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名機マランツ1250復活(2020.4.10)

 
市内のコーヒー豆焙煎店にセラミックヒーターを納品に行った時、偶然居合わせた
お客さんから声をかけられました。「古いオーディオアンプを修理できるだろうか」と
聞かれ、いつものように「拝見してみないと何とも・・」とお答えするも、その足で
ご自宅へ伺うことに。そこには往年の名機、高校生時代に心底憧れた1台が。
 

マランツのプリメインアンプ(現在のインテグレーテッドアンプ)、モデル1250です。格調高い
木製のキャビネットに収められ、中央にグラフィックイコライザ的トーンコントロールを配置する
デザインは、1970年発売のプリメイン1号機「モデル33」を明らかに踏襲しています。

 

20kg近い重量は工房に運び込むだけでも大変です。
1976年発売、1万円/kgと価格も大変なものでした。

 

ロサンゼルスの近郊チャッツワース(当時のマランツ本社)
で設計され、日本マランツ(国内)で製造された製品です。

 

オーソドックス・・というよりやや
前時代的な背面パネルです。

 

オープンリールデッキに装備されていたDIN規格
録音/再生端子が2系統も備わっています。

 

不具合の状況は、片側のチャンネルで
音量調整時にガリ音が出るそうです。

 

しかし、ご依頼主宅で実際に確認した際は、
右チャンネルの出力が全く出ない状態でした。

 

音量調整用可変抵抗器(ボリューム)が経年
劣化により接触不良を起こしているようです。

 

名機と言えども普通にボリュームのガリが
出るなど、どこか可愛らしい話です。

 

ボリュームのガリならば接点復活剤で一瞬で
解決できるでしょう。楽勝ムードが漂います。
 

固定ボルトを緩め、木製キャビネット
からアンプ本体を取り出します。

 

金属製カバーが剥き出しになると、外観はSONYやパイオニアなどに歩み寄った
印象です。その後の日本製品は、前面アルミパネルを異常に厚くしたり、ツマミ
材質の高級化を図ったりと、どこか空しい方向へ突き進んで行くのですが・・。

 

本体カバーを外します。重量20kgは
向きを変えるだけでも大変です。

 

巨大な電源トランスと、同じく巨大な電解コンデンサが
現れます。トランスだけで何kgあるのでしょうか。

 

電解コンデンサ側、本体左側面に収められた
左チャンネルパワーアンプ基板です。

 

電源トランス側、本体右側面に収められた
右チャンネルパワーアンプ基板です。

 

あらためて電源を入れてみます。
結構ワイルドなクリック感です。

 

marantz」ロゴの真下にあるパイロット
ランプが品良くブルーに点灯します。

 

背面のRCA端子から
適当なソースを入力します。

 

ヘッドホンを接続して出力を確認します。
確かに右チャンネルが出力されていません。

 

ボリューム(音量調整用可変抵抗器)は
この金属製シールドカバーの中にあります。

 

数か所の固定ネジを緩めます。
丁寧な造りに感心します。

 

シールドカバーを外します。トランスとの境界
部分に組み込まれているのは、電源回路です。

 

入力切替用スイッチやトーンコントロール用スライド抵抗器が
並びます。大きな2個のコンデンサは左右パワーアンプ用です。

 

ボリュームにアクセスするには前面
化粧パネルを外す必要があります。

 

パネルをすり抜けることの出来ない
ツマミ類を先に外しておきます。

 

回路基板やスイッチ基板はサブパネルにネジ固定されています。分厚いアルミ
1枚板を化粧板として取り付ける構造は、以後長きにわたり継承されて行きます。

 

右側の隙間からボリュームの位置を確認します。高級機に
似合わず、開放型の可変抵抗器が使用されています。

 

開放型ではガリが出ない方が不思議です。
まだ接点復活剤のノズルは届きません。

 

ボリュームの上に取り付けられているトーン
フィルター切り替えスイッチの基板を外します。

 

化粧パネルをすり抜けても、サブパネル
には干渉します。ツマミを全て外します。

 

基板後方でもネジ固定されています。コネクタを介してもう
1枚、プリアンプ基板が垂直方向に取り付けられています。

 

垂直の基板も固定を解除
する必要があります。

 

2枚の基板を接続している
コネクタを引き抜きます。

 

手前に信号接続用のコネクタが
2個取り付けられています。

 

基板の奥に入力セレクタから来るオレンジ色のシールド
線が、ワイヤラッピングにより何本も接続されています。

 

ようやくボリュームに辿り着きました。
開放型なので接点回復は簡単です。

 

早速、接点復活剤を吹き付けます。
少し(かなり)多めに吹きます。

 

ボリュームが取り付けられている
この小さな基板は何でしょう?

