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TASCAM388執念の修理1(2022.5.14)

 
配送業者さんが横幅80cm以上、重量40kg近くもある大きな荷物を
運んできました。一人では横に寝かすことも立てることも容易ではあり
ません。驚いたのはその梱包の不十分さで、エアパッキンにくるまれた
状態で、つなぎ合わせた薄手の段ボール箱2個に押し込まれています。
梱包に40kgを支える強度はまるでありません。片方の段ボール箱を
外すとオープンリールデッキが顔を出すものの、カバーらしき部品が脱落
しています。配送中に不具合が加わっていなければいいのですが。
 

本体両サイドに取り付けられている化粧板の
角です。強くぶつけたような跡があります。

 

こちら側もひどい状態です。ぶ厚い
MDF材が中央で割れかかっています。

 

届いたのはTEAC製、オープンリールデッキ付きのMTRです。
取りあえずご依頼主に連絡し、このような状態で到着したことを
伝えます。返ってきた回答は、どこもかしこも故障だらけなので
何とかしてほしいとのことです。ご依頼を受けたのは3月末の
ことで、以後修理完了まで1か月以上を費やすことになります。

 

TASCAM388、STUDIO8。8チャンネルミキサーに、
8トラックのオープンリールMTRが組み合わされています。

 

スペックを把握しようにもネット上にもほとんど
資料が残っていません。かろうじて見つけたのは・・

 

こちらのサイトに発売当時カタログのコピーが掲載されています。
8チャンネルではスタジオ録音には不十分ですが、小規模な屋外
ライブ用などに可搬性のある機材として対応できるでしょう。もちろん
ホームスタジオでのトラックダウンには贅沢過ぎる1台です。発売は
1985年(昭和60年)で、当時の価格650000円!!ですって。

 

脱落していたデッキ部カバーを元に戻し
ます。輸送中の衝撃で外れたようです。

 

取りあえず電源を入れてみます。
電源スイッチは背面右端にあります。

 

電源は・・入ります。一列に並ぶVUメーターに、一斉に照明が
灯ります。ひしめき合うツマミ類とともに、メーターのバックライトが
プロの世界を醸し出します。が、2チャンネル(左端から2番目)の
ライトが点灯していません。多分電球が切れているのでしょう。
また、一部のツマミが紛失しているようで間の抜けた印象です。
 

まず、テープデッキ部の動作確認を行います。
テープは走行しないと予め聞いておりますが、
 

この時代のオープンリールデッキでフルロジック
コントロールです。「PLAY」を押しても無反応です。

 

テープが装填されていないことを、テンションアームに
内蔵されたセンサーが検知しているのでしょう。
 

テンションアームがテープ走行位置に
来るようマスキングテープで固定すると・・

 

ソレノイドが動作してピンチローラーがキャプスタンに
接触します。これでテープが送られるはずですが、
よく見るとキャプスタンシャフトが回転していません。
 

セミプロ用の機材を相手に何か分かったような
気分がします。よくあるベルト切れでしょう。
 

ベルト交換で直るならラジカセと同じじゃねぇか。
38kgを縦に置いて外装を外していきます。

 

サイドの化粧板を外します。30mm厚くらいの
MDFで、さほど頑丈な材料ではありません。
 

一部で材料の崩壊が起こっています。ですが、MDFの
脆さが衝撃から本体を保護しているのかも知れません。

 

化粧板と本体金属板の間に水が浸入したので
しょうか。金属板から生じた錆が広がっています。
 

本体金属板の一部は錆による腐食が
進行し、穴が開き始めています。
 

化粧板を固定しているネジの1本が、
錆により本体と固着しています。
 

ネジ頭とネジの途中で折れてしまい
ました。ネジ穴の再利用も困難です。
 

雨天時に屋外で使用されたのでしょうか。サイドパネルと
コンソールパネルの接合部で錆が成長しています。

 

底板を外します。38kgの本体を
支える頑丈な鋼板製です。

 

周囲と中央部に固定ネジがあります。筐体の
組み立て構造からもアナログ感が漂います。

 

底板が開きます。手前にテープ
デッキの駆動系が見えてきます。

 

底板が外れたところで、内外から
もう一度錆の状態を点検します。

 

金属製筐体の内部までは
錆が及んでないようです。

 

