古い額縁修復の第2弾です。第1弾はこちらからご覧になれます。
花瓶に生けた6輪の薔薇を描いた絵が収められています。背景の
深い紅色が薔薇に落ち着いた輪郭を与えているように感じます。
*修復後の写真をご覧下さい。
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紅色に合わせているのか、台紙はほんのり
赤味のさした白色に塗装されています。
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長い年月を経て台紙には傷が付き、特に
外側木枠との際に汚れが集積しています。
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外側木枠の四隅は45度で留め接ぎされていますが、
接合が壊れて隙間が広がり、ぐらついています。
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背面に作品名「ばら」、作者名
「遠峰郷雨」と筆書きされています。
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遠い昔、ご依頼主のお父様が作者
から買い取った作品だそうです。
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絵画本体は数本の釘で軽く固定されて
いるだけです。簡単に外れてきます。
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絵画を固定していた釘、および内側化粧
フレームを固定している取り去ります。
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内側化粧フレームも
簡単に外れてきます。
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後で内側化粧フレームの取り付け位置を
再現できるよう、合印を書き込んでおきます。
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内側化粧フレームの表側です。光沢のある
メタリックシルバーで塗装されていたようです。
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外側木枠を取り外します。既に四隅の留め接ぎが壊れかけているので、
いったん完全に分解します。補強のため釘が打たれているので、傷を付け
ないよう当て木を介し木槌で叩きます。接着剤はほとんど効いていません。
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1か所につき2本ずつ釘が打たれています。場所に
より互いに交差方向に打たれていて厄介です。
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4本の木枠が分離しました。組み合わせ方を
間違えないよう、全てに合印を書き込みます。
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残っている釘を叩き出します。表面に
錆が広がり、木材に喰い付いています。
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最後はニッパーで、木枠材料表面を
傷付けないよう丁寧に抜き取ります。
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木枠の内側に、台紙を固定する細い桟が
取り付けられています。全て外します。
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外側木枠の修復に入ります。先に材料表面を再研磨
します。組み立て直す前の方が作業しやすいからです。
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斜めにカットされた形状のため、材料の固定に工夫が
必要です。作業台に簡単な冶具を打ち付けています。
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サンドペーパーは研磨用・塗装落とし用のものを使用
します。目詰まりしにくく、研磨力が長く持続します。
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#120で古く劣化した塗装膜を落とします。濃色で
塗装するので、材料の地肌を出すまでには及びません。
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釘の痕を除き状態は悪くありません。木目に入り
込んだ研磨粉を、掃除機で吸い取っておきます。
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分解した外側木枠を元通りに組み立てます。限られた
接合面積で十分な強度を確保しなければなりません。
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エポキシ接着剤のみでは心許ないので、後で隠し釘を
使うことにします。接合部をテープで厳重に保護します。
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既に取り外されている内側化粧フレームです。
外側木枠が固着するまで、先に修復します。
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絵画に最も近い縁取り部分です。折角のメタリック
シルバー塗装も光沢が落ち、汚れが広がっています。
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塗装面全体にペーパーをかけ、劣化した
塗装膜を軽く落として下地を整えます。
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内側の狭いスラント面は、スポンジベースの
研磨シートを使い、残さず丁寧に磨きます。
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ここで全体にプラサフを2回吹きます。
耐候性と耐久性に優れ頼りになります。
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元の塗装に高い光沢性が伺えるので、シルバーメタリックの
専用スプレーを使用します。塗装後の光沢がまるで違います。
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プラサフの吹き付け面を#1000前後の耐水ペーパーで水研ぎしておくと、さらに
光沢が増したかも知れません。それでも通常の銀色塗装の比ではありません。
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台紙の補修作業に入ります。1枚の
合板を切り抜いて作られたものです。
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外側木枠の溝に嵌め込まれていた部分の跡
です。汚れの一部は成長したカビのようです。
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この面積を均一に研磨するため、
オービタルサンダーを使用します。
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薄い合板製台紙の周辺部には補強材がありません。
サンダーの重量を受け止めるため木片を入れます。
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一挙に汚れを落とし表面を平滑化します。カシュー
塗装のような厚みのある塗膜をなるべく残します。
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元の塗装膜に深刻な劣化がない
ので、下塗りとして再利用します。
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プラサフを吹くと元の色が分からなくなるので先に
塗装色を調合します。ベースは艶消しホワイトです。
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赤味を加えるためほんの僅か
サンセットローズを混入します。
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「赤く」してしまうと台無しになるので、元の
塗装面と比べながら控えめに調整します。
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ここでプラサフを吹き付けます。一部に
残っている傷跡も完全に覆い隠します。
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プラサフを3回重ねて吹き付けます。仕上げ塗りも
可能ならば吹き付け塗装したいところですが・・
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微妙な色合いのカラースプレーが入手
できるはずもなく、刷毛塗りで作業します。
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塗装ムラが残らないよう、塗料(水性)に少量の水を加え伸びの良い状態で塗装します。
