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絢爛シアターオルゴールの修理(2024.7.15)

シアターオルゴールの修理をお願いしたいと、市内の方が
工房へ直接お持ち込みになりました。オルゴールの修理は
何件も対応してきましたが、「シアター」と付く製品は初めて
です。実物は正に小さな「劇場」で、驚くほど精巧な造りです。

 

ご依頼主が説明のため事前に同系製品の動画(Youtube)を
送って下さいました。精巧な動きにしばし見入ってしまいます。

 

海外で購入されたそうで、その後
全く動かなくなってしまったそうです。

 

オルゴールではありますが、曲はメロディ
ICによる電子音、つまり電気式です。

 

ならば、電源の不良、接続部の接触不良・・
あたりで楽勝の修理を期待してしまいます。

 

劇場~見世物小屋の風情漂う
外側のボックスを取り外します。

 

底面の固定ネジを緩めると
劇場の外装が持ち上がります。

 

凝った木工芸により、オペラやバレーダンスが
披露される権威ある劇場建築を模しています。

 

このオルゴールには、クラシック曲に合わせて人形のダンサーが
バレーを踊る仕組みが組み込まれています。人形ごとに細かな
動きが作り込まれています。そして最大の特徴は、3つの舞台
設定が用意されていて、緞帳が開閉するたびに円形の舞台が
回転しシーンを変化させます。設計者の創造力に驚かされます。

 

背面側から眺めるとスタンバイして
いる他2つの舞台が見えます。

 

ひとつは背景全体が青色で雪景色の
風景、5体の人形が置かれています。

 

もうひとつはピンク色の背景に
やはり5体の人形が確認できます。

 

正面に来ているもう1面は、緞帳の
隙間から覗くことしかできません。

 

ACアダプタを接続します。アダプタの
機能は既に確認済み、正常です。

 

DCジャック、電源スイッチ、音量調整用
ツマミの内側に小さな基板が付いています。

 

隙間が狭く電圧の確認などができ
ません。いったん取り外します。

 

ぐらつき防止なのか・・、基板配線面上に
グルーがひと筋流れて固着しています。

 

点検の邪魔になるので
丁寧に剥がし取ります。

 

あらためてDCプラグを差し込みます。スイッチを
ONにしても動作する気配は全くありません。

 

基板配線面で電源が接続される
端子の電圧を確認します・・ゼロです。

 

さらに基板を覆うカバーも
外してみることにします。

 

音量調整用のツマミを抜き取ります。今も
残る製品タグのリードが掛けられています。

 

DCジャックは基板に直接半田付けされており、
配線面に電圧がかからない理由が分かりません。

 

もう一度ACアダプタの出力をプラグで
確認します。正常に電圧が出ています。

 

基板配線面側でも、もう一度電圧を
確認します・・・、あれっ出ています。

 

基板を見ると、電源スイッチがOFFです。
スイッチをONにして電圧を調べると、

 

先ほどのようにゼロにはなりませんが、
通電すると電圧が極端に低下します。

 

何らかの原因で電源電圧が大きく低下し、本体が動作
しないようです。基板から出た電源コードが本体支柱に
沿って上方に延びて行きます。楽勝第1段の崩壊です。

 

本体の天井面に複雑な動作をもたらす機構が集中
しています。伝統的な機械式オルゴールのイメージ
ではなく、高度に設計された玩具の様相です。機構の
上に複雑そうな(面倒そうな)電子基板が載っています。

 

先に機構関係をざっと点検しておきます。手前に
見えているゴムベルトで連結されたモーターと
プーリです。緞帳を左右に開閉させます。その
ベルトが多少劣化しているので交換しておきます。

 

緞帳の開閉を検知するためリミットスイッチが
取り付けられています。信号はPICに入ります。

 

反対側にもうひと組モーターで駆動される
プーリがあります。舞台全体を回転させます。

 

120度回転して舞台シーンが変わる
たびに停止させるためのセンサーです。

 

