
本体箱組みが出来上がったので、次は屋根を製作することにします。割と
こじんまりした箱組みに対して、軒の長さ400mmを超える豪壮な印象の
屋根が載ります。合板を使い本体を簡素に組み上げているので、屋根は
単板薄板を選び少々凝った作りにします。荘厳さを醸し出したいものです。
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先に屋根の支えとなる棟木を取り付けます。
角材の断面を必要な寸法に調整します。
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箱組みの頂上に、棟木を収める
切り込みが予め加工されてあります。
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ただし、角材の上面を屋根の傾斜に
合わせて三角に成形する必要があります。
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昇降盤を傾斜角
15度に合わせます。
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丸鋸の傾きを確認すると余角の75度になって
います。このデジタル傾斜角計、優れものです。
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角材上面(写真右側面)の中央を
少し過ぎるあたりまで切り込みます。
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マークしておいた位置に僅かに
届きません。もう少し切り込みます。
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フェンスを僅かに狭めます。
軽く叩いて調整します。
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屋根の傾斜に一致するまで
2・3回繰り返します。
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反対側からも切断すると
正確な三角が出来上がります。
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切り込みに隙間なく嵌まり込んでいます。これで屋根板を段差なく頂上まで
渡すことが出来ます。*本体箱組みの製作と一部順序が前後していますのでご了解下さい。
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次に、既に用意してある
軒桁を取り付けます。
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両端に飛び出る長さを
正確に決めます。
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箱組みとの接合面に
接着剤を塗り付けます。
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桟の肩部分にも
接着剤を入れます。
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正確に位置を合わせます。両端に同じ
長さだけ飛び出ていることを確認します。
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クリップを数本ずつ
掛けて圧着します。
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棟木と軒桁で屋根を支える構造とします。母屋材と垂木は略します。
破風板を取り付けてから鼻隠しを渡し、屋根材を載せることにします。
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屋根を完成させる前に、内部の防火対策を講じます。
元の灯籠は蝋燭の炎により屋根が焼けています。
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屋根の内側に炎の熱を避ける
金属板を取り付けます。
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炎の先をアルミ板が受けることで、熱を拡散させ
木部が直接高温に晒されないようにします。
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スリーブを介して棟木の下部に
間隔を空けて固定します。
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ネジ穴を開けておいたアルミ板に
スリーブと木ネジをセットします。
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棟木の取り付け位置に
下穴を開けておきます。
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周囲がまだ開放状態の
うちに取り付けておきます。
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水平に取り付けられているか、
ぐらつきが無いか確認します。
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燃焼中の蝋燭は、炎の先端部分が800~900℃にも達します。灯籠内が無風状態だと
すると、木材を十分発火させる温度の燃焼気流が垂直に立ち昇り、限られた部分を炙り
続けることになります。すぐ発火するようなことにはなりませんが、木材を焦がしたり変形
させる可能性があります。アルミ板が気流を四方に分散することで温度上昇を抑えます。
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破風板を作ります。中央の幅を広く、
先端部分で狭くなるよう加工します。
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板材の端にスペーサーを貼り付け、
材料を傾けた状態で縦挽きします。
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元の灯籠に倣って
サイズを決定します。
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屋根頂上部での突き合わせ
角度を割り出します。
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測定された角度にスライドソーを
調整し、破風板の木口を切断します。
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デジタル傾斜計の精度は驚異的です。
微調整なし一発で必要な角度が出ます。
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取り付ける前に左右の破風板を接合しておきます。
ガラス定盤の上に置き、水平な状態で組み立てます。
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付き合わせた状態で、マスキング
テープを使って片面を固定します。
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裏返すと、マスキングテープが丁番のように
働いてつき合わせ部分を開くことが出来ます。
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接合面が開いた状態で
接着剤を入れます。
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ガラス定盤に押し付けて
接合面を密着させます。
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当て木を介してウェイトを載せ
接着剤の固化を待ちます。
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既に取り付けてある軒板、接着剤のみでは
接合強度にやや不安があるので釘を追加します。
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外側から全く目に付かない
部分で、美観を損ねません。
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屋根材を除き、屋根を構成する部品が揃いました。
前後の破風板、左右の鼻隠し材を取り付けます。
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破風板を接着します。棟木の
三角部分に位置を合わせます。
