守谷工房の製作品2へ                守谷工房Topへ

古い額縁の修復その2(2018.2.11)


古い額縁修復の第2弾です。第1弾はこちらからご覧になれます。
花瓶に生けた6輪の薔薇を描いた絵が収められています。背景の
深い紅色が薔薇に落ち着いた輪郭を与えているように感じます。

*修復後の写真をご覧下さい。

 

紅色に合わせているのか、台紙はほんのり
赤味のさした白色に塗装されています。

 

長い年月を経て台紙には傷が付き、特に
外側木枠との際に汚れが集積しています。

 

外側木枠の四隅は45度で留め接ぎされていますが、
接合が壊れて隙間が広がり、ぐらついています。

 

背面に作品名「ばら」、作者名
「遠峰郷雨」と筆書きされています。

 

遠い昔、ご依頼主のお父様が作者
から買い取った作品だそうです。

 

絵画本体は数本の釘で軽く固定されて
いるだけです。簡単に外れてきます。

  

絵画を固定していた釘、および内側化粧
フレームを固定している取り去ります。

 

内側化粧フレームも
簡単に外れてきます。

 

後で内側化粧フレームの取り付け位置を
再現できるよう、合印を書き込んでおきます。

 

内側化粧フレームの表側です。光沢のある
メタリックシルバーで塗装されていたようです。

 

外側木枠を取り外します。既に四隅の留め接ぎが壊れかけているので、
いったん完全に分解します。補強のため釘が打たれているので、傷を付け
ないよう当て木を介し木槌で叩きます。接着剤はほとんど効いていません。

 

1か所につき2本ずつ釘が打たれています。場所に
より互いに交差方向に打たれていて厄介です。

 

4本の木枠が分離しました。組み合わせ方を
間違えないよう、全てに合印を書き込みます。

 

残っている釘を叩き出します。表面に
錆が広がり、木材に喰い付いています。

 

最後はニッパーで、木枠材料表面を
傷付けないよう丁寧に抜き取ります。

 

木枠の内側に、台紙を固定する細い桟が
取り付けられています。全て外します。

 

外側木枠の修復に入ります。先に材料表面を再研磨
します。組み立て直す前の方が作業しやすいからです。

 

斜めにカットされた形状のため、材料の固定に工夫が
必要です。作業台に簡単な冶具を打ち付けています。
 

サンドペーパーは研磨用・塗装落とし用のものを使用
します。目詰まりしにくく、研磨力が長く持続します。
 

120で古く劣化した塗装膜を落とします。濃色で
塗装するので、材料の地肌を出すまでには及びません。

 

釘の痕を除き状態は悪くありません。木目に入り
込んだ研磨粉を、掃除機で吸い取っておきます。

 

分解した外側木枠を元通りに組み立てます。限られた
接合面積で十分な強度を確保しなければなりません。

 

エポキシ接着剤のみでは心許ないので、後で隠し釘を
使うことにします。接合部をテープで厳重に保護します。
 

既に取り外されている内側化粧フレームです。
外側木枠が固着するまで、先に修復します。

 

絵画に最も近い縁取り部分です。折角のメタリック
シルバー塗装も光沢が落ち、汚れが広がっています。

 

塗装面全体にペーパーをかけ、劣化した
塗装膜を軽く落として下地を整えます。

 

内側の狭いスラント面は、スポンジベースの
研磨シートを使い、残さず丁寧に磨きます。

 

ここで全体にプラサフを2回吹きます。
耐候性と耐久性に優れ頼りになります。

 

元の塗装に高い光沢性が伺えるので、シルバーメタリックの
専用スプレーを使用します。塗装後の光沢がまるで違います。

 

プラサフの吹き付け面を#1000前後の耐水ペーパーで水研ぎしておくと、さらに
光沢が増したかも知れません。それでも通常の銀色塗装の比ではありません。

 

台紙の補修作業に入ります。1枚の
合板を切り抜いて作られたものです。

 

外側木枠の溝に嵌め込まれていた部分の跡
です。汚れの一部は成長したカビのようです。

 

この面積を均一に研磨するため、
オービタルサンダーを使用します。
 

薄い合板製台紙の周辺部には補強材がありません。
サンダーの重量を受け止めるため木片を入れます。

 

一挙に汚れを落とし表面を平滑化します。カシュー
塗装のような厚みのある塗膜をなるべく残します。

 

元の塗装膜に深刻な劣化がない
ので、下塗りとして再利用します。

 

プラサフを吹くと元の色が分からなくなるので先に
塗装色を調合します。ベースは艶消しホワイトです。

 

赤味を加えるためほんの僅か
サンセットローズを混入します。

 

「赤く」してしまうと台無しになるので、元の
塗装面と比べながら控えめに調整します。

 

ここでプラサフを吹き付けます。一部に
残っている傷跡も完全に覆い隠します。

 

プラサフを3回重ねて吹き付けます。仕上げ塗りも
可能ならば吹き付け塗装したいところですが・・

 

微妙な色合いのカラースプレーが入手
できるはずもなく、刷毛塗りで作業します。

 

