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ベーカリーの看板(2021.10.11)
7月の豪雨時に近くのパン屋さんから、落雷被害を受けた
業務用ベーカリー
修理
のご用命をいただきました。写真はパン屋さんの入口にかけられていた
木製の看板です。輪切りにされた巨木の1枚板に、バーナーでカットされたと
思われる金属製の屋号文字が取り付けられています。「
バッケンバルト
」の
バッケンはドイツ語で「焼く」、バルトは「ヒゲ」を意味するそうです。開店時に
知り合いの制作家に依頼されたのですが、風化により材料が傷んでいます。
店舗敷地(駐車場)の入口に鉄骨製の柱が
立ち、ここに看板が設置されていました。
柱から延びるハンガーも、金工作家らしく
草蔓を模してお洒落にデザインされています。
看板の材料は、杉材のような感じを受けますが
風化や変色が著しく進みよく分かりません。
看板をハンガーに吊り下げるフックの取り付け
部分です。材料が崩壊し脱落しています。
材料全体に風化が進み、手を触れるだけでボロボロと
崩れてきます。輪切り材では避けられないでしょう。
元の看板は放棄せざるを得なく、同じく木製で
新しい看板を掛けてほしいとのご用命です。
元の材料に劣らない材料を
探さなければなりません。
これは工房の材料庫に長年保管してあった欅材
です。複雑に杢が入り込み堂々とした印象です。
屋号文字板を当ててみます。
先頭の大文字Bが窮屈そうです。
髄からかなり離れた辺材なので
耳部分が大きく広がっています。
裏側(木裏面)に当ててみます。フック
取付位置の決定が難しそうです。
木裏面には大きめの節穴が口を開いています。ここから
腐食が進む可能性があり、耐候性の点で心配です。
ご依頼主にも気に入っていただけたのですが、止む無く欅材は諦めることに。
新し材料を探しに、確か10年近く以前に一度行ったことがあるつくば市の
「
ウッドショップ100(塚本材木店)
」を訪ねてみました。山のような在庫の
中から見つけたのがこの
パドゥク材
。鮮やかな赤味材に表皮近くの白太が
残り、使い方次第で素敵な看板になりそうです。ただし、米国に端を発する
ウッドショック
の影響で、銘木類の価格は信じがたいほど高騰しています。
文字板を当ててみます。白太を上にするか
それとも下端に持ってくるか悩みどころです。
製材したままの表面を仕上げます。が、
この樫木にその辺の鉋では
刃
が立ちません。
サンダーに#80~120のペーパーを
取り付けてひたすら研磨することにします。
猛烈な粉塵が舞い上がります。吸い込むと呼吸器に
深刻な影響が出ます・・ので、N95マスク必須です。
製材時の鋸目が完全に消えるまで研磨を
続けます。鉋が使えれば早いのですが。
周囲一面が唐辛子のパウダーでもぶちまけたように
赤く染まっていきます。作業する手もこの通りです。
#240のペーパーをオービタルサンダーに
取り付けて、仕上げ段階の研磨に入ります。
研磨された樫木が艶やかさを放ちます。
手触り感が建材とはまるで異なります。
これだけの樫木なので、屋外で雨風に
晒される環境にも耐えられそうです。
樹皮部分はそのまま残して、看板の表情として
生かします。ワイヤブラシで汚れを落とします。
木口も鋸目が完全に消えるまで研磨します。
パドゥクは白太部分も強度が変わらないようです。
最後に木口稜線を面取りしておきます。
看板素材として十分なクオリティです。
白太を上にするか下にするかで二転三転し、アクセントとしての役割から
下側にします。後はご依頼主の意向を伺うことにします・・。これでも良いと
仰って下さいましたが、「これで
も
」に微妙な空気を感じ、もう一度材料を
探すことにします。途中で思い出したのですが、市内百合丘に
古い材木屋
さん
があります。ご主人がご高齢なので、まだ営業されているか不安です。
ご夫婦ともお元気でした・・が、やはり近々お店をたたむそう
です。木材庫の奥から探し出して下さった5尺の檜材です。
元の看板の横幅に合わせ650mmにカットします。
丸鋸が入った瞬間、檜の神々しい香りが立ち込めます。
50mm近い厚板では、直線ガイドなど使うと非力な
丸鋸が蹴られて蛇行します。ガイドなし1発で決めます。
檜は鉋のかけやすい材料のはずですが、
杢が入り組んでいるので逆目が立ちます。
鉋刃を丁寧に研ぎ上げ、裏金をぎりぎり
まで押し出して慎重に削り上げます。
鉋がけに続いて#240をセットした
オービタルサンダーで仕上げます。
パドゥク材よりもひと回り大きな材料で、重量感があります(実際重たいです)。
建材扱いの檜ではありますが、
石橋材木店
お勧めのこの1枚は別格です。
ひと皮剥けたその下から現れるのは、巨木となるまでの長い年月を物語る
