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ICF-SW55修理長期戦(2021.2.11)

SONY製トランジスタラジオICF-SWのシリーズは、実に根強い人気が
あります。オークションでは完全に動作する中古機が、驚くほどの高値で
取り引きされています。一方で、電源が入らない、放送を受信できない、
音声出力が小さいなど、多くの中古機が何らかのトラブルを抱えている
ようです。昨年の12月、工房に送られてきたICF-SW55は、電源が
入らない1台です。開けてみると販売当時の製品梱包がそのままです。

 

外装カバーの中から、樹脂製の
専用キャリングケースが現れます。


ケース内にはラジオ本体以外にも
付属品がセットされていたようです。
 

ラジオ本体の専用保護カバーもそのままで、
中から世界品質Made by SONYの登場です。
 

よほど大切に丁寧に使われてきたようで、
本体にも傷や汚れがほとんどありません。

 

オークションでは「極上品」となるでしょう。
ただし、完全に動作すればですが。
 

電源が入らないのではなく、一度はONになるのですが
放送を受信することなく、しばらくするとOFFになる状況です。

 

ICF-SWのシリーズは、筐体の構造設計に
共通性があり、割と簡単に分解できます。

 

裏側カバーを外しました。ツメを解除
するだけで手前側の基板を取り出せます。

 

当時は先進的デバイスのひとつだったのでしょう。
悪名高いSMDコンデンサが並んでいます。

 

ICF-SWシリーズの修理事例は、その
ほとんどがSMDコンデンサの交換です。

 

ICF-SW55 修理」で検索すると多くの修理記事が
ヒットします。例えばこちらのmarukawatechnart's blog

 

テレビ修理-頑固親父の修理日記にも
大きな写真で分かりやすく説明されています。

 

以前にCRF-330Kの修理で紹介させていただいた
じんけいの修理日記でも取り上げられています。

 

黒物家電館で紹介されている
修理もコンデンサの交換です。

 

交換が必要なコンデンサは
6種類、実に25個に及びます。
 

実装上小型のものが必要なので、通販ではなく
実際にサイズを確認しながら店舗で買い求めます。

 

低周波増幅段周りは作業しやすいのですが
高周波周りは実装密度が高く厄介です。
 

筐体内で頭がつかえることなく収まるか、
時々本体に戻しながら作業を進めます。

 

コンデンサ交換作業の詳細は、先輩諸氏の記事に解説されているので略します。
そして、全コンデンサの交換を終えました(疲れました)。が、電源は入りゃしません。
他の事例はこれで解決しているのですが・・。いったんONになりしばらくして電源が
切れる現象は「marukawatechnart's blog」に詳しく説明されていて、これもコンデンサ
交換により解決しています・・つまり原因はコンデンサ以外にあり得るということです。

 

先輩諸氏の修理事例を真似るだけで修理しよう、という甘い魂胆は通用
しないようです。心を入れ替えて(・・諦めて)SW55の回路図を探します。
いつものように海外のサイトにありました。回路図中に各部の標準電圧が
示されているので、回路計を手に適当(テキトー)に当たっていきます。

 

ICFシリーズでよく見かけるDC-DCコンバータ部
です。もちろんここのコンデンサも交換済みです。

 

既に取り外していますが、表裏両側から
金属製のシールドカバーが取り付けられています。

 

乾電池やACアダプターからくるB+電源とは別に
PLL回路を動作させる高電圧を作り出します。

 

回路図によるとDDコンバータの
入力電圧は2.9Vのようです。

  

回路計を当てるとほぼ3Vで、
元の電源回路は正常です。

 

一方、DDコンバータの出力は電源の
電圧をはるかに超える16.3Vです。

 

基板上のDDコンバータ回路部に
+16Vの表示があります。
 

直ぐ上のアースと思われるランドとの
間に回路計を当ててみます。
 

ここは金属製シールドケースがあって接地される
わけで、反対側のランドが本来のアースでした。

 

さて、DDコンバータの出力16.3Vある
はずが、この通り1Vくらいしか出ていません。

 

