とは言いましても、守谷工房は自動車整備の資格を
持ち合わせませんので、実車ではなく子供用の乗用
玩具です。走行不能に陥り、電気に詳しい方が一度
修理されたそうですが再び故障。メルセデスジャパン
・・ではなく、テックベース守谷に修理のご依頼です。
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他界されたお爺さんからお孫さんに
プレゼントされた大切な1台だそうです。
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実車の精悍さを十分に残した
優れたフォルムデザインです。
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運転席周りもオモチャの域ではありません。
配置されているスイッチ類は全て機能します。
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イグニッションキーも実車のまま。自動車を
運転するお父さんを、子供は見ているでしょう。
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キーを回すと、電子回路で合成
されたエンジン音が聞こえます。
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ですが動作はそこまでで、床面のアクセル
ペダルを踏んでもベンツは走り出しません。
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運転席シートを外すと内部に
バッテリーが収納されています。
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回路計を当てるとしっかり電圧が出ています。
充放電も含めてバッテリーは問題ないようです。
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電力制御を経てモーターに
接続されるケーブルです。
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バッテリーの配線も外し電力系
配線の点検に取りかかります。
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バッテリーやモーターを出たケーブルは、ボデーの右側
サイドシル内を配線されています。固定ネジを緩めます。
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オモチャとはいえ必要十分な強度と
防水構造が考えられています。
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運転席周りでケーブルに接続
されているスイッチ類を外します。
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前進・後進・パーキングを切り替える
シフトノブです。どこまでも本物志向。
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右側ドアパネル内部でスイッチとケーブルが
コネクタ接続されているので、抜いておきます。
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アクセルぺダルの配線は
裏側(底側)に出ています。
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アクセルペダルは床面に嵌め込まれて
おり、少しスライドさせると外れてきます。
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ケーブルを抜き取ります。踏み込みペダル、
スイッチ、ベースプレートで構成されています。
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速度を増減させるアクセルですが、
実際は単投のON・OFFスイッチです。
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さして複雑な配線ではありませんが、実装状態が
ひどく雑でケーブルの接続関係が理解できません。
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あまりに面倒なので本体から
ハーネスごと外して確認します。
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詳しく調べるため作業場所をデスク上に変えます。製造時は
もちろん正常に動作したのでしょうが、ハーネスの組み立てが
下手くそ過ぎます。同じ行き先同士で長さが異なり、ケーブル
端が揃わず、同時に行き先が異なるケーブルが不用意に
交差しています。メンテのしやすさから最も遠い状態です。
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双極性スイッチの場合、コネクタとの差し
込み方向を間違えないよう合印を付けます。
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支離滅裂なケーブルの交差を先に解消
します。故障原因の捜索はその後です。
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ケーブルがでたらめに交差した状態で
コネクタに打ち込まれているので厄介です。
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ピン抜きを差し込み交差を解消
したいケーブルを引き抜きます。
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全体的に無理がなく外観的に分かりやすい
交差に変更し、再びピンをコネクタに戻します。
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他のコネクタ・ケーブルも同じように解消します。
そうこうしていると配線構成の全貌が見えてきます。
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理解を完全にするためハーネス
構成(配線図)を作成します。
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これまた雑ではありますが、
自身が理解するには十分です。
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自分だけ理解できるとするのも身勝手なので、清書しておきます。
いよいよ簡単な配線に過ぎないのに、あそこまで分かりにくい実装も
いかがなものでしょう。まずイグニッションキーは電源(バッテリー)の
メインスイッチです。2組の2回路双投スイッチを中心に回路が構成
されています。図中右側は前進・ニュートラル(停止)・後進を切り
替えます。左側は運転者による直接操作(マニュアル)と、ラジオ
コントロール(RC)によるリモート操作を切り替えます。アクセル
ペダルの単投スイッチはマニュアル時のみに機能し、モーターの
トルクが小さく加速も弱いのでON・OFFで十分なのです。RCに
切り替えると、アクセル・前進・後進の各スイッチが別基板上の
リレーに置き換えられ、ラジオコントロールでリモート操作できます。
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バッテリーの電力がスイッチ回路を経由し
モーターに戻る配線を点検します。
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アクセルスイッチを入れると・・、
電圧が正常に出ています。
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全く走行しないわけではないようですが、
そうこうしているうちに電圧が出なくなります。
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前進・後進を切り替えるとタイミングに
より電圧が出たり出なかったりします。
