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ヘアアイロンの本体修復(2019.1.11)


都内の美容室からのご依頼で、ヘアアイロンの本体に不具合があります。
工房に到着してみると、以前にコントローラーを製作した製品に似ています。
温度制御機能には問題ないので、修理のハードルは高くなさそうです。

 

上下2枚のコテ面が密着しないと伺っており
ます。実際に手に取って確かめてみます。

 

密着するのは手元に近い部分のみで、
先を含む大部分は確かに隙間があります。

 

長年使用した結果、本体材料が疲労し
変形が生じたものと考えていましたが、

 

実際にはそうではありません。発熱体の
根元部分にクラックが確認できます。

 

コテ先で髪を挟むたびに繰り返し力が加わり、根元部分に応力が集中した結果
材料が耐え切れず破断したようです。コテ先を閉じ力を加えると隙間が生じます。
さらに力を加えると隙間が広がり、根元部分で本体が折れ曲がっていきます。

 

破断部分を何らかの方法で修復する
必要があります。破断側を分解します。

 

発熱体や制御回路を、2枚のカバーで
左右から挟み込み内蔵させる構造です。

 

分解後にカバーの片側を再度点検します。
材料が完全に破断し分離しています。

 

反対側のカバーから発熱体や
制御回路を取り出します。

 

こちら側も完全に破断が生じています。この
ままでは表側まで破断が進むところでした。

 

接着により破断を修復します。そのため
接着用の足掛かりを加工します。

 

破断部に直接接着剤を入れても、母材との喰い
付きに限度があり十分な接合力が得られません。

 

ダイヤモンドビットを付けたリューターで
破断部にV字型の溝を入れます。

 

字型の溝に接着剤が十分入り、また
破断面全体に接着剤が行き渡ります。

 

溝が出来ていますが、切削面が荒れています。
これでは接着剤の浸入を妨げそうです。

 

カッターナイフを入れて
切削面を仕上げます。

 

強制的に変形を矯正するため、
僅かに隙間を作ります。

 

隙間を密着させた状態で、
コテ先がほぼ直線になります。

 

折れ曲がった部分にヒートガンを当て、
変形を矯正し内部の歪を解放します。

 

コテ先を閉じると、これまでとは逆に先端が密着し根元部分に
隙間が生じます。この状態で接着により破断部分を固定します。

 

取りあえず瞬間接着剤により補修することにします。
瞬間接着剤と本体母材との接着性を確認します。

 

瞬間接着剤が固化した後、ドライバーの先で
こそぎ落としてみます。強固に密着しています。

 

まず溝の奥部分に重点的に
接着剤を送り込みます。

 

硬化促進剤を吹き付け、瞬間
接着剤を完全に固化させます。

 

2・3回に分けて接着剤を追加し、その都度
硬化促進剤を吹いて強度を高めていきます。

 

表面に多少の肉盛りがある方が強度的に有利です。が、
余分に付着・固化した接着剤はリューターで削り落とします。

 

反対側のカバーも溝に接着剤を
送り込み、同様に補修します。

 

一度に大量の接着剤を流し込むと内部まで
固化が進まず、十分な接合力が得られません。

 

V字型に成型した溝内に、少しずつ数回に分けて
接着剤を送り込み固化させることで強固に接合します。

 

少量の瞬間接着剤を送り込むたびに硬化促進剤を
吹き付け、接着剤全体を完全に固化させます。

 

ある程度肉盛りしたいところですが、
盛り過ぎると外観を著しく損ないます。

 

リューターを使い外観を整えます。
かなりの強度が出ているはずですが・・

 

発熱体や制御回路を、配線を噛まない
よう本体内部に丁寧に戻します。

 

2枚のカバーを合体させます。組み付けは
修理前と変わらず問題ありません。

 

先端が密着し、根元部分に僅かに隙間が生じる状態で接合されました。少し力を
加えると全体が密着しますが、それはやはり本体が変形するためです。コテ先で
髪を挟み力を加えると、根元部分に応力が集中することに変わりはありません。
果たして瞬間接着剤による補修が強度的に十分だったか、少々不安が残ります。

 

しかし、十分な強度を確保するには、根元部分の形状・構造が適切とは言えません。
この設計では曲げ応力が集中的に加わることは自明で、破断するべくして破断したと
言えるでしょう。また、本体全体が樹脂製であることにも無理があると思います。

 
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