シアターオルゴールの修理をお願いしたいと、市内の方が
工房へ直接お持ち込みになりました。オルゴールの修理は
何件も対応してきましたが、「シアター」と付く製品は初めて
です。実物は正に小さな「劇場」で、驚くほど精巧な造りです。
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ご依頼主が説明のため事前に同系製品の動画(Youtube)を
送って下さいました。精巧な動きにしばし見入ってしまいます。
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海外で購入されたそうで、その後
全く動かなくなってしまったそうです。
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オルゴールではありますが、曲はメロディ
ICによる電子音、つまり電気式です。
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ならば、電源の不良、接続部の接触不良・・
あたりで楽勝の修理を期待してしまいます。
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劇場~見世物小屋の風情漂う
外側のボックスを取り外します。
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底面の固定ネジを緩めると
劇場の外装が持ち上がります。
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凝った木工芸により、オペラやバレーダンスが
披露される権威ある劇場建築を模しています。
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このオルゴールには、クラシック曲に合わせて人形のダンサーが
バレーを踊る仕組みが組み込まれています。人形ごとに細かな
動きが作り込まれています。そして最大の特徴は、3つの舞台
設定が用意されていて、緞帳が開閉するたびに円形の舞台が
回転しシーンを変化させます。設計者の創造力に驚かされます。
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背面側から眺めるとスタンバイして
いる他2つの舞台が見えます。
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ひとつは背景全体が青色で雪景色の
風景、5体の人形が置かれています。
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もうひとつはピンク色の背景に
やはり5体の人形が確認できます。
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正面に来ているもう1面は、緞帳の
隙間から覗くことしかできません。
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ACアダプタを接続します。アダプタの
機能は既に確認済み、正常です。
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DCジャック、電源スイッチ、音量調整用
ツマミの内側に小さな基板が付いています。
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隙間が狭く電圧の確認などができ
ません。いったん取り外します。
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ぐらつき防止なのか・・、基板配線面上に
グルーがひと筋流れて固着しています。
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点検の邪魔になるので
丁寧に剥がし取ります。
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あらためてDCプラグを差し込みます。スイッチを
ONにしても動作する気配は全くありません。
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基板配線面で電源が接続される
端子の電圧を確認します・・ゼロです。
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さらに基板を覆うカバーも
外してみることにします。
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音量調整用のツマミを抜き取ります。今も
残る製品タグのリードが掛けられています。
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DCジャックは基板に直接半田付けされており、
配線面に電圧がかからない理由が分かりません。
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もう一度ACアダプタの出力をプラグで
確認します。正常に電圧が出ています。
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基板配線面側でも、もう一度電圧を
確認します・・・、あれっ出ています。
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基板を見ると、電源スイッチがOFFです。
スイッチをONにして電圧を調べると、
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先ほどのようにゼロにはなりませんが、
通電すると電圧が極端に低下します。
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何らかの原因で電源電圧が大きく低下し、本体が動作
しないようです。基板から出た電源コードが本体支柱に
沿って上方に延びて行きます。楽勝第1段の崩壊です。
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本体の天井面に複雑な動作をもたらす機構が集中
しています。伝統的な機械式オルゴールのイメージ
ではなく、高度に設計された玩具の様相です。機構の
上に複雑そうな(面倒そうな)電子基板が載っています。
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先に機構関係をざっと点検しておきます。手前に
見えているゴムベルトで連結されたモーターと
プーリです。緞帳を左右に開閉させます。その
ベルトが多少劣化しているので交換しておきます。
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緞帳の開閉を検知するためリミットスイッチが
取り付けられています。信号はPICに入ります。
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反対側にもうひと組モーターで駆動される
プーリがあります。舞台全体を回転させます。
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120度回転して舞台シーンが変わる
たびに停止させるためのセンサーです。
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回転舞台の天井面に接触して
回転位置を検出しPICに送ります。
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電気系の話に戻ります。支柱を伝ってきた電源
コードです。クリップをくぐり抜け基板へ向かいます。
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基板面上で電源が接続されるポイントです。
あまり上手な半田付けではありません。
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半田付け不良による不具合も少なくないので、配線は
全てやり直します。コードの配線先をマークしておきます。
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複雑な動きを制御するため本体各部にいくつもの
センサーがあり、信号線が基板に集まります。
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各信号線にタグを貼り番号を付します。
それにしても下手くそな半田付けです。
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配線の接続不良が原因である
可能性は小さくありません。
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基板上の間隔の狭いランドに対し、末端処理が
いい加減な状態で半田付けされています。
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コードの根元で芯線が剥き出しの箇所が
あり、近接するコード同士で短絡が心配です。
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使用されているビニルコードは被覆が耐熱性
ではなく、半田ごての熱で簡単に溶け出します。
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このような端子が近接している
部分はとりわけ心配です。
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配線されているコードをいったん全て取り外しました。各接続先の
ランドには、OPEN、CLOSE、DOLL、DOORなど機能が大まかに
分かるよう印字されています。さて、この状態で電源のみを接続して
みると・・、まだ同じように電圧が大きく低下します。基板内に過剰な
電流が流れ込んでおり、不具合は基板上にあることが分かります。
配線されたコードやその先の回路には原因がないことになります。
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配線が除かれすっきりした基板を眺めます。全体を制御
するPICとすぐ手前のサウンドチップで構成されています。
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残りは数個のトランジスタと電解コンデンサ
です。取り外して片端からチェックしていきます。
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モーター制御に使われるトランジスタ、
過電流で破損しがちですが、正常です。
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モーター回路に組み込まれているコンデンサ、動作環境が
厳しいので劣化しやすいのですが・・、どれも正常です。
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段々選択肢が狭まってきましたが、サウンドチップの
電源に接続されている電解コンデンサも一応調べます。
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動作環境が緩いので壊れることはない・・、
ぶっ壊れています。0.18Ω、ほぼ導通です。
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この電解コンデンサを通して電源がほぼ接地
され、大きな電圧低下を招いていたわけです。
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低品質(少なくとも高品質ではない)部品なので
基板上の電解コンデンサは全て新品に交換します。
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そして、取り外しておいたビニルコードは
末端を綺麗に加工して半田付けし直します。
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ビニルコードの根元で芯線が剥き出しに
なっているのは、美観的にもよろしくありません。
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テープに記入した番号を手掛かりに、
元の接続端子(ランド)に接続します。
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電源コードの配線を
支柱に固定し直します。
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さて、あらためて電源を投入すると、舞台
天井部分の照明LEDが点灯しています。
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正常に電源が入ったようです。PICに書き込まれた
プログラムに従って、緞帳がゆっくり左右に開きます。
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完全に開くと最初のステージが始まります。
バレーダンサー(人形)が可愛らしく踊ります。
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1曲目の演奏が終わるといったん緞帳が
閉じ、閉じている間に舞台が回転します。
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再び緞帳が開くとステージは別のシーンに
変わり、演奏される曲も変わります。
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外側のボックスを元に戻すと演出効果が一挙に
高まります。それぞれのステージにおそらく異なる
ストーリーが込められているのでしょう。舞踏芸術に
詳しい方なら理解できるのかも知れませんが。
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3つのステージに対しオルゴール曲は5~6曲
組み込まれているようで、毎回組み合わせが
異なり色々な演技・演奏を楽しむことができます。
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各ステージに配置されている人形は、おそらく職人の
手によるもので、どれも表情豊かで手の込んだものです。
手作りされた逸品だけに、中古品でもとんでもない値段で
売買されています。難点をひとつ申し上げれば、電子音
によるサウンドが本体の造形に対してあまりにチープです。
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