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おやすみシアター天国からの修理依頼(2020.7.12)


病気のため子供さんを亡くされたお母様からのご依頼です。子供さんが大切にされて
いたおもちゃだそうで、工房のToyHospitalからお問い合わせをいただきました。
 

以前にも修理したことのある「おやすみホームシアター」です。お母様もその修理記事
ご覧になったそうです。ウォルトディズニーとのコラボレーションによる高品質の玩具です。

 

丁寧に記入された修理依頼書が添えられています。
破損個所の写真も用意して下さったそうで・・、

 

この写真です。破損個所には矢印が
付けられとても分かりやすいです。

 

子供さんの思い出が残る大切な修理品です。
ご期待に応える完璧な修理を目指します。

 

乾電池ボックスのカバーを開けて
みます。UM-2が4本入ります。

 

写真に示されていた該当箇所です。ご説明の通り、乾電池を受けるホルダー
金具の1枚が破断し脱落しています。破片は内部に入り込んでしまったそうです。

 

本体を分解します。ボックス
内部に固定ネジがあります。

 

高品質の玩具は、最小限の固定ネジにより
隙間もなく正確に組み上げられています。

 

3面の操作・化粧パネルを挟み、本体
カバーが前後2ピースに分離します。

 

ホルダー金具が脱落した部分の内側です。
 ハトメで固定された周囲で破断しています。
 

内部から破断した金具の破片が見つかり
ました。金属表面に腐食が広がっています。

 

乾電池の液漏れにより電解液が内側にも回り、
応力が集中するハトメ周囲が先に破断したようです。

 

乾電池を装填するだけであれば、代用的な方法は色々
ありますが、今回は金具の完全な修復を目指します。

 

まず、元の金具を固定していた
ハトメを綺麗に取り除きます。

 

ハトメの外径を少し上回るドリルで、ハトメの頭部分を座グリます。残っている
金具にドリルの刃先が当たると、金具が回転して本体に成型された突起を
破損させかねません。ハトメとだけ接触するよう当たりを微妙に加減します。

 

残っていた金具が外れてきます。
が、ハトメの大部分はそのままです。
 

ハトメを抜くため、さらに座グリ~皿モミします。
ドリル径を落とし本体を削らないよう注意します。

 

間もなく、ハトメが向こう側に落ちた
ようです。本体樹脂もほぼ無傷です。

 

表側にハトメの残りが落ちています。
ハトメ穴の周囲に損傷もありません。

 

さて、破損したホルダー金具を再生しなければなりません。材質が柔らかく
加工の簡単な真鍮板を使いたいところですが、1枚だけ色違いは見栄えが
よろしくありません。ここは手を抜かず、硬いステンレス板からワンオフで製作
します。子供さんが天国から心配そうに見守っているような気もしますので・・。

 

元の金具の横幅を確認
します。6.1mmです。

 

カーボン製の安ノギスからステンレス製の
ノギスに持ち替え、6.1mmにセットします。

 

ステンレス板に直接ケガキ線を入れます。ジョウの先端を
傷めるので良くないのですが、Youtubeでは皆やってます。

 

細目の金切り鋸で切断します。この金鋸の替え刃、
学生時代に秋葉で買ったものがまだ残っています。

 

やはりステンレスは硬く、これだけ
切断するにも骨が折れます。

 

切断面を仕上げるためベルト
サンダーで研磨します。

 

バリを完全に取り除き、
整った直線に仕上げます。

 

元のホルダー金具から現物合わせで
折り曲げる位置を写し取ります。

 

折り曲げる位置をラジオ
ペンチで直角に挟みます。

 

コーナー周辺が膨らまないよう
台に押し当てたまま折り曲げます。

 

元のホルダー金具と
曲がり具合を比べます。

 

試しに乾電池ホルダー部に
入れて仮組みしてみます。

 

内側に回り込んだ先の
長さを位置決めします。
 

ニッパを使い印を付けた
ところで余分を切断します。

 

もう一度金具を入れて、ハトメの
あった位置に印を付けます。

 

印の位置に穴を開け、
ハトメかネジで固定します。

 

元の金具を重ね、電極接触片に
開いている穴の位置を写します。

 

特に無くても良い穴ですが、なるべく
元の状態と同じに再現します。

 

2か所の穴あけ位置に
センターポンチを打ちます。

 

2mm径のドリルで
穴を開けます。

 

穴を開けようにもステンレスの硬さには難儀します。
無理をせず正確で綺麗な加工を心がけます。

 

リューターにダイヤモンドビットを取り付け
穴の周囲に残るバリを取り除きます。

 

この状態でもホルダー金具としては
最低限機能するでしょう。しかし、

 

元の金具のように形状を整えます。
先端が曲線に加工されています。

 

サンドペーパーを巻き付けた
ビットで成形加工します。

 

ヤスリを使い周囲に僅かに
残るバリを取り除きます。

 

先端がボール形状のダイヤモンドビットで
元の金具通り切り欠き部分を加工します。

 

ダイヤモンドビットは高い切削力を発揮
します。みるみる削り込まれて行きます。

 

金具の機能からして不可欠な加工では
ありませんが、元の形状通りに作ります。

 

最後にステンレスの表面を
ペーパーに押し当てて研磨します。

 

加工中の傷などが綺麗に取り除かれ、元のホルダー
金具とほぼ同一の部品に仕上がりつつあります。

 

