ご高齢の男性が昨年12月に守谷おもちゃ病院にお持ちになりました。27MHz帯を
使用したラジオコントロールのランドクルーザーです。30年以上前に当時小学生だった
ご子息に購入されたそうです。途中で診療時間内ではとても手に負えないと判断し、
工房に持ち帰ってきました(入院扱い)。さらにご依頼者に了解をいただき、守谷工房
扱いの修理に変更させてもらいました。デジタルプロポーショナル方式の解析と理解、
部品の調達に長い時間を要し、年をまたぐ修理作業となりました。 掲載写真88枚
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当時のままの色褪せた外箱と壊れかけた
内箱が、長い年月を物語っています。
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何と説明書まで保管されています。手に
入れたい方が大勢依頼っしゃるのでは。
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車体本体と送信機のセットです。当時は
とても高級な玩具だったと思います。
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箱から取り出します。ランドクルーザーの
風格が再現され、重量感が漂います。
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トレッド幅の広いゴム製中空タイヤは、屋外でのオフロード走行を可能にします。
実際に泥濘(ぬかるみ)を何度も走行させたようで、車体の各部は泥まみれです。
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車体底部を確認します。泥汚れが全面に広がって
います。タイヤのトレッドパターンが前後で異なります。
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一面の擦り傷は激しいダート走行によるものでしょう。
堅牢で耐久性のある前輪サスペンションです。
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底部のバッテリーボックスを開けてみます。とても
防水仕様とは言い難く、泥水の浸入が心配です。
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動作確認を行うため、新しい乾電池をセット
します。制御用・走行用に分かれています。
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送信機にも乾電池をセットします。006Pを使用
しないのは電池寿命を長くとるためでしょうか。
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本体LED、送信機LEDとも点灯しますが、
送信機のレバー操作に全く反応しません。
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受け取り時に伺ってはおりましたが、
あらためて全滅状態が確認されました。
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上部車体を固定するネジ(6本)、走行駆動部の
ギヤ比を変更するレバーの固定ネジを緩めます。
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ギヤ比切り替えレバーを抜き取ります。手前の
スライドスイッチは本体の電源スイッチです。
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車体上部を取り外します。内部の駆動
機構や制御回路が見えてきます。
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現在の単純化されたラジコンカーに比べると、堪らないごちゃつき感です。
車体中央にRF回路、サーボ駆動回路を含む回路基板が取り付けられ、
何本もの訳の分からない配線が車体内に張り巡らされています。
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回路基板と前輪の中間はカバーで覆われ、その下に
やはり訳の分からない部品が取り付けられてます。
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小さな回路基板が1枚、何やら駆動機構を
内蔵する透明樹脂製ボックスが2個です。
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車体左側のボックスです。中にモーターと減速ギヤ、ポテンショ
メーター代わりの可変抵抗器が見えます。サーボモーターです。
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もう1個はサーボモータにより駆動されるスイッチ
ボックスです。電極が付いた円盤が回転します。
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円盤の外周に突起があり、ボックスの
底面から外部に飛び出しています。
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ボックスの下に左右にスライドする樹脂製部品が
あります。この縦長の溝に突起の先が入ります。
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サーボモーターのアクチュエータがスライダーを
開始てスイッチボックスを切り替える仕組みです。
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この小さな回路基板の役割が不明です。
基板上に小型の電磁リレーがあります。
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本体電源スイッチを入れた瞬間、前輪の操舵機構が僅かに
反応します。しかし送信機がOFF状態では無反応です。
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役割が分かりました。送信機のキャリアを受信している
時だけ、操舵を含む駆動系に電力を供給するリレーです。
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送受信が途絶えた際に走行を停止させるための工夫です。
また、RF部のキャリア受信が機能していることが分かります。
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分解ついでにスライダーや円盤の
摺動部に注油しておきます。
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スイッチボックスの円盤を回すと、後輪が勢い良く正逆に
回転します。不具合はRF部を除く回路基板上にあります。
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パルス信号の間隔を変化させることで操作を伝達するデジタル
プロポーショナル方式です。SONYラジオのような基板です。
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RF受信部からクリッピング出力されるパルス列を調べます。昨年12月に組み立てた
デジタルオシロスコープを活用します。デジタルICの入力に加わる信号を観測します。
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送信機のレバーを一切操作していない状態で、
等間隔で連続する3個のパルス列が観測されます。
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ステアリング(操舵)レバーを右に倒すと、
2番目と3番目のパルス間隔が狭まります。
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ステアリング(操舵)レバーを左に倒すと、
2番目と3番目のパルス間隔が広がります。
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ドライブ(走行)レバーを上に倒すと、
1番目と2番目のパルス間隔が狭まります。
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ドライブ(走行)レバーを下に倒すと、
1番目と2番目のパルス間隔が広がります。
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操作により間隔が変化するパルス列を
CD4013B(CMOS)に入力します。
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CD4013には2組のFF(Dフリップフロップ)が内蔵されています。1番目と2番目、または
2番目と3番目のパルスを使用し、パルス間隔の変化をパルス幅の変化に変換します。
走行・操舵ともに操作不能ということは、このICが動作していない可能性があります。
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半田吸い取り機が戦列に加わっているので
ICチップの取り外しが苦になりません。
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ホールの中に入り込んだ半田
まで綺麗に除去してくれます。
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14ピン分の半田を吸い取りました。
ランドや配線パターンを傷めずに済みます。
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ICと基板の間にドライバーを
差し込み、ICを持ち上げます。
