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同期電気時計のレトロスペクティブ(2024.6.8)


こちらの置時計、AC100Vを電源とする同期モーターで
駆動する電気時計です。電源周波数の50/60Hzが
かなり正確なので、クォーツが普及する以前は狂いの
少ない時計として広く利用されていました。実は2019年
5月に一度修理したことのある時計で、破損したモーター
シャフトのピニオンギヤを工房で製作し交換しています。

 

レザーカッターでアクリル材から切り出した
ピニオンなので、壊れた可能性があります。
 

外装カバーを取り去り、内部の機構を引き出し
ます。駆動伝達部の金属カバーが見えます
 

同期モーターとは言え、マグネットを内蔵するローターが、
回転磁界を発生するステーター内に収まっているだけです。

 

5年前に製作したピニオンギヤ、お久しぶりです。
歯は残っていますが摩耗が進んでいるはずです。
 

もう一度ピニオンギヤを交換することにしま
しょう。ただし今回は別の方法で製作します。

 

ローター内に樹脂製のスリーブを介して
差し込まれ、中心をシャフトが貫通します。

 

最近、出番が増えつつある光造形(LCD)3Dプリンターを
利用します。このくらい微小な部品では、レザーカッターや
FDM3Dプリンターよりもはるかに高い精度で加工できます。

 

1個あれば間に合うところ、様子を
見るため6~8個出力しておきます。

 

ピンバイスにドリルを付けて
シャフトが通る穴を開けます。
 

アクリル材をカットしたピニオンに比べ、
歯の1枚1枚が綺麗に刻まれています。
 

ピッチ円の正確な把握はなかなか困難で、印刷
パラメータのミスマッチもありかなり大きめです。
 

サイズを僅かに変更して印刷し直します。パラメータも
調整したので、歯先がさらに綺麗に成形されています。
 

シャフトが通る穴も一緒に成型します。バリが
残らないようサポートを丁寧に取り除きます。
 

万全を期したつもりでシャフトに戻しますが、相方の
平歯車が今一つ軽く回りません。まだ、ピッチ円を
調整する必要があるのか、あるいは歯先形状が
インボリュート曲線からかけ離れているのでしょうか。
 

試しに元のアクリル製ピニオンに
戻してみると、軽く回転はするものの・・
 

平歯車側に問題があります。歯先は何ヶ所か
欠けており、ここで回転が止まっています。
 

ご依頼主が、「時々時計が止まる」とおっしゃっていた
原因は平歯車であり、ピニオンはまだ大丈夫そうです。
 

ならば平歯車を修理することにします。
径を測定し歯数を数えます、T80です。
 

修理方法は、平歯車の歯先部分だけをアクリルから切り出し
タイヤとして元の歯車に履かせることにします。平歯車の中心
には、同軸のピニオンがあり、回転方向を決める金属部品が
挟まれているなど、なかなか厄介な構造をしているからです。
 

歯先をタイヤとして履かせるため、
元の歯車から歯先部分を削り取ります。

 

タイヤの内径に一致するまで
周囲を削り取れば良いのですが・・
 

やってしまいました、根元のピニオンを旋盤のチャックで
咥えていたのですが、少し力が加わったところで・・

 

ピニオンが崩壊してしまいました。
シャフトとしても使えそうにありません。
 

こうなると、平歯車側を丸ごと製作するしかありません。
調子乗って、LCDプリンターで平歯車を印刷しますが、

 

最近分かってきたことは、LCDプリンターは平面的で
精緻な形状の再現は、意外と苦手であることです。
 

歯先形状が厚み方向で乱れるため、モーター側のピニオンと
スムーズに噛み合いません。何度調整しても解決しないため、
レザーカッターでアクリル材を切り出してみます。ウォークマン
用の平歯車を製作したAQLV-400の登場です。中間に入り
金属レバーを留めるワッシャも一緒に製作します。歯先形状に
関しては、LCDプリンターよりもかなり綺麗に仕上がっています

 

壊れてしまった根元のピニオンギヤおよび
スリーブ部分は、LCDプリンターで製作します。

 

3D形状なので2D加工のレザー
カッターでは手に負えない加工です。

 

スリーブ部分にワッシャを
通し、アタッチを確認します。

 

あらためて平歯車を通してみます。レザーカッターによる
パーツとLCDプリンターによるパーツが合体します。
 

レザーカッターで刻まれた歯先です。
全周で形状の乱れが確認できません。

 

ピニオンと平歯車の間に、回転方向を
決める金属製レバーとワッシャを入れます。

 

平歯車側にスリーブが突き出る部分です。
絶妙なきつさで嵌まるので接着は不要です。

 

モーター側のピニオンは、結局以前に
製作したものをそのまま使用します。

 

この状態で回転はスムーズそのものです。モーター側の
ピニオンを作り直すだけのつもりが、えらく手間のかかる
作業になりました。そしてLCDプリンターの使い方には、
まだ研究や試行の余地があることが分かってきました。

 

駆動伝達部を覆う
金属カバーを戻します。

 

本来は両側に出ているツメを折り込むことで固定
するのですが、大事を取り接着剤で代用します。
 

外径を変更したり僅かな噛み合わせを調整したり、
モーター側ピニオンの製作から始まり平歯車側の
アセンブリ製作も併せると、これだけの失敗作を経て
修理完了となりました。2次元加工のレザーカッター、
LCD3Dプリンター、FDM3Dプリンターとそれぞれ
長短があります。部品加工に合わせていかに組み
合わせるか、ハイブリッド的に考えることが重要です。

 

電気時計が再び動き出しました。数字表示式ではありますが
現在のデジタル方式でもなければ、ある意味でデジタル式の
パタパタ表示でもありません。円筒が回転して周囲に印刷
された数字が変わるだけです(時・分が進む直前にカムの
働きで素早く変わる仕組みです)。2回にわたり修理を要望
されたご依頼主の、強く熱いレトロスペクティブを感じます。

 
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