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木製灯籠を作る その4(2020.8.30)
本体箱組みが出来上がったので、次は屋根を製作することにします。割と
こじんまりした箱組みに対して、軒の長さ400mmを超える豪壮な印象の
屋根が載ります。合板を使い本体を簡素に組み上げているので、屋根は
単板薄板を選び少々凝った作りにします。荘厳さを醸し出したいものです。
先に屋根の支えとなる棟木を取り付けます。
角材の断面を必要な寸法に調整します。
箱組みの頂上に、棟木を収める
切り込みが予め加工されてあります。
ただし、角材の上面を屋根の傾斜に
合わせて三角に成形する必要があります。
昇降盤を傾斜角
15度に合わせます。
丸鋸の傾きを確認すると余角の75度になって
います。このデジタル傾斜角計
、
優れもの
です。
角材上面(写真右側面)の中央を
少し過ぎるあたりまで切り込みます。
マークしておいた位置に僅かに
届きません。もう少し切り込みます。
フェンスを僅かに狭めます。
軽く叩いて調整します。
屋根の傾斜に一致するまで
2・3回繰り返します。
反対側からも切断すると
正確な三角が出来上がります。
切り込みに隙間なく嵌まり込んでいます。これで屋根板を段差なく頂上まで
渡すことが出来ます。
*本体箱組みの製作と一部順序が前後していますのでご了解下さい。
次に、既に用意してある
軒桁を取り付けます。
両端に飛び出る長さを
正確に決めます。
箱組みとの接合面に
接着剤を塗り付けます。
桟の肩部分にも
接着剤を入れます。
正確に位置を合わせます。両端に同じ
長さだけ飛び出ていることを確認します。
クリップを数本ずつ
掛けて圧着します。
棟木と軒桁で屋根を支える構造とします。母屋材と垂木は略します。
破風板を取り付けてから鼻隠しを渡し、屋根材を載せることにします。
屋根を完成させる前に、内部の防火対策を講じます。
元の灯籠は蝋燭の炎により屋根が焼けています。
屋根の内側に炎の熱を避ける
金属板を取り付けます。
炎の先をアルミ板が受けることで、熱を拡散させ
木部が直接高温に晒されないようにします。
スリーブを介して棟木の下部に
間隔を空けて固定します。
ネジ穴を開けておいたアルミ板に
スリーブと木ネジをセットします。
棟木の取り付け位置に
下穴を開けておきます。
周囲がまだ開放状態の
うちに取り付けておきます。
水平に取り付けられているか、
ぐらつきが無いか確認します。
燃焼中の蝋燭は、炎の先端部分が800~900℃にも達します。灯籠内が無風状態だと
すると、木材を十分発火させる温度の燃焼気流が垂直に立ち昇り、限られた部分を炙り
続けることになります。すぐ発火するようなことにはなりませんが、木材を焦がしたり変形
させる可能性があります。アルミ板が気流を四方に分散することで温度上昇を抑えます。
破風板を作ります。中央の幅を広く、
先端部分で狭くなるよう加工します。
板材の端にスペーサーを貼り付け、
材料を傾けた状態で縦挽きします。
元の灯籠に倣って
サイズを決定します。
屋根頂上部での突き合わせ
角度を割り出します。
測定された角度にスライドソーを
調整し、破風板の木口を切断します。
デジタル傾斜計の精度は驚異的です。
微調整なし一発で必要な角度が出ます。
取り付ける前に左右の破風板を接合しておきます。
ガラス定盤の上に置き、水平な状態で組み立てます。
付き合わせた状態で、マスキング
テープを使って片面を固定します。
裏返すと、マスキングテープが丁番のように
働いてつき合わせ部分を開くことが出来ます。
接合面が開いた状態で
接着剤を入れます。
ガラス定盤に押し付けて
接合面を密着させます。
当て木を介してウェイトを載せ
接着剤の固化を待ちます。
既に取り付けてある軒板、接着剤のみでは
接合強度にやや不安があるので釘を追加します。
外側から全く目に付かない
部分で、美観を損ねません。
屋根材を除き、屋根を構成する部品が揃いました。
前後の破風板、左右の鼻隠し材を取り付けます。
破風板を接着します。棟木の