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動作不良が疑われる
CD4013Bを取り出します。
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当たり前ですが同等部品は既に品薄です。聞いた
ことのない小さなネットショップに在庫を見つけました。
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Amazonのように翌日に配送・・など望むべくも
ありません。到着まで作業は完全に中断です。
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ようやく到着したCD4013Bは、純正
Texas Instruments社製の新品です。
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元の位置に挿入します。シルク印刷のない基板
なので、取り付け方向を誤らないよう留意します。
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裏側を半田付けします。2組のFFに共通のパルス列を送るため
Clock1(3番ピン)とClock2(11番ピン)が短絡されています。
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デジタルプロポーショナルの登場初期は、パルス列の
変換回路をディスクリート部品(TR)で作り上げていました。
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CD4013Bの交換を終え、
再び動作確認を行います。
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ステアリングレバーを右に倒すと、
前輪が右方向に舵を切ります。
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レバーを左に倒すと左方向に舵を切ります。
ステアリング(操舵)の機能が復活しました。
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ステアリングは復活したものの、走行レバーの操作には何も反応しません。前後進の
機能にまだ不具合があります。デジタルオシロスコープでさらに原因を探ります。
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CD4013Bの一方のFF出力、Q2の信号波形を確認
します。無操作時は一定幅のパルスが出力されています。
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Q2はステアリング用サーボモーターを駆動する出力です。
ステアリングレバーを右に倒すとパルス幅が狭まります。
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ステアリングレバーを左に倒すとパルス幅が
広がります。正常に機能しています。
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CD4013Bの他方のFF出力、Q1の信号波形を確認
します。Q1は走行制御用サーボモーターを駆動します
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走行レバーの無操作時は一定幅の
パルスが出力されています。
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走行レバーを上に倒すとパルス
幅が狭まります(前進走行)。
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走行レバーを下に倒すとパルス幅が広がります
(後進走行)。こちらも正常に機能しています。
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そうすると次段のSN76604N(サーボ
アンプ)にも不具合が疑われます。
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SN76604Nはパルス幅検知型双方向サーボアンプです。送り込まれる
パルス幅の変化に応じて、サーボモーターを駆動する電力を出力します。
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走行用サーボモーターを駆動するのは写真右側の
SN76604Nです。オシロスコープで動作を確認します。
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CD4013Bからの入力(3番ピン)を確認します。
波形の乱れはありますが正常に入力されています。
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走行レバーを上に倒すと
パルス幅が狭まります。
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逆に、走行レバーを下に倒すとパルス幅が
広がります。入力に問題はありません。
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サーボモーターへ出力
される信号を調べます。
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走行レバーを操作しても(パルス幅が変化
しても)、出力に何の変化も現れません。
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片側(走行用)のSN76604Nが破損しています。
交換用の部品を探さなければなりません。
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国内に在庫のある販売店は見つけられませんでした。
国外のサイトでようやく見つけるも、納期は20日以上です。
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年をまたいでようやく到着し、修理作業を再開
します。折角調べたことを忘れかけています。
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半田を吸い取り、元のSN76604Nを取り外し
ます。配線パターンを傷めないよう留意します。
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ドライブ段を持つTTL-ICは破損する可能性が低くありません。
駆動するモーターのノイズ対策が不十分なのかも知れません。
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新しいSN76604を取り付けます。
ピンの列間隔を調整して差し込みます。
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走行制御用のサーボモーターが音をたて始めました。
基板上の半固定抵抗器でニュートラルを調整します。
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送信機の走行レバーにサーボモーターが
反応してくれれば修理成功です。
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走行レバーを上に倒します(前進走行)。アクチュエーターが
左に1/4回転して停止します。離すと自動的に戻ります。
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下に倒すと(後進走行)右に1/4回転して停止します。
30数年前のデジタルプロポーショナルの復活です。
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回路基板を元の位置に戻し
ネジ2本で固定します。
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走行制御用のサーボモーターを組み
込みます。配線を整えるのが大変です。
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サーボユニットの固定と電源LED
取り付け用のステーを戻します。
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その上から機構を保護するカバーを被せます。この
時点で実走確認を行います。力強く走行します。
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泥まみれだった車体上側を洗剤をかけて水洗いします。明るいベージュ
クリーム色が蘇りました。樹脂表面にはさほど傷みがありません。
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シャシー周りも、水洗いはできませんが
こびり付いた泥を丁寧に落とします。
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車体上側をシャシー側と合体させます。
おもちゃドクターとして安堵する瞬間でもあります。
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昨年組み立てたデジタルオシロスコープが大いに活躍
しました。記念にランドクルーザーとツーショットを1枚。
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晴れて退院、ご依頼主にお返しする日がやって参りました。長くお預かりしていると、
どこか名残り惜しくなるものです。小学校に入る頃を待って、お爺ちゃんからお孫さんに
贈りたいそうです。お渡しすると奥様(お婆ちゃん)ともども大変喜んで下さいました。
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