DDコンバータが正常に動作していないようです。発振の有無が疑われますが
回路図に発振の周期は100n秒と示されており、つまり周波数10MHzになる
わけで、とても工房の安物オシロスコープで追える相手ではありません。微細な
チップ部品やSMDコイルの動作を確認することもままならず、元の回路を修復
することは諦めます。代わりに16.3Vを供給する方法として、このような製品が
存在することを見つけました。単体のDDコンバータです、Amazonにあります。

 

仕様は入力2~24V、出力5~28V、何より
36mmx17mmという小型サイズが好都合です。

 

そうは言うものの、China製格安部品の実際の動作が
心配です。導入したての電源装置を2.9Vに設定します。

 

入力側端子にクリップで
2.9Vを接続します。

 

出力端子に回路計を
当てて電圧を確認します。

 

基板上のトリマーの調整でかなり精密に出力
電圧を調整できます。16.3Vにセットします。

 

SW55の回路上でも実際に同様の
電圧を作り出すことができるでしょうか。

 

基板からビニルコードで2.9Vを
取り出し、入力端子に接続します。

 

先ほどセットした通り出力に
16.3Vが出ています。

 

次の段階に進めます。DDコンバータの
出力16.3VをSW55の回路に戻します。

 

さぁ、今度はどうなるでしょう。電源を入れる前です、
バックアップ電源により液晶に時刻が表示されています。

 

電源スイッチを押すと、「CAL」の表示と放送受信地域が
表示されます。以前はこの後で電源が切れていました。

 

少し間をおいて、電源が入りました。「CAL」に代わって
受信周波数(初期値の150kHz)が表示されています。

 

DDコンバータの動作不良が原因だったようです。
元の回路は使わないので不要な部品を取り除きます。

 

電源供給と信号の経路を絶てば
余分な電力は消費しません。

 

大きな部品の実装側(本体内部側)は、新しい
コンバータを組み込むため完全に部品を取り去ります。

 

本体基板とDDコンバータを接続するビニル
コードを、実装に合わせて取り付け直します。

 

基板から2.9V(黄)とアース(白)を
取り出し、16.3V(青)を戻します。

 

新しいDDコンバータは、元のコンバータ
回路があった位置で僅かな空間に収めます。

 

そのため、コンバータ基板両端にある
入出力端子部分を短く切り詰めてあります。

 

ビニルコードによる配線も
必要最小限の長さに調整します。

 

16.9V出力の配線を基板の
反対側ぎりぎりに引き寄せます。

 

アースの配線を入力側・出力側それぞれで
取るべきでしょうが、共通の1本で済ませます。

 

ここに、DDコンバータ基板が収まり
そうな僅かな空間があります。

 

基板が剥き出しの状態なので、
太い熱収縮チューブを被せます。

 

DDコンバータ基板全体を覆い、周囲と
電気的に接触しないよう絶縁します。

 

熱を加えて収縮させます。この状態で
真下の空間に何とか収まります。

 

電源が完全に入るようになりました。AM放送の
受信周波数も変更できます・・が、放送が聞こえません。

 

電源が入りAM放送の「ザー」という局間ノイズも
大きく出ているのに・・、放送が聞こえません。

 

ここまで辿り着くのにいくつも山を越えてきました。
最後は高周波回路、守谷工房の苦手分野です。

 

バーアンテナの配線が切れていないか・・、
悲しいかなその程度の点検しかできません。

 

高周波回路の大部分がこのようなチップ部品で構成されています。
しかも基板の表裏両面に部品が実装され、信号の流れを追うのも大変
です。回路計やオシロスコープのプローブを当てるにも、隣接する部品と
短絡させないよう神経を使います。低レベルな話ですが、写真のように
基板や部品の端子にあちこち指先を触れて、音声が変わりはしないか
確かめるくらいです。・・・とそうこうしている時です、一瞬ですが放送が
聞こえるではありませんか! 指を離すと聞こえなくなります。ヒントが
隠されているのですが、残念ながらどこに触っているのか分かりません

 

こうなれば繰り返し延々と触りまくるだけ
です。徐々に捜査範囲が狭まってきて・・

 

このIFTコイルです! こいつに
触れていると放送が聞こえます。

 

ルーペを持ち出して拡大してみると、何とコイルの一部が欠損しています。
何かが強く当たり巻き線がむしり取られたような感じです。よく確認すると
エナメル線数本分の切断端が見えます。ここで信号が途絶えているようです。

