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パイオニアカセットデッキCT-8新品の修理(2020.2.1)

 
パイオニア製カセットテープデッキCT-8を修理します。1976年の発売、
オーディオブームの黄金期にパイオニア社が次々と世に送り出した高級機の
1台です。生半可なバイトではとても手が届かなかったことを覚えています。
何と、製品専用の段ボール箱に梱包され送られてきました。40数年も経過
すれば外観はこの通り・・、いやよくぞ現在まで箱が残っていたものです。

 

さらに驚いたのは箱を開け修理品を取り出した時です。写真の通りほぼ新品
です。手が触れた跡が見当たらず、いわゆる使用感が全くありません。パネルの
表面もレベルメーターもツマミ類も光り輝いています。その昔、電気店で新しく
製品を購入し、電車に乗って持ち帰り(当時は滅多に配送などしてもらわな
かった)、ようやく自宅に辿り着いて箱を開ける時の雰囲気を思い出します。
ご依頼主によれば、購入後ほとんど使用しないまま保管されていたそうです。

 

既にAV事業を手放してしまったパイオニア社ですが、
元の関係者がこの1台を見たならどれだけ喜ぶでしょう。

 

カセットテープのホルダー部と操作レバーです。
工場から出荷されてきた直後の無垢の状態です。

 

キャブスタン軸、ピンチローラーも新品状態です。
摩耗ゼロの録再ヘッドは特性の劣化もゼロでしょう。

 

丁寧にヘアライン加工されたアルミ材削り出しの
ツマミやパネルです。重量感のある贅沢な造りです。

 

背面パネルを確認します。入力・出力のRCA端子に
加え、懐かしいDIN端子(独国)が備わっています。

 

背面左側はACコードとACアウトレットです。
シンプルそのものですが、これで十分でした。

 

電源(火)を入れてみます。レベルメーターのバックライト
(白熱電球)が点灯し、LEDにはない温かみを放ちます。

 

いつまでも古き良き時代に浸ってないで
動作を確認します。テープをセットし、

 

再生(PLAY)レバーを下げてみます。ロジック機構が
働きソレノイドが作動して、再生状態になります。

 

しかし、数秒間だけ再生されるも
間もなく停止してしまいます。

 

早送り(FF)レバーを下げてみます。ロジック機構は
正常のようですが、数秒後に停止してしまいます。

 

巻き戻し(REW)も同様で、レバーの操作後
数秒間だけ動作して停止してしまいます。

 

新品同様とは言え、やはり40数年の間には何か
不具合が生じているようです。カバーを開けます。

 

前面パネルに高価なアルミ厚板こそ使われていますが、
筐体構造自体はアマチュアのDIYケース並みに簡単です。

 

以前に修理したT-700S(1991年発売)と比べると、使用部品や実装技術に
格段(15年分)の差が見られます。ベークライト製基板に旧式のディスクリート
部品が並んでいます。エッチングパターンもかなり大雑把で、コードが基板間を
不規則につないでいます。その分、回路に不具合があっても解析が容易です。

 

テープデッキのメカ部分です。無駄のない精緻かつ堅牢な造りです。再生用と
早送り用に2個のモーターが搭載され、再生用のDCモーターは速度制御用に
ジェネレーター(エンコーダー?)を内蔵しています。埃の侵入もなく外観同様に
ほぼ新品の状態です。デッキ上部を覆うのは、前面から回り込み本体内に収納
される円柱形状のカセットカバーです。CT-8独特のデザインを構成しています。

 

大型のフライホイールが組み込まれています。数秒間だけ
ですが正常に回転します。駆動ベルトも問題ないようです。

 

フライホイールの奥に巻き取りリールに連結する
プーリがあり、細いベルトが掛けられています。

 

ベルトの先でこの小型プーリが回転し、回転軸に
小さな回路基板が取り付けられています。

 

再生・早送り・巻き戻しいずれの操作も、数秒後に
このソレノイドが動作することで解除され停止します。

 

先ほどの細いベルトを良く調べると、やや
緩いようで伸びている可能性があります。

 

小型プーリ近くでも確認すると、ベルトは
駆動するもプーリが回転していません

 

回路基板はプーリの回転によりパルスを作るようで、
パルスが途絶えるとソレノイドが動作します。

 

ベルトを外してみます。長年放置された結果、
変形が残り元に戻らなくなっています。

 

ベルトが伸びることによるテンションの低下と、材質が
固化することによる変形が同時に進行したようです。

 

ベルトを新しいものに交換します。
少しきつめのベルトを選びます。

 

プーリが回転すれば、再生他が正常に
動作することは既に確かめてあります。

 

実際に動作を確認します。再生・早送り
・巻き戻しいずれも問題ありません。

 

操作して数秒後に停止する問題は無事解決しま
したが・・、テープカウンターが止まったままです。

 

先ほどのプーリからさらに先へ延びるベルトが
あります。カウンターを駆動するベルトです。

 

先に交換したベルトと同様に、劣化
している可能性が十分あります。

 

取り外してみるとやはり
変形が残っています。

 

こちらも同規格の新しい
ベルトに交換します。

 

テープカウンターも正常に動作するようになりました。
同時にMEMORY STOP機能も回復するはずです。

 

以上でご用命いただいている不具合の修理は一応完了です。テープをセットして
実際に試聴してみます。再生される音声は全く正常で、ワウフラッターの少ない
安定した再生音を楽しむことができます。ところが、写真の通りレベルメーターの
表示が何やら変です。右チャンネルの出力がかなり大きく表示されています。
さらに、左チャンネルは音声に追随して敏感に反応しますが、右チャンネルは
僅かに振れる程度です。「ほぼ新品」がこのままではよろしくないでしょう。

 

ドルビーのスイッチを押し込んでONにすると、
左チャンネル同様に正常な動作に戻ります。

 

テープセレクタを切り替えても正常に戻ります。
おそらく経由する回路が異なるためだと思います。

 

機械的スイッチで切り替えているので、接点の接触不良が
疑われます。しかし、密閉型なので可能性は高くありません。

 

本来再生信号が通過する経路にも、接触不良を
引き起こしかねない機械的スイッチが存在します。

 

メイン基板の表側に取り付けられている録音・再生の切り替え
スイッチです。ドライバーの先で数回スライドさせてみます。

 

できれば基板を外してスイッチを取り出し、接点復活剤を入れ
たいところですが。コードに阻まれ分解作業が大変そうです。

 

スイッチをスライドさせることで接触が回復しました。
無操作で長く放置すると色々なトラブルが出るものです。

 

最初の動作確認時から気になっていたのですが、
円柱形状のカセットカバーが少し曲がっています。

 

上から確認すると左端が少し引込み、
逆に右端が少し出ています。

 

しかし、新品時の組み上げ状態を保っている
はずなので・・、元々曲がっていたようです。

 

跳ね上げ時のフリクションを多少調整するにとどめ、修理完了とします。
もはや過去の遺物と化した感のある70~80年代のアナログオーディオ
機器ですが、手に取るように音を楽しむことができた時代であったと思い
ます。YouTubeにあらゆる高音質音源がアップされ、著作権抵触による
削除が繰り返される昨今は、音を楽しむのに相応しい時代なのでしょうか。

 
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