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TASCAM388執念の修理3(2022.6.10)

 
TASCAM388の修理に長い時間を要していますが、記事の
編集にもまた時間がかかっています。テープデッキ部、録音
再生回路と重大部分を片付けてきたものの、まだ不具合は
あちらこちらに残っています。その一つが、再生・録音時に
テープカウンターが動作しないことです。早送りや巻き戻し
では正常にカウントします。折角のRTZ(Return to zero:
任意のテープ位置でカウンターを0にしておくと早送り・巻き
戻し時に0位置で自動的に停止する)も意味がありません。
 

巻取り側のテンションローラです。
再生走行中に軽く右方向へ押し戻すと、

 

テープにかかるテンションが変化し
一時的にカウンターが動作します。

 

テープ走行系のどこかに、カウンターの
動作をON・OFFする仕掛けがありそうです。

 

手前の固定ローラを分解してみます。
エンコーダが組み込まれています。
 

光学式のエンコーダなので、テープ
テンションの変化が影響しそうにありません。

 

テープ走行系を徹底的に調べます。
次に、ピンチローラを取り外します。

 

キャプスタンベースを押さえ付ける
ブラケットパネルを外します。
 

このパネルを外さないと、ローラの
ベースプレートにアクセスできません。

 

右側テンションローラのベース
プレート固定ネジを緩めます。
 

このローラを動かすとカウンターが動作する
ので、この中に何か原因がありそうです。
 

このテープデッキにはリールサーボ機構が組み込まれて
います。センサーにより常にテープテンションを検出し、
テープの巻取り位置により刻々と変化するテンションに
従い、リールモータの回転数(トルク)をリニアに変化させ
ます。テープの巻き取り始めから巻き終わりまで一定の
テンションが保たれる、驚くほど精密な設計がされています。
 

センサーブラケットに2枚の小型
基板が取り付けられています。
 

手前の1枚はフォトインタラプタで、テンション
アームが開放位置にあるか否かを検出します。

 

テープテンションがかかり引き離されると
スリットが空いてOFFになるようです。
 

アームを開放位置に戻すスプリングです。アームを
少し戻してやるとカウンターが動作するのだから、
 

スプリングの巻き数を減らすことで、引き戻す力が
強くなるよう調整します。が、まだ動作しません。
 

かくなる上は、テンションアームの開放位置を
決めるストッパー位置を変更します・・ダメです。
 

相変わらずテンションローラを押すと動作します・・、
インタラプタの奥にセンサーもう1枚基板が見えます。

 

フォトトランジスタが取り付けられています。センサー
ブラケット裏側にLED基板があり、その光量を検出します。

 

ワッシャを挟むことで基板を浮かせ、LEDに
少し近づけるとカウンターが動作します。

 

LEDとフォトトランジスタが離れ過ぎていた
ことが、カウンターが動作しない原因です。

 

乱暴な方法ですが、ブラケットの固定ネジを1個
外し、固定位置を変えてLED側を近づけます。

 

ネジ穴の位置がずれてしまったので、
乱暴ですが)瞬間接着剤で固定し直します。

 

カウンターが動作しない問題は解決です。修理を完了しご依頼主に
本機をお返しした後で気づいたのですが、LEDとフォトトランジスタ間の
クリアランスを調整するため、REEL SERBO PCBの中に半固定
抵抗器が組み込まれています。これで調整するように設計されている
とはつゆ知らず、あんな乱暴な直し方をしてしまい情けない限りです。

 

テープデッキ部の修理を完了し、
トランスポートパネルを元に戻します。

 

左側サイドサッシを
取り付けます。

 

オープンリールテープの走行環境を
保つためでしょうか、丁寧な造りです。

 

反対側のサイドサッシも
同じように取り付けます。

 

左右テンションローラをパネルの上から取り
付けます。プラスチックワッシャが入ります。

 

ヘッドの周囲を保護するベース
ハウジングを取り付けます。

 

最後にピンチローラを入れます。ゴム材の表面に
さほど劣化はありませんが、軽く研磨済みです。

 

テープをセットして走行
テストを繰り返します。

 

テープデッキ部の構成部品数はざっと130点ほどです。
カセットテープデッキでは期待できない、剛性に富んだ
ゆとりのある部品で構成されています。耐久性に優れ、
スタジオや移動先での酷使にも応えそうです。年月を
経て息を吹き返すには、それなりの理由があります。

 

次はVUメーターの照明
(バックライト)を修理します。

 

トラック2(CH2)のVUメーターで
バックライトが点灯していません。

 

電球切れに間違いないでしょうけれど、VU
メーターへのアクセスはなかなか面倒です。

 

外側のメーター部カバーに、メーター
ブラケットがネジ固定されています。

 

2枚のメーターブラケットにそれぞれ4個
ずつVUメーターが取り付けられています。

 

VUメーターの端子がブラケットの裏側に
突き出し、基板が半田付けされています。

 

VUメーター本体を取り出すには、基板の
半田付けを外さなければなりません。

 

4か所の半田付けを外すと
基板を分離できます。

 

VUメーターをブラケットの
表側に引き抜きます。

 

照明用電球はこの透明カバーの
内部に組み込まれています。

 

カバーを外します。横に
細長い形の特殊ランプです。

 

左右のポストに半田付けされています。
交換されることを前提にしているのでしょうか。

 

専用の電球は高価なので汎用の電球を流用します。
印加電圧と電流から直列抵抗の抵抗値を割り出します。

 

