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SONY弩級BCLラジオCRF-330K修理2(2019.11.12)


SONY製BCLラジオCRF-330Kの修理を進めています。ダイヤルの回転、
クオーツ時計、カセットデッキを修理し終えた時点で、AM放送を受信できない
ことが分かりました。ご依頼主は現状でもよろしいと言って下さっていますが、
ラジオとしての基本機能を欠いたままお返しするのは気が引けます。不得意な
RF回路を修理できる見通しはないものの、半田のクラック劣化程度であれば
何とかなります。了解をいただいてもう少しの期間お預かりすることにします。

 

最近の高精細な実装技術と異なり、ディスクリート部品が所狭しと並び、武骨な
ビニル線の束がコネクタを介して基板間を接続しています。真空管ラジオを思い
出させるような空中配線に面喰います。出来ることと言えば、スピーカーの音声
(雑音)を注意深く聞きながらドライバーの先であちこち触ってみるくらいです(*_*;

 

ドライバーで基板をトントン叩いていると、スピーカーの音が急に変わることがあります。
大概、半田付けにクラックがあったり配線が切れかけていたり、コネクターが接触不良を
起こしていたりで、半田付けのし直しや接点の清掃でほとんど回復させることが出来ます。
が、既に数日間トントンし続けています。身の丈に合わない修理だったと諦めかけた時、

 

バリコンの上部に突き出た3本の端子、その1本に触れると
いきなりスピーカーが大きく鳴り出し放送を受信します。

 

正確には、ドライバーなどを介して人体が
触れた時だけ受信機能が復活します。

 

バリコンの端子にビニル線を接続してみます。これだけでも放送を
受信します。何か所にもわたる深刻な故障・・ではなさそうです。

 

不具合の原因はごく限られた一部分のはずです。
いよいよ「このままお返しする」気にはなれません。

 



しかし相手は高度に設計された高周波回路、ネット上に同機の
修理事例を探します。これはYouTubeにある唯一の事例です。

2時間半に及ぶ英語版で理解するには専門知識が必要です。
 

国内のWEBを探してみると、ほぼ唯一の修理事例を掲載
しているサイトとして「じんけいの修理日記」を見つけました。
 

修理手順は概略的にしか説明されていませんが、このような
製品の構造を完全に理解されていることが分かります。
 

大変厚かましいお願いと自覚しつつも、思い切ってこれまでの
経緯を添えて相談申し上げてみました。お返事を頂戴しました。

 

お返事を頂戴できただけで感激します。それどころか、疑わしい部分をCRF330Kの回路図中に
示した添付ファイルまで送って下さいました。全回路図はネット上にあるとのご指摘で、実際に探して
みると簡単に見つけることが出来ました(一つ前の図版)。回路図すなわち電気回路の設計図が
手に入ると、展開はがらりと変わってきます。少しだけ展望が開けたと、ご依頼主にお伝えします。

 

RF部の回路図です。「じんけい」様のご教示によると、バリコンの端子に触れると受信できる
ので、後段にある局発回路やIF回路は正常に動作、RF増幅のQ211(トランジスタ)および
周辺が怪しいとのことです。バリコン以後、低周波増幅段までは確かに動作しています。また、
どこか途中までは放送電波を捉えていることになります。問題は両者がどこかで切れていて、
手を触れることで一時的につながるわけです。両者の中間にあるのは、まさにトランジスタ
Q211、しかも・・あの2SC710です。昨年暮れに修理したICF-5600の不具合が
2SC710の損傷(イオンマイグレーション)によるものでした。もう鬼の首を取ったかのような
気分です。しかも、ICF-5600修理時の互換トランジスタがまだ何本か残っています。

 

同じく「じんけい」様のご教示により入手できたサービス
マニュアルを開きます。107ページに及ぶPDFファイルです。

 

もちろんSONYオフィシャル版ではなく、個人がスキャンして
アップロードしたものです。やたらと書き込みがあります。

 

実体配線図(部品配置図)を拡大印刷し、Q211の取り付け
位置を確認します。基板の表・裏両面分の配線図があります。

 

受信バンドを切り替える4連の押しボタンスイッチが並び
それらの端子への配線が複雑に入り組んでいます。

 

Q211を見つけました。バンド切り替えスイッチが
並ぶ僅かな隙間に他の部品と共に実装されています。

 

