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CABINスライドプロジェクター緊急修理(2023.10.10)


3年前の8月に掲載したフィルムコンサートの記憶をご覧になりました
でしょうか。その後、スライド映写機(プロジェクター)修理のご依頼が
何台かあり、今回もまた高校時代を思い出させる1台が届きました。
 

かつてのABIN工業が製造したAFⅡ-2500です。
同社はその後内田洋行に吸収・合併されています。

 

スライドフィルムを50枚装填できる
ストレートマガジンを本体内にします。
 

背面に冷却ファンと映写ランプを
ON・OFFするスイッチがあります。

 

リモコン操作によりスライドを前後に送る、あるいは
タイマーにより自動送りすることができます。
 

現在のプレゼンテーションツール(スライドショー)の
原形がここにあります。小気味良い機械音がして、

 

スライドを1枚ずつ内部に取り込む
ホルダーが本体の外に飛び出てきます。
 

何度か繰り返していると、ホルダーが完全に
閉まらなくなり自動送りが停止します。
 

マガジンを前後させる
ギヤも停止したままです。
 

当時のリファレンスが皆無の状態で
この不具合の原因究明にかかります。
 

本体底面側のカバーからアクセス
します。4隅の固定ネジを緩めます。
 

底面カバーを開けます。既に
物々しい雰囲気が漂っています。
 

雰囲気ではなく内部は
物々しさそのものです。
 

ダイキャスト製のベースに数々の機構部品が取り付けられ、
本体重量は8kg近くもあります。大半はスライドを繰り出す
ための機構で、現在ならば200g以下のスマホで済みます。
 

修理の常で、まず不具合個所と
原因を把握しなければなりません。
 

そのためには装置や回路の構成や仕組みを理解しなければ
なりません。設計者とほぼ同じ目線に立つことを意味します。
 

スライドのホルダーを開閉させる機構を調べます。
ホルダーの奥で径の大きな歯車が回転します。
 

外周に取り付けられたアームが
リンクを構成しスライダを作動させます。
 

スライダは先ほどのホルダーと一体なので
回転によりホルダーが開閉することになります。
中学校の技術科で教わるリンク機構のひとつ
であるスライダークランクが利用されています。
 

ホルダーが開閉しない時、
歯車の回転も止まります。
 

これだけメカメカしているので、どこかに油切れが
あるのでしょう。グリスを吹いて様子をみます。
 

ホルダーをガイドする樹脂製プーリ
です。潤滑剤を吹き付けてみます

 

いくらか動作がスムーズになったようですが、
繰り返し動かすとまだ止まることがあります。
 

大径歯車にこの金属製小歯車が
噛み合い、共に回転しています。

 

さらに小さな樹脂製歯車が連なり
こちら側から動力が伝達されています。

 

軽くグリスを入れておきますが、しかし、この
金属製歯車には何か仕掛けがあるようです。
 

良く確認すると上下に2枚の
歯車が重なっています。
 

歯車をシャフトに固定している
スナップリングを外します。
 

大径歯車と樹脂製小歯車の中間に入り、
減速しているだけのように思えますが・・
 

取り外してみると、上下の歯車はいくらかの
抵抗を伴いながら各々別個に回転します。
 

そして、歯車の内側に組み込まれた
妙な部品の役割を調べてみます。
 

小さな金属部品がスリットを
通してネジ固定されています。
 

金属部品が押さえ付けていた下の
部品は、鋼鉄製でバネのようです。
 

押さえ付けられていない状態では、2枚の歯車は
ほとんど抵抗がなく互いに軽く回ってしまいます。
 

金属部品を元に戻しネジを締め込んでいくと、
歯車間の抵抗が大きくなり一緒に回ろうとします。
 

取りあえず元通りの
位置に組み戻します。
 

ほぼ問題なく動作するのですが、リンクが
この位置にあると停止しやすいようです。
 

ホルダーが完全に出る前後で止まることは
ありません。リンクは上死点に来ています。
 

この位置でも止まることがあります。ホルダーを
引き込もうとして大きなトルクが必要です。
 

リンクの下死点でも止まることはありません。
ホルダーがほとんど動かずトルクは必要ありません。
 

不具合の原因が分かりました。ホルダーを移動させようと
して大きなトルクが加わると2枚の金属製歯車が滑ります。
 

この小さな金属部品にスリットが開いている意味も
判明します。空転し始めるトルクを調整するためです。
 

2枚の歯車同士の締め付けを強くする
ことで、互いに滑りにくくなります。
 

スライドが引っ掛かるなど無理な力が加わった際に
歯車が空転することで損傷を回避する仕組みです。
 

摩擦や潤滑による機械要素の調整には
必ず経年変化・劣化が伴います。
 

後から調整出来るよう金属部品にスリットが入れられ
たのでしょう。今となってはレトリックな設計です。
 

マガジンを装填し動作を確認します。
当時の性能そのままに快調です。
 

スライド50枚分のマガジンを
何往復もさせ安定性を確かめます。
 

何かの作品展示のため、毎日8時間30日間お使いになりたい
そうです。金属製部品の摩耗、樹脂製部品の崩壊といった深刻な
トラブルではなく、経年変化による調整の「ずれ」ですから、それを
調整し直すことで原状回復が可能です。耐久性も製品本来の連続
使用時間を下回ることはないでしょう。それ以上は分かりませんが。
 

ホルダー自動送り機構以上に、当時のままの
光源「ハロゲンランプ」の方が心配です。

 

交換用のランプをお持ちとのことで
光源周りを点検だけしておきます。
 

24V250Wのハロゲンランプは
高価ですが現在も入手可能です。

 

強烈な光量はまだLEDに取って
代わられそうにないのでしょうか。
 

内蔵されているランプは確かに切れています。
が、ソケットには電源が供給されています。

 

少し調べてみますと、現在の光源は水銀ランプ、
レーザーダイオード、LEDが主流のようです。

 

半導体を利用した光源は発熱・消費電力が小さく、20000時間にも
及ぶ寿命は従来のランプを駆逐してしまったようです。もう少し早くその
辺りの勉強をしておけば、ご依頼主の要望(光源をLED化できないか)
にお応えできたかも知れません。かつての名機をLED化するなど、
工房的には非常に興味深い挑戦課題になるところです。イベントに
間に合わせなければならないそうで、大急ぎで修理、お返しします。

 
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