乾電池に接触する部分をラジオ
ペンチで軽く湾曲させます。

 

折り曲げ部分は直角ではなく
多少内側に傾いています。

 

本体に取り付けてみます。
隣の金具と全く同じです。

 

ボックス内に出ている部分も丁度良い感じです。
真鍮で製作していると、乾電池を抑え切れないでしょう。
 

いったん金具を取り出し、配線を
接続するための半田を盛ります。

 

ステンレス専用のフラックスを使う
ことでようやく半田が喰い付きます。

 

予めビニル線を半田付けしてから
ホルダー金具を本体に戻します。

 

樹脂突起の内側に
ぴたりと収まります。

 

金具の固定はハトメでは
なく小ネジを使用します。

 

ネジの頭が少し小さいので
バネワッシャを重ねます。

 

本体内側に突き出たネジの先端です。
丁度良い長さだけ出ています。

 

6角ナットを入れて
しっかり固定します。

 

ハトメを小ネジに置き替えてしまいましたが、この方が
強力に固定することが出来て耐久性も高いと思います。

 

新しい乾電池を入れて
動作確認を行います。

 

道化師の顔のような形にデザインされた
操作スイッチです。電源を入れてみます。

 

内蔵された高輝度白色LEDが光を放ちます。乾電池ボックス内のホルダー金具の
修理は成功です。ところが、写真でも分かるように、レンズを出た後で光が広範囲に
散乱しています。レンズも磨いて欲しいとおっしゃっていたのはこの状態でしょうか。

 

次に発光~レンズ部を点検します。本体前面の
内側に発光素子が取り付けられています。

 

3本のネジで固定されています。背面に取り付けられた
金属板は、高輝度LEDのアルミ製放熱板のようです。
 

発光部を取り外すと、本体との間に
樹脂製の集光レンズが入っています。

 

放射光を均一の平行光に近付ける
コンデンサレンズの代わりでしょう。

 

これだけ小型でしかも玩具用に、随分凝った
設計です。集光レンズをクリーニングします。

 

レンズは本体外側に開閉するカートリッジ
ボックスのカバー内に組み込まれています。

 

表裏2枚の樹脂製カバーが
数本のネジで合体しています。

 

いくらか強い力が加わると、ロックを
押し切りカバーが外れる構造です。

 

2枚のカバーを分離すると、内部に
レンズユニットが組み込まれています。

 

外部から回転させることで、フォーカス
(焦点距離)を調整できる仕組みです。

 

手前のグリルカバーを外すと、内側に円形の
樹脂製プレートが取り付けられています。

 

透明樹脂材料のはずですが
表面がやけに曇っています。

 

取り外して研磨した方が良いでしょう。一体成型
された突起でレンズユニットに固定されています。

 

カッターナイフで突起を解除し
プレートを取り出します。

 

プレートが外れると組み込まれたレンズが
露出するので、ここでクリーニングしておきます。

 

綿棒にアルコールを含ませて
表面を丁寧に拭き取ります。

 

取り外した樹脂製プレートです。
3枚で構成されています。

 

突起の付いた前面の1枚はアクリル製、その
後ろに塩ビ製のプレートが2枚重ねられています。

 

塩ビ製プレートは打ち抜かれた1枚の
シートを折り重ねて2枚にしています。

 

曇りの原因はこの塩ビシートです。
クリーニングするも大して改善しません。

 

2枚を重ねるとこの状態です。これでは
LED光が散乱しても仕方がありません。

 

曇り・散乱を低減させる方法として、
塩ビシートを切り離して1枚にします。

 

前面のアクリル製プレートとともに元に
戻します。突起は接着剤で固定します。

 

透明度が明らかに改善されました。しかし、敢えて
光量を抑える何か理由があるようにも思います。

 

レンズユニットを元に戻し
カバーを元通り組み上げます。

 

さて、散乱や光量は改善
されているでしょうか。

 

まず、レンズの周りに広がる散乱がかなり治まっています。恐る恐るレンズを覗き
込むと(お勧め出来ませんが)、明らかに光量が増しています。高輝度LEDの眩い
発光が確認出来ます・・、とその時気付きました。透過率の低い塩ビシートを2枚も
重ねているのは、LEDの光量を制限するためです。幼い子供たちが不用意に覗き
込んでしまった際に、大切な目を守るためではないでしょうか。出来ればシートを
2枚とも取り去ってしまいたいのですが(その方がさらに光量がアップしますので)、

全体的な光量低下との兼ね合いで、1枚に留めておくのが適当と判断します。
 

作業室の壁面に映し出してみます。日中の室内でこのくらいの光量であれば、
実用上ほぼ十分かと思います。本来は上に向けて天井に映す仕様で、乾電池
ボックスの面(レンズの反対側)が本体の底面となり、そこに自立させるための
脚突起が付いています。実に合理的な構造が与えられているものです。改めて、
子供の成長を追及し興味の発達を考慮した優れた企画に感心するばかりです。

 

ご依頼を頂戴したお母様はもちろんのこと、天国から子供さんにも見守られ
ながらの修理作業になりました。難しい作業ではありませんでしたが、
作業を終えるとどこか清々しく大役を果たしたような気分になりました。
きっと天井に映るディズニーの物語が、天からも見えていると思います。

 
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