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次期3Dプリンタの模索(2022.3.10)


工房が最初に3Dプリンタに取り組んだのが2015年3月、早や7年が過ぎて
います。この間に数台のモデルを導入し試行錯誤してきましたが出力品質が
なかなか安定せず、たまに修理部品を製作することを除きすっかり遠ざかって
おりました。先日、私立の中・高等学校から教材開発・製作の打診をいただいた
ことがきっかけで、放り出していたLCD(光造形)プリンタのテストを再開し、その
補修部品の到着を待つ間に、最近のFDM方式も参考程度に調べてみました。
積層痕やムラ、糸引きやタレなどで使い物にならないと諦めていたFDMですが、
この数年間に(知らないうちに)驚くほどの進歩を遂げています。さらにその
価格も大きく下がり、ここでLCDはいったん置いてFDMを再考することに・・。

 

手始めに保有するFDM方式のうち、キットを組み上げたPrusaと中古で
購入したBFB 3D Touchを処分しました。設置場所の確保が先決です。
とても調べきれないほど多くの新製品が流通しており、ほとんどが中国製
です。製品ラインナップの分かりやすさから、FLASHFORGEに焦点を
絞ります。中国浙江省金華市で2011年に創立された新しい会社で、
AdventureCreatorのシリーズ名は何度も聞いたことがあります。

 

Adventure3は同社がコンシューマ向けに製造する小型のFDMプリンタです。
プリントサイズが150mm×150mm×150mmと小さいながら、最小積層
ピッチが0.05mmに到達しています。かつて工房が格闘してきたFDM機の
0.4mmに比べると驚愕の緻密さです。X・Y軸ガントリーやZ軸昇降など
基本的な機構要素は変わりませんが、全体の剛性を高めるため金属製筐体
(ボックス)構造が採用されています。さらに衝撃的なのはオンラインショップ
直販で53,900円、もちろん完成品の価格です。以前の記憶によると、
同等サイズ・性能の製品で確か30~40万円していたように思います。

 

プリントサイズが220mm×200mm×250mmに拡大された
Adventure4です。筐体もふた回りほど大きく、最小積層ピッチは
0.05mmで変わりません。リニアシャフトとリニアブッシュによる
移動機構をゴムベルトで駆動するこれまで変わらない構成です。
しかし、実際に組み込まれている各部品は、淘汰を経て選ばれた

高品質のものばかりです。このサイズでも直販で96,800円!
つい、「取りあえず買ってみるかぁ」という気になってしまいます。
 

ただし、かつての工房での経験を踏まえると、カタログ上のスペックは
実際の出力品質を表しません。「ターボファンエンジン(改良後のデルタ型
3Dプリンタによる再製作)
」のように、様々な要素が品質を大きく変化させ
ます。そのプリンタで実際に出力されたサンプルを評価する必要があります。

 

FLASHFORGEのラインアップでもう1台検討してみたいGuiderⅡです。
プリントサイズが280mm×250mm×300mmと大型化し、プロ仕様
とか工業用と説明されています。このくらいのサイズがあれば工房での
製品開発・製造には十分ですが、下手に大型化した結果、出力精度や
出力品質が犠牲になった製品例を多く見てきました。説明を鵜呑みには
できません。その反省からLCDプリンタも検討していますが、やはり造形
失敗が多くレジンの扱いも面倒で、9.25インチ6Kパネルが登場しても
その造形サイズは190mm横×120mm縦✕240mm高程度です。

 

FLASHFORGE JAPANのサイトでスペックを確認します。
1辺250mmを超える造形サイズでも、最小積層ピッチは
0.05mmが謳われています。本体重量は30kgにも及び
ますが、本体の高い剛性確保のためには納得がいきます。

 

FLASHFORGE JAPANは都内にショールームを
開設しています。実際に製品を確かめに行きます。

 

実機の印象はほぼ事前の理解通りでしたが、
何よりも出力サンプルの精緻さに驚愕です。

 
 

ショールーム担当者からも助言を得て、GuiderⅡ
ベストチョイスかと。Amazonで178,000円です。

 