しかし、希釈すると下地の隠蔽性能が低下するため、4~5回重ね塗りして仕上げます。
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塗装の乾燥を待ち台紙に内側化粧フレームを嵌め込み
ます。塗装面を汚損しないよう布を敷いて作業します。
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台紙と内側化粧フレームを、
小釘を打って互いに固定します。
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元の釘痕に、僅かに角度を変えて打ち
込みます。元の穴では接合力が出ません
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この額縁も比較的簡単な構造をしており、
要所を押さえた補修作業で修復可能です。
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表側に返してみます。綺麗に補修された台紙と内側化粧フレームが
互いを引き立て合っています。台紙の赤味は本当に控えめです。
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外側木枠の補修作業に戻ります。
エポキシ接着剤が完全に固化しています。
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接合部の保護テープを剥がします。専用の固定冶具には
及びませんが、テープでも十分接合位置を保持できます。
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額縁などの枠を組み立てる際、1か所を残して3か所を先に
接合し、部品のずれを修正しながら残る1か所を接合します。
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そうすることで無理なく正確に位置合わせができ
ます。元の釘痕や開いた隙間にパテを当てます。
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パテの乾燥を待ちペーパーで整形します。
塗料の乗りが悪いのでできるだけ落とします。
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隅の稜線も綺麗に整形できました。はみ
出した接着剤も同時に削り落とします。
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裏側にもエポキシ接着剤がはみ出し固化して
います。このままでは絵画が入りません。
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鑿で接着剤を削り落とします。
2方向から慎重に鑿を入れます。
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切れ味の良い鑿を使用しないと思うように
削れません。この程度でよろしいでしょう。
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外側木枠の再塗装に入ります。油性オイルステインで
下地を着色します。着色ニスは再塗装には不向きです。
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着色剤を定着させるため、刷毛塗りでは
なく、たたんだ布切れで拭き上げます。
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油性ウォルナット色の着色剤は、木質をしっかり
捉えて材料の質感を良く引き出しています。
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仕上げ上塗りにはクリアのカラースプレーを使用します。
刷毛塗りすると着色剤を溶かし出す心配があります。
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2回のクリア塗装で、重厚感のある
高品質な外側木枠に生まれ変わります。
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つい我慢できず、既に補修を終えている台紙に外側木枠を被せてみます。内側
化粧フレームと台紙による華やかさと、外側木枠の重厚感が実に良く合います。
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外側木枠と台紙を固定する細い桟を取り付けます。完成
間近なので、汚さないよう柔らかい布を敷いて作業します。
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この細い釘で桟を打ち付けますが、衝撃で木枠の
接合部が壊れる恐れがあり玄能を使えません。
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ラジオペンチで釘を途中まで入れ、残りは
ウォータープライヤで静かに押し込みます。
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釘が簡単に抜けてこないよう、元の
釘痕に僅かに角度を変えて入れます。
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額縁の修復作業自体は
この時点で終了です。
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あらためて表側に返してみます。
簡単な構造ながら正統派の風貌です。
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およそどのような絵画でも迎え入れそうな品と風格があり、
しかも、決して絵画に干渉しないモダレイトも備えています。
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外側木枠の留め接ぎ強度がやや心配ですが、実は
組み立て時に真鍮釘を1本ずつ入れてあります。
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保管してあった絵画を用意し、
いよいよ額縁に戻します。
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元々外れかけてくるほどの不十分な固定だった
ので、何か固定方法を考えなければなりません。
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5mm厚のシナ合板で大小
2種類の四角片を作ります。
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5mm厚は台紙背面と絵画
背面の段差寸法に相当します。
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大小2枚を接着剤で
貼り合わせます。
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1か所だけ角を合わせ
ずれた状態で固定します。
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小さい四角片の対角線に
沿って斜めに切断します。
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この部品を絵画の四隅に取り付け
ます。簡単な固定具になります。
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大小の木片の段差が、絵画と台紙の
段差に、ちょうど嵌まり込みます。
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固定具を小釘で打ち付けて固定すると、
絵画は額縁にしっかり保持されます。
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薔薇の背景の深い紅色が、白地台紙のほんのりした赤味に
よく映えます・・、薔薇自体のことがよく分からず済みません。
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薔薇という自然物とは対照的に、外側木枠の無機質さは、
美しさの範囲を額内に限定し護っているかのようで立派です。
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外側木枠が写真では黒く見えますが、実物はウォルナット、
ダークブラウン系の落ち着いた重厚感のある色合いです。
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古い額縁の修復、第2弾の作業完了です。計4枚の絵をお預かりしており、まだ半分の修復
作業を終えたところです。早々に次の作業にかからなければなりません。ですが、お引き受け
した時の約束もあり、2枚が出来上がったところでいったん納品に伺います。多少上手く作業
できたからといって、自己満足してはいけません。ご依頼主様の評価と判断を仰ぎます。
*修復前の写真をご覧下さい。
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