守谷工房のリペア4へ                守谷工房Topへ

BOSE AWM ピックアップの怪(2020.3.8)

 
先日、BOSE製AWMSⅡを修理しましたが、前後してAWM(Accustic Wave Music)の
修理をご用命いただいていました。とにかくBOSE製品の修理が連日のように舞い込みます。
梱包を開けてみると布製の専用キャリーケースごと収められており、その大きさと重量に驚か
されます。往復の送料がかさみますので、出来るだけ安価に修理して差し上げたいものです。

 

キャリーケースもまた、布製とは
いえ相応に堅牢に作られています。

 

AW-1、AW-1Dに続いて発売されたAWM、
シリーズの変遷はBOSE地獄が参考になります。

 

AWMにはカセットデッキとCDプレーヤーが
搭載されています。AM・FMラジオも内蔵です。

 

面下部は上質にヘアライン処理された
精悍な金属パネルで覆われています。

 

ご依頼主の説明では、音楽を再生するとスピーカーが
バリバリ鳴り、その後音が出なくなってしまうそうです。

 

電源コードを接続し基本動作を確認します。
STBY(スタンバイ)の表示が出ています。

 

電源スイッチをONにします。始めはラジオ
チューナーが選択され、FM放送を受信します。

 

周波数を合わせると正常に放送が受信できます・・が、
確かに音が変です。音量を上げると音が割れます。

 

スピーカーユニットの損傷(コーンが破れる)も
考えられます。次にカセットデッキを確認します。

 

デッキメカニズムは正常に動作しますが、ヘッドが
摩耗劣化しているようで、高域がほとんど出ません。

 

CDプレーヤーの動作を確認します。
再生できないと聞いておりましたが、

 

「NO DISK」と表示され、再生する
以前にディスクを認識しない状態です。

 

初めて扱う製品では、その分解手順にいつも
戸惑います。今回は底面からアプローチします。

 

理由は極めて単純で、「ネジのあるところから」です。底面に
左右に分かれたカバーがあり、いずれもネジ固定されています。

 

隙間から内部を覗きつつ、カバーが外れた
内部を想像しながら慎重にネジを緩めます。

 

左側3分の2を占めるカバーを先に外します。下向きに取り
付けられた立派なスピーカー(ウーファー)が顔を出します。

 

スピーカーに破損がないか点検します。巨大な
マグネットを装備したパワーのありそうなウーファーです。

 

とても壊れそうにない堅牢なユニットです。
外部から信号を入れると再生音は全く正常です。

 

先ほど途中までネジを緩めた右側3分の1の部分
です。電源ソケットの真上にも固定ネジがあります。

 

予想通り電源ユニットが組み込まれています。スピーカーが
正常であれば、音が割れる原因はほぼ電源でしょう。

 

本体内部との接続ケーブルを抜きます。
ユニット間の配線が意外と短く窮屈です。

 

これでは本体とケーブルを接続
した状態での修理は困難です。

 

本体上側の中高音用スピーカーはステレオ仕様で、左右に2組取り付けられていますが、
ウーファーは無指向性のものが1台です。従ってウーファーを駆動するパワーアンプおよび
パワーアンプ用電源回路も1組で済みます。取り出した電源回路基板には、12000µFと
いう大きな電解コンデンサが載っています。大出力時や低音域出力時に音が割れるのは
(特にバリバリ音)、この電解コンデンサの経年劣化が原因であることがほとんどです。

 

樹脂製の底板カバーから
電源回路基板を分離します。

 

不具合の原因と思われる12000µF・25WVを取り
外します。接触面周囲が白いのは接着剤でしょう。

 

端子には金属線ではなく成形
された金具が使用されています。

 

ついでに隣の3300µFも
交換することにします。

 

あいにく12000µFは手に入らず、ひとつ下の10000µFを使用します。その代わり
耐圧50Vの高級品です。3300µFも新品に交換します。交換の結果は、FMラジオの
再生でしか確認していませんが、BOSE AWMの弩級の再生音が見事に蘇りました