 

交換または修復せざるを得ません。しかし、スルーホールに
半田付けされた微細部品を取り出すのは簡単ではありません。

 

吸い取り器で半田を除去しても、どうしても
スルーホール内に半田が残るからです。

 

ひやひやしながら熱を加え、何とか取り出しました。この
小さなコアリングにエナメル線を巻き直すのは不可能です。

 

コイルが取り付けられていたホールを
綺麗にしておきます。

 

回路図の該当部分を確認してみます。T3の記号があるコイルを探します。
2次側巻き線にセンタータップのあるコイルで、すぐ後にFET2個を使用した
プッシュプル回路が控えているので、音声信号を上下に2分割するための
結合トランスのようです(間違っていたら済みません)。入力信号を2分割
できればよいので、あまり厳密なスペックは問われそうにありません。

 

以前に利用したICF-SW7600のジャンク
基板です。この中からコイルを探します。

 

コイルがいくつも並んでいます。
同じT3のIFTはケース入りです。

 

回路が異なるからもちろん同じ部品ではあり
ませんが、試しに外してみると、このザマです。

 

IFTのピンが抜けて基板に残って
います。本命は左隣のコイルです。
 

取り外して再利用することが目的なので、
絶対に部品を壊すわけにはいきません。

 

半田面の側から丁寧に半田ごてを当て、
コイルのピンを少しずつ押し出していきます。

 

裏側から見る分にはほとんど
抜けているのですが、まだです。

 

ピンに半田がまとわりついた
状態でようやく抜けてきました。

 

ピンを綺麗に整えます。取り出す際に
巻き線が損傷してなければ良いのですが。

 

回路計でピン間の導通を確認します。
巻き線に問題はないようです。

 

元の位置に取り付けます。この小さなコイル、ネット上では
見つけられません。7mm角のケース入りが最小です。

 

裏側でしっかり半田付けします。
取り外すのは金輪際御免です。

 

スペックが適当でも良いとは言え、このコイルが代替品として使用できるか
それは分かりません。巻き線の固定用に塗り付けられた塗料が元の部品と
同じ緑色をしているので、多分同等の部品ではないかと思うのですが・・。
電源を入れると放送が受信できます。内蔵スピーカーから放送の音声が
聞こえてきます。低周波周りのコンデンサを全て交換してあるので、音量・
音質とも本来の性能を取り戻しているようです。で・す・が・・、ここでまたも
問題が発生です。音声にひどいノイズが混入しています。可聴域ですが
かなり周波数の高い強烈なノイズで、それでも出処はすぐに判明しました。

 

既に本体に収めてあるDDコンバータです。
元々金属製シールドで覆われている部品です。

 

熱収縮チューブで保護しただけではノイズが出放題です。
自宅キッチンからアルミホイルの切れ端を持ってきました。

 

予めマスキングテープで保護した
上から、アルミホイルで包みます。

 

アルミホイルの外側をさらに
マスキングテープで保護します。

 

凄まじいノイズが嘘のように消えました。局間では多少
残っていますが、放送周波数では十分抑制されます。

 

放送局を変えながら受信
状態を確認していきます。

 

NHK第1・第2に続いて和光の
AFN(米軍放送)を受信しています。

 

954kHzTBSを受信しています。受信感度が高い
ので電波の弱い工房内でも十分に受信できます。

 

2か月に及ぶ長期戦がようやく終わりを迎えます。越えてきた山の多さに溜息が
出る思いです。しかし、実は修理はまだ完全ではありません、FM放送がまだ
受信できないのです。FMの受信回路に対応する測定器の設備がなく、調整の
しようがありません。また、このラジオの売りであるSW(短波放送)は、アンテナを
用意・調整することができず、動作確認すら行うことができません。しかし、元の
ご依頼内容は「電源が入らない」でしたので、「電源は入るようにした」と言っては
身勝手極まりありませんが・・、AM放送の受信まで漕ぎ付けたことで何とか
ご容赦いただけると有難い限りです。恐る恐るご依頼主にお伝えしたところ
幸いにもご了解をいただくことができました。今後も精進して参ります。

 
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