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スライドドア吊り金具再生(2022.9.11)


工房からそう遠くないデイケア施設からのご用命です。
男性用トイレエリアへの出入り口にスライドドアが取り
付けられています。車椅子での出入りもあるので幅が
広く重量もそれなりです。鴨居にレールが埋め込まれ、
その中を往復するローラー付き金具で吊り下げられた
構造です。摺動抵抗が小さく、楽に開け閉め可能です。
 

ドアパネルの上方両端に、このような
吊り金具が埋め込まれています。

 

パネルの上方木端面に、金具を
埋め込む溝が正確に彫られています。

 

一方(手前側)の吊り金具がこの有様です。金属製部品を
内包しパネルと結合させるため、一体成型の樹脂製部品が
使われています。長年にわたり荷重に耐えてきた結果か、
あるいは何か無理な力が加わったのか、溝の中で大破して
います。実はこれまで同様の修理を何度か経験しており、
いずれも新しい補修部品に交換することで解決しています。
 

溝の中にはもう一つ別の樹脂製
部品が取り付けられています。

 

2つの樹脂製部品はアウター(この部品)とインナーの
関係にあり、アウターは予め溝内にネジ固定されます。

 

以前と同様に補修部品を探すべくかなり時間を費やすのですが、
今回はサイズがひと回り大きく、堅牢なローラーが使われていて、
流用できそうな製品が見つかりません。知り合いの住宅設備屋
さんに聞いても見たことがないそうです。もちろん型番もメーカーも
全く記載がありません。かくなる上は、作り出すしかありません。

 

壊れていないパネル後方の吊り金具を取り外し、ノギスで
精密に採寸して元の形状を割り出します。CADに取り込み
さえすれば、3Dプリンターで造形が可能になります。原形は
割と壁に厚みのない箱状をしています。このままではFDM
方式の3Dプリンターでは出力しづらく、内部の金属製部品の
組み込みも面倒になりそうです。ひと工夫が必要です。

 

ボックス形状を左右に2分割することにします。金属製
部品を挟み込む構造にすれば、組み立てが簡単です。
3Dプリンターが使用するPLAフィラメントは、樹脂用の
接着剤により非常に強力に接合が可能です。加えて、
吊り金具全体がパネルの溝内でアウターの内部に
納まるので、強度的には心配ないと思われます。

 

2分割した各部を水平方向に並べます。この状態で
標準の3DフォーマットであるSTL形式にてファイル
出力します。色々検討しましたが、3Dプリント時に
どうしてもサポートの付加が避けられません。

 

スライサーによる処理を経て工房の
Voxelab Ariesにデータを送ります。

 

ベッドおよびホットエンドの加熱が
完了し、出力が始まります。
  

これまで安定して出力されているので安心し
切っていますが。1層目をプリントしています。
 

強度を考慮し充填率は100%です。
2時間ほどでプリントが完了します。

 

内側の中空部分に成形されたサポートを取り
除きます。Ariesのスライサーは今ひとつです。
 

サポートを取り去った痕がかなり乱れて
います。ルーターを使って表面を整えます。

 

3Dプリンターなら部品が一発で出来上がると思い
きや、なかなかそうは行かず手直しが必要です。
 

分割した2個の部品を合わせてみます。
設計通りに成形されているようです。

 

金属製部品と組み合わせてみます。
写真奥は壊れていない元の状態です。
 

両者を結合するピンを通します。ピン
2本にパネル重量の半分がかかります。

 

内側に干渉があるようなので調整します。
大きな荷重が加わるので最小限にします。
 

2本のピンを介して樹脂製部品に荷重が伝達され、
前後2枚の薄い壁面がパネルの重量を支えます。
 

パネルの水平位置を調整する、
歯車の付いたネジを組み込みます。
 

やはり2枚が密着しません。プリント中にベッド
から部品が剥離し、成形が歪んだためです。
 

歪み(反り)を極力小さくするため、プリント
開始時にラフトを付加して出力し直します。
 

満足のいくまで何度でもトライできるところが、
デスクトップマニュファクチュアリングの強みです。
 

ラフトが付加された状態で出力が完了しました。Ariesに付属する
スライサー(Voxel Maker)は、特に設定を変更せずとも良好な
出力をもたらしますが、ことサポートとラフトに関しては、剥がし
にくく綺麗に除去できない、にもかかわらずベッドへの固定も
今ひとつ・・と手放しで喜べるものではありません。Slic3Rや
CURAなど他のスライサーを検討するべきかも知れません。
 