ミキサー・MTRとしては小規模な方でしょうが、よくこれだけ膨大な
部品配置と配線作業をやってのけたものです。回路基板の枚数の
多さに、この時点では気が遠くなる思いがします。手が出ません

 

ともあれ、デッキのキャプスタンが回転しない理由、多分
駆動ベルトが切れているのではないか・・の予想がまんま
当っています。破断したベルトの欠片も見当たりません。

 

欠片が見当たらないのではなく、変質した
状態で駆動プーリにこびりついています。

 

スクレーパの刃を使い丁寧に
こそぎ落としていきます。
 

他方、キャプスタン軸に取り付けられた大径
フライホイールの外周面にもこびりついています。

 

こちらもスクレーパで取り除きます。
外周面に傷を付けたくありませんが、

 

このこびり付きようは半端ではありません。
フライホイールの金属表面を軽く浸食しています。

 

ベルトカスを徹底的に取り除いた
上で、IPAで表面を清掃します。

 

0.05%(WRMS)の低ワウフラッターを
実現する大径肉厚のフライホイールです。

 

モーター側のプーリも同じように
IPAを使用して清掃します。

 

駆動ベルトを交換するには、キャプスタンの
スラストブラケットを取り外す必要があります。

 

作業中にフライホイールに力を加えることは禁物
です。キャプスタン軸を変形させかねません。

 

ブラケットにキャプスタン軸の根元が
当たる部分にグリスを入れておきます。

 

工房在庫の5~10mm幅ベルトの
中から適当な長さを選び出します。

 

サービスデータが無いので、付けたり外したりを繰り返して程良い
テンションのものを選びます。これまでの経験からして、テンションの
過不足があると、軽く回転させただけでベルトがずれてプーリーや
ホイールから外れてきます。逆に考えると、サービスデータ通りの
ベルトであっても、外れてくるようでは使い物になりません。さて、
ベルトの交換を終えたものの、やはりキャプスタンが回転しません。
キャプスタン軸が回らないのではなく、モーターが動作していません。

 

この時点で、ベルト交換で楽勝・・の
パターンはどこかに消え去ります。

 

内部を調べるため、デッキ部分を覆うカバー・
パネル類をひと通り取り外すことにします。

 

先ほどせっかく元に戻したアクリル製
ダストカバーですが、あらためて外します。

 

デッキの内部を確認するには、この駆動系
全体を覆うパネルを外さなければなりません。

 

パネルを取り去るには、溝を通るこの
テンションローラーが邪魔になります。

 

化粧カバーを兼ねたローラーキャップが
ねじ込み式になっており、外すことができます。

 

するとテンションローラーも抜き取ることが
でき、これでパネルの溝を抜けられます。

 

左右のテンションローラに加え、ピンチローラー
およびそのキャップも邪魔になります。

 

キャップは同じくねじ込み式です。キャプスタン
シャフト側に雌ネジが切られています。

 

ポリワッシャとともにピンチ
ローラーを抜き取ります。

 

駆動系パネルは周囲4か所で
ネジ固定されています。

 

ですが、先に手前の操作パネルを
外しておかなければなりません。

 

外観を考慮しているのか、4本の
ヘキサネジが使われています。

 

デッキ操作パネルを
軽く持ち上げておきます。

 

取り外す部品がまだあります。
左右のサイドサッシです。

 

内側から2本のネジで
固定されています。

 

防塵と化粧を兼ねた
巧妙な成型部品です。

 

反対側も同じように外します。こちら側には
ダストカバーのガイド溝が加工されています

 

今度こそ外れて来るでしょか。テンション
ローラーの溝に指を入れて持ち上げます・・

 

が、ヘッドブロックのカバーであるベース
ハウジングがしっかりネジ固定されています。

 

6角レンチを使い、5本の
ヘキサネジを緩めます。

 

ベースハウジングを
取り外します。いやはや・・

 

ヘッドブロックの両脇にあるローラーは
パネルを貫通するのでそのままです。

 

ようやくパネルが外れてきます。これで
原因が分からなかったら・・残念です。

 

さすがに贅沢な部品構成です。計3個のソレノイドが並び、
中央の1個は左右巻取りリールのブレーキシュー駆動用。
左側の1個はテープリフター駆動用、右側の1個は再生・
録音時にピンチローラーをキャプスタンに接触させます。

 

