高齢者施設内の広いリビング、その南北両側に掃き出し窓が
並びます。しっかりしたサッシが建付けられ、採光面積が大きい
ので室内の隅々まで外の光が届きます。サッシに不具合があり、
点検と必要な修理のご用命です。施設関係は最優先で出向きます。
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サッシ外側の網戸が開閉できないそうです。
サッシとセットになった専用のメーカー品です。
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サッシ本体や網戸の開閉不良は
およそ定番の不具合です。
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溝にゴミが溜まっているだけのこともありますが、
今回は戸車がまともに機能していないようです。
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網戸を取り外し、戸車の状態はもちろん
レールとサッシフレームとの当たりも点検します。
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引っこ抜いた左右の戸車です。片方はホイールがホルダーごと
破断しており、他方はホルダーごと無くなっています。どう見ても
これではダメです。ここまで破損してしまうと、補修用部品を取り
寄せて丸ごと交換するしかありません。実は、過去に反対側の
掃き出し窓で、同じく網戸の戸車を交換したことがあります。
発注の履歴を調べれば型番の特定は簡単、今回は楽勝の
お仕事です。と、入手した戸車を後日持参するも、何と仕様が
異なり取り付け不可です! 結局、適合する補修部品は既に
廃番になっているのか、どうしても手に入れることができません。
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事情を説明してご用命をお断りすることは簡単です。しかし、
入居者や職員の方々は網戸なしの生活を余儀なくされます。
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ホイール(車輪)を保持するホルダーは、
元々内部に長く延びる一体の部品でした。
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ホイールと反対側に、外から手動で操作
できる、ツメのような部品が出ています。
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この突起を引き出したり
押し込んだりすることで、
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ホイールのホルダーが内部に引き
込まれたり外に押し出されたりします。
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その際に、ガイド溝の形状に沿ってホイールが
上下する仕組み、つまり高さを調整する機構です。
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ホイールおよびホルダーを内包するハウジングは
インナーとアウターの2つから構成されています。
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緑色のロックツメを取り除き、インナーを
ホルダーごとアウターから引き出します。
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たかが網戸の戸車・・、なのに
何ですかこの精緻な構造は!
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内部に残されていたホルダーの残り半分です。この
スプリングはホルダーを自動的に下げるものです。
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反対側の戸車も点検します。アウターと
インナーはいずれも原状を留めています。
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破断部分が残っていませんが、ホイールおよび
ホルダーが機能しない点で先ほどと同じです。
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つまり、この破損してしまったホルダーと
ホイールを復元できれば良いということです。
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板を組み合わせたフレームがホイールを保持
するだけなので、何とかなるかも知れません。
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元のホルダーはABS樹脂あたりをインジェクション一体成型していますが、
何層かのプレートに分解し、互いに貼り合わせて同様の部品を構成します。
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平板で構成できれば、アクリル材をレザー加工することでほとんど
製作可能な範囲に入ります。強度の保持に注意が必要です。
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4層の平板による構成とし、軸穴を
含む最下層の部品を切り出します。
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強度を稼ぐため3mm厚
アクリルを使用します。
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次に、2層目のスペーサーを切り出し
ます。ホイールを避ける形状にします。
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同じく3mm厚アクリルです。残りのスペーサーと
最上層の軸受け部品を1mm厚で切り出します。
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ホイールはこのPOM樹脂製
シャフトから切り出します。
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レース盤を使用し、元のホイールと
同径で厚さ4mm弱に加工します。
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ドリルで径2mmの
軸穴を加工します。
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構成部品の中で、このPOM樹脂製
ホイールだけは耐久性に心配ありません。
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ホルダーの構成部品が揃いました。ホイール以外は強度に
乏しいアクリル材ですので、網戸を支えるのに足るか否か
やってみなければ分かりません。網戸は全体の重量が小さい
ので、開閉時に無理をしなければ持つのではないでしょうか。
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部品を組み立てます。アクリル
専用接着剤で貼り合わせるだけです。
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貫通穴の位置やホイールの
中心を正確に合わせます。
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アクリル専用接着剤の接着原理は
拡散接着で、接合強度が抜群です。
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もう1枚スペーサーを入れます。
これでホイールの厚みを超えます。
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複数枚が重なり合うとそこ
そこの強度が出てきます。
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最後に軸穴を含む最上層の1枚を接着します。
この上下2枚だけで網戸の重量を支えます。
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2mmのシャフトを通して中心を確認します。
やはり軸受けの2枚に頼りなさを感じます。
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POM製ホイールを
ホルダーにセットします。
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シャフトを切断して長さを
調整し軸穴に通します。
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シャフトの両端に瞬間接着剤を
落とし、脱落を防止します。
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何とかそれらしきものの完成です。右端上の穴は元は突起が
出ており、アウター両サイドの溝をガイドに移動します。また、
下の穴にはホイールを押し下げるスプリングが取り付けられ
ます。不可欠な機能とは思えないので、いずれも省略します。
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網戸の両サイド用に左右対称形で2個製作します。
いずれもPOM樹脂製ホイールは軽く回転します。
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ホルダーをインナーにセットします。右端
下側の穴にフレームの突起を通します。
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引き抜いた時と逆の手順で
インナーをアウターに差し込みます。
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アウター右端に突き出るツメが引き込まれている
状態です。ホイールが下がり走行できる状態です。
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ツメを引き出すとインナーが
同方向に移動するので、
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ホイールが引き上げられ、網戸の
脱着を妨げない状態になります。
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緑色のピンのような部品を
元の位置に嵌め込みます。
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網戸に取り付けた途端、バラバラに破損して使い物にならないかも
知れません。その時は引き揚げてきて、次の手を考えるまでです。
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高齢者施設のリビングに戻り、
用意した戸車を取り付けます。
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スリットに滑り込ませるだけです。
アウター内のツメがかかりロックされます。
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ホイールを完全に引き上げた
状態でセットしなければなりません。
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ホイールが下りていると、網戸を
レールに入れることができません。
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ホイールがレールに正しく乗っていることを
確認し、アウター端のツメを押し込みます。
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ホイール高さ調整ネジを締め込みます。
これで網戸が外れてこなくなります。
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ホルダーが壊れる様子もなく、それ
どころか網戸を軽快に開閉できます。
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何回か往復させているうちに壊れるかと
思いきや・・、スムーズなままです。
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ご用命があったのは、実は昨年の11月です。以来、年を越して既に
3か月ほど問題なく機能しているようです。アクリル材ではさすがに
耐衝撃性が心配なので、ABSやポリカーボなどを検討したいものです。
しかし、材料性状に加えて造作性を考慮しないと作りたいものも作れず
悩ましいところです。サッシや網戸などの住宅設備(エクステリア)は
建築後数十年にわたり使用されるので、家電製品のような修理保証
では溜まったものではありません。10年後に戸車が破損し、補修部品が
廃番では本当に困ります。数千円の戸車交換で済むところを、網戸ごと
サッシごと交換です・・とまで説明する業者さんが実際にいるようです。
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