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カフェ御用達年代物ステレオの再生1(2022.8.21)


Topics25のスタート時に、カフェに据え置く年代物ステレオセットについて
簡単に紹介しました。元はと言えばある女性の持ち物で、この方はカフェの
常連のお客さんです。学生時代に購入され長い年月保管されていたものを、
カフェのお客さんたちがレコードを楽しむために寄贈されたそうです。レコード
プレーヤのゴムベルトが傷んでおり、新品に交換して差し上げたのですが
その後、レコードの回転がおかしいとの連絡があり、取りあえずカフェまで
出向くことに。守谷から都内までは往復するだけで半日、ひと仕事です。
 

ベルト交換を終えた時点では
問題なく動作していたのですが。
 

いくつか基本的な点検事項を
確認し、潰していきます。
 

ピックアップの信号端子です。修理時に
接触不良があり、接点を回復させました。

 

念のためもう一度
クリーニングします。

 

問題なく再生できます。回転が
遅くなるような気配はありません。
 

カフェのオーナーや複数のお客さんが確認
しているので、間違いないのでしょうけれど。
 

現場でできる作業は限られますが、
駆動系を確認してみます。
 

以前に交換したゴムベルトです。新しいままの
状態で、キャプスタンに正確に当たっています。
 

電源を入れて回転させてみるも、
安定しています。全く正常です。
 

修理時に固着していたターンテーブルの
シャフトです。再度注油しておきます。
 

回転数を変えるため、ゴムベルトがキャプスタンに当たる
位置を上下させるアームです。既に調整済みですが。
 

回転数切り替えレバーに連動して
正しく作動します。問題ありません。
 

そうすると、本体内部に組み込まれているモーターが怪しくなります。
40年は経過しているので、機械部品であるモーターが劣化してない
はずはありません。もちろん前回修理時にはオーバーホールに近い
整備を行っており、納品時まで全く正常に回転していたものです。

 

カフェ内でお客さん用のテーブルを借り
プレーヤーの底板を取り外します。

 

ターンテーブル駆動用、昔懐かしい
隈取りモーター(2コイル、4極)です。

  

ゴム製ダンパーを介し3か所で
ネジ固定されています。
 

外観的には何も問題なさそうで、この単純なモーターの
回転が何故不安定になるのか、見当が付きません。

 

強いて言えば、キャプスタン軸側の軸受けが心配です。メタル製の
すべり球面軸受けが組み込まれています。オイルレスメタルのはず
ですが、修理前は腐食により頑強に固着していました。十分に清掃
してから、オイルが切れないようハウジングの隙間にスポンジ片を
差し込み、機械油を浸み込ませておいたものです。再度オイルを
追加するくらいしか、この場(カフェ内)で打つ手はありません。
 

以下、工房での再修理の様子ですが、作業終了後に撮影
しているため作業の経緯となりませんことをご了解下さい。


写真に背景が写り込んでいるように、ここは工房内です。カフェへ
応急修理に伺ったのが5月初め、それから半月もしないうちに
連絡が入り、やはり調子が悪いとのことです。プレーヤーを工房
まで宅配で送るとおっしゃるも、配送中に破損する心配があり、
そのうち引き取りに出向くつもりでいました。しばらく間が空いた
6月下旬、セットの元持ち主とカフェのオーナーが何と工房まで
運んできて下さることになりました。プレーヤーの修理が目的
ですが、理由があってステレオセット一式を運んでもらいました。
 

あらためてプレーヤーの型番を確認します。背面には
電源コード、RCAジャック、アース端子が出ています。
 

TRIO製SS-72Xとありますが、ステレオセットに
組み込まれていたコンポーネントのようです。

 

ターンテーブルを外し、トーンアームを
固定してから本体をひっくり返します。
 

オーバーホールでも性能が安定しない旧式の
隈取りモーターを、新しいモーターに交換します。
 

元々取り付けられていた隈取りモーターです。
軸受けの劣化・ガタはもはや修復不能です。
 

安定した回転と正確な回転数で、かつては
レコードプレーヤー用に広く使われたものです。
 

長年にわたる金属の摩耗や腐食の
進行は、どうしても防ぎ切れません。
 

代わりに取り付けた、今どきのオーディオ機器用DC
モーターです。取付用ステーを専用に設計しました。
 

元の隈取りモーターのジオメトリから新しいモーターの
取付位置を割り出し、ネジ穴を含むステー形状を設計し
アクリル材から切り出しました。CADが活躍します。

 

この類のDCモーターは簡単に入手できます。規定電圧当たりの
回転数(rpm)は似たり寄ったりで、印加電圧の調整により一定
範囲内で変化させられます。問題はターンテーブルの径に対して
適切なキャプスタン径を選ぶ必要があり、制御回路の設計と合わ
せて製品を選ばなければなりません。4mm径が適合します。

 

キャプスタンの位置を機械的に変える機構に代わり、
モーターを電気的に制御する回路を組み込みます。
 

DCモーターを駆動するため専用の電源回路(DC12V)を
組み込み、本体に引き込まれているAC100Vに接続します。
 

トーンアームの回転軸でマイクロスイッチを
ON・OFFさせ、モーターの電源を制御します。
 

マイクロスイッチから電源回路まで
スイッチ配線を引き回します。
 

製品に付属するモーター回転数の制御回路です。ターンテーブル径が
想定されていないので、このままでは使用できません。標準でほぼ33・
45回転となるよう、それぞれの回路に抵抗器を挿入します。また33・45
回転とも可変抵抗器を併用することで、回転数を微調整できるようにします。

 

ゴムベルトがキャプスタンに当る位置を変更する
レバー連動部品は不要となります・・取り去ります。
 

代わって、レバーの回転軸でマイクロスイッチを
ON・OFFさせ33・45回転を切り替えます。
 

回転数微調整用の可変
抵抗器を取り付けます。

 

可変抵抗器のシャフトを本体の外に出し
それぞれに色の違うツマミを取り付けます。

 

ターンテーブルの回転で動作するオートリターン
機構はそのまま利用します。再度、動作を確認します。

 

ターンテーブルの内側にゴムベルトをセットします。
ターンテーブル径とはこの部分の外径を指します。

  

ターンテーブルを元に戻します。当時としては
重量のある高性能プレーヤーだったようです。

 

DCモーターのキャプスタンにゴムベルトを
掛けます。元のベルト長で丁度良く適合します。

 

回転数調整のためネットからストロボシートをダウン
ロードし、プリンタで印刷し切り抜いて作成しました。
 

33.3または45回転に合わせて
可変抵抗器のツマミを調整します。
 

外側から2番目のスリットに同期し、
50Hz、45回転に合っています。
 

50Hz、33.3回転に合っています。ストロボシートは
点滅する照明器具でしか使用できず、LEDではだめです。
 

ブラシレスのDCモーターが簡単に故障することはまぁないでしょう。
仮に調子が悪くなっても交換は簡単で費用も大してかかりません。
レコードプレーヤーがほぼ完全に復活した(生まれ変わった)わけ
ですが、先ほどの「ステレオセット一式を運んでもらった」理由とは、
「どうせなら非力なレシーバ(アンプ)もスピーカーも何とかしたい」
ということなのです。実は元の所有者もカフェのオーナーも既に
了解済みで、全てお任せするとのお話しをいただいております。

 
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