小学5・6年生くらいの少年がおもちゃ病院に持ってきた小型ドローンです。他の
ドクターが途中まで分解した状態から引き継ぎました。ローター4基のうち1基が
回転せず、当然飛行させることが出来ません。老眼には辛い修理になりそうです。
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引き継いだ時点で、回転しないローターの
駆動モーターが既に取り外されています。
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モーター底部のキャップが抜けていますが、
これは非常に重要なモーターの一部です。
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ローターを高回転させるため、ドローンには超小型の直流整流子モーターが
採用されています。キャップのような部品の内側には、整流子に電力を伝える
ための2枚のブラシが組み込まれています。見るからに状態が悪そうです。
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モーター本体の底部を観察すると、コイルを巻き付けられたローター(回転子)が
中に収められています。中心をシャフトが貫通し、シャフト端には整流子が見えます。
整流子の枚数、あるいはコイル配線の接続端数から5極モーターだと分かります。
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院長が交換用モーターを探してくれていますが、整流子周りの
修理を試みます。微細な作業なのでピンセットの先を研ぎます。
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モーター(キャップ)の径は7mmしかありません。ブラシの
状態が非常に悪いので、真鍮板による再生を考えます。
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先に元のブラシを取り除きます。精密加工された
樹脂製キャップの内側に複雑に組み込まれています。
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ピンセットの先で注意深く少しずつ取り出します。
ブラシの先がささくれたような形をしています。
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2極分のブラシを引き出しました。確かに
先端が細くささくれたような形状です。
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想像するにブラシの先、整流子と接触する部分に切り込みが
入っているようです。しなやかに接触させるための工夫でしょう。
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ローターが高速回転するためにも有利な方法です。
最後にブラシと電源コードの半田接続を切り離します。
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何らかの原因でキャップの固定が緩み、ブラシの
固定が不安定となりブラシの先が破損したようです。
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取り除いたブラシの残骸です。切り込みにより
細く分割されたブラシの先が形を留めていません。
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ブラシを取り除いたキャップ部分です。
この中に新しいブラシを組み込みます。
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0.1mm厚の真鍮板(リン青銅板の在庫なし)
から0.5mm幅で細長い材料を切り出します。
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薄刃のカッターナイフを使用しても
両側に多少の毟れが残ります。
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ブラシの先に切り込みを入れ糸状に
分割するなど、もちろん無理です。
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キャップ内側の成型突起に合わせ
真鍮板を折り曲げていきます。
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根元部分を樹脂突起の形状に
合わせて軽く変形させます。
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整流子に接触する部分は直線、整流子を滑り
込ませるためその先を僅かに内側に曲げます。
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片側のブラシを何とか組み込みました。拡大鏡下での作業ですが、手で加工できる
限界ぎりぎりです。微細に成型された突起類を破損すると取り返しが付きません。
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突起の隙間に押し込んだ部分を瞬間接着剤で
固定し、電源コードと半田付けで接続します。
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もう一方のブラシを組み込みます。
2本のブラシが互いに接触しています。
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こちらも瞬間接着剤で固定し、
電源コードに半田付けします。
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少し折り曲げておいたブラシの先端からローターの
シャフトを滑り込ませ、ブラシで整流子を挟みます。
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上手く組み付けが出来たか否かは、通電してみれば分かります。動作しなかった
1基のローターが息を吹き返しました。今のうちに瞬間接着剤でキャップを固定します。
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ドローン本体への組み付けを進めます。組み立て
作業中に再び不具合が起きないよう祈ります。
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配線を本体内の隙間に
丁寧に収めます。
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底面側のカバーを取り付けます。
全くズレの無い精密加工部品です。
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精密ネジ5本により固定します。カバーの
内側にバッテリーが組み込まれています。
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修理完了・・したのですが、おもちゃ病院で引き継ぐ直前まで数名のドクターが
何か議論していたことを思い出しました。ローターが回転すると何故か上方に
向かって気流・風圧が発生し、ドローンが浮遊する気配がありません。逆に
床に押さえ付けられたままです。実際に操作してみると・・、確かにそうです。
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セット内に交換用のローター羽根が入っていることで
気付きました。羽根には右回転用と左回転用があります。
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右回転用と左回転用が全て
逆に取り付けられていました。
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おもちゃとはいえドローンに組み込まれている
モーターとリチウムイオン電池の性能は驚異的です。
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軽々と飛行する様子を写真に収めたかった
のですが、とても操縦のコツがつかめません。
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限界ギリギリの微細手加工でブラシを再生しましたが、やはり接触面積が大きく接触
抵抗も大きいようで、1基だけローターの回転数が最大にならないようです。ローターを
停止させる時、一番先に回転が止まることから推測されます。しかし、高性能ジャイロに
よる姿勢制御装置の働きで、僅かな推力差などものともせずドローンはかっ飛びます。
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