三角部分に位置を合わせます。
軒桁の上面とも面一に合わせます。
屋根らしい雰囲気が出てきました。
接着剤のみでも十分に強度を出せますが、
念のため破風板の固定に釘を追加します。
鼻隠しを取り付けます。本来の鼻隠しではなく
母屋のような役割ですが、正確には分かりません。
屋根の外観が見えてくると、箱組み部分の末広がり形状の意味が
理解できます。元部分(底面)をすぼめることと、過大サイズの屋根を
載せることで、小さな灯籠にスケール感を与えているのでしょう。
屋根材を用意します。色合いが落ち
着いたレッドシダーの薄板を使用します。
幅と厚みを一定に揃えます。板幅が取れないので
屋根を覆う幅まで数枚を接ぎ足す必要があります。
屋根の傾斜方向長さに切り揃えます。同時に一方の
端を屋根の傾斜角に合わせて斜めに切断します。
屋根に載せてみます。左右材料の
木口が棟部分で密着しています。
昇降盤で木端面に
細い溝を入れます。
雇い実接ぎの実を入れるための溝です。
接合部に隙間が生ずる心配がありません。
細く切り出した材料で
実を作ります。
溝に接着剤を入れます。
接合面にも塗り付けます。
溝に実を入れ込みます。板長よりも
少し長めに切り出してあります。
軽く叩いて溝の底まで押し込み、
接着剤を行き渡らせます。
次の屋根材を接ぎます。はみ出した
接着剤を丁寧に拭き取ります。
飛び出ている余分な
実を切り落とします。
元の灯籠は屋根も合板製でしたので、
工法的に少し凝った作りになりましょうか。
片側6枚の屋根材を、次々と
雇い実により接いで行きます。
最後に、当て木を介してもう一度
水平方向に叩き込みます。
ガラス定盤の上でウェイトを
載せて接着剤を固化させます。
接着剤が乾燥・固化し、幅広で面積のある
薄板が出来上がりました。かなり強度があります。
鋸で切り落としただけの実が少し
残っています。鉋で削り取ります。
屋根材の木口面と
面一に仕上げます。
平面全体にサンダーを
かけて平滑にします。
#240~#400による研磨で
十分滑らかに仕上がります。
左右とも屋根材が用意出来ました。
箱組みに取り付けるばかりです。
あらためて屋根を載せてみます。サンダーがけにより表面が仕上がっているので
一段と品の良い神聖な印象が漂います。すぐにでも固定したいところですが・・、
屋根を取り付けてしまうと、箱組みを
台座に非常に固定しにくくなります。
既に取り付けてある桟に木ネジを
打ち付け、台座と合体させます。
ドライバーでねじ込むにはつらいアングルです。
電動ドライバにエクステンションを取り付けます。
何とか先端が届きます。作業のし易さを
度外視すれば、台座は一応脱着可能です。
いよいよ屋根材を固定します。先に左右屋根材を
並べ、マスキングテープでつなぎ合わせておきます。
屋根材との接触面全てに接着剤を塗り付けます。
前写真のマスキングテープ裏側にも入れます。
接着剤の塗り残しがないか確認します。屋根が
合体することで全体の強度が向上するはずです。
前後の飛び出し量を正確に合わせながら、
屋根を載せます。クリップで周囲を圧着します。
棟に沿って浮いている可能性が
あるので、上から押さえ付けます。
傷防止用に当て木を敷いた上に
ウェイトを置いて密着させます。
もう一つ、厄介な部品を製作しなければなりません。
元の灯籠には、棟に沿って立派な
大棟
が載っています。
元の大棟は、取り付け済みの棟木同様に
断面の上部が三角に成形されています。
さらに長さ方向に沿って、両端が高く、
中央部が低く作られています。
新しい大棟製作用の
材料に重ねてみます。
中央部で7.7mmほどの隙間があります。
緩やかな曲面加工も荘厳さを出す工夫でしょう。
元の大棟を昇降盤上に置いて再度確認します。屋根の
突起を避けるよう、底部(写真上面)が彫り込まれています。
大棟の長さは、上部側で
475mmほどです。しかし、
両端面は内側に10度ほど傾斜し、
底面側の長さはその分短くなります。
両端木口を10度の
角度で切断します。
上面側で長さ475mmになるよう
他端木口も10度に切断します。