ドライバーの先にトランジスタの頭部が見えます。本体の
奥まったところなので真上から確認することは出来ません。

 

基板配線面(裏側)も、半田ごてや半田
吸い取り器を入れるのが容易ではありません。

 

かなり乱暴な作業により半田を溶かし、
何とかQ211を取り外しました。

 

悪名高き2SC710です。リード線に施された
銀メッキが硫化し、デバイス内部が侵食されます。

 

パーツボックスを探すと、以前に複数本
入手しておいた2SC380が出てきました。

 

念のために交換用2SC380の良否をデバイス
チェッカーで確認します。問題ありません。

 

もう一つ念のために、取り外したばかりの2SC710もデバイス
チェッカーにかけてみると・・、何と問題ありません正常です。

 

ピンセットを介した手探りで、
2SC380を取り付けます。

 

結果は、何も変わりません。「じんけい」様の折角の
ご教示にもかかわらず、作業は振り出しに戻ります。

 

サービスマニュアルの実装編を参考に、メイン
基板を本体から取り出すことに成功しました。

 

これで基板の表裏両面とも直接目視出来ます。手探りで
部品を付け外ししたせいで、パターンがかなり傷んでいます。
 

取り出した基板を真上から確認します。あらためてRF初段
増幅回路周りの窮屈さを実感じます(本体はでかいのに)。

 

不具合の原因からQ211が除外され、他の部分に疑いの
目が向きます。Q211のエミッタに入る0.033µFです。

  

同じくエミッタに0.033µFと並列に
入る1kΩです。いずれも問題ありません。

 

電子部品の点検を進めるほどパターンは傷んで
いきます。早く原因を突き止めなければなりません。

 

押しボタンスイッチの後方、IFコイルとの間に局発
(局部発振)回路の構成部品が組み込まれています。

 

回路図を確認します。ここにも2SC710(Q212)が使用されて
います・・が、一時的にでも受信するので発振しているはずです。

  

それでも時限爆弾を抱えるようなもの
なので、この際交換しておくことにします。

 

狭い隙間からQ212を取り外します。基板面全体に
ワックスのようなものが塗られておりべとべとです。

  

ストックの2SC380を
もう1本用意します。

 

ここは単に中間周波数の発振回路なので
他の汎用トランジスタで十分かも知れません。

  

局発の正確な診断には周波数カウンターが必要です。現時点で工房には用意がありません。
RF初段、Q211周りをさらに注意深く調べます。トランジスタのB・C・E各電圧も測定します。
ベース・エミッタ間に2個直列のダイオードが入れられており、B・Eの電位差を3Vに保ちながら
カソード(トランジスタのエミッタ)電圧が0~0.5Vと変化することが示されています。コレクタは
4.8Vで正常です。エミッタ電圧が変動する理由はRF_GAINの調整ですが、前面パネルにある
GAINツマミを回しても規定通りに変化しません。RF_GAINの回路も調べる必要がありそうです。

 

AGC回路はメイン基板上を延々と辿り、RFからかなり離れた
ところにあります。見る部品の全てが疑わしく思えます。

 

いかにも古そうな電解コンデンサを交換
してみます。何も問題ありませんでした。

  

前面パネルのAGC調整用可変抵抗器に伸びる
ケーブルのコネクタです。半田が効いていません。

 

半田付けし直してみますが、
やはり何も改善しません。

  

「じんけい」様の記事から、CRF330Kは本体上部が
回転して切り離せることを知りました。やってみます。

 

メイン基板を取り出さなくても、基板裏面や
ケーブルの取り回しが良く確認できます。

  

初めからこうすれば良かったようなものですが・・。回路全体を見渡せる範囲が
広がり、故障原因を探しやすくなります。しかし、このレベルでのラジオ受信機に
関する知識や経験があればの話です。ダウンロードした回路図を片端からA3
用紙に印刷し、回路ブロックごとに構成や動作を確かめていくしかありません。

 

全回路図はA3用紙12枚分にPDF化されています。あちこちページを捲る手間が
面倒なので、継ぎはぎして1枚の回路図にまとめました。工房の壁面に張り出し
長期戦に挑むことにします。遅ればせながらシグナルジェネレータ(写真上の中)、
2.4G周波数カウンタ(写真上右)を導入しました(安物ですが)。写真上左は学生
時代(ボルテージレギュレータが普及した頃)に製作した定電圧電源装置です。

 
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