3年前の8月に掲載したフィルムコンサートの記憶をご覧になりました
でしょうか。その後、スライド映写機(プロジェクター)修理のご依頼が
何台かあり、今回もまた高校時代を思い出させる1台が届きました。
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かつてのABIN工業が製造したAFⅡ-2500です。
同社はその後内田洋行に吸収・合併されています。
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スライドフィルムを50枚装填できる
ストレートマガジンを本体内にします。
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背面に冷却ファンと映写ランプを
ON・OFFするスイッチがあります。
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リモコン操作によりスライドを前後に送る、あるいは
タイマーにより自動送りすることができます。
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現在のプレゼンテーションツール(スライドショー)の
原形がここにあります。小気味良い機械音がして、
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スライドを1枚ずつ内部に取り込む
ホルダーが本体の外に飛び出てきます。
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何度か繰り返していると、ホルダーが完全に
閉まらなくなり自動送りが停止します。
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マガジンを前後させる
ギヤも停止したままです。
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当時のリファレンスが皆無の状態で
この不具合の原因究明にかかります。
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本体底面側のカバーからアクセス
します。4隅の固定ネジを緩めます。
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底面カバーを開けます。既に
物々しい雰囲気が漂っています。
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雰囲気ではなく内部は
物々しさそのものです。
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ダイキャスト製のベースに数々の機構部品が取り付けられ、
本体重量は8kg近くもあります。大半はスライドを繰り出す
ための機構で、現在ならば200g以下のスマホで済みます。
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修理の常で、まず不具合個所と
原因を把握しなければなりません。
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そのためには装置や回路の構成や仕組みを理解しなければ
なりません。設計者とほぼ同じ目線に立つことを意味します。
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スライドのホルダーを開閉させる機構を調べます。
ホルダーの奥で径の大きな歯車が回転します。
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外周に取り付けられたアームが
リンクを構成しスライダを作動させます。
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スライダは先ほどのホルダーと一体なので
回転によりホルダーが開閉することになります。
中学校の技術科で教わるリンク機構のひとつ
であるスライダークランクが利用されています。
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ホルダーが開閉しない時、
歯車の回転も止まります。
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これだけメカメカしているので、どこかに油切れが
あるのでしょう。グリスを吹いて様子をみます。
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ホルダーをガイドする樹脂製プーリ
です。潤滑剤を吹き付けてみます。
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いくらか動作がスムーズになったようですが、
繰り返し動かすとまだ止まることがあります。
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大径歯車にこの金属製小歯車が
噛み合い、共に回転しています。
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さらに小さな樹脂製歯車が連なり
こちら側から動力が伝達されています。
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軽くグリスを入れておきますが、しかし、この
金属製歯車には何か仕掛けがあるようです。
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良く確認すると上下に2枚の
歯車が重なっています。
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歯車をシャフトに固定している
スナップリングを外します。
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大径歯車と樹脂製小歯車の中間に入り、
減速しているだけのように思えますが・・
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取り外してみると、上下の歯車はいくらかの
抵抗を伴いながら各々別個に回転します。
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そして、歯車の内側に組み込まれた
妙な部品の役割を調べてみます。
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小さな金属部品がスリットを
通してネジ固定されています。
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金属部品が押さえ付けていた下の
部品は、鋼鉄製でバネのようです。
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押さえ付けられていない状態では、2枚の歯車は
ほとんど抵抗がなく互いに軽く回ってしまいます。
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金属部品を元に戻しネジを締め込んでいくと、
歯車間の抵抗が大きくなり一緒に回ろうとします。
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取りあえず元通りの
位置に組み戻します。
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ほぼ問題なく動作するのですが、リンクが
この位置にあると停止しやすいようです。
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ホルダーが完全に出る前後で止まることは
ありません。リンクは上死点に来ています。
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この位置でも止まることがあります。ホルダーを
引き込もうとして大きなトルクが必要です。
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リンクの下死点でも止まることはありません。
ホルダーがほとんど動かずトルクは必要ありません。
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不具合の原因が分かりました。ホルダーを移動させようと
して大きなトルクが加わると2枚の金属製歯車が滑ります。
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この小さな金属部品にスリットが開いている意味も
判明します。空転し始めるトルクを調整するためです。
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2枚の歯車同士の締め付けを強くする
ことで、互いに滑りにくくなります。
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スライドが引っ掛かるなど無理な力が加わった際に
歯車が空転することで損傷を回避する仕組みです。
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摩擦や潤滑による機械要素の調整には
必ず経年変化・劣化が伴います。
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後から調整出来るよう金属部品にスリットが入れられ
たのでしょう。今となってはレトリックな設計です。
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マガジンを装填し動作を確認します。
当時の性能そのままに快調です。
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スライド50枚分のマガジンを
何往復もさせ安定性を確かめます。
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何かの作品展示のため、毎日8時間30日間お使いになりたい
そうです。金属製部品の摩耗、樹脂製部品の崩壊といった深刻な
トラブルではなく、経年変化による調整の「ずれ」ですから、それを
調整し直すことで原状回復が可能です。耐久性も製品本来の連続
使用時間を下回ることはないでしょう。それ以上は分かりませんが。
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ホルダー自動送り機構以上に、当時のままの
光源「ハロゲンランプ」の方が心配です。
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交換用のランプをお持ちとのことで
光源周りを点検だけしておきます。
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24V250Wのハロゲンランプは
高価ですが現在も入手可能です。
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強烈な光量はまだLEDに取って
代わられそうにないのでしょうか。
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内蔵されているランプは確かに切れています。
が、ソケットには電源が供給されています。
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少し調べてみますと、現在の光源は水銀ランプ、
レーザーダイオード、LEDが主流のようです。
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半導体を利用した光源は発熱・消費電力が小さく、20000時間にも
及ぶ寿命は従来のランプを駆逐してしまったようです。もう少し早くその
辺りの勉強をしておけば、ご依頼主の要望(光源をLED化できないか)
にお応えできたかも知れません。かつての名機をLED化するなど、
工房的には非常に興味深い挑戦課題になるところです。イベントに
間に合わせなければならないそうで、大急ぎで修理、お返しします。
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