パイオニア製カセットテープデッキCT-8を修理します。1976年の発売、
オーディオブームの黄金期にパイオニア社が次々と世に送り出した高級機の
1台です。生半可なバイトではとても手が届かなかったことを覚えています。
何と、製品専用の段ボール箱に梱包され送られてきました。40数年も経過
すれば外観はこの通り・・、いやよくぞ現在まで箱が残っていたものです。
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さらに驚いたのは箱を開け修理品を取り出した時です。写真の通りほぼ新品
です。手が触れた跡が見当たらず、いわゆる使用感が全くありません。パネルの
表面もレベルメーターもツマミ類も光り輝いています。その昔、電気店で新しく
製品を購入し、電車に乗って持ち帰り(当時は滅多に配送などしてもらわな
かった)、ようやく自宅に辿り着いて箱を開ける時の雰囲気を思い出します。
ご依頼主によれば、購入後ほとんど使用しないまま保管されていたそうです。
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既にAV事業を手放してしまったパイオニア社ですが、
元の関係者がこの1台を見たならどれだけ喜ぶでしょう。
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カセットテープのホルダー部と操作レバーです。
工場から出荷されてきた直後の無垢の状態です。
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キャブスタン軸、ピンチローラーも新品状態です。
摩耗ゼロの録再ヘッドは特性の劣化もゼロでしょう。
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丁寧にヘアライン加工されたアルミ材削り出しの
ツマミやパネルです。重量感のある贅沢な造りです。
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背面パネルを確認します。入力・出力のRCA端子に
加え、懐かしいDIN端子(独国)が備わっています。
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背面左側はACコードとACアウトレットです。
シンプルそのものですが、これで十分でした。
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電源(火)を入れてみます。レベルメーターのバックライト
(白熱電球)が点灯し、LEDにはない温かみを放ちます。
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いつまでも古き良き時代に浸ってないで
動作を確認します。テープをセットし、
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再生(PLAY)レバーを下げてみます。ロジック機構が
働きソレノイドが作動して、再生状態になります。
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しかし、数秒間だけ再生されるも
間もなく停止してしまいます。
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早送り(FF)レバーを下げてみます。ロジック機構は
正常のようですが、数秒後に停止してしまいます。
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巻き戻し(REW)も同様で、レバーの操作後
数秒間だけ動作して停止してしまいます。
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新品同様とは言え、やはり40数年の間には何か
不具合が生じているようです。カバーを開けます。
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前面パネルに高価なアルミ厚板こそ使われていますが、
筐体構造自体はアマチュアのDIYケース並みに簡単です。
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以前に修理したT-700S(1991年発売)と比べると、使用部品や実装技術に
格段(15年分)の差が見られます。ベークライト製基板に旧式のディスクリート
部品が並んでいます。エッチングパターンもかなり大雑把で、コードが基板間を
不規則につないでいます。その分、回路に不具合があっても解析が容易です。
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テープデッキのメカ部分です。無駄のない精緻かつ堅牢な造りです。再生用と
早送り用に2個のモーターが搭載され、再生用のDCモーターは速度制御用に
ジェネレーター(エンコーダー?)を内蔵しています。埃の侵入もなく外観同様に
ほぼ新品の状態です。デッキ上部を覆うのは、前面から回り込み本体内に収納
される円柱形状のカセットカバーです。CT-8独特のデザインを構成しています。
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大型のフライホイールが組み込まれています。数秒間だけ
ですが正常に回転します。駆動ベルトも問題ないようです。
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フライホイールの奥に巻き取りリールに連結する
プーリがあり、細いベルトが掛けられています。
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ベルトの先でこの小型プーリが回転し、回転軸に
小さな回路基板が取り付けられています。
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再生・早送り・巻き戻しいずれの操作も、数秒後に
このソレノイドが動作することで解除され停止します。
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先ほどの細いベルトを良く調べると、やや
緩いようで伸びている可能性があります。
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小型プーリ近くでも確認すると、ベルトは
駆動するもプーリが回転していません。
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回路基板はプーリの回転によりパルスを作るようで、
パルスが途絶えるとソレノイドが動作します。
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ベルトを外してみます。長年放置された結果、
変形が残り元に戻らなくなっています。
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ベルトが伸びることによるテンションの低下と、材質が
固化することによる変形が同時に進行したようです。
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ベルトを新しいものに交換します。
少しきつめのベルトを選びます。
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プーリが回転すれば、再生他が正常に
動作することは既に確かめてあります。
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実際に動作を確認します。再生・早送り
・巻き戻しいずれも問題ありません。
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操作して数秒後に停止する問題は無事解決しま
したが・・、テープカウンターが止まったままです。
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先ほどのプーリからさらに先へ延びるベルトが
あります。カウンターを駆動するベルトです。
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先に交換したベルトと同様に、劣化
している可能性が十分あります。
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取り外してみるとやはり
変形が残っています。
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こちらも同規格の新しい
ベルトに交換します。
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テープカウンターも正常に動作するようになりました。
同時にMEMORY STOP機能も回復するはずです。
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以上でご用命いただいている不具合の修理は一応完了です。テープをセットして
実際に試聴してみます。再生される音声は全く正常で、ワウフラッターの少ない
安定した再生音を楽しむことができます。ところが、写真の通りレベルメーターの
表示が何やら変です。右チャンネルの出力がかなり大きく表示されています。
さらに、左チャンネルは音声に追随して敏感に反応しますが、右チャンネルは
僅かに振れる程度です。「ほぼ新品」がこのままではよろしくないでしょう。
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ドルビーのスイッチを押し込んでONにすると、
左チャンネル同様に正常な動作に戻ります。
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テープセレクタを切り替えても正常に戻ります。
おそらく経由する回路が異なるためだと思います。
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機械的スイッチで切り替えているので、接点の接触不良が
疑われます。しかし、密閉型なので可能性は高くありません。
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本来再生信号が通過する経路にも、接触不良を
引き起こしかねない機械的スイッチが存在します。
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メイン基板の表側に取り付けられている録音・再生の切り替え
スイッチです。ドライバーの先で数回スライドさせてみます。
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できれば基板を外してスイッチを取り出し、接点復活剤を入れ
たいところですが。コードに阻まれ分解作業が大変そうです。
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スイッチをスライドさせることで接触が回復しました。
無操作で長く放置すると色々なトラブルが出るものです。
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最初の動作確認時から気になっていたのですが、
円柱形状のカセットカバーが少し曲がっています。
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上から確認すると左端が少し引込み、
逆に右端が少し出ています。
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しかし、新品時の組み上げ状態を保っている
はずなので・・、元々曲がっていたようです。
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跳ね上げ時のフリクションを多少調整するにとどめ、修理完了とします。
もはや過去の遺物と化した感のある70~80年代のアナログオーディオ
機器ですが、手に取るように音を楽しむことができた時代であったと思い
ます。YouTubeにあらゆる高音質音源がアップされ、著作権抵触による
削除が繰り返される昨今は、音を楽しむのに相応しい時代なのでしょうか。
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