ショールームのお話しではAmazonでは手数料が加算
されているとのこと。オンラインショップは151,800円。
 

今でこそAmazonは多くの3Dプリンタを取り扱っています。購入後の
製品レビューが充実しているため、仕様書以上に参考になります。
一連のFLASHFORGE製品を調べていると、外観が酷似しながら
異様に低価格(31,999円)の1台を見つけました。Voxelab製の
Ariesは、プリントサイズ200mm✕200mm✕200mmとやや
小型のFDM方式で、堅牢(そう)なボックス構造でZ軸にはダブル
レールが採用されています。組み立てキットでもこの価格は安い。

 

おもちゃのような1台か、と「Aries」を検索するとこのサイトに。
ページのトップに「Voxelab by Flashforge」とあり、どうやら
FLASHFORGEのサブブランドのようです。オフィシャルストア
だけ掲載されています。北米の一部とヨーロッパを除き、多くの
地域向けが在庫なしです。米国向け価格がUS$369(日本円で
43,000円くらい)、Amazonの32,000円はさらに格安です。

 

価格からしてとても期待できませんが、念のためVoxelabのサイト
Aries
のスペックを確認してみます。仕様の項目的には他の製品と
ほぼ同等で、取り上げるまでもなく除外された項目は見当たりません。


 組み立て済み : 完全に組み立てられ、パッケージ到着後数分以内に印刷可能。
 堅牢な設計 : デュアルZ軸レールにより安定した動きを保証、より優れた成形効果と卓越した印刷品質を実現。
 カーボンシリコンクリスタルガラスプラットフォーム : ガラスベッドは迅速かつ均一に加熱され、反りを防ぎます。
 印刷プロパティ : ビルドボリューム200✕200✕200mm、解像度±0.2mm、通常の印刷要件を満足。
 タッチスクリーン : タッチによりプリンタを操作します。
 自動フィラメントロード/アンロード : インテリジェントフィードテクノロジーにより、正確にフィラメントをロード。
 フィラメントの検出 : フィラメントが切れると印刷を停止し画面に通知。問題が修正されると印刷を回復。
 印刷の再開 : 突然の電源オフからの印刷の進行状況を保持し、電源がオンに戻ったときに同じ場所から続行。
 複数のデータ転送オプション : WiFi、USBスティック。
 汎用フィラメントをサポート : PLA、ABS、PETG。
 スライサーソフト : VoxelMaker、Cura、およびSimplify3Dと互換性あり。
 内蔵LED : 印刷の進行状況とモデルのステータスを簡単に確認可能。
 使いやすいノズル設計 : 取り外しが簡単でメンテナンスコストが低い。

 

スペックの日本語訳です。デュアルZ軸レール、加熱ベッド、自動
フィラメントロード・検出、電源オフ対応、WiFi接続など、最新3D
プリンタが装備する機能をほぼ網羅しています。最小積層ピッチの
項目がありませんが、Amazonの製品紹介では0.1mmと記載
されています。一連のFLASHFORGE製品が0.05mmをクリア
するのに対し半分のピッチです。しかし、これまでの0.4mm程度
に比べると4倍もの精緻さが得られることになり、十分と言えます。

 

何故なのか、国内オンラインショップでAriesは直販されていません。
どのような経緯でAmazonでの取り扱いがあるのでしょうか。それは
置くとして、Ariesは実機を確認することもできません。先ほどの
ショールームにも展示がなく、担当者から特に製品情報も聞き出せ
ませんでした。破格とは言え、このままでは単に怪しい中華製品で
「購入=無謀な投資」となりかねません。ここで海外のサイトに詳細な
製品レビューを見つけました。押しなべて高く評価されています。

 

3DPRINT BIGINNERのサイトに、実際に
出力されたサンプルが掲載されています。

 

積層痕の細密さもさることながら、その揃い方、
積層乱れの有無などを注意深く確認します。
 

製品紹介での出力サンプルは、最高に綺麗に
出力されたものばかりで当てにできません。

 

しかし、ユーザが実際に出力したサンプルならば信用
して良いでしょう・・。さて、信じ難いほど・・綺麗です。
 

3DPRINT BIGINNERにあるサンプルが決定打となり、Voxelab Aries
購入。Amazon Primeで翌日に到着です。Integrated solid design
謳い文句に違わず、がっしりとした剛性感のある本体、かつ意外と軽量です。

 

開梱~初プリントまで、かつての底無し的作業が
嘘のようです。テーブルの水平調整も簡単なものです。

 

タッチパネルの反応が少し不安定ですが、
ほとんど説明なしでメニューを操作できます。

 