 

カセットデッキとCDプレーヤーの修理に進み
ます。背面上部の接続端子カバーを外します。

 

ラジオアンテナも一緒に外れてきます。パワー段を除く
機能が、上部4分の1ほどの空間に収められています。

 

カバーを外すと、内部で何やらコネクターが1個
外れています(作業の途中で正体が判明します)。

 

上面の左右、カセットデッキの左側と
CDプレーヤーの右側は化粧カバーです。

 

マイナスドライバーの先を入れると
簡単に浮き上がってきます。
 

樹脂製化粧カバーの下にゴム製の薄いシートが
挟み込まれています。共振防止用でしょうか。

 

左右各8本の固定ネジを緩めると、テープデッキや
CDプレーヤーを含む一体構造が見えてきます。

 

本体前縁部に篏合があり、プレート全体を
後方に少しずらすことで外れてきます。

 

篏合が解除されてからプレートの後方を持ち上げます。
6個のコネクタとフレキシブルケーブル1枚を抜きます。

 

本体側にも回路基板があります。主に
プリアンプとラジオチューナーのようです。

 

持ち上がったプレート側にはCDユニット、カセットデッキ、操作スイッチ基板、
液晶表示パネル、AMラジオ用バーアンテナなどが取り付けられています。

 

再生音質がひどく劣化してしまったカセットデッキ部を
点検します。テープ駆動系は特に問題ありません。

 

ヘッドクリーニング後にアジマスを調整するも、高域の
音質が戻りません。ヘッドが完全に摩耗しています。

 

同仕様のヘッドは入手不可能なので諦め
ます。ご依頼のCD再生復活に挑みます。

 

外れていたコネクタの正体が分かりました。CD
トレイ蓋の開閉検知用マイクロスイッチの配線です。

 

コネクタが外れていただけ・・かも知れませんが、
年数からしてピックアップは多分だめでしょう。

 

CDユニットを分解します。スプリングと
ダンパーによるフローティング構造です。

 

レンズ材質の屈折率により表面が青色に見えます。
補修交換用のピックアップが入手できれば良いのですが。

 

製品に組み込まれているほとんどの
ピックアップには型番表示がありません。

 

無力ながらも、「BOSE」・「AWM」・「ピックアップ」のキーワードでネット検索して
みます。運良く1発でヒットしました。AWM用のピックアップが市販されています。

 

実はこれまでに何度か利用しているショップです。
赤丸部分に間違いなくAWM対応とあります。

 

製品型番REA-0151のピックアップ
レンズです。在庫あり・・助かります。

 

発注したREA-0151が配送されてきました。
このショップはほとんど不良品がありません。

 

元のピックアップを取り外します。ギヤの脱落
防止金具固定とモーターの固定ネジを緩めます。
 

新しいピックアップと並べ比べてみます。シーク用スクリューシャフトの
取り付け部や反対側のスライド部など位置や形状は同一です。フィルム
基板上の部品配置が異なっていますが、多分製品の製造時期・ロットの
相違でしょう。材質が微妙に異なるのか、レンズ表面は透明に見えます。

 

元のピックアップからシーク用
スクリューシャフトを移植します。

 

過負荷時のシャフト空転用金具も
完全に再利用できます。
 

新しいピックアップをユニットに組み込みます。
ユニット本体とのジオメトリも完全に一致します。

 

REA-0151はフィルム配線上に
1か所だけショートランドがあります。

 

半田ごてを当ててショートランドを解除します。静電気破壊
防止のため配線端子に指先が触れた状態で作業します。

 

ピックアップ交換作業の完了です。取りあえずCD
ユニットをプレートに取り付けないで動作確認します。

 

CDユニットを本体基板に接続するフラット
ケーブルは本体の外側を経由させます。

 

