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高級オルゴールオルフェウス その2(2023.4.20)


ゼンマイケースを少し持ち上げることで、ゼンマイ側・シリンダ側
ギヤの噛み合わせを回復させる試みは、あっけなく失敗に終わり
ました。シリンダのシャフト端がゼンマイケースの穴に通り、位置が
決められていることに気付いていませんでした。やはり歯が削れて
しまったギヤを修復、あるいは作り直すしか方法がないようです。
 

このギヤは単なるギヤではありません。
シャフト途中のスナップリングを外すと、

 

ギヤがシャフトから抜けてきます。その
下に3本のツメを伴う金具があります。
 

ギヤの裏側に、溝の刻まれた
金属板が嵌め込まれています

 

金属板の溝にツメの先が入り込み、
一方向にのみギヤを回転させます。
 

ギヤの歯数・径・ピッチを計測し、CAD上に再現します。
溝の付いた金属板相当の円盤も用意しなければなりません。
 

精密な切断加工が必要なので
こちらのレーザー加工機を使用します。

 

ギヤ自体は3mm厚の
アクリル板から作ります。

 

レーザー出力と切断速度を
調整し、データを送り込みます。
 

稼働開始以来、快調に働き
続けているLaserVelocityです。
 

ギヤの切断加工が
終わりました。
 

最終的に傘歯車にしたいのですが
この段階では単なる平歯車です。
 

次に、ツメが入り込む溝を
伴った円盤を作ります。
 

金具のツメが掛かれば良いだけなので
1mm厚のアクリル板を使用します。
 

中心部の穴に突起があるのは、
シャフトのキーを通すためです。
 

つまり、この円盤はシャフトに
固定されて一緒に回転します。
 

先に、溝付き円盤を
シャフトに通します。
 

ギヤの保護紙を
剥がしておきます。
 

ギヤをシャフトに通します。ギヤ自体は
このままではシャフトに固定されません。
 

ギヤを移動させて溝付き
円盤と重ね合わせます。
 

位置がずれないように
クリップで固定し、
 

2枚が重なる面に接着剤を
流し込み、接合します。
 

溝付き円盤の1mmとギヤの3mmで、計4mm厚となります。
金具のツメを押さえ付けた状態で、スナップリング用の溝が
顔を出します。リングを嵌めてギヤが抜けないようにします。
 

それらしき代用のギヤが
出来上がってきます。
 

回転軸の方向を90度変換する
ため、元のギヤは「傘歯車」です。
 

レーザー加工機は2次元方向にしか加工できない
ので、斜め方向に歯を加工することなど不可能です。
 

そこで、レース盤で歯の先を削り
落とすことで簡易的に傘歯車にします。
 

ギヤを回転させながら歯の先にヤスリを当てます。
不用意にバイトを用いると、先が欠け飛びそうです。
 

どのくらい削れば良いのか分からないので
ひとまずこれくらいにしておきます。
 

傘歯車もどき・・といったところでしょうか。ゼンマイに組み込み
オルゴール本体に戻すと、すぐさま問題が判明します。歯先が
シリンダ側ギヤに届かず噛み合いません。最低限、噛み合わない
ことには動力を伝達できません・・ギヤ全体の厚みを変更します。
 

ギヤを刻むアクリル板を単に厚くすると、
歯先の強度が低下し壊れやすくなります。
 

もう1枚中間に円盤を入れることで
ギヤ全体の厚みを増やすことにします。
 

3枚の接着に進もうとした時に、
また別のアイデアが浮かびます。
 

ギヤ全体の厚みを増やすと、スナップリングを
嵌める溝の位置が合わなくなるのでは・・
 

そこで、溝付き円盤中心部の穴を大きくし、その
下のシャフトが太くなる部分を貫通するようにします。
 

ツメ付き金具はバネ座金でもあるので、
貫通したところで押し戻されてきます。
 

3枚の中心を正確に合わせ
クリップで固定します。
 

接着剤を入れて3枚を
完全に接合します。
 

中間に1mm厚のアクリル板が加わり、
ギヤ全体は5mm厚に変更されます。
 

ツメ付き金具を押し下げることができるので、
厚みが増していてもスナップリングは入ります。
 

加えて、ツメ付き金具がスプリングのように機能
することで、ギヤ同士の当たりが調整されます。
 

レース盤に取り付けて、歯先
形状を傘歯車に近づけます。
 

最初のギヤがほとんど噛み合わなかった
ので、欠き取る範囲を小さめにします。
 

このくらいでどうでしょうか。
試行錯誤するしかありません。
 

ゼンマイケースに組み込みオルゴール
本体に取り付けて動作させてみます。
 

今度は傘歯車同士が噛み合いはしましたが、
ゼンマイを巻き上げた瞬間悲鳴のような音がして、
 

その後全くゼンマイを巻き上げることが出来なくなり、分解してみると・・
やはり恐れていたことが起こっています。ギヤ同士が噛み合う際に
生じる応力に、アクリル製ギヤの歯先が耐えられません。悲鳴音と
ともに、ほとんどの歯が欠けて飛んでしまっています。元のギヤは
ポリカーボネートやPOMのような強靭なエンプラ製でしょうか、代替
材料としてアクリルはおよそ適当ではありません。決定的に衝撃に
弱いことは承知していますが、レーザーによる自在な加工性を前提に
すると他に材料が見つからないのです。確実に噛み合うことで歯先の
ストレスを小さく保ち、かつ歯先の強度自体を向上させるようひたすら
形状を工夫するしかないようです。えらいことになったものです。

 
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