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コネクタから双投スイッチを
抜き取り、分解して点検します。
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乗用玩具もベンツクラスになると
シフトノブが装備されています。
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既存の電気スイッチに部品を追加し
それらしさを醸し出しています。
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スイッチのこの部分、操作ツマミが
特殊形状で見たことがありません。
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つまり、元の部品を修復できないと
代替手段がなく後で苦労しそうです。
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内部の接点・切片を点検します。
案の定、接点が変色し切っています。
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ドライバーの先で接点表面を削ります。
こんなものでしょう、綺麗になりました。
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可能切片上の接点はさほど劣化していません。
が、繰り返し荷重により大きく変形しています。
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変形を修正(平らに)しスイッチを組み戻し
ます。電気的接触に問題はありませんが、
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前進・後進それぞれでアクセル
スイッチを入れてみます。
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前進・後進を繰り返し切り替えても、接触不良は起こりません。
モーターおよび右側後方タイヤがスムーズに回転します。
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ラジコンによるリモート操作も動作
確認します。RC側に切り替えます。
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送信機には2本のスティックがあり、左側が
前後進、右側がステアリングを操作します。
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ハーネスの一部が右側前輪タイヤハウスの
隙間からボンネット内に入り込みます。
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ボンネットカバーを取り外すと、引き込まれた
ハーネス(ソケット)と制御基板が現れます。
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制御基板上には、ラジオコントロール受信部とモーターを
駆動するリレーが組み込まれています。リレーの一部は
ステアリング制御用で、ベンツのハンドルは別モーターで
駆動される何とパワーステアリング仕様になっています。
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動作確認の結果は、前後進とも反応があり
ません。ステアリング操作は正常に動作します。
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消耗品であるリレー、および回路基板の
状態を点検しますが特に異常は見当たりません。
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受信側だけでなく送信側も点検しておきます。
カバーを開ける前から内部でカラカラ音がします。
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送信機内部にこのような樹脂片が
落ちています。何か部品の破片のような。
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前後進スティックの内側可動部に
部品が折損したような断面があります。
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先ほどの破片と断面が一致します。
この突起がどこかで折れたようです。
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接合面が小さく部品長があるので、十分な強度を
伴う復元は簡単ではありません。工房が得意とする
2種類の接着剤を併用する方法で接合します。元の
材料強度と同じくらいの強度が出ているはずです。
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この突起がレバーとなり基板上の金属製電気切片を
切り替えます。結果は前後進とも完全に操作できます。
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先の電力系ハーネスも酷いものでしたが、
ボンネット内の配線もこの通りです。
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2度と関わることはないと思いますが、
良識として整理・整頓し直します。
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その前にボンネット内に入り込んだ
埃を掃除機で吸い取っておきます。
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配線を束ね直し新しいインシュロックで固定していき
ます。元の保護チューブはできるだけ再利用します。
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これが製品レベルのアートワークでしょう・・そうでも
ないですか。せめてこのくらいに仕上がっていれば、
メンテする意欲も萎えずに済むってぇものでしょう。
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サイドシル内のハーネスも
小奇麗に整えて収めます。
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アクセルペダル(スイッチ)を元に戻します。
単投のモメンタリースイッチをベースに組み込み、
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アクセルペダルを上に被せます。
ベンツらしく妥協がありません。
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ここまで組み上がった状態で、フロアの
開口部にスライドさせて嵌め込みます。
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リモート切り替えスイッチやシフトスイッチを
元の位置に戻し、ハーネスを最終的に整えます。
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サイドシルを取り付け
ネジで固定します。
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ボンネット内の基板には制御チップが搭載されていて、このPICには
色々な面白付加機能が書き込まれています。イグニッションキーを
回すとエンジンの始動音が響き、ハンドル上のボタンでクラクションを
始め、様々な擬態音や音楽も流れます。勿論ヘッドライトが点灯し、
その光源は既にLED化されています。ご依頼主ご使用の自家用車も
きっとベンツ・・なのでしょうね。最後に、全体的にくすんでしまった
ボディをバフ研磨し、コンパウンドで軽く傷を取り除きます。ワックス
代わりにシリコン液を塗り広げると新車の輝きが復活、納車します。
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