 

ボリュームを持ち上げてみると・・
何と4連ボリュームです。

 

モデル1250はノイズ軽減のため、イコライザーアンプ直後と
トーンバッファアンプ前段の2か所にボリュームを置いています。

 

ボリュームの半田付けを取り除かないと
後方の2連ボリュームにアクセスできません。

 

4連ボリュームが姿を現しました。一時期4チャンネル
アンプが流行しましたが・・、そうではありません。

 

後方のボリュームにもしっかり接点復活剤を吹き込みます。
名機マランツ1250の不具合と言えど、まぁこんなもんでしょう。

 

オシロスコープを接続しプリアンプの出力を
確認します。まず左チャンネル、正常です。

 

出力の出ていなかった右チャンネル、
おぉ、こちらも正常です。修理完了か・・

 

ボリュームを回してみます。
大出力時でも大丈夫でしょうか・・

 

直って・・いません。波形にスパイク状のノイズが重畳して
います。ヘッドホンを当てると鼓膜が破れそうな酷さです。

 

楽勝ムードが一変! スピーカーを接続するとパワー段の
保護回路が作動します。DCドリフトが出ているようです。

 

回路の構成素子が劣化または破損、結果デリケートに
設計された直流増幅回路がバランスを崩しているようです。

 

接点復活剤を吹き付けて1発修理完了・・が、信号
経路を追いかけてノイズの発生源を突き止める羽目に。

 

まず、プリアンプとパワーアンプの
分岐点で、信号異常の有無を確認します。

 

一般的にはジャンパーピンを差し込んでプリとパワーを
直結させますが、パワー段の入力端子が特殊です。

 

RCAピンジャックを差し込むとプリとパワーの
接続が切れて、外部からのソースに切り替わります。

 

結果は、左右チャンネルともパワー段には問題
ありません。ノイズはプリアンプで発生しています。

 

パワーアンプの入力コネクタです。ここ
からプリアンプへ向かって配線を追います。

 

先ほどのプリとパワーの分岐点を通過します。
通常はプリアンプへ直結されています。

 

どの配線も同じオレンジ色シールド線が使われて
いるため、見逃さないよう辿る以外にありません。

 

電源基板(取り外しています)の横を通り、垂直に
取り付けられたプリアンプ基板に到達します。

 

と思いきや、プリ基板を通り過ぎて入力切替
スイッチ(セレクタ)に接続されています。

 

3系統の信号を同時に入出力できる多機能ゆえ
シールド線の取り回しは複雑を極めます。

 

トーンフィルター切り替えスイッチ基板の下に
もう1枚あるサブ基板が終着駅(始発駅)です。

 

ようやく信号の経路が見えたところで、シグナル
ジェネレータを接続しノイズ発生源を正確に捉えます。

 

プリアンプから出力を取り
出して直接モニターします。

 

2枚の基板(1枚はトーンフィルター切り替えスイッチ基板)で
構成されるプリアンプのどこかに発生源があるはずです。

 

まず電解コンデンサを疑います。見るからに容量の低下や
短絡がありそうですが、取り外さないと良否を判定できません。

 

オンボードの状態で部品の良否を判断する
高等テクニックは持ち合わせておりません。

 

当時としてはローノイズで耐久性に
優れた高級品だったのでしょう。

 

チェッカーによるテストでは特に異常ありません。
取り外したついでですから新品に交換します。

 

高級機の象徴でもあるタンタルコンデンサです。
電解コンデンサの1種なので念のため点検します。

 

タンタルが劣化・破損した話は聞いたことが
ありませんが、工房に在庫があるので交換します。

 

トーンフィルター切り替えスイッチ基板に、コネクタを
介して垂直に取り付けられているもう1枚の基板です。

 

もしかしてイコライザー回路でしょうか。そうすると「トーン
フィルター切り替えスイッチ基板」はトーンバッファ回路?

