7月上旬から一時的に業務を再開しています。まだ療養の予定が続きますので
本格的な再開ではありませんが。梅雨の影響による豪雨のため、熱海市の
土石流をはじめ各地で被害が出ています。守谷市内でも激しい豪雨があった日、
工房のすぐ横の国道では走行中の車が数台水没したそうです。同じ日の夜、
自宅に戻ったところへ地元のパン屋さんから電話がありました。工房からほど
近いところで営業されている小さなベーカリーで、地域で大変人気のお店です。
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翌日、早々に駆けつけてみると、近くに落雷があった直後からベーカリーオーブン
(業務用パン焼き装置)に電源が入らなくなったとのことです。3年半ほど前に群馬
まで業務用ベーカリーを修理に行った記事をご覧になり連絡を下さったそうです。
製造20年近く経過している業務用ベーカリーで、3段のオーブンに2m近い奥行、
3相3線式200Vの動力用配線で20~30kwの電力を消費する大型の装置です。
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分電盤ボックスを開けて内部を確認します。カットアウト
スイッチの他に、何故かブレーカー3台も並んでいます。
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取りあえずブレーカーをONにしてみます。ONにした
瞬間、ベーカリーの内部から「ダンッ」という音がします。
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いったんブレーカーを切り、本体側面の金属製カバーを
取り外します(重い!)。3段分の電気配線が見えます。
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最下段の奥まったところにベーカリー全体に電力を供給
するブレーカーがあります。「ダンッ」の発生源はここです。
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ブレーカーが通電しているので、内部まで電力が来て
いるはずです。各相3本の配線の電圧を確認します。
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電熱線へのスイッチングデバイスの入力側を、
オーブン3段分、赤・白・青の順に調べていきます。
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結果、赤・白・青いずれの線間にもAC200Vが
出ており、ここまでの回路に問題はありません。
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スイッチングデバイスの破損か、スイッチングさせる制御
回路系に問題がありそうです。前者でないことを祈ります。
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制御系は表パネルを伴う操作盤と一体になっており、
背面(本体の内部)側にケーブルが接続されています。
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電熱線に大電力を供給する配線とは別に、
制御系に電力を分岐する回路があります。
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落雷によるサージ電流がこの回路を直撃したようです。幸いなことに過電流保護
ヒューズが機能、すなわち2本とも溶断しています。ただし、サージ電流の威力は
凄まじいもので、ヒューズホルダー内の金具が焼損しコードが脱落していました。
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2本のヒューズ(3A)を交換し、破損した
ヒューズホルダーを元通りに修復します。
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作業を終えた後で気付いたのですが、ホルダーの
すぐ横にスペアのヒューズが用意されていました。
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ベーカリーオーブンが使えないとなると、その途端パン屋さんの業務は止まってしまい
ます。製造メーカーを呼んだり専門の修理業者を頼んでも、型式が古いと補修部品の
在庫もなく修理してもらえないことが少なくありません。もし新品に入れ替えることに
なれば、この規模のベーカリーオーブンは数百万円の投資が必要で、事業の継続
自体が難しくなるかも知れません。今回は溶断したヒューズ交換のみの簡単な修理
ですから、パン屋さんにとっても工房にとっても運が良かったと言えましょう。費用も
ごく僅かで済みます・・が、それは無事に動作確認を終えてからの話です。
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操作パネル右上にシステムの電源をON・OFFする電源
スイッチがあります。上段(1段目)の電源を入れます。
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続いて中段(2段目)の電源を入れます。
操作パネル上の各表示が一斉に点灯します。
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ところが最下段(3段目)は、パネルの設定値に「E-4」、タイマーに「HELP」の
表示が出たままで、電源スイッチを押してもONになりません。何かエラーを表示
しているようですが、取扱説明書類が無いため意味が分かりません。スマホを
取り出してにわかに検索してみるも、製品名からして特定することが出来ません。
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不具合個所の簡便な割り出し方法として、正常な中段の
制御基板にケーブルを差し替えてみると問題なく動作します。
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つまり不具合は下段制御基板の内部にあることに
なります。分電盤の電源を落とし基板を取り外します。
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取りあえず上側2段が復旧しているので、業務は十分再開
できるそうです。ここからは本腰を入れて型番を特定します。
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製造メーカ名「FUJISAWA」、型番は
「98EBPS-222B」、2005年製です。
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ネット検索の結果、何とか製造メーカーに辿り着きました。1927年(昭和2年)に
設立された藤澤鉄工所(1943年に株式会社藤澤製作所、1991年に株式会社
フジサワ、2003年に株式会社フジサワ・マルゼン)のデッキオーブンです。合併の
後に製造されていますが、製品の銘板は「FUJISAWA」のままです。現在のWEB
ページから製品型番やエラーコードを添えて問い合わせてみました。回答はメール
ではなく直接電話を下さり、エラーコードの内容と対処方法を教えてくれました。
また、驚いたことに故障した制御パネル(基板)は保守部品の在庫があるそうです。
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何度試してもエラーは解除できません。パン屋さんに了解を
いただき(10万円以上します)新しい基板に交換することに。
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送られてきた交換用の基板です。新設計の補修用同等部品
だそうで、新しいデバイスがふんだんに使用されています。
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分電盤の電源を落として
交換作業にかかります。
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不具合のあった最下段に取りつければ良いの
ですが、万一のことを考えてひと工夫します。
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正常に機能している中段の制御基板を外し、
中段を新しい基板と交換することにします。
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エラーを起こしている下段が、万一基板以外に原因を
残していた場合、新しい基板を破損する心配があります。
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操作パネルのフレーム(化粧枠)やネジ穴の配置は
元の製品と全く同なので、作業は実に簡単です。
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操作ルのボタン配置等も元の製品と全く同じです。
分電盤の電源を入れるとパイロットランプが点灯します。
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右上の電源スイッチを押してみます。
電源が入りパネル表示も正常です。
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回路設計や使用部品が大きく変更されている
ものの、機能は元の製品と完全に同一です。
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続いて中段から取り外した制御基板を下段に取り付けます。
上下2組の温度センサー(熱電対)の配線を接続します。
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交換前は分電盤の電源を入れた時点でエラーが表示
されていました。パイロットランプが点灯しひと安心です。
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電源スイッチを押すと各パネルが一斉に正常に表示されます。上側・下側
双方の庫内温度や、到達目標温度設定も正常です。15年以上も前に製造
された製品が、よく息を吹き返したものです。というのも、部品価格には少々
驚いたものの、元の製造メーカーが変遷を経ながらも補修部品を保有されて
いたからに他なりません。企業の社会的責任を果たされていると思います。
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やはり3段全てのパネルが点灯している光景は頼もしい感じがします。
そう言えば、今頃になって電熱線の電力制御に使われているパワー
デバイスの名称を思い出しました。「ソリッドステートリレー」、または
抵抗レギュレータとも呼ばれるようです。大きなヒートシンク付きです。
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最後の大仕事は、側面3段分の外装パネルを取り付ける作業です。
写真のように手前の壁が迫り、奥へ入ることができません。横に長く
重量のある鉄製パネルを、手前側の半分だけで持ち上げなければ
なりません。作業の翌日は右腕を中心にひどい筋肉痛に見舞われ
ましたが、地域の人気パン屋さんのお役に立てて何よりです。
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