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デジタルプロポーショナルを診る(2019.1.21)


ご高齢の男性が昨年12月に守谷おもちゃ病院にお持ちになりました。27MHz帯を
使用したラジオコントロールのランドクルーザーです。30年以上前に当時小学生だった
ご子息に購入されたそうです。途中で診療時間内ではとても手に負えないと判断し、
工房に持ち帰ってきました(入院扱い)。さらにご依頼者に了解をいただき、守谷工房
扱いの修理に変更させてもらいました。デジタルプロポーショナル方式の解析と理解、
部品の調達に長い時間を要し、年をまたぐ修理作業となりました。 掲載写真88枚

 

当時のままの色褪せた外箱と壊れかけた
内箱が、長い年月を物語っています。

 

何と説明書まで保管されています。手に
入れたい方が大勢依頼っしゃるのでは。

 

車体本体と送信機のセットです。当時は
とても高級な玩具だったと思います。

 


箱から取り出します。ランドクルーザーの
風格が再現され、重量感が漂います。

 

トレッド幅の広いゴム製中空タイヤは、屋外でのオフロード走行を可能にします。
実際に泥濘(ぬかるみ)を何度も走行させたようで、車体の各部は泥まみれです。

 

車体底部を確認します。泥汚れが全面に広がって
います。タイヤのトレッドパターンが前後で異なります。

 

一面の擦り傷は激しいダート走行によるものでしょう。
堅牢で耐久性のある前輪サスペンションです。

 

底部のバッテリーボックスを開けてみます。とても
防水仕様とは言い難く、泥水の浸入が心配です。

 

動作確認を行うため、新しい乾電池をセット
します。制御用・走行用に分かれています。

 

送信機にも乾電池をセットします。006Pを使用
しないのは電池寿命を長くとるためでしょうか。

 

本体LED、送信機LEDとも点灯しますが、
送信機のレバー操作に全く反応しません。

 

受け取り時に伺ってはおりましたが、
あらためて全滅状態が確認されました。

 

上部車体を固定するネジ(6本)、走行駆動部の
ギヤ比を変更するレバーの固定ネジを緩めます。

 

ギヤ比切り替えレバーを抜き取ります。手前の
スライドスイッチは本体の電源スイッチです。

 

車体上部を取り外します。内部の駆動
機構や制御回路が見えてきます。

 

現在の単純化されたラジコンカーに比べると、堪らないごちゃつき感です。
車体中央にRF回路、サーボ駆動回路を含む回路基板が取り付けられ、
何本もの訳の分からない配線が車体内に張り巡らされています。

 

回路基板と前輪の中間はカバーで覆われ、その下に
やはり訳の分からない部品が取り付けられてます。
 

小さな回路基板が1枚、何やら駆動機構を
内蔵する透明樹脂製ボックスが2個です。

 

車体左側のボックスです。中にモーターと減速ギヤ、ポテンショ
メーター代わりの可変抵抗器が見えます。サーボモーターです。

 

もう1個はサーボモータにより駆動されるスイッチ
ボックスです。電極が付いた円盤が回転します。

 

円盤の外周に突起があり、ボックスの
底面から外部に飛び出しています。

 

ボックスの下に左右にスライドする樹脂製部品が
あります。この縦長の溝に突起の先が入ります。

 

サーボモーターのアクチュエータがスライダーを
開始てスイッチボックスを切り替える仕組みです。

 

この小さな回路基板の役割が不明です。
基板上に小型の電磁リレーがあります。

 

本体電源スイッチを入れた瞬間、前輪の操舵機構が僅かに
反応します。しかし送信機がOFF状態では無反応です。

 

役割が分かりました。送信機のキャリアを受信している
時だけ、操舵を含む駆動系に電力を供給するリレーです。
 

送受信が途絶えた際に走行を停止させるための工夫です。
また、RF部のキャリア受信が機能していることが分かります。

 

分解ついでにスライダーや円盤の
摺動部に注油しておきます。
 

スイッチボックスの円盤を回すと、後輪が勢い良く正逆に
回転します。不具合はRF部を除く回路基板上にあります。

 

パルス信号の間隔を変化させることで操作を伝達するデジタル
プロポーショナル方式です。SONYラジオのような基板です。
 

RF受信部からクリッピング出力されるパルス列を調べます。昨年12月に組み立てた
デジタルオシロスコープを活用します。デジタルICの入力に加わる信号を観測します。

 

送信機のレバーを一切操作していない状態で、
等間隔で連続する3個のパルス列が観測されます。

 

ステアリング(操舵)レバーをに倒すと、
2番目と3番目のパルス間隔が狭まります。

 

ステアリング(操舵)レバーをに倒すと、
2番目と3番目のパルス間隔が広がります。

 

ドライブ(走行)レバーをに倒すと、
1番目と2番目のパルス間隔が狭まります。
 

ドライブ(走行)レバーをに倒すと、
1番目と2番目のパルス間隔が広がります。

 

操作により間隔が変化するパルス列を
CD4013B(CMOS)に入力します。
 

CD4013には2組のFF(Dフリップフロップ)が内蔵されています。1番目と2番目、または
2番目と3番目のパルスを使用し、パルス間隔の変化パルス幅の変化に変換します。
走行・操舵ともに操作不能ということは、このICが動作していない可能性があります。

 

半田吸い取り機が戦列に加わっているので
ICチップの取り外しが苦になりません。

 

