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住宅設備用補修部品の廃番は本当に困る(2024.1.28)


高齢者施設内の広いリビング、その南北両側に掃き出し窓が
並びます。しっかりしたサッシが建付けられ、採光面積が大きい
ので室内の隅々まで外の光が届きます。サッシに不具合があり、
点検と必要な修理のご用命です。施設関係は最優先で出向きます。
 

サッシ外側の網戸が開閉できないそうです。
サッシとセットになった専用のメーカー品です。

 

サッシ本体や網戸の開閉不良は
およそ定番の不具合です。
 

溝にゴミが溜まっているだけのこともありますが、
今回は戸車がまともに機能していないようです。

 

網戸を取り外し、戸車の状態はもちろん
レールとサッシフレームとの当たりも点検します。
 

引っこ抜いた左右の戸車です。片方はホイールがホルダーごと
破断しており、他方はホルダーごと無くなっています。どう見ても
これではダメです。ここまで破損してしまうと、補修用部品を取り
寄せて丸ごと交換するしかありません。実は、過去に反対側の
掃き出し窓で、同じく網戸の戸車を交換したことがあります。
発注の
履歴を調べれば型番の特定は簡単、今回は楽勝の
お仕事です。と、入手した戸車を後日持参するも、何と仕様が
異なり取り付け不可です! 結局、適合する補修部品は既に
廃番になっているのか、どうしても手に入れることができません。
 

事情を説明してご用命をお断りすることは簡単です。しかし、
入居者や職員の方々は網戸なしの生活を余儀なくされます。
 

ホイール(車輪)を保持するホルダーは、
元々内部に長く延びる一体の部品でした。
 

ホイールと反対側に、外から手動で操作
できる、ツメのような部品が出ています。
 

この突起を引き出したり
押し込んだりすることで、
 

ホイールのホルダーが内部に引き
込まれたり外に押し出されたりします。
 

その際に、ガイド溝の形状に沿ってホイールが
上下する仕組み、つまり高さを調整する機構です。
 

ホイールおよびホルダーを内包するハウジングは
インナーとアウターの2つから構成されています。
 

緑色のロックツメを取り除き、インナーを
ホルダーごとアウターから引き出します。
 

たかが網戸の戸車・・、なのに
何ですかこの精緻な構造は
 

内部に残されていたホルダーの残り半分です。この
スプリングはホルダーを自動的に下げるものです。
 

反対側の戸車も点検します。アウターと
インナーはいずれも原状を留めています。
 

破断部分が残っていませんが、ホイールおよび
ホルダーが機能しない点で先ほどと同じです。
 

つまり、この破損してしまったホルダーと
ホイールを復元できれば良いということです。
 

板を組み合わせたフレームがホイールを保持
するだけなので、何とかなるかも知れません。
 

元のホルダーはABS樹脂あたりをインジェクション一体成型していますが、
何層かのプレートに分解し、互いに貼り合わせて同様の部品を構成します。
 

平板で構成できれば、アクリル材をレザー加工することでほとんど
製作可能な範囲に入ります。強度の保持に注意が必要です。
 

4層の平板による構成とし、軸穴を
含む最下層の部品を切り出します。
 

強度を稼ぐため3mm厚
アクリルを使用します。
 

次に、2層目のスペーサーを切り出し
ます。ホイールを避ける形状にします。

 

同じく3mm厚アクリルです。残りのスペーサーと
最上層の軸受け部品を1mm厚で切り出します。
 

ホイールはこのPOM樹脂製
シャフトから切り出します。
 

レース盤を使用し、元のホイールと
同径で厚さ4mm弱に加工します。
 

ドリルで径2mmの
軸穴を加工します。

 

構成部品の中で、このPOM樹脂製
ホイールだけは耐久性に心配ありません。
 

ホルダーの構成部品が揃いました。ホイール以外は強度に
乏しいアクリル材ですので、網戸を支えるのに足るか否か
やってみなければ分かりません。網戸は全体の重量が小さい
ので、開閉時に無理をしなければ持つのではないでしょうか。
 

部品を組み立てます。アクリル
専用接着剤で貼り合わせるだけです。

 

貫通穴の位置やホイールの
中心を正確に合わせます。
 

アクリル専用接着剤の接着原理は
拡散接着で、接合強度が抜群です。
 

もう1枚スペーサーを入れます。
これでホイールの厚みを超えます。
 

複数枚が重なり合うとそこ
そこの強度が出てきます。

 

最後に軸穴を含む最上層の1枚を接着します。
この上下2枚だけで網戸の重量を支えます。
 

2mmのシャフトを通して中心を確認します。
やはり軸受けの2枚に頼りなさを感じます。
 

POM製ホイールを
ホルダーにセットします。
 

シャフトを切断して長さを
調整し軸穴に通します。

 

シャフトの両端に瞬間接着剤を
落とし、脱落を防止します。
 

何とかそれらしきものの完成です。右端上の穴は元は突起が
出ており、アウター両サイドの溝をガイドに移動します。また、
下の穴にはホイールを押し下げるスプリングが取り付けられ
ます。不可欠な機能とは思えないので、いずれも省略します。
 

網戸の両サイド用に左右対称形で2個製作します。
いずれもPOM樹脂製ホイールは軽く回転します。

 

ホルダーをインナーにセットします。右端
下側の穴にフレームの突起を通します。
 

引き抜いた時と逆の手順で
インナーをアウターに差し込みます。
 

アウター右端に突き出るツメが引き込まれている
状態です。ホイールが下がり走行できる状態です。

 

ツメを引き出すとインナーが
同方向に移動するので、
 

ホイールが引き上げられ、網戸の
脱着を妨げない状態になります。
 

緑色のピンのような部品を
元の位置に嵌め込みます。
 

網戸に取り付けた途端、バラバラに破損して使い物にならないかも
知れません。その時は引き揚げてきて、次の手を考えるまでです。

 

高齢者施設のリビングに戻り、
用意した戸車を取り付けます。
 

スリットに滑り込ませるだけです。
アウター内のツメがかかりロックされます。
 

ホイールを完全に引き上げた
状態でセットしなければなりません。

 

ホイールが下りていると、網戸を
レールに入れることができません。
 

ホイールがレールに正しく乗っていることを
確認し、アウター端のツメを押し込みます。
 

ホイール高さ調整ネジを締め込みます。
これで網戸が外れてこなくなります。
 

ホルダーが壊れる様子もなく、それ
どころか網戸を軽快に開閉できます。

 

何回か往復させているうちに壊れるかと
思いきや・・、スムーズなままです。
 

ご用命があったのは、実は昨年の11月です。以来、年を越して既に
3か月ほど問題なく機能しているようです。アクリル材ではさすがに
耐衝撃性が心配なので、ABSやポリカーボなどを検討したいものです。
しかし、材料性状に加えて造作性を考慮しないと作りたいものも作れず
悩ましいところです。サッシや網戸などの住宅設備(エクステリア)は
建築後数十年にわたり使用されるので、家電製品のような修理保証
では溜まったものではありません。10年後に戸車が破損し、補修部品が
廃番では本当に困ります。数千円の戸車交換で済むところを、網戸ごと
サッシごと交換です・・とまで説明する業者さんが実際にいるようです。

 
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