VUメーターの内部に
抵抗器も組み込みます。

 

メーターの可動部に干渉しない
よう抵抗器とランプを納めます。

 

カバーを元に戻し裏側に
基板を半田付けします。

 

ところが、電流制限用の抵抗器がかなり発熱
します。もう一度分解し抵抗器を取り去ります。

 

そのままでは透明カバーを溶かしかねません。
電源を接続する基板パターンをカットします。

 

ある程度の発熱は止むを得ないので
抵抗器を基板上に移動し外に出します。

 

抵抗値2倍の抵抗器をパラレルにし
電流容量に余裕を持たせます。
 

配線や電球は外側のメーターカバーに隠れます。最近、
VUメーターのバックライトをLEDに交換する事例をよく
見かけます。そうして差し上げたいのは山々ですが、
全部でメーター10個分を作業する気にはなれません。

 

背面パネルのフォンソケットが、いくつも壊れて
います。受け入れ時から気付いていました。

 

少し力を入れただけで
もげてしまうものもあります。

 

形を留めているものも、経年劣化に
より樹脂材料が脆くなっています。

 

IO PCBをいったん取り外し、全部で30個
近く使用されているソケットを点検します。
 

リアパネルのネジ固定も緩めないと
基板を取り出すことができません。

 

リアパネルを脱着するには、他の多くの
配線接続も外さねばならず大変です。

 

露出させてみると、損傷がさらに
深刻であることが分かります。

 

長年ストレスが加わり、ソケットの差し込み口部分が
破損し脱落します。取りあえず接着してみます。

 

脱落しないまでも、多くのソケットで
差し込み口周囲にクラックが入っています。

 

接着による修復は信頼性に欠けます。やはり少しでも
ぐらついているソケットは交換する必要があります。

 

半田付けを溶かして不良の
ソケットを取り外していきます。

 

交換するソケットの数が多く、
半田ごてでは能率が悪過ぎます。

 

半田吸い取り機を持ち出してきて
ソケットを片端から外していきます。

 

フォンジャックが繰り返し抜き差し
されたことも、破損の原因でしょう。

 

新しいフォンソケットを用意します。全く同じ規格の部品が
現在も流通しており助かります。数十個をまとめて手配します。

 

取り外した跡に新しい
ソケットを差し込みます。

 

しっかり半田付けし直します。1階の作業室
なので古い半田ごてしか用意できません。
 

クラックが入りぐらついていれば
片端から交換していきます。

 

フォンコネクタの一部は、内部に切り替え
スイッチが内蔵されない2Pタイプです。

 

用意したソケットはスイッチ内蔵の3Pタイプ
ですが、そのまま使用することができます。

 

中間の端子が不要かつ邪魔なので
ニッパで切り落として使用します。

 

サブフレームとの間に渡されている
小さなパスコンも元通りに接続します。

 

交換されたソケットの残骸です。
意外と耐久性に乏しい部品です。

 

背面パネルに8チャンネル分の入手力端子が並び壮観です。
ソケットの突き出し部にロックナットを入れて作業完了です。

 

ミキシング部で操作ツマミが一部欠損しています。
全体の修理が成功しなければそのままでしたが・・

 

見通しが付いたところで修復にかかります。
このツマミもトップカバーが欠損しています。

 

ツマミ類の復元は守谷工房が得意とするところです。
隣のツマミを借りて、ノギスで精密に採寸します。

 

採寸データを元にCAD上に
ツマミの3D形状を再現します。

 

Voxelab製スライサー、Voxel Makerに
stl型式に変換したデータを渡します。

 

最近工房に導入した3Dプリンター、
Voxelab Ariesで出力します。

 

非常に安定した出力が得られ、パーツの
ワンオフ製作に絶大な威力を発揮します。

 

キートップのカバーを、アクリル板から
レザーカッターで別に切り出します。

 

今回はLaser Velocityを使用します。
こちらも安定した性能を発揮しています。

 

オレンジ色アクリル材からほぼ一瞬で切り出しが
完了します。表裏の保護シートを剥がします。

 

3Dプリンター製のツマミ本体と接着・合体させます。
このような外装や補助部品の製作・修理も、外観を
著しく改善させることができて非常に楽しいものです。

 

再生部品を欠損か所に取り付けます。
多少色合いが異なる点はご容赦を。

 

トップのプレートのみ欠けて
いたツマミも修復します。

 

白色のカラーアクリルからプレートを切り出し
ます。先ほどのツマミと同じデータを使えます。

 

欠損部分に貼り付けます。やはり
色合いが異なりますがどうかご容赦を。

 

ミキサーのように同じ操作系が繰り返し配置されるパネルは、
一部ツマミ類の欠損が外観をひどく損ないます。外観はまだしも、
ツマミが無いことによる操作性・機能性の欠落(要するに使い
にくさ)は、スタジオ用設備としての価値を半減させるでしょう。
 

工房に到着してからほぼひと月、執念攻防がようやく終わります。
中規模のMTRとはいえ、これだけの装置がよくぞ組み上げられたもの
です。そこに組み合わされる膨大なパーツがよくぞ調達されたものです。
そして、全体を俯瞰し細部に至る回路構成がよくぞ描かれたものです。
かつての
Made in Japanの偉業に敬意を払いつつ、それらの遺産
(サービスマニュアルや回路図)が温存されることを強く願う次第です。

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