駆動部を確認してみます。ガントリーY軸はリニア
シャフトと小型のリニアブッシュによるスライドです。

 

反対側右サイドのY軸スライドです。X軸方向
スライド用のステッピングモータと合体しています。

 

ホットエンドブロックが左右に移動するX軸は、上下2本の
リニアシャフトと計3個のメタルブッシュで構成されています。
 

Z軸は左右2本のリニアシャフトがテーブルを
支え、中央のスクリューが回転して昇降させます。

 

背面と底面を除く筐体の4方が開放状態なので、
左右側面にアクリル製カバーを取り付けます。
 

総じてシンプルな構成で、各機構部品に
さして高級パーツは使用されていません。

 

3Dプリンタを改良するたびテストプリントしてきた金運招猫
です。そつなく綺麗に出力され「金運」の文字が明瞭です。
 

リニアレールとスライドブロックに交換したデルタ型
プリンタで、以前に出力したものと比較してみると・・

 

先だって打診を受けた製作依頼とは、技術教育用の教材として利用される
ターボファンエンジンモデルの製作で、3Dプリンタを利用し始めて間もなく
試作に取りかかったものです。まだ構造が簡素で拙い出来上がりでしたが、
数台が教育現場へ納品されていきました。今回は部品構成を十分実物に
近づけ、各パーツの寸法精度と出力品質を一挙に引き上げなければなり
ません。Ariesのベンチマークも兼ねて、最初にエアインテイク初段の
大径低圧ファンを出力してみます。高度に3次元設計されたこの複雑な
形状を、格安プリンタでどれだけ高精度・高品質に出力できるでしょうか。

 

ラフトが正常に出力・定着するまで見届けてから
夜通し稼働させ、翌日になって工房に出向くと、

 

目を疑います・・ちゃんと完成しています。途中で
コケて毛玉の化け物など出現していません。
 

「嘘だろー」と思いつつテーブルごと出力品を
取り出します。テーブルの脱着は実に簡単です。

 

LCDプリンタのような滑らかな肌とはいかず
積層痕が残るも、見事に整った積層面です。

 

付属してきたスライサーVoxel Makerを、デフォルト設定のまま使用しています。
積層ピッチは0.18mmで、最小ピッチの0.1mmまでまだ余裕を残しています。
積層痕が残るとは言え、0.18mmピッチは十分に精緻です。そして、出力された
形状の輪郭(エッジ部)がシャープでブレを感じません。これはガントリー(X・Y軸)の
ポジショニング精度が非常に高いことを示しています。前述したように、さして高級な
機構部品が奢られているわけでもないのに、この十分に正確な出力は驚異的です。

 

中心ハブ部分の円形には、肉眼で確認
する限り全く歪みが認められません。

 

後処理が面倒な糸引き、表面に残るダマ、
端々のバリなどほぼ皆無の状態です。

 

オーバーハング部に自動生成されたサポート材を
取り除きます。最初は枝状サポートを選択しました。

 

LCDプリンタ用に登場した方式で、
他に板状サポートも選択できます。

 

唯一の失敗でありVoxel Makerの難点は、枝状サポートを取り除いた跡が
あまり綺麗ではないことです。サポートの接合部が大きく、切り離れた後の
傷が残りエッジが乱れます。切削・研磨処理がなかなか大変になりそうです。
もしかすると、サポート材パラメータの変更、あるいは板状サポートに変更する
ことで改善するかも知れません。・・・が、現時点での欠点はそれくらいです。

 

3Dプリンタを利用したものづくりを進めるには、プリンタ自体を更新し
開発環境を再構築しなければならないと、この数年間考え続けて
いました。そして性能的に満足のいくプリンタ導入には、数年前で
50~100万円、LCDプリンタで30~40万円はかかるものと理解
していました。GuiderⅡの151,800円でも大幅な低価格化で、
あっさり購入してしまいそうです。GuiderⅡの僅か5分の1で入手
できるAriesに、正直期待など持ち合わせていませんでしたが、
ほぼ完全に裏切られた結果です。Ariesで十分ではないかとの
結論を出すつもりはなく、性能と用途によってはGuiderⅡを導入
する可能性も多々残ります。有用な教材開発・製作のご要望には
全力を挙げて優先的にお応えして行きたいと考えております。

 

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