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軒桁の上面とも面一に合わせます。
屋根らしい雰囲気が出てきました。
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接着剤のみでも十分に強度を出せますが、
念のため破風板の固定に釘を追加します。
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鼻隠しを取り付けます。本来の鼻隠しではなく
母屋のような役割ですが、正確には分かりません。
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屋根の外観が見えてくると、箱組み部分の末広がり形状の意味が
理解できます。元部分(底面)をすぼめることと、過大サイズの屋根を
載せることで、小さな灯籠にスケール感を与えているのでしょう。
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屋根材を用意します。色合いが落ち
着いたレッドシダーの薄板を使用します。
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幅と厚みを一定に揃えます。板幅が取れないので
屋根を覆う幅まで数枚を接ぎ足す必要があります。
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屋根の傾斜方向長さに切り揃えます。同時に一方の
端を屋根の傾斜角に合わせて斜めに切断します。
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屋根に載せてみます。左右材料の
木口が棟部分で密着しています。
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昇降盤で木端面に
細い溝を入れます。
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雇い実接ぎの実を入れるための溝です。
接合部に隙間が生ずる心配がありません。
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細く切り出した材料で
実を作ります。
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溝に接着剤を入れます。
接合面にも塗り付けます。
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溝に実を入れ込みます。板長よりも
少し長めに切り出してあります。
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軽く叩いて溝の底まで押し込み、
接着剤を行き渡らせます。
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次の屋根材を接ぎます。はみ出した
接着剤を丁寧に拭き取ります。
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飛び出ている余分な
実を切り落とします。
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元の灯籠は屋根も合板製でしたので、
工法的に少し凝った作りになりましょうか。
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片側6枚の屋根材を、次々と
雇い実により接いで行きます。
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最後に、当て木を介してもう一度
水平方向に叩き込みます。
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ガラス定盤の上でウェイトを
載せて接着剤を固化させます。
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接着剤が乾燥・固化し、幅広で面積のある
薄板が出来上がりました。かなり強度があります。
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鋸で切り落としただけの実が少し
残っています。鉋で削り取ります。
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屋根材の木口面と
面一に仕上げます。
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平面全体にサンダーを
かけて平滑にします。
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#240~#400による研磨で
十分滑らかに仕上がります。
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左右とも屋根材が用意出来ました。
箱組みに取り付けるばかりです。
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あらためて屋根を載せてみます。サンダーがけにより表面が仕上がっているので
一段と品の良い神聖な印象が漂います。すぐにでも固定したいところですが・・、
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屋根を取り付けてしまうと、箱組みを
台座に非常に固定しにくくなります。
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既に取り付けてある桟に木ネジを
打ち付け、台座と合体させます。
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ドライバーでねじ込むにはつらいアングルです。
電動ドライバにエクステンションを取り付けます。
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何とか先端が届きます。作業のし易さを
度外視すれば、台座は一応脱着可能です。
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いよいよ屋根材を固定します。先に左右屋根材を
並べ、マスキングテープでつなぎ合わせておきます。
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屋根材との接触面全てに接着剤を塗り付けます。
前写真のマスキングテープ裏側にも入れます。
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接着剤の塗り残しがないか確認します。屋根が
合体することで全体の強度が向上するはずです。
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前後の飛び出し量を正確に合わせながら、
屋根を載せます。クリップで周囲を圧着します。
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棟に沿って浮いている可能性が
あるので、上から押さえ付けます。
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傷防止用に当て木を敷いた上に
ウェイトを置いて密着させます。
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もう一つ、厄介な部品を製作しなければなりません。
元の灯籠には、棟に沿って立派な大棟が載っています。
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元の大棟は、取り付け済みの棟木同様に
断面の上部が三角に成形されています。
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さらに長さ方向に沿って、両端が高く、
中央部が低く作られています。
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新しい大棟製作用の
材料に重ねてみます。
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中央部で7.7mmほどの隙間があります。
緩やかな曲面加工も荘厳さを出す工夫でしょう。
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元の大棟を昇降盤上に置いて再度確認します。屋根の
突起を避けるよう、底部(写真上面)が彫り込まれています。
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大棟の長さは、上部側で
475mmほどです。しかし、
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両端面は内側に10度ほど傾斜し、
