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ウォークマンWM-D6の暴走を食い止める(2024.1.10)


ウォークマンシリーズの高性能機WM-D6の修理です。
ご依頼者はよほど大事にお使いになってきたらしく、傷の
ほとんどない美品で、外装の皮革製カバーも綺麗です。この
機種には突然再生速度が暴走する深刻な問題があります。
 

WM-D6は以前にも修理を承っており
ますが、ほとんどが駆動系のメンテです。

 

外装カバーから本体を取り出すと
いよいよ美品ぶりが分かります。
 

SONY社はWM-D6の製品情報を残していない
ので、個人のWEBサイトを尋ねるしかありません。

 

取扱説明書のコピー(WM-D6C)が
アップされているWEBサイトがあります。
 

現存する中古機は、例えばメルカリで70000~

80000円と驚きの価格で出品されています。

 

ヤフオクでも同様です、コンディションの良い
ものは100000円を超えることもあります。
 

そのような現状を知れば、修理もそれなりの
費用で請け負って良いのかも知れませんが・・
 

100000円も1000円も同じカセットプレーヤー、
修理内容が変わらなければ費用は同じです。
 

裏側カバーを外し分解を進めます。部品の実装密度が
低く、ビニル線による配線が張り巡らされています。
 

回路基板は2本のネジで固定されている
だけですが、引きずる配線に要注意です。
 

不具合はテープの再生中に、突然再生速度が2倍くらいに
速くなる(暴走)現象です。停止させてしばらく電源を切った
後で再度操作すると、元に戻ることがあります。が、しばらく
するとやはり暴走が復活し、とても使用に耐えません。
 

先に駆動系をひと通り調べます。斜め置きされた円柱型
モーターがフライホイールのテーパー部を駆動します。
 

フライホイールからリール軸に回転を伝達
するベルトです。いずれも問題ありません。
 

モーターを駆動する電圧が変化することが原因の
ようです。点検の対象を電気回路側に移します。
 

このディスクリートトランジスタのコレクタ・エミッタで
モーターを駆動しています。その出力が不安定なので、
 

コレクタをバイパスさせ、トランジスタによる駆動を
無効にします。回転数は電源電圧次第になります。
 

取りあえず一定回転するようになりましたが、
これでは再生速度調節機能は使用できません。
 

WM-D6の低ワウフラッタ(0.04%WRMS)や速度調整機能を
犠牲にし、4.8cm/秒からどれだけずれているのかも分からない
何とも乱暴な修理です。このままで良い訳がありません。同型機の
トラブルを検索していると、同機に固有の「倍速再生」の問題が
浮かび上がってきました。この世界では有名な問題のようです。
 

修理箇所が異なりますが、じんけい様
WM-D6修理に取り組まれています。
 

その修理記事下部の書き込み欄にヒントを見つけました。
「ハイブリッドICのトランジスタを交換・・」ですって!
 

ヒントを手掛かりにさらに検索すると、よっしーの部屋様
モーターのサーボ制御ICの故障について説明されています。
 

型番CP602のハイブリッドIC(ディスクリート部品が
プレート上に実装されたモジュール)に問題があります。
 

さらに海外のサイトに検索を進めたところ、ついにCP602故障の
詳細と具体的な対策について詳述された記事を見つけました。
 

CP602の内部回路が示されています、割と単純な回路構成です。
回路図中で赤丸の付いた2個の部品、1個はNチャンネル接合型の
FET、1個はNPN型トランジスタです。この2個が故障し、ICとして
動作しなくなるそうです。IC内にはさらにICが組み込まれています。

 

WM-D6の回路基板からこのIC(CP602)を取り外し修理します。
内部の半導体2個を交換しなければならず、よっしーの部屋様でも
説明されているように、ICを覆う保護膜を取り除く必要があります。
この写真は保護膜が綺麗に除去されて、部品や配線が露出した
状態です。FETもトランジスタも表面実装用のチップ部品です。また
「00243E60」なるICが現れましたが、このICが故障していると
CP602の修理は困難になると説明されています。

 

表面の保護膜を除去する方法は、ICを丸ごと
アセトンに浸しておくよう指示されています。
 

ICの表面保護膜がアセトンにより除去
できるとは、にわかに信じがたい話です。
 

保護膜自体の材質、何か樹脂のようではありますが
まるで分かりません。それでも2日ほど浸しておくと、
 

溶け出すと思っていた樹脂が、そうではなく
あちこちで崩壊して剥がれ落ちていきます。
 

部品を損傷しないよう、ドライバーの先で
残る樹脂を注意深くこそぎ落とします。
 

FETとトランジスタの2個を完全に
露出させれば交換作業が可能です。
 

海外のサイトに掲載されていた写真と同等です。交換すべき
FET(写真右側)とトランジスタ(写真左側)を確認します。
 

NチャンネルFETは2SK209が指定
されています。秋月電子で入手します。
 

パッケージを開封した瞬間、
どこかへ飛ばしてしまいそうです。
 

NPNトランジスタは2SC1623-L6が
指定されています。アマゾンで手に入ります。
 

50個も入って770円でしたが、何と100個入りで
348円もあります・・日本中のCP602を修理するのか。
 

2SC1623にしろ2SK209にしろ、この大きさ(小ささ)です。
余分があるので2・3個飛ばしても構いませんが・・。基板上の
故障部品をこの2個と交換します。消耗を強いられる作業です。
 

部品交換を終え既にICを回路基板に戻した状態です。
拡大鏡の下、半田ごてとピンセットで両手が塞がる状況
では写真撮影は困難です。左側のトランジスタ、右側の
FETとも端子3本の半田付け跡で色が違うと思います。
 

元の保護膜(樹脂)の材質が何だった
のか、結局分からないままですが、
 

他の部品と接触しない限り、特に必要ない
でしょう。裸で取り付けたままにします。
 

本体を組み上げて動作を確認します。完全に
不具合が解消し、暴走する気配はありません。

 

再生音も極めて安定しています。ワウが
少なく、妙なノイズも混入しません。
 

CP602の保護膜を除去する際に、アセトンに樹脂が溶け出して
黒いどろどろ液で手指も作業デスクも汚れまくると思い込んでいま
した。この樹脂はアセトンでは溶解せず、回路基板との付着境界
面にアセトンが浸入することで、接着力が失われ脱落してくるよう
です。チップ部品も、このサイズまでなら何とか半田ごてが届きます。
何れにしても、WM-D6暴走の原因を突き止め、CP602の内部
構造を解明し、具体的な解決方法まで用意するSTEREO2GO
高い専門性と強い執念と深い愛着心には、ただ、ただ脱帽です。


 
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