今日の守谷おもちゃ病院は大変盛況でした。ドクター7名が治療に当たる中、私にも4点の
修理が回ってきました。さらに入院扱いとなり工房に持ち帰ってきたのが、このミシンのおもちゃ
です。子供用の玩具でどのように「縫える」機構を実現しているのか、大変興味を引かれます。
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BANDAI社製「小さなおうちのおはり箱」
という名の実に可愛らしいおもちゃです。
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「おうち」の形をしたボックスに
ミシンが収納されています。
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鍵を開けるとボックスが中心部から左右に
分離し、中からミシンが出てきます。
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取り出したミシン本体です。正直、
私はミシンとは縁がございません。
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外観をいくら眺めても、本当に布を縫う
ことができるのか、判然としません。
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ボックスの内部には付属品・小物を
収納できるようになっています。
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裁縫に必須の糸(毛糸)、糸巻き、チャコ
(でしたっけ?)などが可愛らしく並んでいます。
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付属の説明書に従って使用法を勉強し
ます。まず糸巻きを一つ取り出します。
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糸巻きを糸立て棒に差し込みます。実は写真は
誤りで、右隣のもう1本の棒が正しい位置でした。
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左側の棒は糸巻きに糸を巻き取る時に使用するもので、
ハンドルを回すと手前の糸ガイドが自動的に上下します。
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糸巻きから糸を引き出し、
糸かけを伝い導きます。
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ミシン針に予め糸通しを
くぐらせておきます。
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糸通しのワイヤーに糸(この
おもちゃでは毛糸)を通します。
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糸通しを引いて毛糸を
ミシン針に通します。
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糸通しを取り去ります。
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毛糸を「押さえ」の下を通し後方に引き出し
ます。これで糸の準備は終了(だそう)です。
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布をセットします。使用法の基本を理解するのに
必死で、故障個所を探すどころではありません。
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「押さえ上げ」を回すと「押さえ」が
下に降り、布が固定されます。
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このハンドルを手で回すとミシン掛けが行われます。
ミシン針が上下し、布が少しずつ前方へ送られます。
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途中で布が絡んでいますが、
何となく縫えているように見えます。
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布を取り出してみると、糸が全て抜けてしまいミシン針の
跡が点々と残っています・・・まともに縫えていません。
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まともに縫えていないことは確かですが、原因について
思い当たることは何もありません。分解にかかります。
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化粧シールの下に固定ネジが隠れて
います。少しだけシールに穴を開けます。
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ここにもネジが隠れています。シールを綺麗に剥がせ
れば良いのですが、無理をすると破れてしまいます。
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全ての固定ネジを緩めました。
ミシン本体が左右に分離します。
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左半身です。「押さえ」とその上下機構、糸巻きに
糸を巻き取る機構が組み込まれています。
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右半身にはミシン針の上下機構、布の送り出し機構
など、やや複雑な仕掛けが組み込まれています。
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布テーブルの下部に、何か仕掛けが組み込ま
れていそうなボックスが取り付けられています。
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この大きなU字型の部品は、手回しハンドルの回転を
下側の往復運動に変換するリンクを構成しています。
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揺動軸の固定ネジを緩めると
一連の部品が外れてきます。
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ボックスは布テーブルの下部に
2本のネジで固定されています。
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ボックスの内部が見えてきました。布テーブル中央の
十字穴を通して、ミシン針がボックス内部に入ります。
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リンクにより前後駆動されるスライダーが
ボックス内部を水平方向に貫通しています。
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ちょうどミシン針が入り込む辺りに、内部から
小さな突起状の部品が顔を出しています。
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ボックスは左右に分離することができます。外側
から大きなクリップで挟むことで固定されています。
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クリップを外すと2つに分かれて
ボックス内部が明らかになります。
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スライダーを外してみます。黒い外周のローラー
および小さなL字型の部品と連動するようです。
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スライダーの途中に爪が付いたレバーがあり、
スプリングが上向きに押さえ付けています。
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ローラーの内側にはレバーの爪と
噛み合う歯が刻まれています。
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スライダーが1往復する度に、爪がローラーの歯を
1枚ずつ押し出し、ローラーが一定角度回転します。
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スライダーの先端に小さなプレート部分があります。
(逆さの)「へ」の字型をしたスリットが加工されています。
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スリット付きプレートがちょうど往復する位置に、おおよそL字型をした小さな部品が組み込まれて
います。L字のコーナー部から奥に向かってピンが出ており、ボックスの軸受に止まり回転します。
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L字の短辺端に、樹脂が白く跳んだスポットが
あります。ここにもピンが出ていたようです。
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ピンは折れてどこかへ行ったのでしょう。長辺途中に
加工された突起部は、ミシン針が衝突して削れています。
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L字型部品はピンを介してスライダーとリンク
します。ピンの欠損が不具合の原因です。
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L字型部品は糸をかがる重要な部品です。
残っていた樹脂ランナーからピンを再生します。
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ランナーをホットガンで加熱し、柔らかくなった
ところで左右に引いて必要な太さにします。
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適当なところで切断します。
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必要な長さに切り揃え、
軽く切削して形状を整えます。
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このピンをL字型部品の
欠損部に取り付けます。
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直接接着すると強度が不足する可能性が
あるので、欠損部に穴を開けて取り付けます。
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接合内部に樹脂融着用の接着剤、接合
外部(周囲)に瞬間接着剤を用います。
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ピンを再生しました。部品の右下部に見える微妙な形状の突起は、
ミシン針が往復する度に糸を輪に結びます(スティッチング)。
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修復されたL字型部品を元に戻します。ピンが欠損すると、
裏側にスティッチが形成されず糸が抜けていたわけです。
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ローラーやスライダーを組み付けます。
ローラーが徐々に回転して布を送り出します。
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スライダーが前方(右側)に押し出された状態です。ピンが
スリットの水平部に入り、L字型部品は垂直に立っています。
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スライダーが後方(左側)に引き戻された状態です。ピンが
スリットの傾斜部に入り、L字型部品は左に傾いています。
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再度、スライダーが前方に押し出された状態。
L字型部品の先端がミシン針を受け止めます。
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再度、スライダーが後方に引き戻された状態。
L字型部品が傾きスティッチを形成します。
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一連の駆動部品を右半身に戻します。針先に糸が絡まると
ピンに大きな負荷が生じます。結果折損に至ったのでしょう。
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本体を元通りに合体させます。実に簡便な構造で
見事に布を縫う仕組みが実現されています。
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身近に繊維の密な生地がなかったので
コピー紙を代用にテストして見ます。
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しっかり縫えているようです。
糸(毛糸)が抜けてきません。
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裏側をみると見事な(説明書通りの)スティッチが作られています。玩具の持つ制限域内で、
簡便な構造で複雑な機能が実現されています。設計者の深い合理性に心底感心します。
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元の「おうち」に収納します。
付属品も忘れずに片付けます。
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ネット検索すると「1986年製レア物」などと出てき
ます。古き良き玩具を修理する機会をいただきました。
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