トレイ蓋の開閉検知用スイッチへの配線は
コネクタにピンを差して短絡させておきます。

 

コネクタが外れて「NO DISK」が表示されていた
だけであれば、ピックアップ交換は無駄になりますが、
 

結果はこの通りです。スピンドルが異常な速さで回転し、
ピックアップのシークが停止せず激しい振動音が出ます。
 

余りにも異常な動作で、何が起こっているのかまるで
分かりません。いったん元のピックアップに戻してみます。

 

「NO DISK」が表示されず、動作がその
先へ遷移した点が唯一の前進でしょうか。
 

元のピックアップに戻し、元の状態に組み上げて
動作確認します。何と、かろうじて再生します。

 

しかし動作は非常に不安定で、間もなく激しい音飛びが始まり
ます。隙間から見えるのはレーザー出力調整用トリマーです。

 

ほんの少しだけ右に回して出力を上げてみます。
元のピックアップの動作を検証するためです。
 

トリマーの位置で多少安定しますが、音飛びは解消
しません。この時点で気が付いたことがあります。
 

  守谷工房です。先日のREA-0151につきまして、BOSEレシーバーAWMに取り付けたところ、スピンドルの回転が異常に速くなり、その後 ピックアップが最内周位置で音を立てて振動するトラブルに見舞われました。 振動の原因はシークモーターが停止しないためです。
 当初はモーターや制御基板に不具合があるものと考えておりました。 ところが元のピックアップに戻したところ、性能劣化のため時々音飛びが出るものの何とかCDを再生します。異常回転や振動は起こりません。新しいピックアップ自体に、仕様の相違あるいは不具合があると思われるのですがいかがでしょうか。
 仕様に関して御社WEBにはhttp://xxxxxxxxxx.com/bose-rea0151.htmとhttp://xxxxxxxxxx.com/rea0151.htmにREA-0151の紹介があり、少なくとも前者に「対応オーディオ製品: RX-MDX83、BOSE Acoustic Wave Music System AWM対応」とあります。 返品・交換に応じていただくか、あるいはもう1個購入して状況を確認するのでも結構です。よろしくお願いします。



その気が付いたことを、販売ショップに問い合わせてみました。
 

 メッセージ確認しました。 交換はいつでも可能ですが少々ご確認お願いします。最内周に移動検知スイッチに当たっておりますか? こちらは10件以上の販売歴がありますが同様のお話はないので使用上には問題はないと考えております。

 

  検知スイッチの不良も疑い確認しました。最内周でスイッチの導通が間違いなく変化します。その状態のままシークが停止せず振動します。 モーターが停止せずピックアップをさらに内周へ移動させようとして、 スクリューシャフトのラチェットが機能するためここで振動が起こります。 元のピックアップでは振動せず正常に機能します。


 もう一つ確認なのですが、 フレキケーブルのショートランドは切った又は解除済みということでよろしかったですか?

 ショートランドの処理を忘れたことは一度もございません。


このようなやり取りの後、同じ型番のピックアップがもう
1個送られて来ました。やはり国内の業者はまっとうです。

 

写真を用意できませんでしたが、最初のピックアップはCDユニットを本体内に組み込んだ
状態でも動作確認を行いました。また、新品の場合は滅多にレーザー出力を変更しませんが、
止むを得ずトリマーも調整してみました。いずれも激しい振動を伴う異常な動作が現れました。
元のピックアップに戻すと、劣化により音飛びはあるものの、異常な回転やシークが停止しない
トラブルが起こらないことから、新品にもかかわらず不良品である可能性が高いと考えられます。

 

よもやピックアップの型番を間違えていないか、再度
商品説明を確認します。確かにAWM対応です。

 

後から届いたもう1個のピックアップに交換してみます。
動作してくれないとご依頼主をさらに待たせてしまいます。
 

結果は、シークが停止せず激しく振動することはなくなり
ました。しかし、スピンドルは異常回転したままです。

 