底面側の長さはその分短くなります。
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両端木口を10度の
角度で切断します。
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上面側で長さ475mmになるよう
他端木口も10度に切断します。
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ここまでは割と簡単なのですが、三角形状のまま
大きく湾曲する面をどうやって作りだすか・・でTH。
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直線長さ475mmで7.7mmの隙間を作る
曲線(3点通過円)を、CAD上に描き出します。
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データに従って、レザー加工機で
アクリル板を大きな曲線に切断します。
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大棟用材料の幅を上回る間隔で、
平行する曲線をもう1本切ります。
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このアクリル板をテンプレートにすれば
大棟を正確に切断できるはずです。
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材料全長に渡り両面
テープを貼り付けます。
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用意したアクリル板の
テンプレートを貼り重ねます。
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曲面に加工するのは大棟上面側なので
両端の上側にテンプレートの端を一致させます。
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滅多に出番のないバンドソーです。工房を開業
した当時に、廃棄品をレストアしたものです。
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断面上部の三角と、大きな
曲面を同時に加工します。
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三角の傾斜角(約10度)に合わせて、
バンドソーのテーブルを傾斜させます。
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バンドソーの傾斜角目盛はあまり当てになり
ません。デジタル傾斜計で正確に調整します。
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ブレードとフェンスの間隔を
テンプレートの幅に一致させます。
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テンプレートに導かれるままに
大棟上面をブレードに当てて行きます。
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テンプレートをフェンス(写真左)に押し
当てながら慎重に切り進めて行きます。
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予想以上に順調に切断できました。
切断面は材料の中心下部まで及んでいます。
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片側から角度10度の傾斜で
綺麗に切断できています。
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テンプレートを剥がして反対側の面に
貼り直し、逆方向からも切断します。
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切断を終えました。テンプレートに
沿って期待通りに加工できています。
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上部の三角も正確に再現出来ています。鉋がけ
のみで同じ加工をするのは・・、私には無理です。
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それでも反り台鉋(木工芸用の豆鉋)を取り
出しました。取りあえず刃を研ぎます。
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バンドソーの切断面がかなり荒れており、
ペーパーがけでは追いつきません。
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研磨仕立ての反り台鉋のおかげで、ほぼ柾目の曲面が綺麗に仕上がりました。
しかし、このままでは底面(平面)が屋根の頂上に当たり安定しません。元の
灯籠では、底面が船底のように彫り込まれ、見事に当たりを避けていました。
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そこまで器用に鑿を使いこなすことが出来ないので、
別の方法を考えます。大棟の幅にテープを貼ります。
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マスキングテープに挟まれた範囲を、
平鉋で平面に削り取ります。
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屋根側を平面に仕上げておけば、大棟を
そのまま取り付けることが出来ます。
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鉋刃がテープに掛からないよう、ひと
削りごとに確認しながら鉋を当てます。
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実際に大棟を当て、隙間の
残り具合を確認します。
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テープ位置の間際まで削り終えました。大棟が
隙間なく密着することを確かめ、テープを剥がします。
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屋根頂上部に、大棟を載せるに
必要な平面が出現しました。
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はみ出すぎりぎりの接着剤を
入れて、大棟を貼り付けます。
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傷を作らないよう厚紙で材料表面を
保護し、クランプで両端を圧着します。
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大棟と屋根材の接合面に隙間は視認でき
ません。また、鉋を当てた痕も出ていません。
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元の灯籠に倣い、見よう見まねで製作を進めています。屋根および大棟が
取り付けられると、一挙に本来の灯籠らしさ、儀式用具としての神々しさを
放ち始めます。棟木上面の大きな反り具合も、その効果の程が分かります。
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神社建築について少し調べてみると、建屋の各部には大棟両端の鬼板、その
下の懸魚、破風装飾など様々なシンボルやデコレーションが施され、宗教的
建築物としての荘厳さを高めています。しかし、この灯籠はそういった装飾的
付属物をほとんど伴わず、それでも外形の大きな造形でこれだけの優美さを
表現しているわけです。先人の深遠な造形・構成力に感動を覚えます。
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箱組み部分と同様に
屋根材にも塗装を施します。
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下の箱組み部分よりはるかに雨に濡れる
可能性が高いので、4~5回重ね塗りします。
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屋根材の裏面については、もはや手が
届かなくなっており、塗装を略します。
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防水性は既に十分かと思います。塗装膜の
形成に伴い木肌の色合いも落ち着いてきます。
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