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玩具ミシンの修理(2016.11.30)

今日の守谷おもちゃ病院は大変盛況でした。ドクター7名が治療に当たる中、私にも4点の
修理が回ってきました。さらに入院扱いとなり工房に持ち帰ってきたのが、このミシンのおもちゃ
です。子供用の玩具でどのように「縫える」機構を実現しているのか、大変興味を引かれます。

 

BANDAI社製「小さなおうちのおはり箱」
という名の実に可愛らしいおもちゃです。


「おうち」の形をしたボックスに
ミシンが収納されています。
 

鍵を開けるとボックスが中心部から左右に
分離し、中からミシンが出てきます。
 

取り出したミシン本体です。正直、
私はミシンとは縁がございません。
 

外観をいくら眺めても、本当に布を縫う
ことができるのか、判然としません。
 

ボックスの内部には付属品・小物を
収納できるようになっています。
 

裁縫に必須の糸(毛糸)、糸巻き、チャコ
(でしたっけ?)などが可愛らしく並んでいます。
 

付属の説明書に従って使用法を勉強し
ます。まず糸巻きを一つ取り出します。
 

糸巻きを糸立て棒に差し込みます。実は写真は
誤りで、右隣のもう1本の棒が正しい位置でした。
 

左側の棒は糸巻きに糸を巻き取る時に使用するもので、
ハンドルを回すと手前の糸ガイドが自動的に上下します。
 

糸巻きから糸を引き出し、
糸かけを伝い導きます。
 

ミシン針に予め糸通しを
くぐらせておきます。
 

糸通しのワイヤーに糸(この
おもちゃでは毛糸)を通します。
 

糸通しを引いて毛糸を
ミシン針に通します。
 

糸通しを取り去ります。

 

毛糸を「押さえ」の下を通し後方に引き出し
ます。これで糸の準備は終了(だそう)です。
 

布をセットします。使用法の基本を理解するのに
必死で、故障個所を探すどころではありません。
 

「押さえ上げ」を回すと「押さえ」が
下に降り、布が固定されます。
 

このハンドルを手で回すとミシン掛けが行われます。
ミシン針が上下し、布が少しずつ前方へ送られます。
 

途中で布が絡んでいますが、
何となく縫えているように見えます。
 

布を取り出してみると、糸が全て抜けてしまいミシン針の
跡が点々と残っています・・・まともに縫えていません。
 

まともに縫えていないことは確かですが、原因について
思い当たることは何もありません。分解にかかります。
 

化粧シールの下に固定ネジが隠れて
います。少しだけシールに穴を開けます。
 

ここにもネジが隠れています。シールを綺麗に剥がせ
れば良いのですが、無理をすると破れてしまいます。
 

全ての固定ネジを緩めました。
ミシン本体が左右に分離します。
 

左半身です。「押さえ」とその上下機構、糸巻きに
糸を巻き取る機構が組み込まれています。
 

右半身にはミシン針の上下機構、布の送り出し機構
など、やや複雑な仕掛けが組み込まれています。
 

布テーブルの下部に、何か仕掛けが組み込ま
れていそうなボックスが取り付けられています。
 

この大きなU字型の部品は、手回しハンドルの回転を
下側の往復運動に変換するリンクを構成しています。
 

揺動軸の固定ネジを緩めると
一連の部品が外れてきます。
 

ボックスは布テーブルの下部に
2本のネジで固定されています。
 

ボックスの内部が見えてきました。布テーブル中央の
十字穴を通して、ミシン針がボックス内部に入ります。
 

リンクにより前後駆動されるスライダーが
ボックス内部を水平方向に貫通しています。
 

ちょうどミシン針が入り込む辺りに、内部から
小さな突起状の部品が顔を出しています。
 

ボックスは左右に分離することができます。外側
から大きなクリップで挟むことで固定されています。
 

クリップを外すと2つに分かれて
ボックス内部が明らかになります。
 

スライダーを外してみます。黒い外周のローラー
および小さなL字型の部品と連動するようです。
 

スライダーの途中に爪が付いたレバーがあり、
スプリングが上向きに押さえ付けています。
 

ローラーの内側にはレバーの爪と
噛み合う歯が刻まれています。
 

スライダーが1往復する度に、爪がローラーの歯を
1枚ずつ押し出し、ローラーが一定角度回転します。
 

スライダーの先端に小さなプレート部分があります。
(逆さの)「へ」の字型をしたスリットが加工されています。
 

スリット付きプレートがちょうど往復する位置に、おおよそL字型をした小さな部品が組み込まれて
います。L字のコーナー部から奥に向かってピンが出ており、ボックスの軸受に止まり回転します。
 

L字の短辺端に、樹脂が白く跳んだスポットが
あります。ここにもピンが出ていたようです。
 

ピンは折れてどこかへ行ったのでしょう。長辺途中に
加工された突起部は、ミシン針が衝突して削れています。
 

L字型部品はピンを介してスライダーとリンク
します。ピンの欠損が不具合の原因です。
 

L字型部品は糸をかがる重要な部品です。
残っていた樹脂ランナーからピンを再生します。
 

ランナーをホットガンで加熱し、柔らかくなった
ところで左右に引いて必要な太さにします。
 

適当なところで切断します。

 

必要な長さに切り揃え、
軽く切削して形状を整えます。
 

このピンをL字型部品の
欠損部に取り付けます。
 

直接接着すると強度が不足する可能性が
あるので、欠損部に穴を開けて取り付けます。
 

接合内部に樹脂融着用の接着剤、接合
外部(周囲)に瞬間接着剤を用います。
 

ピンを再生しました。部品の右下部に見える微妙な形状の突起は、
ミシン針が往復する度に糸を輪に結びます(スティッチング)。
 

修復されたL字型部品を元に戻します。ピンが欠損すると、
裏側にスティッチが形成されず糸が抜けていたわけです。
 

ローラーやスライダーを組み付けます。
ローラーが徐々に回転して布を送り出します。
 

スライダーが前方(右側)に押し出された状態です。ピンが
スリットの水平部に入り、L字型部品は垂直に立っています。
 

スライダーが後方(左側)に引き戻された状態です。ピンが
スリットの傾斜部に入り、L字型部品は左に傾いています。
 

再度、スライダーが前方に押し出された状態。
L字型部品の先端がミシン針を受け止めます。
 

再度、スライダーが後方に引き戻された状態。
L字型部品が傾きスティッチを形成します。
 

一連の駆動部品を右半身に戻します。針先に糸が絡まると
ピンに大きな負荷が生じます。結果折損に至ったのでしょう。
 

本体を元通りに合体させます。実に簡便な構造で
見事に布を縫う仕組みが実現されています。
 

身近に繊維の密な生地がなかったので
コピー紙を代用にテストして見ます。
 

しっかり縫えているようです。
糸(毛糸)が抜けてきません。
 

裏側をみると見事な(説明書通りの)スティッチが作られています。玩具の持つ制限域内で、
簡便な構造で複雑な機能が実現されています。設計者の深い合理性に心底感心します。
 

元の「おうち」に収納します。
付属品も忘れずに片付けます。

 

ネット検索すると「1986年製レア物」などと出てき
ます。古き良き玩具を修理する機会をいただきました。

 
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