カセットデッキなど比較にならない
重厚でゆとりに満ちた造りです。

 

ただし、このモーターが動作すればの話ですが。
回路計を当てると電圧が加わっていません。

 

モーターの駆動回路、つまり
電気系統に問題があるようです。

 

本体後方の上面カバーを外します。
内部に回路基板が集中しています。

 

背面パネルに放熱器が
取り付けられています。

 

放熱器を外してみると、主に電源回路の
パワートランジスタが並んでいますが、

 

右端の2SD313はキャプスタン
モーターのサーボコントロール用です。

 

放熱器を配線ごと引き出してみると、
何と突然モーターが回り出します。

 

そうかと思うと再び回らなくなります。途中のコネクタ
あたりで配線が接触不良でも起こしているのでは?

 

コネクタ類の接続を調べるには、背面
パネルを外さないと手が入りません。

 

手前のコネクタは何とか脱着できますが、
奥(下方)にあるものはまだ無理です。

 

背面オアネルのアクセサリソケットの
固定ネジをいったん緩めます。

 

ソケットへの配線が解除され、
背面パネルがさらに開きます。

 

サーボ用トランジスタへの
配線元をあらためて辿ります。

 

この3ピンコネクタに
つながっています。

 

基板側の端子に接点復活剤を吹き付けて
みます。ついでに他のコネクタも処置します。

 

結果は、相変わらずです。何かの拍子で
モーターが回転したりしなかったりします。

 

迷宮入りしそうな状況に耐え
ひたすら原因を探します。

 

やはりパワートランジスタ基板に、ある
触り方をするとモーターが動作するようです。

 

基板を点検するにはトランジスタを固定している
これらすべてのネジを緩めなければなりません。

 

基板が放熱器から外れましたが
配線の余裕はギリギリの状態です。


無理をするとビニル線が基板への
半田付け部分で切れてきます。

 

基板の裏側、配線パターン面です。ビニル線が
トランジスタの端子に接続されているだけです。

 

Q1からQ5までパワートランジスタの
接続を確認している時に気づきました!

 

基板裏面に「TP-S47-T」と印刷のあるすぐ隣、パワートランジスタ
端子の半田付けに「浮き」があります。モーターのサーボコントロール用と
同じ2SD313で、デバイス番号はQ2です。電源回路で+15Vの供給を
担っており、+15Vが途切れるとモーターのサーボ回路が動作しません。
パワートランジスタ基板に触れることでこのクラックが時々導通し、一時的に
電源回路が復活してモーターが回転したようです。修理作業は簡単です。

 

半田を付け直す・・それだけです。ただし、
フラックスを併用して半田を密着させます。

 

Q1からQ5全てのパワートランジスタに
ついて、念のため半田付けし直しておきます。

 

1985年に65万円もした機材が、半田付けの浮きごときで
ダウンするとは・・。このくらいの基板ですと手作業で半田付け
していたかも知れず、長い年月のうちに不具合が生じても
仕方ないでしょう。しかし、半田付けのし直し程度で復活する
ような不具合により、これまでにも多くの機材が廃棄されて
きているとしたら、大いにもったいなく実に残念なことです。

 

キャプスタン軸が力強くかつ静かに回ります。
ペーパーを当ててシャフト表面を研磨します。

 

ペーパーの番手を上げて、
鏡面に近くなるまで磨きます。

 

送り出し側、巻取り側ともにリール駆動用モータも快調に
動作します。センサーでテープのテンションを検知しながら
トルクを刻々と変化させて適切な回転数を維持します。

 

これで駆動系の修理は一段落で、
次に信号系の動作確認に移ります。

 

録音済みの古いテープを探し
出してきて再生してみます。

 

現時点での状況は、接続したヘッドホンからかすかに再生音が
聞こえてきます。4.75cm/sで録音したテープを19cm/sで
再生しているのでえらく早口になりますが、それはどうでも良い
ことで、小さ過ぎる信号がテープや増幅系のノイズに埋もれがち
であることが大問題です。最悪の場合、8チャンネルのマルチ
トラック録再ヘッドが寿命の可能性もあります。そうなると補修
部品など入手できる
ワケがなく、折角成功したデッキ部の修理も
徒労と化します。そして、この膨大な回路構成に対して、どこから
手を付けていったら良いのか、ただ途方に暮れてしまいます。


 
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