ここまでは割と簡単なのですが、三角形状のまま
大きく湾曲する面をどうやって作りだすか・・でTH。
直線長さ475mmで7.7mmの隙間を作る
曲線(3点通過円)を、CAD上に描き出します。
データに従って、レザー加工機で
アクリル板を大きな曲線に切断します。
大棟用材料の幅を上回る間隔で、
平行する曲線をもう1本切ります。
このアクリル板をテンプレートにすれば
大棟を正確に切断できるはずです。
材料全長に渡り両面
テープを貼り付けます。
用意したアクリル板の
テンプレートを貼り重ねます。
曲面に加工するのは大棟上面側なので
両端の上側にテンプレートの端を一致させます。
滅多に出番のないバンドソーです。工房を開業
した当時に、廃棄品をレストアしたものです。
断面上部の三角と、大きな
曲面を同時に加工します。
三角の傾斜角(約10度)に合わせて、
バンドソーのテーブルを傾斜させます。
バンドソーの傾斜角目盛はあまり当てになり
ません。デジタル傾斜計で正確に調整します。
ブレードとフェンスの間隔を
テンプレートの幅に一致させます。
テンプレートに導かれるままに
大棟上面をブレードに当てて行きます。
テンプレートをフェンス(写真左)に押し
当てながら慎重に切り進めて行きます。
予想以上に順調に切断できました。
切断面は材料の中心下部まで及んでいます。
片側から角度10度の傾斜で
綺麗に切断できています。
テンプレートを剥がして反対側の面に
貼り直し、逆方向からも切断します。
切断を終えました。テンプレートに
沿って期待通りに加工できています。
上部の三角も正確に再現出来ています。鉋がけ
のみで同じ加工をするのは・・、私には無理です。
それでも反り台鉋(木工芸用の豆鉋)を取り
出しました。取りあえず刃を研ぎます。
バンドソーの切断面がかなり荒れており、
ペーパーがけでは追いつきません。
研磨仕立ての反り台鉋のおかげで、ほぼ柾目の曲面が綺麗に仕上がりました。
しかし、このままでは底面(平面)が屋根の頂上に当たり安定しません。元の
灯籠では、底面が船底のように彫り込まれ、見事に当たりを避けていました。
そこまで器用に鑿を使いこなすことが出来ないので、
別の方法を考えます。大棟の幅にテープを貼ります。
マスキングテープに挟まれた範囲を、
平鉋で平面に削り取ります。
屋根側を平面に仕上げておけば、大棟を
そのまま取り付けることが出来ます。
鉋刃がテープに掛からないよう、ひと
削りごとに確認しながら鉋を当てます。
実際に大棟を当て、隙間の
残り具合を確認します。
テープ位置の間際まで削り終えました。大棟が
隙間なく密着することを確かめ、テープを剥がします。
屋根頂上部に、大棟を載せるに
必要な平面が出現しました。
はみ出すぎりぎりの接着剤を
入れて、大棟を貼り付けます。
傷を作らないよう厚紙で材料表面を
保護し、クランプで両端を圧着します。
大棟と屋根材の接合面に隙間は視認でき
ません。また、鉋を当てた痕も出ていません。
元の灯籠に倣い、見よう見まねで製作を進めています。屋根および大棟が
取り付けられると、一挙に本来の灯籠らしさ、儀式用具としての神々しさを
放ち始めます。棟木上面の大きな反り具合も、その効果の程が分かります。
神社建築について少し調べてみると、建屋の各部には大棟両端の
鬼板
、その
下の
懸魚
、
破風
装飾など様々なシンボルやデコレーションが施され、宗教的
建築物としての荘厳さを高めています。しかし、この灯籠はそういった装飾的
付属物をほとんど伴わず、それでも外形の大きな造形でこれだけの優美さを
表現しているわけです。先人の深遠な造形・構成力に感動を覚えます。
箱組み部分と同様に
屋根材にも塗装を施します。
下の箱組み部分よりはるかに雨に濡れる
可能性が高いので、4~5回重ね塗りします。
屋根材の裏面については、もはや手が
届かなくなっており、塗装を略します。
防水性は既に十分かと思います。塗装膜の
形成に伴い木肌の色合いも落ち着いてきます。
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