美しい杢に彩られた檜の素肌です。欅、パドゥク、檜、木は素晴らしいです。
吊り下げ時のフック位置を決定
するため現場を確認します。
看板を吊り下げるハンガーは、3枚の鉄材で
構成されデザインと強度の両立を図っています。
ハンガーにフックを掛けてみます。フック間の
距離を元の看板と同じ360mmに合わせると、
ハンガーのデザイン性が裏目に出ます。
看板取り付け穴の高さが左右で異なります。
穴の位置は左右で40mmも高さが違います。製作中の看板はほぼ長方形なので
穴の高さを左右でずらさなければ、吊り下げたときに大きく傾きます。元の看板は
下向きの半円形だったので、あまり気にならなかったのでしょうか。それとも、必ず
しも頑丈とは言えないハンガーが、数年のうちに折れ下がってきたのでしょうか。
看板自体の水平を優先させるため、
フックの取り付け穴を左右で調整します。
フックを仮置きしてみます。錆が進行して
いるので後で錆処理+再塗装します。
左右で40mmの差は・・、どうでしょうか。
看板自体が水平でも安定感がありません。
さらに文字板を置いてみます。
置き方次第で何とかなるでしょうか。
厚手檜材製の堂々とした看板が姿を現してきました。文字板を少し斜めに
置くスタイルも悪くありません。ですが、フック取り付け位置の高低差は、
下手をすると折角の檜製看板を台無しにしかねません。対策を考えます。
再び現場の確認にやってきました。ハンガーが草蔓を
模して曲げられているため、高さが一定しません。
そこで、左右で高さが同じになる位置を探し
ます。フックの間隔は変更せざるを得ません。
フック間を450mmに広げることで、左右の高さを同じにできる位置を
見つけました。檜材横方向は650mmなので、十分に対応可能です。
フックを取り付けるボルト穴の位置を割り出します。
間違っても穴あけで失敗などしたくありません。
もう一度文字板を置いてみます。
素直に水平に配置するのは無難です。
穴開けには径20mmの
C型
ドリルビット
を使用します。
切り口(穴のあけ口)にバリが出にくく、
綺麗な穴あけが出来るとされています。
新品のビットなので切れ味は
抜群で、サクサク切り進みます。
このドリルビットはホームセンターでは取り次ぎが
ありません。ネット通販でなら入手可能です。
保護用のマスキングテープを剥がしてみると
あけ口の周囲に多少の乱れが確認できます。
裏返して貫通口をみると、当て木をして
いたこともありバリがなく十分に綺麗です。
塗装作業に入ります。透明の防腐剤を十分に塗布
(浸潤)してから、屋外用ウレタンを塗り重ねます。
5~10回塗り重ねることで、
防水性を与え耐候性を高めます。
透明塗料なのに塗り重ねるごとに
木肌が飴色を帯びてきます。
フック取り付け穴を利用して垂直に吊り下げ、
ウレタン樹脂の乾燥・固化を待ちます。
半完成の状態で新しい看板を現場に搬入します。ご依頼主に見てもらい、
文字板の取り付け位置を決定します。やはり少し傾けた方がよろしいそうです。
マスキングテープで取り付け位置を保持しながら
先にドリルで木ネジの下穴をあけます。
工房に黒錆処理をした鍋木ネジが
あったのでそれを使用します。
フックはケミカルで錆を除去し、プラサフで下塗り、
艶消し黒のカラースプレーで再塗装してあります。
再塗装したボルト頭に、スパナで傷を
付けないようマスキングテープで養生します。
高さが揃う位置にフックを掛けます。
もう10月だというのに日差しが強烈です。
3度目ならぬ3枚目看板の登場です。後は
ぶら下げるだけでこの仕事は完了です。
重量を測り忘れましたが5kg以上あると
思います。助けを借りてボルトを通します。
左右のボルトが通ってしまえば
落下する心配はありません。
反対側はナットではありません。既に通した
ボルトの先端が雌ネジ加工されています。
そのため、反対側からも短いボルトを
通し、看板の内側で締め込みます。
マスキングテープの外からレンチを当て、
塗装面を傷付けないように締めます。
反対側のボルトにもレンチを
かけて滑り止めにします。
作業終了です。取り付け作業自体は小一時間でしたが、
材料探しを含めると2か月近くにおよぶ長丁場でした。
木立の中に佇む自然木の看板は、
緑の風景に良く調和しています。
守谷市高野のベーカリー
バッケンバルト
は、
食べログ
を始めいくつものブログに
取り上げられている素敵なパン屋さんです。現場での作業中にも、ひっきりなしに
駐車場へ車が出入りし来客が絶えません。新しい看板がさらに多くのお客さんを
呼び込んでくれると、とても嬉しいのですが。久々に木工のお仕事を頂戴しました。
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