本体内に組み込もうが、レーザーを調整しようが全く
CDを読み込みません。読みそうな気配もありません。
 

何かピックアップ以外に重大な問題が隠れているのでは・・。
試しに本体基板に接続するフラットケーブルを点検すると、

 

何度も抜き差しを繰り返したせいでしょう、端子の1本が
根元で切れています。以前にも経験したことがあります。
 

1mmピッチの22ピンは工房に在庫がありません。
慌てて同仕様のフラットケーブルを取り寄せます。
 


元のケーブルよりも若干薄手なので、コネクタから
抜けてきます。マスキングテープで厚みを加えます。

 

完全に接続されていますが、やはり
動作しません。次の原因を探ります。

 

CDユニットに付属する制御基板です。その
基板上に評判の悪いSMDが使われています。
 

特に経年劣化の進みやすい電解コンデンサです。スペースに
かなり余裕があるので、普通の電解コンデンサに交換します。

 

多少高さのある部品でも、寝かせて
しまえば問題なく取り付けられます。
 

制御基板を完全に取り外しました。
まだいくつかSMDがあります。

 

基板を取り外したついでですから、
SMDコンデンサは全て交換します。
 

この330µFもかなり怪しい感じです。端子を破壊して
取り出すので、部品の状態を点検することはできません。

 

ひと通りSMDを交換し終えました。
結果は、改善しません。まだダメです。
 

手詰まり感が作業室内を満たしつつあります。時間・労力・集中力・費用など
リソースが大量に消耗しつつあります。何よりもご依頼主を長い期間お待たせした
ままです。この先、ついに本体側のメイン基板にも範囲を広げることになるのか・・

 

本体側基板上にも劣化が疑わしい部品が数多く
実装されています。どれを見ても怪しく感じます。

 

しかし、これだけ大規模な回路基板では、回路図なしの
トラブルシューティングは単に無謀でしかありません。
 

何日も途方に暮れた後、全く偶然にREA-0150
見つけました。同じネットショップで扱っている製品です。

 

対応オーディオ製品欄に、AWMはおろか製品名の
記載が一切ありません。ただ「IC付」にピンときました。
 

元のピックアップには、フレキシブルケーブル上にICチップ
取り付けられています。REA-0151には付いていません。

 

普段からお客様に「ダメモト」を言っておきながら、今回は
自分が「ダメモト」で、REA-0150を購入してみます。
 

元のピックアップと並べて詳細に比較
してみます。外観は完全に同一です。

 

AWM対応を謳うREA-0151を取り外し
ICチップ付きREA-0150に交換します。
 

CDをセットして動作確認に臨みます。心室ブロックの
ある心臓に、かなり悪影響のある瞬間を迎えます。

 

これだから守谷工房は止められません。きっちりと
TOCを読み出し、曲数19、58分6秒を表示しています。
 

音楽の再生が始まります。音源がCDに代わり、BOSE AWMの本領が炸裂します。
トラック間のシークも快調そのもので、19曲目と1曲目の厳しいシークももたつきません。

 

しばらくAWMの迫力を堪能させてもらいます。これで
ご依頼主用に考えていた言い訳も忘れることが出来ます。

 

出来ればカセットデッキのヘッドも交換して差し上げた
かったところです。しかし、工房として実績もありませんし。
 

ネットショップのREA-0151は、商品の説明に反してBOSE AWMには適合しません。
偶然見つけたIC付REA-0150が、CDを正常に再生します。しかし、REA-0150には
AWMへの適合について表記がなく、この型番へたどり着くことは困難です。ショップには
誤りのない商品説明、あるいは何らかの留意事項の掲載をお願いしたいと思います。最後
まで目をお通し下さり有難うございました。並行してPLS-1310の電源回路と格闘中です。

 
守谷工房のリペア4へ                守谷工房Topへ