本体とラフトが結構強く付いています。
引き剥がすのにやや力が必要です。
 

ラフトを分離すると、またこのサポートです。
パラパラ勝手に外れてくれると楽なのですが。
 

最悪なのはサポートを取り除いた面(上面の
裏側)が、このようにひどく荒れることです。
 

かなりの手作業を経て、何とか
実使用できる状態まで仕上げます。
 

2個の成型部品のみを合体させてみます。ほとんど歪み(反り)も
なく、正確に組み立てられそうです。プリントし直す際に、内側での
干渉を回避するようデータを若干修正しました。CADのメリットです。
 

金属製部品と合わせてみます。
干渉もなく正確に合体します。
 

歯車付きネジと2本のピンをセットし、
組み立てる位置を正確に合わせます。
 

周囲を数個のクリップで挟み、仮固定します。
合体位置にズレがないか再度確認します。
 

この状態で接合面に接着剤を流し込みます。
様子を見ながら全周にわたり接着します。
 

接着剤はアクリル用の二塩化メチレン溶剤です。溶剤により
母材が溶け出して混ざり合い、間もなく溶剤が蒸発することで
材料が一体化し強固に接合します。接着ではなく材料自体
の強度に接着力が依存します。完全に固化するまで待ちます。
 

樹脂製部品と金属製部品を結合するピンは、片側に
ワッシャを通してカシメることで固定されていました。
 

分解する際にカシメを壊してしまったので、
別の固定方法を考えなければなりません。
 

まず、ピンの先端部分に、後で半田付けしや
すいよう、フラックスを付けて半田を盛ります。
 

ピンに通すワッシャにも、その
周囲に半田を盛り付けておきます。
 

200度程度で溶融するPLAなので、
半田付けに耐えられるわけがありません。
 

ですが、予めピンとワッシャに半田を盛り付けておけば、
瞬間的にこて先を当てるだけで半田がつながります。
 

先ほどのアウター内に収まれば、ピンが抜けてくることはないのですが。
それにしても、ピンの位置からローラーのある方向には、数ミリの壁面が
残されているだけです。ここにドアパネルの重量が集中するわけですから
強度的に問題がないのか心配です。ただ、元の部品がこの通りの設計
なので、現状に倣うまでです。万一壊れたら・・、再度作り直すまでです。
 

本体の接着も完全に固化し、完全に破壊
してしまった吊り金具が、晴れて蘇りました。
 

アウターと結合させる回転ツメを略したので、同位置に
長いコーススレッドを打ち込んでパネルに固定します。
 

アウターを被せてみます。アウターの奥突き
当り面に弓型の溝が刻まれていますが、
 

プリントした部品の側面に同じく弓型の
突起があり、溝に入り込む構造です。
 

突起が溝に嵌まることでパネルの荷重はアウターに伝わり、
アウターはドアパネルの溝内でネジ固定され、さらに貫通
するコーススレッドにも支えられてドアを吊り下げるわけです。
 

再生した吊り金具を携えて現場に戻ります。実は吊り金具を
レールに入れるには、鴨居からレールを外す必要があります。
 

間隔を空けた吊り金具の間に
ドアパネルをセットします。
 

力を込めてパネルを持ち上げ、位置を合わせて吊り金具を
差し込みます(その前にアウターを固定しておきます)。
 

アウターとの結合用に使われるはずの穴に、吊り
金具を貫通する長さのコーススレッドを打ちます。
 

何とか・・なりました。プリントした樹脂製部品が壊れやしないか
ビクビクです。最初の開け閉めはゆっくり静かに動かします。
 

定位置で吊り下げられていれば、
開閉はスムーズなものです。
 

施工後1週間ほど過ぎた頃に恐る恐る様子をお聞きしてみると、
「極めて良好!」との嬉しいお返事をいただきました。数日のうちに
樹脂部分が破断しドアパネルが再び落下する事態を心配しており
ましたが、それなりの強度が保たれているようです。ドア開閉時に
かかる進行方向の力や衝撃は、ローラーが転がることで十分に
低減され、吊り金具にはほとんど及びません。しかも開閉の両端で
ダンパーが作動するので、衝撃もごく小さなものでしかありません。
逆にドアパネルに正面から衝突するような場合が心配です。ドアの
下端には長さ方向に溝が彫られていて、1か所だけ床から突き出た
ピンで支えられているだけです。ドアパネルが捻れる方向に力が
加わると、さすがに吊り金具は無事ではいられないでしょう。元の
部品もこの衝撃が繰り返されて破損に至ったのかも知れません。

 
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