守谷工房のリペア5へ                守谷工房Topへ

スクローラ(糸鋸盤)の整備(2022.11.23)


学校の実習室に設備されているスタンド付きスクローラ(糸鋸盤)を
整備します。およそ40年近くは経過していそうな旧型の製品です。
アームが長く全体的に堅牢な造りで、卓上型とは一線を画します。
 

同型が2台ありいずれも動作しません。製造元の
日工機械株式会社は朝霞市に現存するようですが、

 

WEBもなく詳細は不明です。
電源を入れて不具合を確認します。

 

電源スイッチを入れると、隣のランプは
点灯しませんがモーター音がします。

 

単相260Wの誘導電動機が取り付けられており、
プーリは回転していますがベルトが回っていません。

 

駆動ベルトが経年劣化し、張力が維持できずスリップしています。
少なくともベルトの交換が必要です。加えて、他の部分にも不具合が
ないか点検し、増し締めや注油などひと通り整備します。ほとんどの
部品が頑丈なダイキャスト製で、横倒しにするにも大変な重量です。

 

内部を覗くと太い支柱からスイッチ
操作部に延びる配線が見えます。
 

赤色の配線の先が剥き出し状態で
しかもどこにも接続されていません。
 

保護材もなく危なっかしいので後で
何とかします・・と、その奥を見ると、
 

鋸刃を上下駆動する下側ホルダーの先端が、
樹脂製クランクアームから脱落しています。

 

駆動ベルトの交換だけでは済みません。
関連部分を分解していきます。
 

電動機の固定ボルトを緩め
駆動ベルトを取り外します。
 

スタンド(支柱)とスクローラ本体を
結合する4本のボルトを緩めます。
 

スプリングワッシャを介して強固に締め付け
られています。動作中の振動対策でしょう。
 

ボルトを抜いただけでは分離しません。
本体の下端をハンマーで叩きます。
 

本体とスタンドに分離しましたが
いずれもかなり重量があります。
 

あらためてクランクアーム周りを確認します。ホルダとの
連結が外れているので、鋸刃が動くはずがありません。
 

電動機の回転を伝達する水平
シャフトの固定具を外します。
 

シャフトは前後2か所で固定具内側の
ベアリングを通り支持されます。さて、
 

作業にかかる直前に、スクローラの足元に
このような部品が落ちているのを見つけました。
 

材質は分かりませんが金属製のスリーブです。すぐに気づきました、
ホルダー先端の突き出しシャフトが内側に嵌まります。そして樹脂製
クランクアームの先端内側にスリーブ自身が程良く嵌まります。
ホルダーとクランクアームの隙間を埋め、オイルを保持して潤滑を
図るスペーサーということです。作業前に見つけることができて
幸運です。もし紛失していたら大変なことになっているでしょう。
 

冷や汗を感じながら組み付け作業にかかり
ます。先にホルダー側シャフトに注油します。
 

回転させながらスリーブを通し
摺動面の馴染みを取ります。
 

クランクアーム先端の穴に通します。これで電動機の
回転運動がホルダーの往復運動に変換されます。
 

シャフトの固定具をネジで
本体に取り付けます。
 

ここで駆動ベルトを交換します。元のベルト長は620mm
くらいですが、なかなか適当な製品が見つかりません。

 

7M規格で615mm長を手配したところ
外側溝付きの小プーリ用が届きました。

  

さほどの重負荷でもないので
このまま取り付けます。
 

手でシャフトを回してみると、取りあえず
ホルダーが往復するようになったのですが、

 

ホルダー先端の取り付け部にかなり遊びがあり、
この方向に移動すると簡単に抜けてしまいます。
 

スリーブが脱落しないような処置が必要です。
スリーブに接する直近の位置2か所に穴を開けて、

 

小ネジを打ってスリーブを固定します。元はスリーブが
出てこないような何らかの形状に加工されていたのだと
思います。スリーブの内側とホルダー先端のシャフト間で
摺動回転させるので、ここは固定しても問題ないでしょう。
 

本体と支柱を合体させボルトで固定します。
重量があるのでしんどい作業です。
 

電動機のプーリにベルトをかけ、テンションを
加えた状態で固定ボルトを締め込みます。

 

ゆっくりと本体を起こし自立させます。電動機が
少し傾いているので取り付け位置を修正します。
 

自立した状態で本体と支柱の
固定ボルトを増し締めします。

 

危なっかしい電気配線を修復します。
入手が面倒な100V用豆球は省きます。
 

配線をシンプルな引き回しに変更し、
結線部は熱収縮チューブで保護します。

 

電源スイッチのみの配線にします。
ここで電動機の通電を確認します。
 

下側ホルダーの上下往復摺動部は特に
油切れしやすく、リザーバが付いています。

 

各部に十分注油し電源を入れます。華奢な卓上型とは
異なる振動の少ない安定した往復運動が戻っています。
 

実際に鋸刃を取り付けて木材をカットしてみます。若干
左右方向の水平が狂っているので、テーブル両サイド
下のハンドルを回して修正します。もう1台はベルト切れ
以外に特に深刻な不具合がなく、各部の点検と調整を
経て作業を終えます。産業用に製造された工作機械は
注油など基本的な整備を怠らなければ実に長持ちします。

 
守谷工房のリペア5へ                守谷工房Topへ