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BOSE WMSピックアップシーク不良(2023.3.26)


既に100台以上を修理しているBOSE社Wave Music System
(WMS)です。圧倒的に多い不具合がピックアップの経年劣化で、
補修用部品の品質が比較的安定しているので、そのほとんどで
修理に成功しています。この1台はどうも状況が異なります。
 

ご依頼主によると、CDによって最後まで
再生されないことがある・・のだそうです。

 

最後まで再生されないCDを修理品と一緒に
送ってもらい、実際に再生してみます。

 

新品のピックアップに交換しただけあり、
CD1曲目の再生開始が早く快調です。

 

ですが、最後の曲(19曲目)の
途中から再生が途切れ出します。

 

最後の曲だけ再生できないとは不可解です。CDは中心近くから
外周に向かって順に曲が記録されているので、最後の曲という
ことは外周近くに記録されている曲が再生できないということです。
CDを変えて試してみると、記録されている曲数が多いCD、つまり
外周近くぎりぎりまで記録されているCDで、再生不良が起こることに
気付きました。正確には、単に曲数が多いCDではなく、CDの記録
時間の74分(あるいは80分)目一杯に記録されているCDです。
 

この小型モーターの回転が減速されて、ピックアップを
CDの中心近くから外周まで移動(シーク)させます。
 

CDの外周近くを再生する際は、スクリュー
シャフトが回転して反対側に移動させます。

 

読み取り側からピックアップの位置を確認すると、
スピンドルモーターに近い内側からスタートして、
 

ドライブ開口部の端まで移動します。再生不良は
このあたり(だけ)で発生していることになります。
 

移動の様子をもう一度下側から確認しながら、
ここで一つの仮説が浮かび上がります。
 

ピックアップが最も外側に移動した位置です。が、
CDの最外周記録位置に達していないのでは?
 

曲数の少ない(記録時間が短い)CDでは何の問題も
生じないので、この仮説は妙に信憑性があります。
 

ピックアップの移動に関連する部分を
分解し、機構を詳しく調べます。
 

ピックアップ端のハンガー内にネジ(というよりツメ)が
あり、スクリューシャフトの回転で前後に移動します。
 

ピックアップが移動する先に、何か移動
範囲を制限している部分があるはずです。
 

最後にピックアップがどこに接触して
停止するのか、構造を調べ上げます。
 

分かりました、この突起です。ピックアップの
下に隠れてなかなか見つかりませんでした。
 

ピックアップがこの突起に接触すると、それ以上外側方向に
シークすることはできません。最後の曲がもう少し外側まで
記録されているとすると・・、再生できないことになります。
 

考えられる解決方法としては、移動を制限している
この突起の位置を変更する、あるいは取り払うことです。
 

樹脂製なのでカッターで切り込みを
入れ、根元から曲げてへし折ります。
 

突起位置の先にはスクリューシャフトのホルダーが
成型されており、これが新たなストッパーになります。
 

ピックアップをセットして、外周
方向に移動させてみます。
 

突起を取り去る前の位置が分からず、変化があったのか
どうか見た目では分かりません。ですが、間違いなく
3mmほど外側に移動範囲が広がっているはずです。
 

突起を取り去った状態では、ピックアップのこの部分が
新たにフレームに接触することで移動を制限しています。
 

ピックアップ全体がフレームギリギリまで
移動できているように見えますが、
 

加工前に撮影した写真を改めて確認すると、
かなり手前で制限されていたことが分かります。
 

CDを再生してみます、もちろんご依頼主が
再生できないとおしゃっているCDです。
 

最後の曲、19曲目も快調に再生できます。
再生不良のあったいずれのCDも問題ありません。
 

サーボ制御によりピックアップレンズを細かく上下左右に移動させながら、
シーク機構が動作することによりCD面ピットの正確な読み取り、すなわち
トラッキングが機能します。おそらく補修部品としてのピックアップ個体差に
よりレンズ自身の移動範囲が狭まり、その分をシークでカバーできなかった、
・・のではないかと考えます。元々BOSE社が採用・搭載したピックアップは
当然、レンズの制御に関しても厳密な仕様を満たしていたはずで、だから
純正部品だったわけです。部品の型番が合えば良いものではありません。

 
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