定に不具合があるようですが、おそらく ケース内部の取り付け部周辺が破損・欠損しているように思い ます。これは電気・機械の修理とは異なり、材料・構造修復の領域ですので、電気屋さんや機械屋さんでは無理です。当工房は 家具製造業ですので木材に限らず広範囲に材料加工を手がけます。WM-D6の現状が何とか修復可能な範囲にあると良いのですが。
 実際に拝見してみないと修理の可否は分かりませんが、一度 点検させて下さい。修理不能であれば費用を頂戴しません。
 ご用命いただける場合は下記工房住所まで宅配便等でお送り下さい。よろしくご検討下さいませ。

ご依頼に対しこのような返信を差し上げました。工房に
とって都合の良いやり取りを選択しているわけでは
ありません。製作や修理の経緯をできるだけ詳細に
紹介し、それをご覧になった方が技術的な合理性を
評価・判断された上でご用命いただきたいと考えます。
 

外装カバーを開けると妙な
光景が飛び込んできます。
 

ぐらついているというヘッドホン端子
ですが、何か巻き付けてあります。
 

粘着テープのようなものが
重ねて巻かれています。
 

差し込み口の周囲に
クラックが入っています。
 

向きを変えて基板(配線
パターン)側を上にします。

 

ヘッドホンジャックの
半田付け部分です。
 

修復なり部品交換なりするには
一度取り外す必要があります。

 

当時のアセンブルは半田を
大量に盛るぼってり半田です。
 

フラックスを塗り付け
先にコードを外します。
 

ジャック自体が熱に弱い樹脂製なので
加熱を最小限にとどめたいものです。
 

左右に延びる2本の
ビニル線を解除します。
 

ぼってり半田は吸い
取り線で除去します。
 

吸い取り線をあてがい
半田ごてで溶かします。
 

すんなりと吸い込まれ、基板のホールと
ジャックの端子が顔を出します。
 

その奥に並ぶ残りのジャック端子
2本分も半田を吸い取ります。
 

作業域が狭いので、小さく
切った吸い取り線を使います。
 

3本の端子が完全に露出しているので
ヘッドホンジャックは抜けてくるはずです。

 

隙間にマイナスドライバーを
入れて軽く持ち上げます。

 

ヘッドホンジャックが基板
から完全に分離します。
 

巻き付けてあるテープのような
ものは裏側まで回り込んでいます。

 

手前にもう1本端子があったようですが、根元から
折れています。回路的には無くても支障ありません。
 

巻き付けられているテープを
丁寧に剥がしていきます。

 

何と言いますか本当にただの
粘着テープで、雑な巻き方です。

 

基板上にジャックの樹脂部分と
同色の破片が残っています。

 

ジャックを取り付ける際に
位置を決めるための突起です。
 

ヘッドホンジャックをよく観察すると、見事に割れています。
ヘッドホンを抜き差しする際に横方向に力が加わり、繰り
返されるうちに「ヒビ~割れ~破断」と進行したようです。
その修復でテープを巻き付けた、ということでしょうか・・?

 

同じ部品があれば当然交換したいところですが、
40年前のウォークマン用部品があるわけありません。

 

割れた部分にアクリル用接着剤を
流し込むことで、丁寧に修復します。
 

接着部をクリップで圧着し、接着剤で
溶融した樹脂面を密着し固化させます。

 

方向の異なる次の割れに
接着剤を正確に入れます。
 

破断面を密着させる方向に
クリップで挟みます。
 

ここにも割れがあります。全体と
してはほとんど壊滅状態ですが・・
 

根気よく接着と圧着を繰り返し
元の状態の復元を目指します。

 

確認できる割れは全て修復完了です。
全体的に強度が復活しています。
 

ヘッドホンプラグの差し込み口周りにまだ割れが
残っていますが、破片が脱落し欠損しているので
修復は諦めます。根元部分がしっかり接着されて
いるので、強度的には大丈夫だろうと思います。
 

修復したジャックを
基板に戻します。

 

繰り返されるプラグの抜き差しに耐えられるよう、
ジャックと基板の間に瞬間接着剤を入れます。
 

半田付けする基板のランド周りを
エタノールで洗浄しておきます。

 

しっかり(≒ぼってり)
半田付けします。
 

左右から接続するビニル
コードを元に戻します。

 

さて、実際の強度はどのくらい
保たれているでしょうか。
 

まぁ、しっかり取り付けられています・・。元々大部分が小さく
成形された樹脂製部品なので、それほど丈夫な部品である
はずがありません。恐る恐る力を加えてみますが、プリント
基板がへし曲がるほど力を入れても特に問題ありません。

 

アクリル用接着剤は材料を相互拡散方式で接合させるので、
接着後の強度は被接着物の材料強度に依存します。つまり、
使用されている樹脂の材料強度に等しい強度に到達している
はずなので、これ以上の修復は望めないということです。守谷
工房は激安でもなければ、懇切丁寧でもなければ、最強でも
ありません。しかし、テープを巻いて修理したことにするような
誤魔化しは絶対しません。記事をご覧になり、信頼できるか
否かご自身で判断の上ご用命下さいますようお願いします。

 
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