塗装ムラが残らないよう、塗料(水性)に少量の水を加え伸びの良い状態で塗装します。
しかし、希釈すると下地の隠蔽性能が低下するため、4~5回重ね塗りして仕上げます。

 

塗装の乾燥を待ち台紙に内側化粧フレームを嵌め込み
ます。塗装面を汚損しないよう布を敷いて作業します。

 

台紙と内側化粧フレームを、
小釘を打って互いに固定します。

 

元の釘痕に、僅かに角度を変えて打ち
込みます。元の穴では接合力が出ません

 

の額縁も比較的簡単な構造をしており、
要所を押さえた補修作業で修復可能です。

 

表側に返してみます。綺麗に補修された台紙と内側化粧フレームが
互いを引き立て合っています。台紙の赤味は本当に控えめです。

 

外側木枠の補修作業に戻ります。
エポキシ接着剤が完全に固化しています。

 

接合部の保護テープを剥がします。専用の固定冶具には
及びませんが、テープでも十分接合位置を保持できます。

 

額縁などの枠を組み立てる際、1か所を残して3か所を先に
接合し、部品のずれを修正しながら残る1か所を接合します。

 

そうすることで無理なく正確に位置合わせができ
ます。元の釘痕や開いた隙間にパテを当てます。

 

パテの乾燥を待ちペーパーで整形します。
塗料の乗りが悪いのでできるだけ落とします。
 

隅の稜線も綺麗に整形できました。はみ
出した接着剤も同時に削り落とします。

 

裏側にもエポキシ接着剤がはみ出し固化して
います。このままでは絵画が入りません。

 

鑿で接着剤を削り落とします。
2方向から慎重に鑿を入れます。

 

切れ味の良い鑿を使用しないと思うように
削れません。この程度でよろしいでしょう。

 

外側木枠の再塗装に入ります。油性オイルステインで
下地を着色します。着色ニスは再塗装には不向きです。

 

着色剤を定着させるため、刷毛塗りでは
なく、たたんだ布切れで拭き上げます。
 

油性ウォルナット色の着色剤は、木質をしっかり
捉えて材料の質感を良く引き出しています。

 

仕上げ上塗りにはクリアのカラースプレーを使用します。
刷毛塗りすると着色剤を溶かし出す心配があります。

 

2回のクリア塗装で、重厚感のある
高品質な外側木枠に生まれ変わります。

 

つい我慢できず、既に補修を終えている台紙に外側木枠を被せてみます。内側
化粧フレームと台紙による華やかさと、外側木枠の重厚感が実に良く合います。

 

外側木枠と台紙を固定する細い桟を取り付けます。完成
間近なので、汚さないよう柔らかい布を敷いて作業します。

 

この細い釘で桟を打ち付けますが、衝撃で木枠の
接合部が壊れる恐れがあり玄能を使えません。

 

ラジオペンチで釘を途中まで入れ、残りは
ウォータープライヤで静かに押し込みます。

 

釘が簡単に抜けてこないよう、元の
釘痕に僅かに角度を変えて入れます。

 

額縁の修復作業自体は
この時点で終了です。

 

あらためて表側に返してみます。
簡単な構造ながら正統派の風貌です。

 

およそどのような絵画でも迎え入れそうな品と風格があり、
しかも、決して絵画に干渉しないモダレイトも備えています。

 

外側木枠の留め接ぎ強度がやや心配ですが、実は
組み立て時に真鍮釘を1本ずつ入れてあります。

 

保管してあった絵画を用意し、
いよいよ額縁に戻します。

 

元々外れかけてくるほどの不十分な固定だった
ので、何か固定方法を考えなければなりません。

 

5mm厚のシナ合板で大小
2種類の四角片を作ります。

 

5mm厚は台紙背面と絵画
背面の段差寸法に相当します。

 

大小2枚を接着剤で
貼り合わせます。

 

1か所だけ角を合わせ
ずれた状態で固定します。

 

小さい四角片の対角線に
沿って斜めに切断します。

 

この部品を絵画の四隅に取り付け
ます。簡単な固定具になります。

 

大小の木片の段差が、絵画と台紙の
段差に、ちょうど嵌まり込みます。

 

固定具を小釘で打ち付けて固定すると、
絵画は額縁にしっかり保持されます。

 

薔薇の背景の深い紅色が、白地台紙のほんのりした赤味に
よく映えます・・、薔薇自体のことがよく分からず済みません。

 

薔薇という自然物とは対照的に、外側木枠の無機質さは、
美しさの範囲を額内に限定し護っているかのようで立派です。

 

外側木枠が写真では黒く見えますが、実物はウォルナット、
ダークブラウン系の落ち着いた重厚感のある色合いです。

 

古い額縁の修復、第2弾の作業完了です。計4枚の絵をお預かりしており、まだ半分の修復
作業を終えたところです。早々に次の作業にかからなければなりません。ですが、お引き受け
した時の約束もあり、2枚が出来上がったところでいったん納品に伺います。多少上手く作業
できたからといって、自己満足してはいけません。ご依頼主様の評価と判断を仰ぎます。

*修復前の写真をご覧下さい。

 
守谷工房の製作品2へ                守谷工房Topへ