 

時間があれば詳しく構成を調べたいところですが、
・・問題はノイズの発生源を突き止めることです。

 

コネクタ経由で電源が供給されているので、2枚の
基板間に配線を加えないと動作確認できません。

 

例によって電解コンデンサを
交換してみます。変化はありません。
 

どうにも埒が明きません。再びトーンフィルター切り替え
スイッチ基板(トーンバッファ回路基板)に舞い戻ります。

 

相変わらず右チャンネルにノイズが混入したままです。途方に
暮れる中、何気なく出力端子に回路計を当ててみると・・

 

大変なことになっています。ノイズ混入もさること
ながら、何と出力に10V近い直流が出ています。

 

能動素子を疑わざるを得ません。出力はこの
トランジスタのコレクタからほぼ直結で出ています。

 

半田付けを解除して取り外してみると、
2SC1885という聞き慣れない石です。

 

ようやくスペックを見つけました。CE間に±40Vで80Vもの
電圧が加わるため、Vce(CE間耐圧)が150Vもある石です。

 

右チャンネルだけで良さそうなものですが、
左右チャンネルとも2SC1885を取り外しました。
 

どちらが右チャンネルだったか分かりませんが、
チェッカーによると最初の1個は・・、正常です。

 

続いてもう1個を調べます。BC間がダイオードとなっています。CE間およびBE間が
破損しているとすると、ベースに加わるバイアス電圧が常時コレクタに抜けていても
おかしくありません。中途半端な結果ですがトランジスタとしては機能していません。

 

2SC1885互換のトランジスタとして2SC2229を
選びました。秋月電子で扱いがあり安価です。

 

今どきの石なのでノイズ特性や周波数特性は考慮
しなくて良いでしょう。Vceは同じく150Vあります。

 

元の2SC1885のように背の高い石
です。左右チャンネルとも交換します。

 

再び出力端子に回路計を当てると、
取りあえず直流電圧は確認できません。

 

オシロスコープを接続して波形を確認します。
シグナルジェネレータの綺麗な正弦波です。

 

ノイズが重畳していた右チャンネルです。
こちらも綺麗な波形が見られます。

 

片チャンネルの出力が出ないという、オーディオアンプとして致命的な問題を解決する
ことができました。これでご依頼主の要望はクリアしたことになりますが、守谷工房の
修理はまだ続きがあります。汚れが付着し錆が出始めているツマミをリフレッシュします。

 

アルミ無垢材削り出しによるシャンパンゴールド色の
贅沢なツマミです。コンパウンドを付けて磨きます。

 

回転位置を示す切込みの内部も
汚れを完全に取り出します。

 

セレクタ用の小型ツマミは
とても手間がかかります。

 

前面の化粧パネルは、洗剤を付けて水洗い
してからコンパウンドで丁寧に磨き上げます。

 

往時の輝きを取り戻しました。マランツが羨望の眼差しを集めていた
頃が蘇ります。中央のパイロットランプは、変質して透過率が低下した
減光シートを取り除いたので、青色LEDに近い光り方をしています。

 

金属カバーを元に戻します。ルックス的にも
十分今日のオーディオシーンに通用します。

 

一方、このレトロ感漂う傷みの進んだ木製カバー、
この中に戻すのは少なからず躊躇いを感じます。

 

しかし、モデル1250は木製キャビネットに
収められてこそマランツ名機の1台です。

 

守谷工房は表向き「家具屋」ですから、
木製品のリペアは是非お任せ下さい。

 

塗装が剥げた部分をタッチアップで補修し、
表面全体をサンドペーパーで整えます。

 

パーパーをかけると、さらに塗装の
剥がれが出てきます。丁寧に補修します。

 

ほとんど目立たなくなります。黒色のパンチング
メタルも錆びの出ている部分を補修します。

 

パンチングメタル部分を
マスキングテープで養生します。

 

折角なので、木製キャビネットのトップ
コート(クリア塗装)を再塗装します。

 

クリアスプレーを吹き付けます。天板にお皿の跡の
ようなシミがありましたが、完全に消えています。

 

1回目の吹き付けで既に
かなり輝いています。

 

完全に乾燥後、軽くペーパー
研磨して2回目を吹き付けます。

 

前面グリル部分のへこみ傷は完全には修復できません。切削するか
パテ埋めが必要なので全体を着色からやり直さなければなりません。

 

キャビネットに収めます。やはり1250は
木製キャビネットが抜群に似合います。

 

トップコートが輝きを取り戻し
HiFiクオリティを予感させます。

 

ご依頼主はスピーカーシステムにJBLをお使いです。真空管オーディオの名残りを
とどめるJBLのクラシックスピーカーが、全盛期に突入しモデルごとにパワーアップを
繰り返すトランジスタアンプに絶妙にマッチします。修理の途中で気付いたのですが、
チャンネル間のセパレーションがあまりよろしくありません。シールド線に依存した当時の
実装技術では致し方ないところでしょうか。大学生時代にマランツもどきを目指して数台
自作したアンプも、やはりシールド線を張り巡らしたせいでセパレーション、ついでに
S/N比も十分ではありませんでした。それでもオーディオ鑑賞は楽しいものでした。

 
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