回転舞台の天井面に接触して
回転位置を検出しPICに送ります。

 

電気系の話に戻ります。支柱を伝ってきた電源
コードです。クリップをくぐり抜け基板へ向かいます。

 

基板面上で電源が接続されるポイントです。
あまり上手な半田付けではありません。

 

半田付け不良による不具合も少なくないので、配線は
全てやり直します。コードの配線先をマークしておきます。

 

複雑な動きを制御するため本体各部にいくつもの
センサーがあり、信号線が基板に集まります。

 

各信号線にタグを貼り番号を付します。
それにしても下手くそな半田付けです。

 

配線の接続不良が原因である
可能性は小さくありません。

 

基板上の間隔の狭いランドに対し、末端処理が
いい加減な状態で半田付けされています。

 

コードの根元で芯線が剥き出しの箇所が
あり、近接するコード同士で短絡が心配です。

 

使用されているビニルコードは被覆が耐熱性
ではなく、半田ごての熱で簡単に溶け出します。

 

このような端子が近接している
部分はとりわけ心配です。

 

配線されているコードをいったん全て取り外しました。各接続先の
ランドには、OPEN、CLOSE、DOLL、DOORなど機能が大まかに
分かるよう印字されています。さて、この状態で電源のみを接続して
みると・・、まだ同じように電圧が大きく低下します。基板内に過剰な
電流が流れ込んでおり、不具合は基板上にあることが分かります。
配線されたコードやその先の回路には原因がないことになります。

 

配線が除かれすっきりした基板を眺めます。全体を制御
するPICとすぐ手前のサウンドチップで構成されています。

 

残りは数個のトランジスタと電解コンデンサ
です。取り外して片端からチェックしていきます。

 

モーター制御に使われるトランジスタ、
過電流で破損しがちですが、正常です。

 

モーター回路に組み込まれているコンデンサ、動作環境が
厳しいので劣化しやすいのですが・・、どれも正常です。

 

段々選択肢が狭まってきましたが、サウンドチップの
電源に接続されている電解コンデンサも一応調べます。

 

動作環境が緩いので壊れることはない・・、
ぶっ壊れています。0.18Ω、ほぼ導通です。

 

この電解コンデンサを通して電源がほぼ接地
され、大きな電圧低下を招いていたわけです。

 

低品質(少なくとも高品質ではない)部品なので
基板上の電解コンデンサは全て新品に交換します。

 

そして、取り外しておいたビニルコードは
末端を綺麗に加工して半田付けし直します。

 

ビニルコードの根元で芯線が剥き出しに
なっているのは、美観的にもよろしくありません。

 

テープに記入した番号を手掛かりに、
元の接続端子(ランド)に接続します。

 

電源コードの配線を
支柱に固定し直します。

 

さて、あらためて電源を投入すると、舞台
天井部分の照明LEDが点灯しています。

 

正常に電源が入ったようです。PICに書き込まれた
プログラムに従って、緞帳がゆっくり左右に開きます。

 

完全に開くと最初のステージが始まります。
バレーダンサー(人形)が可愛らしく踊ります。

 

1曲目の演奏が終わるといったん緞帳が
閉じ、閉じている間に舞台が回転します。

 

再び緞帳が開くとステージは別のシーンに
変わり、演奏される曲も変わります。

 

外側のボックスを元に戻すと演出効果が一挙に
高まります。それぞれのステージにおそらく異なる
ストーリーが込められているのでしょう。舞踏芸術に
詳しい方なら理解できるのかも知れませんが。

 

3つのステージに対しオルゴール曲は5~6曲
組み込まれているようで、毎回組み合わせが
異なり色々な演技・演奏を楽しむことができます。

 

各ステージに配置されている人形は、おそらく職人の
手によるもので、どれも表情豊かで手の込んだものです。
手作りされた逸品だけに、中古品でもとんでもない値段で
売買されています。難点をひとつ申し上げれば、電子音
によるサウンドが本体の造形に対してあまりにチープです。

 
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