ホールの中に入り込んだ半田
まで綺麗に除去してくれます。
 

14ピン分の半田を吸い取りました。
ランドや配線パターンを傷めずに済みます。

 

ICと基板の間にドライバーを
差し込み、ICを持ち上げます。
 

動作不良が疑われる
CD4013Bを取り出します。

 

当たり前ですが同等部品は既に品薄です。聞いた
ことのない小さなネットショップに在庫を見つけました。
 

Amazonのように翌日に配送・・など望むべくも
ありません。到着まで作業は完全に中断です。

 

ようやく到着したCD4013Bは、純正
Texas Instruments社製の新品です。
 

元の位置に挿入します。シルク印刷のない基板
なので、取り付け方向を誤らないよう留意します。

 

裏側を半田付けします。2組のFFに共通のパルス列を送るため
Clock1(3番ピン)とClock2(11番ピン)が短絡されています。
 

デジタルプロポーショナルの登場初期は、パルス列の
変換回路をディスクリート部品(TR)で作り上げていました。

 

CD4013Bの交換を終え、
再び動作確認を行います。
 

ステアリングレバーを右に倒すと、
前輪が右方向に舵を切ります。

 

レバーを左に倒すと左方向に舵を切ります。
ステアリング(操舵)の機能が復活しました。
 

ステアリングは復活したものの、走行レバーの操作には何も反応しません。前後進の
機能にまだ不具合があります。デジタルオシロスコープでさらに原因を探ります。

 

CD4013Bの一方のFF出力、Q2の信号波形を確認
します。無操作時は一定幅のパルスが出力されています。

 

Q2はステアリング用サーボモーターを駆動する出力です。
ステアリングレバーを右に倒すとパルス幅が狭まります。
 

ステアリングレバーを左に倒すとパルス幅が
広がります。正常に機能しています。

 

CD4013Bの他方のFF出力、Q1の信号波形を確認
します。Q1は走行制御用サーボモーターを駆動します
 

走行レバーの無操作時は一定幅の
パルスが出力されています。

 

走行レバーを上に倒すとパルス
幅が狭まります(前進走行)。
 

走行レバーを下に倒すとパルス幅が広がります
(後進走行)。こちらも正常に機能しています。

 

そうすると次段のSN76604N(サーボ
アンプ)にも不具合が疑われます。
 

SN76604Nはパルス幅検知型双方向サーボアンプです。送り込まれる
パルス幅の変化に応じて、サーボモーターを駆動する電力を出力します。

 

走行用サーボモーターを駆動するのは写真右側の
SN76604Nです。オシロスコープで動作を確認します。

 

CD4013Bからの入力(3番ピン)を確認します。
波形の乱れはありますが正常に入力されています。
 

走行レバーを上に倒すと
パルス幅が狭まります。

 

逆に、走行レバーを下に倒すとパルス幅が
広がります。入力に問題はありません。
 

サーボモーターへ出力
される信号を調べます。

 

走行レバーを操作しても(パルス幅が変化
しても)、出力に何の変化も現れません。

 

片側(走行用)のSN76604Nが破損しています。
交換用の部品を探さなければなりません。

 

国内に在庫のある販売店は見つけられませんでした。
国外のサイトでようやく見つけるも、納期は20日以上です。
 

年をまたいでようやく到着し、修理作業を再開
します。折角調べたことを忘れかけています。

 

半田を吸い取り、元のSN76604Nを取り外し
ます。配線パターンを傷めないよう留意します。
 

ドライブ段を持つTTL-ICは破損する可能性が低くありません。
駆動するモーターのノイズ対策が不十分なのかも知れません。
 

新しいSN76604を取り付けます。
ピンの列間隔を調整して差し込みます。
 

走行制御用のサーボモーターが音をたて始めました。
基板上の半固定抵抗器でニュートラルを調整します。

 

送信機の走行レバーにサーボモーターが
反応してくれれば修理成功です。
 

走行レバーを上に倒します(前進走行)。アクチュエーターが
左に1/4回転して停止します。離すと自動的に戻ります。

 

下に倒すと(後進走行)右に1/4回転して停止します。
30数年前のデジタルプロポーショナルの復活です。
 

回路基板を元の位置に戻し
ネジ2本で固定します。

 

走行制御用のサーボモーターを組み
込みます。配線を整えるのが大変です。
 

サーボユニットの固定と電源LED
取り付け用のステーを戻します。

 

その上から機構を保護するカバーを被せます。この
時点で実走確認を行います。力強く走行します。
 

泥まみれだった車体上側を洗剤をかけて水洗いします。明るいベージュ
クリーム色が蘇りました。樹脂表面にはさほど傷みがありません。

 

シャシー周りも、水洗いはできませんが
こびり付いた泥を丁寧に落とします。

 

車体上側をシャシー側と合体させます。
おもちゃドクターとして安堵する瞬間でもあります。
 

昨年組み立てたデジタルオシロスコープが大いに活躍
しました。記念にランドクルーザーとツーショットを1枚。

 

晴れて退院、ご依頼主にお返しする日がやって参りました。長くお預かりしていると、
どこか名残り惜しくなるものです。小学校に入る頃を待って、お爺ちゃんからお孫さんに
贈りたいそうです。お渡しすると奥様(お婆ちゃん)ともども大変喜んで下さいました。

 
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